抜本から業務全体のプロセスの再構築を行うBPR(ビジネスプロセスリエンジニアリング)。
DX化、IT化、効率化が進む中、中小企業にとってBPRはさらに重要となっています。そに伴い、経営者や決定権の持つ層のBPRへの深い理解が必要とされています。
この記事では、BPRの基本から実際の事例までを紹介します。組織を改革したいと悩む方だけでなく、何となくITを取り入れてみたいという方もぜひお読みください。
小中規模プロジェクトを中心にSEやコンサルとして活動。クラウド導入やスタートアップ、新規事業開拓の支援も経験しました。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)とは

BPRとは、Business Process Re-engineering(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の略称です。
プロセスの観点から業務フロー、管理機構、情報システムなどを見直し、業務本来の目的に向かって抜本から再構築を行う業務改革のことを意味します。
1990年頃に提唱され、日本でもバブル崩壊後の不景気からの回復のための手段として注目されていました。当時はデメリットが目立ち、うまく浸透しませんでした。
しかし、昨今の生産年齢人口の減少による人手不足は深刻です。少ない稼働で今まで通りの成果を求められている中で、BPRが再注目されています。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)と業務改善の違い

| 項目 | BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング) | 業務改善 |
| 改革の度合い | 抜本的な改革 | 順を追って改善 |
| アプローチ | トップダウンでプロセス全体を一度に改革 | ボトムアップで部分的に改善 |
| 目的 | 劇的な業績向上、競争力強化 | 業務の効率化、コスト削減 |
| 範囲 | 企業全体のプロセスを横断的に見直し | 特定の業務領域に限定 |
| ITの利用 | 大規模なITシステムの導入が前提 | 既存システムの改修や小規模導入 |
| リスク | 大きなリスクを伴う | リスクは比較的小さい |
| 変革のインパクト | 企業文化・従業員の意識改革が必要 | 現行業務の部分的な変更 |
| 実施期間 | 長期的なプロジェクト | 比較的短期間 |
| リーダーシップ | 経営トップのリーダーシップが不可欠 | 現場主導で実施可能 |
BPRは企業の根幹的なビジネスプロセスを一新することを目指す革新的な取り組みです。一方、業務改善は既存の業務プロセスに対して徐々に行っていく改善活動です。どちらも目的を達成するための手段であるという点で区別はありません。
BPRは企業全体の大改革を伴うため、リスクは高いものの成果も大きいのが特徴です。業務改善は小さな変更の積み重ねですが、リスクは低く着実に効果を上げられます。
BPRと業務改善は目的や範囲、アプローチが大きく異なり、どちらをどのように活用するかは企業の戦略や状況に合わせて判断する必要があります。違いを詳しく紹介します。
改革の範囲
BPRは、業務全体を根本的に再設計することで抜本的な改革を行います。
具体的には、業務フローや組織構造、ITシステムなど、企業の仕組みそのものをゼロから見直し、大幅な変革を目指します。このため、対象となる範囲は全社的で広範囲に及びます。
業務改善は、現在の業務プロセスを維持したまま、特定の非効率な部分や課題を改善することが中心です。
対象となる範囲は部門や特定の作業レベルに限定され、業務全体に影響を及ぼすことは少ないです。
実施手法
BPRは、業務全体の可視化と分析を行い、理想的な業務プロセスを新たに設計します。
多くの場合、外部コンサルタントの活用や最新テクノロジーの導入が含まれ、プロジェクト形式で進行することが一般的です。
業務改善では、PDCA(計画・実行・確認・改善)サイクルやKaizenアプローチが用いられます。
現場の従業員の意見を取り入れたり、既存のツールやリソースを活用しながら、小規模な変更を繰り返して改善を進めていきます。
期待できる効果
BPRは、全社的な改革を通じて、生産性の向上や大幅なコスト削減、競争力の強化など、企業全体に大きな効果をもたらします。
業務そのものが根本的に変わるため、改革が成功すれば、企業の将来性にも大きな影響を与える可能性があります。
業務改善では、特定の課題にフォーカスした効率化やコスト削減が中心であり、短期的かつ限定的な効果が期待されます。
ただし、現場に密着したアプローチのため、着実に成果を積み上げやすいのが特徴です。
リスクと実施期間
BPRは、大規模な変革を伴うため、リスクが高く、実施期間も長期にわたることが一般的です。
初期投資が大きく、計画が頓挫する可能性もあるため、慎重な計画立案とリスク管理が求められます。
業務改善は、小規模な取り組みを繰り返すため、リスクが低く、短期間で成果を出しやすいのが特徴です。
失敗しても影響が限定的で、調整や再実施が比較的容易です。
従業員への影響
BPRでは、業務プロセスが抜本的に変わるため、従業員の役割や業務内容に大きな変化が生じます。
そのため、従業員の抵抗感が強まり、モチベーションの低下や離職といったリスクが伴います。改革を成功させるには、十分な説明や教育、従業員へのサポートが不可欠です。
業務改善は、現状の業務を前提に進められるため、従業員への負担は少なく、逆に業務効率の向上や負担軽減が期待されます。
従業員の意見を取り入れる機会が多いため、協力を得やすいのも特徴です。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の成功事例

