TensorRTは、高性能な深層学推論ライブラリで、ディープラーニングモデルの推論を高速化するために設計されたものです。
この記事では、生成速度を高速化できるTensorRTの基本や仕組み、ほかにも使い方や活用事例などを解説しています。
この記事を読んで、TensorRTのことをより深く理解し、どのように活用するかの参考にしてください。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
TensorRTとは?
TensorRTは、NVIDIAが開発した、高性能な深層学習推論ライブラリおよびSDKです。
ディープラーニングモデルの推論を高速化するために設計されているため、モデルの応答時間が短縮され、リアルタイムアプリケーションでの使用が可能になります。
また、重みの量子化・レイヤーの融合・カーネルのチューニング、およびその他のハードウェアに特化した最適化を実現できる、さまざまな技術を提供。
TensorRTを導入すれば、生成速度の高速化の実現により早く到達できるでしょう。画像処理・自然言語処理・音声認識など、さまざまなディープラーニングアプリケーションで使用されています。
TensorRTは、高いパフォーマンスと効率性を求める開発者にとって、有用なツールです。
TensorRTの特徴とメリット
TensorRTは、高性能な深層学習ライブラリであり、多くのディープラーニングアプリケーションで使用されていることがわかりました。
では、具体的に、どのような特徴やメリットがあるのでしょうか。ここでは、TensorRTの特徴とメリットを解説します。
ディープラーニング推論の高速化ができる
GPUの性能を最大限に引き出すように設計されているため、ディープラーニング推論の高速化ができることは、TensorRTの最大のメリットです。
それにより、以下のようなメリットが享受できます。
- リソース効率の向上
- 低レイテンシ
- 生産性の向上
- スケーラビリティ
モデルサイズの削減や計算資源の効率化により、同じハードウェアでより多くのモデルを同時に実行したり、エネルギー消費を削減したりすることも可能。ほかにも、レイテンシ(遅延)が低いため、即時性が求められるアプリケーションにおいて非常に有用です。
メモリ使用量を削減できる
TensorRTは、メモリ使用量を削減することでGPUメモリの使用効率を向上させるメリットがあります。
- 重みの量子化
- レイヤーの融合
- カーネルの最適化
- 動的テンソル調整
重みの量子化により、モデルのサイズを大幅に縮小し、メモリ使用量を削減します。特に、INT8量子化を使用することで、メモリ帯域幅の使用も最適化され、より多くのモデルの同時処理が可能です。
また、複数のレイヤーを1つのレイヤーに統合する技術(レイヤーフュージョン)を利用して計算の重複を減らし、メモリの使用を最適化します。
ほかにも、GPUのアーキテクチャに最適化されたカーネルを生成し、特定の演算に対して最適なパフォーマンスを実現しています。
マルチプラットフォームに対応
マルチプラットフォームに対応していれば、多くのディープラーニングフレームワークに対応できるため、便利です。
- 幅広いハードウェアサポート
- クロスプラットフォーム互換性
- 統合が容易なAPI
- フレームワーク互換性
高性能が求められるデータセンター向けに、NVIDIAのTeslaやA100などの強力なGPUがTensorRTで利用できます。
また、TensorRTは、WindowsやLinux、そして一部のARMベースのプラットフォームなど、さまざまなオペレーティングシステムで動作可能。
さらに、PythonおよびC++のAPIを提供しており、異なるプラットフォーム間での統合が容易です。
ほかにも、TensorFlow・PyTouch・ONNXなどの一般的なディープラーニングフレームワークからエクスポートされたモデルをサポート。異なるフレームワークで開発されたモデルを同じプラットフォーム上で実行できます。
TensorRTの機能
TensorRTには、ディープラーニング推論の高速化をはじめ、メモリ使用量の削減やマルチプラットフォーム対応など、さまざまな特徴と、その特徴から得られる多くのメリットがあることがわかりました。
次に、TensorRTの機能にどのようなものがあるかみていきましょう。
TensorRT LLM
TensorRT LLMは、大規模言語モデルの推論を最適化するために特化された機能と技術を提供します。
以下は、TensorRT LLMの特徴やメリットです。
- 高性能推論
- メモリ最適化
- スケーラビリティ
- 効率的なバッチ処理
- 動的バッチサイズとシーケンス長のサポート
- 統合の容易さ
TensorRT LLMは、大規模なトランスフォーマーモデルやその他の複雑な言語モデルの推論を高速化し、応答時間を短縮します。
