ここ数年でデータドリブンマーケティングが注目されてきた背景には、デジタル技術の普及があります。デジタル技術が普及し、消費者一人ひとりが膨大なデータを残すようになってきています。
このような膨大なデータから顧客の行動パターンを解析し、顧客のニーズや市場のトレンドを把握することが、重要視され始めており、各企業が、保有するデータを活用して効果的なマーケティング活動を推進しようと取り組んでいます。
今後もデータドリブンにマーケティング活動を行っていく企業は増え、ますますデータドリブンマーケティングは盛んになってくると予測されており、大きな可能性を感じる領域です。
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データドリブンマーケティングとは?

昨今、注目されているビジネストレンドの一つがデータドリブンマーケティングです。
データドリブンマーケティングとは、その名の通り、データに基づいた意思決定を行いマーケティング効果を最大化させようという取り組みです。
データドリブンマーケティングは、単にデータを集めて分析するだけではなく、集めたデータを基にして戦略的な意思決定を行い、マーケティング活動全体を最適化していくことが重要になります。
このプロセスにより、企業は消費者の行動や嗜好をより深く理解し、データから導き出したインサイトに基づいて効果的なマーケティング活動を行うことができます。
データドリブンマーケティングにクラスタリングが有用な理由

「クラスタリング」とは大量のデータに基づいて、機械的に類似点を抽出して、対象となる母集団を自動的にグルーピングする技術です。
本章では、データドリブンマーケティングにクラスタリングが有用な理由について記載します。
まず大前提として、マーケティングの基本は、適切な顧客セグメンテーションです。顧客セグメンテーションとは、消費者を特定の特性や行動に基づいてグループ分けするプロセスです。
数多くの顧客をいくつかのセグメントとして捉えて、マーケティング戦略・施策をより個々の顧客に合わせてカスタマイズすることができます。
上記のようなマーケティングの基礎となる「顧客のセグメンテーション」に「クラスタリング」のアプローチがよく利用されます。
「顧客セグメンテーション」に「クラスタリング」が有用な理由は下記の2点が挙げられます。
- 大量のデータに基づいてグルーピングできる
- 機械的にグルーピングができるため、早い
それぞれ詳しく解説していきます。
大量のデータに基づいてグルーピングできる
一つ目が大量のデータに基づいてグルーピングできる、という点です。
クラスタリング手法を用いることで大量のデータを基に類似度を判断して、グルーピングすることができます。
考慮すべきデータが増えれば増えるほど掛け合わせる情報が多くなり、高次元化するため、人間では考えることが難しくなります。
しかし、機械的なクラスタリング手法を用いることで大量のデータに基づいて特徴が近いグループを抽出することができます。
あらゆるデータを考慮して、グルーピングできるため、人間では考え切ることができない高次元なグルーピングが実現できることはクラスタリング手法の大きなメリットです。
機械的にグルーピングができるため、早い
二つ目が、機械的にグルーピングができるため、早いという点です。
クラスタリングは、一度アルゴリズムとデータセットを作ってしまえば、計算をするだけでグルーピングすることができます。
人間が実施するのであれば、一つ一つデータを細かく見ながら、グルーピングを考えていく必要がありますが、クラスタリング手法を用いれば、計算するだけでグルーピングを実現できます。
私の経験的にはマーケティング戦略の基になる、セグメンテーションは何度も議論を重ねて作り上げていくものです。
何度もクラスタリングを行い、結果の解釈を行ってブラッシュアップを繰り返していく進め方が一般的です。時に、データを追加・削減したり、グループ数を増減させたり、試行錯誤をしながら納得感のある形でセグメンテーションしていきます。
通常、すべての工程で人間が関与していると膨大な作業時間がかかってしまいます。
しかし、クラスタリング手法では一度アルゴリズムさえ作ってしまえば簡単にグルーピングできるため、素早くセグメンテーションの議論を進めることができます。
この議論の迅速さを生み出すのは、クラスタリングの大きなメリットになります。
このように、マーケティングの基礎となる顧客セグメンテーションにクラスタリングは有用な手法であり、よく使われる手法です。顧客のセグメンテーションを明確に決めることで、それぞれのグループに最適なプロモーションや製品を提供することが可能になります。
結果的に、顧客満足度を向上させると同時に、マーケティング活動のROI(投資対効果)を向上させることができます。
データドリブンマーケティングに有用なクラスタリング手法3選

ここからは私の実体験を基にしながら、データドリブンマーケティングに有用なクラスタリング手法について解説していきます。
クラスタリングはデータを分析し、意味のある情報を抽出する強力なツールです。特にデータドリブンマーケティングにおいて重要な役割を果たし、効率的な顧客セグメンテーションを実現します。
実際に私がデータ分析経験をしている中で、よく使われるクラスタリング手法は下記の3つです。
- 階層クラスタリング
- K-Means
- DBSCAN
それぞれ詳しく解説していきます。
階層クラスタリング
階層クラスタリングは、データ間の類似度を基にして、階層的なクラスタ構造を形成する手法です。
デンドログラムという各クラスタを直観的に理解できるツリー図がアウトプットされることが大きな特徴です。