では実際にBPRを行った企業の成功事例はどのようなものがあるのでしょうか。ここでは2つの成功事例を紹介します。
千葉県松戸市

千葉県松戸市では、財政難という課題からBPRが実施されました。
業務の棚卸しからSTOW分析を行った結果、123個もの課題が見つかりました。ここから業務の見つめ直しを実施。課題の優先度を確認した上で、事業の方向性を確立することができました。
こちらの事例の成功ポイントは業務フローの見直しを徹底したことです。小さな課題も見つけることができたため、適切な順序での改善を行うことができました。
IBMクレジット
IBMクレジットでは、クレジットの審査完了までにかかる時間に6日もがかかることが課題でした。
分析の結果、複数の部署を跨ぐフローとなっていたことが原因だということが判明。
ITシステムの導入をしたところ、4日程度の時間で審査完了することができるようになりました。長い待機時間による顧客離れを改善し、サービス価値も向上することができました。
この事例の成功ポイントは適切なツール選択です。むやみやたらにIT化を進めるのではなく、適したツールを正しく選ぶことで業務改革の最適化を行うことに成功しました。
LIXILグループ

LIXILグループでは、2011年以降の海外企業買収に伴い急速に進んだグローバル化の中で、海外子会社の経理や決算の管理が複雑化するという課題に直面していました。
この課題を解決するため、グループ全体の経理業務をシェアードサービスの手法で本社管轄の専用組織に集約しました。
従来は各グループ会社が個別に対応していた税務や監査対応といった高度な専門知識を要する業務を、本社主導で一元管理することが可能となりました。
グループ全体で安定した質の高い経理サービスを提供できる体制が整い、業務の効率化と品質向上を同時に実現しました。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)によるビジネスへのメリット

BPRは対応規模も大きいためビジネスに大きな影響を与えます。まずはビジネスへのメリットをみていきましょう。
業務効率が向上する
BPRでは、ITシステムの導入やプロセスの見直しにより、重複業務の排除、手作業工程の自動化、情報の共有化などを実現します。
例えば受発注業務においては、全てを紙ベースから電子化し、オンラインで完結させることで、大幅な効率化が可能となります。
コスト削減できる
無駄な工程の廃止により、人件費、間接費などのコストを大幅に削減できます。
また、業務の自動化によりミスの削減も図れ、手戻りコストの低減にもつながります。さらに、ITシステムの標準化により、システム運用コストの低減も可能です。
顧客サービスが向上する
BPRにより受注から納品までのリードタイムが短縮され、顧客への迅速な対応が実現します。また、情報の一元管理により、顧客情報の共有が進み、きめ細かい対応も可能になります。
また、業務効率化によって短納期対応力が高まることで、顧客満足度が上がります。
競争力が強化される
コスト削減と業務効率化によって、製品・サービスのコストパフォーマンスが大幅に向上します。これにより競争力の強化が可能です。
また、BPRで業務プロセスを抜本的に見直すことで、環境変化への柔軟な対応が可能になります。例えば新製品の投入や、M&Aによる事業統合の際などに、スムーズな業務統合が図れるため競合よりもスピード面で優位に立つことができます。
組織が活性化する
BPRでは従来の非効率的な業務プロセスが見直され、ムダな作業が排除されます。これにより従業員はモチベーションの高い仕事ができるようになります。
また、BPRでは企業文化や従業員の意識改革も重要です。経営陣から現場まで全社的に変革意識を共有し、生産性向上とイノベーションを重視する風土が育成されます。
BPRは企業の文化や従業員意識の抜本的な改革を伴う大きな変革なのです。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)が進まない理由

BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)にはいくつかのデメリットが存在します。
以下に、その主なデメリットについて説明します。
失敗リスクが高いため
BPRは、企業のプロセスを一新する大規模な変革を伴うため、失敗リスクが高いです。
特に、プロジェクトの計画段階で現状の問題点や改善策を十分に把握していない場合、期待した成果が得られない可能性があります。
さらに、全体の戦略や目的が明確でなければ、プロセスの変更が部分的に終わり、組織全体に混乱をもたらすことがあります。
失敗の原因としては、変革のスコープが広すぎる、関係者間のコミュニケーション不足、トップマネジメントの関与が不十分などが挙げられます。
コストや時間がかかるため
BPRは、全社的なプロセスの見直しと再構築を行うため、莫大なコストや時間を要します。
新たなシステムの導入や既存のシステムの大幅な改修、従業員へのトレーニングなど、直接的な費用だけでなく、業務が一時的に停滞することによる機会損失も発生します。
また、プロジェクトが長期化することで、計画当初に想定していた予算やスケジュールを大幅に超過するリスクが高まります。
これらの要素が重なることで、BPRの成功確率が低下し、最終的には企業にとって負担となる可能性があるでしょう。
組織文化が変わり従業員が抵抗するため
BPRは、組織のプロセスだけでなく、文化そのものの変革を求めることが多く、その過程で従業員からの強い抵抗を受けることがあります。
従業員は、既存のやり方に慣れているため、急激な変化に対して不安や反発を抱くことが一般的です。
特に、従来の役割が不要になる場合や、新たなスキルが求められる場合、従業員のモチベーションが低下し、最悪の場合、優秀な人材の流出につながる可能性もあります。
このような抵抗を抑えるためには、変革の意義やメリットを丁寧に説明し、従業員を巻き込んだ段階的な実施が必要になるでしょう。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の進め方

BPRは企業の業務そのものを立て直す大きな改革です。
分析、設計、実行、評価のサイクルを徹底的に実践し、ITの活用と経営層の強力なリーダーシップを実行することが成功のカギとなります。
進め方1. 事業戦略・方針確認
BPRに取り組む最初の手順は、現状の業務プロセスを徹底的に分析することです。
企業の経営方針、中期経営計画、事業戦略を確認し、BPR実施の目的や意義を明確にします。企業の中長期的な経営方針や目標と照らし合わせ、最優先で解決すべき重要課題を特定することが大切です。
進め方2. 課題抽出
現行の業務プロセスやITシステムの実態を徹底的に分析します。非効率な部分や課題、問題点を洗い出し、改善の必要性を確認するのです。
同業他社の効率的なプロセスと比較したり、社内の別の部門の優れた事例と照らし合わせたりすることも改善の手がかりになります。
抽出された課題を解決するための新しい業務プロセスを検討・設計します。ITシステムの刷新や業務の自動化、アウトソーシングの活用なども視野に入れ、業務の効率化とコスト削減を目指します。
進め方3. プランや予算案を作成
課題が特定できたら、ICTの活用やDX化などを前提にして理想とする新しい業務プロセスをデザインします。従業員へのヒアリングなども行い、現場の生の声を反映させることが重要です。
新プロセスの導入に伴う概算費用と、それによる効果(コスト削減や生産性向上など)を整理します。費用対効果を検証し、BPRの実施可否を判断するための重要な作業となります。
全ての業務を一度にゼロベースから設計するのは現実的ではないため、優先順位が高い部分から段階的にプロセスを構築していきます。試行錯誤を重ねながら、理想に近づけていくのがポイントです。
進め方4. 導入に関する設計と運用開始
そして、新プロセスの導入に向けた詳細な実施計画であるロードマップを策定します。システム開発や社員教育などの準備作業を計画し、段階的な実施スケジュールを立てるのです。
新しいプロセスの設計案が出来上がったら、実際に運用を開始します。この段階では、経営トップからリーダーシップを発揮し、改革の方針を従業員一人ひとりまで徹底させることが何より重要です。
また、新プロセスに合わせて必要となるITシステムの導入や従業員への研修なども行います。一部の業務から運用を始め、次第に範囲を広げていきながら検証を重ねて改善していきましょう。
進め方5. 運用管理と評価
新しいプロセスの運用が始まっても、これで終わりではありません。新プロセスの状況を常に監視し、課題があれば迅速に対応していく必要があります。
定期的な会議での進捗確認や、データに基づく分析、改善提案の収集など、PDCAサイクルを継続的に回しながら、プロセスを磨き上げていきます。この繰り返しが、業務の生産性向上と競争力強化につながっていくのです。
BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の手法

