SCM(Supply Chain Management)とは、製造業において原材料の調達から製造、商品の販売までの流れを一気通貫で最適化する経営手法です。
その多くは高度にITシステム化され、企業の競争力の源泉となっています。
アップルが時価総額一兆ドル企業になったのも、ティム・クックCEOがSCMのエキスパートであったのが理由だとされています。
本稿ではSCMの定義、各要素を解説し、そのメリット/デメリットなど、一通りSCMをわかりやすく紹介します。
また、SCMシステムの実例を挙げてSCM導入のガイダンスの役割を果たします。
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SCMの基本とは

サプライチェーンとは、商品が原材料から製造加工を経て販売され、消費者に届けられるまでの一連の流れのことを指します。
SCMはサプライチェーンの全体最適を目的とした総合的なシステムです。
多くは、コストの削減、キャッシュフローの改善、納期最適化、品質の向上といった製造業の課題解決に寄与します。
商品製造のプロセスには、需要予測から原材料の調達・製造・在庫管理・配送・販売・アフターサービスまで、様々なフェースがあります。
SCMはこれらを一気通貫で管理します。
SCMの意味とは?
サプライチェーンマネジメントの定義を述べます。
SCMは製品やサービスの生産から消費者への提供までの一連のプロセスを効率的に管理するための戦略です。
企業(製造業)は原材料の調達から最終製品の配送までのサプライチェーン全体を最適化します。
SCMの導入により、企業は部品調達のコスト削減・適正在庫の保有・流通コストの削減・需要変動へのタイムリーな対応など様々なメリットを得られます。
これらにより、企業は競争力を高めることができます。
もちろん、SCMの構築には多大な投資を必要とします。
サプライチェーン全体の細部に精通した人材も不可欠ですし、自社だけでなく仕入れ先や販売店との連携を取るために膨大な労力がかかります。
SCMをうまく回すために、スピード感を持った活動と、各方面との綿密な調整を取ることが重要です。
手間はかかりますが、得られるものは大きいと言えます。
SCMの要素
SCMは以下の主要な要素から成り立っています。
調達(Procurement)
企業は原材料やサービスを外部から調達します。
需要予測や在庫状況を見ながら、過不足ない量を適正なタイミングで発注することが必要です。
調達は国内だけでなく海外にもその範囲は広がります。
コスト削減のために相見積もりを取る、価格交渉をするといった活動が必要となります。
製造(Manufacturing)
製造は原材料を加工して製品を作ります。
製造はSCMの中心となるプロセスです。
自社工場に限定したものではなく、外部に製造を委託する場合もあります。
需要動向を注視し、納期/品質を見ながら製造量をコントロールします。
タイムリーな生産計画の立案が重要です。
製品が不足しているようであれば製造力を上げ、需要が収まっている場合は製造を抑制します。
よく自動車のアクセル/ブレーキを踏むと比喩されます。
ロジスティクス(Logistics)
ロジスティクスの原義は戦争の兵站です。
原材料・製品の輸送・流通全般をコントロールします。
適正なコントロールによってコストの削減、納期確保による顧客満足度の向上が見込まれます。
反面、ロジスティクスの流れが悪くなると、コスト増加、生産リードタイムの悪化などの悪材料が産まれます。
販売(Sales)
製品・サービスを消費者・顧客へ届ける活動です。
需要予測により販売計画を立てます。
在庫量を調整し、欠品や過剰在庫にならないように考慮します。
販売網の整備も重要です。
原材料の調達・製造ラインとも連携する必要があります。
顧客サービス(Customer Service)
SCMの最終段階です。
顧客満足度を向上し、自社へのロイヤルティを維持します。
顧客からの苦情処理、アフターサービスの提供といった営みを指します。
顧客サービスの質を上げることによって売上の拡大につなげます。
顧客サービスで得られた情報を需要予測や生産計画にフィードバックすることで、さらなる成果が期待できます。
SCMの導入方法