また、大規模なモデルのメモリ使用量を最小限に抑え、限られたリソースでの効率的な推論を可能に。
ほかにも、大規模なデータセンターからエッジデバイスまで、幅広いプラットフォームで大規模言語モデルの推論を実現。さまざまなアプリケーションでTensorRT LLMが適用可能となっています。
TensorRT LLMは、チャットボットや自動要約などのサービスで利用されることが多いです。
TensorRT Cloud
クラウド環境でTensorRTを活用してディープラーニング推論を行うことができるのが、TensorRT Cloudです。
以下は、TensorRT Cloudの特徴やメリットです。
- スケーラビリティ
- 高性能推論
- 柔軟なデプロイメント
- コスト効率
- セキュリティと管理
- 簡単な統合
TensorRT Cloudは、クラウドインフラストラクチャのスケーラビリティを活用し、推論リソースを必要に応じて拡張または縮小できます。
また、クラウド環境でNVIDIA GPUを活用し、TensorRTの最適化された推論エンジンを利用して、高速化つ効率的なディープラーニング推論を実現。
さらに、クラウド環境でTensorRTモデルをデプロイし、さまざまなアプリケーションやサーボスをシームレスに統合できるメリットもあります。
ほかにも、クラウドベースのリソースを必要な分だけ利用できるため、オンプレミスのハードウェア投資を最小限に抑えつつ、高性能な推論環境の維持が可能です。
TensorRT Cloudは、クラウドで利用できる特徴を活かして、リアルタイムな推論サービス、および画像認識や音声認識などのスケーラブルなAIサービスで利用されています。
TensorRT Model Optimizer
TensorRT Model Optimizerは、ディープラーニングモデルの最適化を行うためのツールで、推論パフォーマンスと効率を大幅に向上させることができます。
以下は、その機能やメリットです。
- モデル変換と最適化
- 動的テンソル形状のサポート
- ハードウェア最適化
- 複数フレームワークとの互換性
TensorRT Model Optimizerは、TensorFlow・Pytouch・ONNXなどの主要なディープラーニングからモデルをインポートし、Tensor RT形式への変換が可能です。
また、入力パッチサイズの変更に柔軟に対応できるため、さまざまなデータセットやリアルタイムアプリケーションでの使用に適しています。
さらに、モデルのメモリ使用量を最適化し、GPUメモリの無駄遣いを防ぐ機能も。
ほかにも、GPUのアーキテクチャに最適化されたカーネルを生成し、特定の計算タスクに対するパフォーマンスを最大化します。
TensorRT Model Optimizerは、自動運転システムの車両の視覚認識やセンサー処理、医療画像解析であればCTスキャンやMRI画像のリアリタイム解析などに使用されることが多いです。
TensorRTの仕組み
TensorRTには、TensorRT LLMをはじめ、多くの機能があることがわかりました。
では、TensorRTはどのような仕組みで動くのでしょうか。どのようにしてモデルの推論速度を高速化しているのかみていきましょう。
モデルの解析
TensorRTは、ディープラーニングモデルの最適化と推論を行うために、モデルの解析と変換プロセスの仕組みがあります。
以下はその詳細です。
- モデルのインポート
- モデルの解析プロセス
TensorRTは、TensorFlow・PyTouch・ONNXなどのフレームワークをインポートすることができます。
多くのフレームワークからモデルをインポートすることができるため、異なるフレームワークでトレーニングされたモデルをTensorRTで利用できる形式に変換可能です。
また、インポートされたモデルは、計算グラフとして解析された後、各レイヤーの種類・接続関係、およびパラメータの特定が行われます。
さらに、各レイヤーがどの種類であるかが特定され、TensorRTの最適化ツールに適用可能な最適化手法が選択される仕組みです。
具体的な利用ケースとしては、自動運転車があげられます。自動運転車では、高速かつ信頼性の高い推論が求められるため、TensorRTを使用したモデルの最適化が有効です。
レイヤーの融合
レイヤーの統合とは、複数のレイヤーを1つの操作として統合し、計算リソースの使用を最適化する仕組みです。
TensorRTでは、レイヤーの統合を行い、レイヤー間のデータ転送を減少させ、計算効率の向上を実現しています。
以下は、その主な仕組みです。
- 解析と特定
- レイヤーの統合
- 計算グラフの再構築
- 最適化の適用
TensorRTは、モデルの計算グラフを解析し、融合可能なレイヤーの組み合わせを特定します。レイヤーの組み合わせを特定したら、次は、その特定したレイヤーを1つのカーネルに統合。