BPRではITを最大限活用しながら、プロセス再設計やケースマネジメント、ワークフローマネジメントなどの手法で業務改革を推進していきます。ここでは各手法とその例を紹介します。
プロセス分析手法
プロセス分析手法は、企業が業務プロセスを効率化し、問題を特定して改善を行うためのアプローチです。
業務の全体像を可視化し、どの部分に無駄や非効率が存在しているかを分析することで、理想的な業務フローを構築するための基盤を作ります。
この手法では、業務の現在の状態を詳細に把握し、データやフローチャートを用いて問題点を明確化。その上で、改革や効率化のための具体的な施策を提案します。
特に、業務の流れが複雑であったり、多数の部門や関係者が関わる場合に有効です。
プロセス再設計
現行プロセスをゼロベースで見直し、理想的な業務フローを構築。
例:受発注業務の完全IT化で、無駄な工程を排除。
業務仕分け
業務を精査し、重要度や価値に基づいて分類。
例:重複や非効率な作業を省き、リソースを最適化。
SCM(サプライチェーン・マネジメント)
調達から販売までのプロセスを一元管理し効率化。
例:在庫過剰を防ぎ、顧客ニーズに迅速対応。
問題分析手法
問題分析手法は、現行の業務プロセスやシステムにおける課題を明確にし、その根本原因を特定するための手法です。
この手法では、業務の中で発生する非効率やエラーの発生箇所を可視化し、改善の方向性を導きます。
具体的には、業務フローを図式化してボトルネックや無駄を特定したり、統計的手法を用いて業務のばらつきやエラー原因を解析します。
業務プロセス全体を見直す前に、解決すべき課題が明確になります。
シックスシグマ
DMAIC(定義・測定・分析・改善・管理)の手法で品質改善。
例:欠陥率の削減と顧客満足度の向上。
業務フローの可視化
現行プロセスを図式化し、ボトルネックを特定。
例:無駄な承認プロセスを排除してスムーズ化。
ワークフローマネジメント
業務フローをITで最適化し、タスクの進捗を管理。
例:受注から出荷までのプロセスを自動化。
業務改革手法
業務改革手法は、既存の業務プロセスを抜本的に見直し、効率化や柔軟性の向上を実現するための手法です。
この手法では、業務全体を再設計し、組織内外のリソースを最適に活用することで、業務の質や速度を向上させます。
業務改革手法には、顧客や案件ごとにプロセスを管理するケースマネジメントや、非コア業務を外部委託するBPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)などがあります。
業務を共通化して一元管理するシェアードサービスも、企業全体の効率化を支える重要なアプローチです。
ケースマネジメント
顧客や案件ごとにプロセスを一元管理。
例:金融機関の融資業務を顧客単位で最適化。
BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)
非コア業務を外部委託して効率化。
例:カスタマーサポートを専門業者に委託。
シェアードサービス
共通業務を一箇所に集約し、標準化します。
例:複数部門の経理業務を共有サービスセンターで処理。
IT活用手法
IT活用手法は、最新のテクノロジーを業務プロセスに取り入れることで、効率化や精度向上、データの活用を促進する手法です。
ITツールやシステムを効果的に導入することで、業務の自動化やデータ統合が可能となり、意思決定や業務運営の質を向上させます。
ERP(統合基幹業務システム)導入
部門間の情報を統合し、一元管理。
例: 財務や在庫情報をリアルタイムで把握可能に。
クラウドソリューションの活用
業務データをクラウド上で共有し、遠隔アクセスを実現。
例: SaaS(Software as a Service)による業務管理。
AIと自動化ツールの導入
機械学習を活用した業務効率化。
例: 顧客データを基に最適なマーケティング施策を提案。
評価・測定手法
評価・測定手法は、業務プロセスや改善施策の成果を数値化し、効果を客観的に評価するための手法です。
改善の進捗状況や成果を把握することで、次の施策や戦略の立案に役立ちます。
KPI(重要業績評価指標)の設定とモニタリング
成果を定量的に測定する指標を設定。
例: 業務効率化の進捗をKPIで可視化。
A/Bテスト
2つの施策を比較し、効果が高い方を選定。
例: マーケティング施策の効果を検証。
プロセスのベンチマーク
他社や業界のベストプラクティスと比較。
例: 他企業の成功事例と自社プロセスを比較して改善点を導出。
まとめ:BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)で企業を変革しましょう

BPRを徹底的に行うことで様々なビジネスへの効果を狙うことができます。
「業務の無駄が多く感じる」「業績が停滞していて成長が見えない」と悩み始めたら、BPRを検討することがおすすめです。
しかし良い効果が見込めることはわかっても、やはり大きいコストのかかるBPRにはなかなか手を出せないという企業の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
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