SCMを導入するためには、その仕組みをITシステム化する必要があります。
データをリアルタイムで可視化することによって、タイムリーな計画立案/実行が可能になります。
もちろん、サプライチェーンの最初から最後までを一貫してシステム連携することが必要です。
SCMの導入には、一からシステムを開発委託する方法もありますが、最適化が高度に成される分、導入コストは高く付きます。
ソフトウェア会社のパッケージ製品やそのカスタマイズなどで、コストを抑えて導入することもできます。
SCMシステムの導入
SCMを効果的に実施するためには、SCM専用のソフトウェアやシステムを導入することが一般的です。
これにより、サプライチェーン全体を可視化し、リアルタイムでデータを分析する能力が向上します。
SCMシステムの導入には、サプライチェーンの全体像の把握・課題の整理が不可欠です。
システムの導入維持には多大な人員投入が必要で、コストも高くつきます。
SCMシステムには早い市場の変化に追従できる柔軟さも求められます。
自社だけでなく他社との連携を取らなければならないため、システム導入のハードルは上がります。
もちろん、SCMシステム導入によって得られる効果は大きく、企業活動には必須の条件です。
ハイリスク・ハイリターンな投資と言えるでしょう。
SCMのフレームワーク
SCMのフレームワークとは、SCMの考え方ややり方を体系的にまとめたものです。
SCMの導入にあたっては、SCOR(Supply Chain Operations Reference)やAPICSのモデルなど、業界で認められたフレームワークを活用することが推奨されます。
APICSはSCMの国際資格を認定する団体の名称です。
(現在はASCMと改称)
グローバル企業とのSCM連携では、APICSのモデルを考慮する必要性が出てきます。
これらのフレームワークは、SCMプロセスを評価し、改善するための指針を提供します。
業界標準のフレームワークを採用することにより、自社システムと、同じフレームワークを採用する他社システムとの連携が取りやすくなります。
また、システム構築・運用のコストを下げる利点もあります。
自社業務の標準化にも役立ちます。
SCMのメリットとデメリット

SCMシステム導入にあたっては、そのメリットとデメリットを理解しておく必要があります。
メリットはコスト削減/品質向上/顧客満足度向上などが挙げられます。
デメリットとしては高コスト/複雑性/依存度の増加といったものがあります。
メリットのみを享受し、デメリットを避けるといったことはできませんが、メリットを追求し、少しでもデメリットを小さくする工夫は可能です。
SCMシステム導入の際の参考としてください。
詳細を以下に説明します。
SCMのメリット
コスト削減:
効率的なサプライチェーンマネジメントにより、在庫コストの削減や生産プロセスの最適化が可能です。
需要の変動によって在庫を持ちすぎることは、無駄なコストが積み上がってしまいます。
調達・製造といった各生産プロセスのリードタイムを見える化して効率化することによっても、コスト削減は可能です。
また、物流の最適化によって配送にかかる物流コストを抑えることができます。
コスト削減はSCMを導入すべき第一の理由となります。
品質向上:
正確な需要予測と品質管理により、製品の品質が向上します。
先に挙げたコスト削減と品質の向上はなかなか両立しづらいですが、SCMの導入によってプロセス中の見通しが良くなり、コストを削減しながらの品質向上のヒントを与えてくれます。
品質向上活動に、SCMの仕組みを活用すれば、品質の低下を防ぐことができます。
また、製品のトレーサビリティを確保することで、万一製品に不具合が発生した場合でも、迅速な対応が可能になります。
これによって、商品の信頼性を維持します。
顧客満足度の向上:
納期遵守やサプライチェーンの透明性の向上により、顧客満足度が高まります。
需要の変動に対応することにより、顧客の多様なニーズに合わせた商品供給力が強化されます。
SCM導入による生産の最適化で、顧客が嫌う納期遅延・配送遅延を未然に防ぐことができます。
SCM導入の成果として得られるコスト削減と品質問題防止の結果により、顧客の高いロイヤルティを獲得することが可能です。
SCMは顧客満足度向上のために欠かすことができません。
SCMのデメリット
高コスト:
SCMシステムの導入と運用には、高いコストがかかることがあります。
SCMシステムはそれだけでも大規模なものとなるため、高い初期投資が必要になります。
維持運用にも多くの人員を投入しなければならないため、さらにコストがかかります。
SCMは他社との連携を取らなければならないので、サプライチェーンに精通した高度な人材を確保しなければなりません。
また、調整にも時間がかかります。
メリットで挙げたコスト削減と相反しますが、極力効率化を推し進めて導入/運用コストを下げます。
複雑性:
サプライチェーン全体を管理することは複雑であり、失敗するリスクが存在します。
サプライチェーンには多くの要素が絡み合い、一つの要素が変化すると他の要素にも影響します。
また、顧客ニーズの多様化により、考慮すべきポイントがさらに増えます。
サプライチェーンはますますグローバル化しており、関係する組織が増えていきます。
複雑性が増すと、サプライチェーンの可視化が阻害され、利点が消えてしまいます。
SCMの複雑性を解消するために、情報を一元管理する/構成を見直すなどの施策が必要になります。
依存度の増加:
サプライチェーンの効率化に依存しすぎることで、供給に関するリスクが増大する可能性があります。
企業活動の大部分をSCMに依存し、他社との関係も密になってくると、ひとたび災害や疫病の蔓延といったトラブルが発生すると、サプライチェーン全体がダメージを受けてしまい、大幅な供給不足の事態を招きます。
大きなトラブルでなくても、企業間の依存度が増すと小さな一つのトラブルでサプライチェーンが回らなくなってしまいます。
業績の悪化や顧客満足度の毀損など、大きな損失となってしまいます。
おすすめのSCMシステム5選