さらに、統合後の計算グラフを再構築し、最適化されたグラフを生成します。
最後に、統合したレイヤーに対して、ハードウェア最適化や量子化などの追加の最適化を適用する仕組みです。
自動運転システムでは、レイヤーを統合して、車載カメラからの画像認識やセンサーデータのリアルタイム解析の推論速度の向上を実現しています。
精度のキャリブレーション
モデルのパフォーマンスを向上させるために、計算速度を調整するプロセスのことを、精度のキャリブレーションといいます。TensorRTでは、特に量子化による精度のキャリブレーションが行われることが多いです。
精度のキャリブレーションは、モデルの重みやアクティベーションを低精度フォーマットに変換し、その精度を最適化するためのプロセスです。
以下は、精度のキャリブレーションのプロセスとなります。
- 量子化の準備
- キャリブレーションデータの収集
- キャリブレーションの実行
- 精度の検証
- モデルのエクスポート
自動運転車での精度のキャリブレーションの具体的な利用ケースに、推論速度の向上があります。
これは、自動運転車では高度な推論が要求されるため、FP16量子化やINT8量子化を使用して、モデルの推論速度を向上させるものです。
TensorFlowとの違い
TensorRTと似たような技術にTensorFlowがあります。
TensorFlowは、Googleが開発した、オープンソースのディープラーニングフレームワーク。おもに、機械学習や人工知能(AI)のモデルを構築・トレーニング・デプロイするために使用されるものです。
TensorFlowとTensorRTの比較しながら、それぞれの技術の違いを理解していきましょう。
TensorFlowとは?
TensorFlowは、ディープラーニングのフレームワークで、おもに機械学習やAIモデルの構築やトレーニング、デプロイのために使用されるものです。
以下は、TensorFlowの特徴やメリットとなります。
- 広範なライブラリとツール
- 柔軟なアーキテクチャ
- マルチプラットフォーム対応
- 高レベルAPIと低レベルAPI
- デプロイメントの柔軟性
TensorFlowには、ニューラルネットワークの構築とトレーニングに必要な、広範なライブラリとツールが揃っています。
TensorFlowは、TensorRTと同じく、画像認識や自然言語処理、音声認識などのディープラーニングや機械学習などのモデルを構築・トレーニング・デプロイするために有用なツールです。詳しくは以下の記事をご覧ください。
TensorRTとTensorFlowの比較
ここでは、TensorRTとTensorFlowの性能を比較するために、一覧表にまとめてみました。
項目 | TensorRT | TensorFlow |
用途 | ディープラーニングモデルの推論最適化 | ディープラーニングモデルの設計、トレーニング、推論 |
処理内容 | モデルの最適化(レイヤーの融合、精度のキャリブレーション、量子化など) | モデルの設計、トレーニング、評価、推論 |
実行速度 | 高速推論が可能(特にGPU、TPUでの性能最適化) | モデルのトレーニングと推論が可能だが、特に推論の最適化に関してはTensorRTよりも遅いことがある |
メリット | 高速な推論速度 低精度計算によるメモリ使用量の削減 GPUやTPUのハードウェアを最大限に活用 |
幅広い機械学習タスクをサポート トレーニングから推論までの一貫したパイプラインの提供 Kerasなどの高レベルAPIによる簡便なモデル構築 幅広いエコシステムとツールのサポート |
デメリット | トレーニング機能は提供されていない(推論専用) 特定のハードウェア(NVIDIA GPUやTPU)に依存する モデルの最適化には専門的な知識が必要 |
推論の最適化がTensorRTほどではない 高度な最適化や低レベルのハードウェアアクセラレーションが不足していることがある 多くの計算リソースを必要とすることがある |
TensorRTがモデルの最適化を行うことに対し、TensorFlowはモデルの設計やトレーニング自体を行うという違いがあります。
また、TensorRTは推論専用の技術ですが、TensorFlowは推論だけでなく、幅広い機械学習タスクをサポート。逆に、推論の最適化に関しては、推論専門であるTensorRTの方が処理速度が上です。
TensorRTに対応するGPU
ここでは、TensorRTが対応している、NVIDIAのGPUを比較した一覧表を以下に紹介します。
GPUモデル | CUDAコア数 | メモリ容量 | FP32性能 (TFLOPS) |
FP16性能 (TFLOPS) |
INT8性能 (TFLOPS) |
用途 |
NVIDIA A100 | 6912 | 40GB HBM2 | 19.5 | 78.0 | 156 | データセンター、AIトレーニング、推論 |