メリット
- 直感的な理解と可視化: デンドログラムと呼ばれるツリー図を使って、クラスタリングのプロセスを視覚的に表現できるため、解析結果の解釈が容易
- 任意の距離尺度の使用: ユークリッド距離だけでなく、マンハッタン距離など様々な距離尺度を用いることができる
- クラスタ数の柔軟な設定: デンドログラムを参照して、必要なクラスタ数を後から調整することができる
デメリット
- 計算コストが高い: 大規模なデータセットに対しては、計算時間が大きくなる
- 外れ値の影響を受けやすい: 外れ値が含まれると、クラスタリングの結果が歪む可能性がある
私が実際にデータ分析をする際の経験談として、階層クラスタリングは比較的一般的な手法であり、アンケートの結果を基に結果を解釈する場合などによく用いられます。
各回答者の特徴をなるべく残す形で結果を解釈して、顧客のインサイトを検討する材料にするには、デンドログラムによる可視化が有用で全体感を持って、議論ができることが大きなメリットになります。
しかし、大規模なデータセットを機械的にクラスタリングするためには、計算コストの観点から不向きです。
そのような場合は、次に紹介する非階層クラスタリングを用いることが多くあります。
K-Means
K-Meansは、指定されたクラスタ数 K に基づいてデータを分割する非階層クラスタリング手法です。
ランダムに選ばれた中心点(セントロイド)を初期クラスタの中心として、各データを最も近いセントロイドに基づいてクラスタに割り当て、セントロイドを更新していくプロセスを繰り返します。
機械的に計算を行って、クラスタをいくつか作成できることは大きなメリットで、類似する群を任意の数Kで分割できるのは有用です。

メリット
- 計算効率が良い: 大規模なデータセットに対しても比較的高速に実行できるため、実用的
- 実装が簡単: アルゴリズムが単純明快で、多くのプログラミング言語で簡単に実装可能
デメリット
- クラスタ数 K を事前に設定する必要がある: 適切な K の値を見つけるには、追加の手法(例: エルボー法)が必要
- クラスタの形状が球形に限られる: クラスタが非球形やサイズが異なる場合、性能が落ちる
- 初期値の依存性: 初期のセントロイドの選び方によって、結果が大きく変わることがある
私の経験を基にすると、K-meansは最初にクラスタリングをして、なんとなく傾向を見ることには向いています。
良くも悪くもK-meansは初期値の設定により、クラスタの形成のされ方が大きく変わるという特徴があります。
そのため、まだ議論が柔らかい段階で様々な観点から議論が必要な場合はK-meansを何度か繰り返して、いくつか出てきたクラスタを基に事業観点から必要なクラスタについて議論します。
一方で、初期値に依存することから再現性が取りにくいというのは大きなデメリットになります。
事業側にいくつかすでに仮説があり、クラスタの形成方針が見えている場合は、やや不向きな手法だと感じます。
DBSCAN
DBSCANは「密度ベースの空間クラスタリングのアプリケーションとノイズの検出」を意味し、データの密度を基にクラスタを形成します。
このアルゴリズムは、あるポイントの近傍内に特定の数以上のポイント(ミニマムポイント)が存在するかどうかで、そのポイントがクラスタの一部かどうかを判断します。
柔軟性が高く、ノイズにも強いことから一定、再現性が取りやすいクラスタリング手法として位置付けられます。

メリット
- 任意の形状のクラスタを検出可能: DBSCANはクラスタの形状に制限がないため、非常に柔軟
- ノイズに強い: 外れ値やノイズとしてのデータポイントを自然にフィルタリングする能力がある
デメリット
- パラメータの設定が難しい: 適切な距離の閾値(エプシロン)とミニマムポイント数を設定する必要があり、これが難しい場合がある
- 密度の差が大きいデータでは性能が低下: 各クラスタ内の密度が均一でない場合、適切にクラスタリングすることが困難になることがある
私の経験を基にすると、クラスタを決定する段階では一番よく用いられる手法になります。
ノイズに強く、再現性が取りやすい点はビジネスコミュニケーションをする場合にも有用で、データサイエンスに精通していないビジネスの意思決定者ともスムーズにコミュニケーションを取ることができます。
実際のビジネスの現場で活用する際は、何度か入力するデータを変えて、試行錯誤しながら最終的なクラスタを決定していきます。
クラスタリング全般のデメリットとしてあるのが、解釈性の悪さです。機械的に導出されたクラスタを解釈する際に、中々直観的に解釈しづらいという場合は多々あります。
最近では、クラスタリングの結果をLLM(大規模言語モデル)に解釈させてから議論をするような事例も出てきています。
最終的にどのようなクラスタとして決定するかは、密にビジネスの意思決定者とコミュニケーションを取りながら、スケジュール見合いで決めていくことが必要なプロセスになります。
まとめ
今回はデータドリブンマーケティングに有用なクラスタリング手法について解説しました。クラスタリング手法は様々あり、それぞれに特有の特徴があります。
実現したいこと、議論のフェーズ、データセットの特徴などを考慮して、適切な手法を選択することが重要です。また、データサイエンスに精通していないビジネスの意思決定者と上手くコミュニケーションすることも成功に向けた重要なポイントです。
今回解説したクラスタリング手法は一般的なビジネスマンにとっては、なじみがない高度な分析手法に見えるでしょう。
だからこそ、分析に精通したデータサイエンティストがビジネスニーズを深く理解して、わかりやすくコミュニケーションを取ることで、データ分析を有用に活用することができます。
クラスタリングに限らず、データドリブンマーケティングを成功させるには、データサイエンティストが重要な役割を占めます。今後もデータ活用のニーズは高まっていくと予測されるので、日々経験を積みながら自己研鑽していくことが重要になります。
最後までご精読いただき、ありがとうございました。