NVIDIA V100 | 5120 | 32GB HBM2 | 15.7 | 31.4 | 62.8 | データセンター、AIトレーニング |
NVIDIA T4 | 2560 | 16GB GDDR6 | 8.1 | 65 | 130 | データセンター、エッジAI |
NVIDIA RTX 3090 | 10496 | 24GB GDDR6X | 35.6 | 71.2 | 142.4 | デスクトップ、ワークステーション |
NVIDIA RTX 3080 | 8704 | 10GB GDDR6X | 29.8 | 59.6 | 119.2 | デスクトップ、ワークステーション |
NVIDIA Jetson AGX Xavier | 512 | 32GB LPDDR4 | 1.3 | 2.6 | 5.2 | エッジAI、ロボティクス |
各GPUモデルごとに適した用途があるため、自社でどのような用途でTensorRTを利用するかによって、GPUモデルを選ぶと良いでしょう。
TensorRTのインストール方法
ここでは、TensorRTのインストール方法を紹介します。TensorRTは、NVIDIAの公式サイトからダウンロードしてインストールするのがおすすめです。
NVIDIA CUDA Toolkitからインストールする(推奨)
ここでは、NVIDIA CUDA ToolkitからTensorRTをインストールする方法を紹介します。
CUDA Toolkitをダウンロードする
CUDA Toolkitは、NVIDIAが提供するソフトウェア開発ツールのスイートで、NVIDIAのGPUを使用した並列計算アプリケーションの開発を支援するものです。
まずは、このCUDA ToolkitをCUDA Toolkit Download ページからダウンロードしましょう。
cuDNNのインストール
次に、cuDNNをインストールします。cuDNNは、NVIDIAが提供するGPU上でディープラーニングを効率的に実行するための、高度に最適化されたライブラリです。
cuDNN Download ページからCUDA Toolkitのバージョンに対応するcuDNNをダウンロードしましょう。
TensorRTのインストール
cuDNNのインストールが終わったら、TensorRT Download ページからTensorRTのパッケージをダウンロードし、インストールします。
これで、TensorRTのインストールは完了です。
Python APIからインストールする
TensorRTは、Python APIを使ってもインストールができます。
以下は、Python APIを利用した、TensorRTのインストール方法です。
- Python環境の準備
- 依存関係のインストール
- NVIDIA Pythonインデックスの設定
- TensorRTのインストール
- インストールの確認
Pythonは3.6から3.10までのバージョンが必要です。TensorRTが利用できるバージョンを準備しましょう。
Pythonをインストールしたら、依存関係のインストールを行います。pipを最新バージョンに更新し、必要な依存関係をインストールしましょう。
次に、NVIDIA Pythonインデックスの設定を行います。NVIDIA Pythonインデックスを使って、TensorRTのPythonパッケージをインストールします。
TensorRTをインストールできたことを確認できたら、作業完了です。
TensorRTの活用事例
ここでは、TensorRTを使った、実際の活用事例をみていきましょう。それぞれの事例をみて、自社でどのようにTensorRTを活用するかの参考にしてください。
エッジコンピューティング
エッジコンピューティングとは、データの処理を中央のデータセンターやクラウドサーバーではなく、データの発生源に近い場所(エッジ)で行う分散型コンピューティングのことを指します。
エッジコンピューティングに関しては、以下の記事で詳しく解説しているため、参考ください。
TenorRTは、エッジコンピューティングでのディープラーニング推論を最適化し、性能を向上させるために広く活用されています。
以下はそのおもな活用事例です。
- 自動運転車
- 監視カメラとセキュリティ
- ヘルスケアと医療デバイス
- 小売業のIoTデバイス
自動運転車では、リアルタイムの画像認識とデータ処理が必要です。TensorRTを使用することで、ニューラルネットワークの推論を高速化し、車両が道路状況や障害物を迅速に認識できるようになります。
ほかにも、監視カメラシステムでは、大量の映像データをリアルタイムに解析するために、TensorRTを活用。
組み込みシステム
TensorRTは、組み込みソフトウェアの分野でも幅広く活用されています。
以下は、そのおもな活用事例です。
- 産業用ロボット
- スマートカメラとセキュリティシステム
- 医療機器
- スマートホームデバイス
- 自動車の先進運転支援システム(ADAS)
産業用ロボットのビジョンシステムでは、物体検出や動作認識のためにディープラーニングモデルが使用されています。このディープラーニングにTensorRTを活用して、推論速度を大幅に向上させ、ロボットの作業効率と精度の向上が可能に。
また、スマートカメラやセキュリティシステムは、顔認識や異常検出などのディープラーニングモデルを使用しています。このモデルに対して、TensorRTでのエッジデバイス上の推論処理を効率化することで、リアルタイムの監視の精度向上を実現。
ほかにも、医療機器においてのCTスキャンやMRI画像の解析などにもTensorRTが活用されています。
組み込みソフトウェアについては、以下の記事を参考ください。
クラウドサービス
TensorRTは、クラウドサービスでも以下のような活用事例があります。
- AI推論サービスの提供
- 画像認識と処理
- 音声認識と自然言語処理
- リアルタイム予測と分析
- IoTデバイスとの統合
クラウドプロバイダーは、TensorRTを利用して深層学習モデルの推論を高速化するサービスを提供しています。顧客は、これらサービスを利用して、リアリタイムでの推論が必要なアプリケーションで、低レイテンシかつ高いスループットの実現が可能です。
クラウドサービスについては、以下の記事を参考ください。
TensorRTを導入する際の注意点
推論処理の最適化に優れているTensorRTは、さまざまな分野で活躍していますが、導入に際していくつかの注意が必要です。
ここでは、TensorRTを導入する際の注意点を解説します。
モデルの精度が低下する場合もある
TensorRTを導入すると、モデルの精度が低くなる場合もあるため、注意が必要です。
TensorRTは、推論速度を向上させるためにモデルの最適化を行いますが、これが原因で精度がわずかに低下する可能性があります。
精度の損失を最小限に抑えるために、TensorRTで最適化したモデルを、元のモデルと比較して性能を評価することが重要です。
性能を評価して、精度の低下が許容範囲内であることを確認しましょう。
学習曲線が高い
TensorRTの導入には、学習曲線が高いというデメリットがあります。TensorRTの効果的な利用を続けるためには、特有の知識とスキルが必要です。
複雑な設定やデバッグツールの使い方を覚えたり、問題の原因を特定するためのスキルが必要となる場面もあります。
しかし、NVIDIAのフォーラムやコミュニティのサポートを利用することで専門的なアドバイスを得られます。学習曲線が高いTensorRTですが、適切なリソースとサポートを活用することで、効率的な習得と利用が可能です。
高度なディープラーニングの知識が必要
TensorRTを導入するためには、TensorRTの知識だけでなく、高度なディープラーニングの知識も必要です。
TensorRTを利用する際に、ディープラーニングモデルの内部構造や動作の理解だけではなく、どの技術がモデルに最適であるかを選定する必要もあります。
ほかにも、異なるフレームワークでトレーニングされたモデルを最適化するため、各モデルのフォーマットや変換ツールの使用方法についても十分な知識が必要です。
対応モデルに制限がある
TensorRTには対応モデルに制限がある点に注意が必要です。
TensorRTは、特定のディープラーニングフレームワークやモデル形式に対応しているため、全てのモデルに対応しているわけではありません。
また、特定のレイヤーやオペレーションをサポートしていますが、すべてのディープラーニングレイヤーやカスタムオペレーションに対応しているわけではないため、注意が必要です。
ほかにも、モデルの推論速度を最適化するためのさまざまな手法を提供していますが、すべてのモデルで最適化が効果的であるわけではありません。
これは、量子化をできないモデルがあったり、一部のレイヤーやオペレーションでは最適化や融合ができないことが理由です。
TensorRTの導入にあたっては、これらの制限や注意点を把握した上で、適切に対応する必要があるでしょう。
まとめ:TensorRTで推論性能を飛躍的に向上
TensorRTは、エッジコンピューティングや組み込みシステムに導入されている、ディープラーニング推論の高速化のために多く活用されているものです。
多くの分野で活躍が期待されるTensorRTですが、導入にあたっては、学習曲線が高いことに注意がしなければなりません。
ただ、どのように学習を進めていけばよいかわからないこともあるでしょう。TensorRTの導入にあたっては、AI開発に多くの知見を持つ、株式会社Jiteraにお気軽にご相談ください。
自社でのTensorRTの導入にあたって、わからない点や不明な点に関して、1つ1つ丁寧にアドバイスさせていただきます。