以下におすすめのSCMシステムを五つ紹介します。
いずれもグローバル対応のプラットフォームで、実績もあるシステムです。
各社クラウド対応、AI・機械学習といった最新の機能を取り込んでいるのが特徴的です。
グローバルなSCMシステムを一から構築することは大変ですが、ソフトウェア会社が提供するパッケージ製品を活用することにより、導入コストを抑えることができます。
アクセスするにはSCM代理店を経由することになります。
SCMシステム選定の参考にしてください。
サプライチェーン管理システム(SCM)とは?おすすめ5選と、仕組みやERPとの違いを解説!
SAP Integrated Business Planning(IBP)
SAP Integrated Business Planning(IBP)

SAPのSCMプラットフォームで、高度な計画、予測、在庫最適化、需要予測、供給計画などの機能を提供します。
大規模な企業向けに設計されており、包括的なSCMソリューションを提供します。
このツールは企業が売上と収益を予測して在庫を計画し、サプライチェーンのボトルネックを予測できるため、さまざまなリスクに対処できます。
SAP HANAを基盤とした、クラウドベースのソリューションです。
高度な機械学習アルゴリズムと計画機能を持ちます。
Oracle SCM Cloud

OracleのクラウドベースのSCMプラットフォームで、調達、在庫管理、生産計画、トランスポート管理などを統合して提供しています。
多くの業界に対応しています。
サプライチェーンと製造プロセスを結びつけて、リアルタイムの可視性を提供します。
人工知能(AI)と機械学習(ML)の技術を組み込み、SCMと人事のプロセスを単一のクラウドで接続します。
アジャイルな計画と連携したサプライチェーンの実行により、ビジネスの変化に対応すべく、柔軟性と弾力性を備えた迅速な意思決定を行うことができます。
Microsoft Dynamics 365 Supply Chain Management
Microsoft Dynamics 365 Supply Chain Management

MicrosoftのクラウドベースのSCMソリューションで、調達、在庫管理、生産計画、需要予測などの機能を提供しています。
Microsoft製品との統合が容易であり、中小企業から大企業まで幅広い顧客に対応しています。
サプライチェーンを最新化して、可視性の向上、計画立案体制の実現、調達の合理化、フルフィルメントの最適化を実現します。
サプライチェーン計画、調達とソーシング、製造現場と店舗の管理、注文管理と価格設定、倉庫管理とフルフィルメント、資産の管理とメンテナンスといった面で、様々な機能を提供します。
Kinaxis RapidResponse

キナクシスのSCMプラットフォームは、リアルタイムの計画、予測、供給チェーンの可視性、シミュレーションなどを提供し、ビジネスリーダーシップを支援します。
特に高速な環境での需要変動に対応できます。
サプライチェーンに散在する情報を統合して可視化し、需給の急激な変動に反応して異常を瞬時にアラートし、迅速な意思決定と対応を支援します。
コンカレントプランニング(同時並列計画)、人工知能によるプランニングといった特徴があります。
JDA Software(現在はブルーヨンダーに統合)

JDA Softwareは、在庫最適化、需要予測、生産計画、トランスポート管理、調達などをカバーする包括的なSCMソリューションを提供していました。
現在はブルーヨンダーに統合されており、多くの業界向けにSCMソリューションを提供しています。
ブルーヨンダーは業界をリードするAI・機械学習の機能を活用して例外的なデータや異常なデータを自動的に検知し、リスクを早期に特定することができます。
大量のデータから、AIや機械学習などの技術を活用して、サプライチェーンのデジタル化・近代化を支援しています。
SCMのまとめ

本稿ではサプライチェーンマネジメントとは何か、SCMの基本からSCMの意味、SCMの各要素、SCMの導入方法を解説してきました。
さらにSCMのメリット/デメリットを挙げて、SCM導入の意義とリスクを説明しました。
おすすめのSCMシステムをピックアップして、実例を示しました。
SCMは企業活動がグローバル化する現在、必須の要素となっています。
サプライチェーンで結ばれた組織との信頼関係を築くのにも役立ちます。
SCMシステムの導入はコストのハードルが高く、利害関係が複雑で対応が難しいですが、うまく運用すればコスト削減・顧客満足度の向上といった大きな実利を得ることができます。
企業(特に製造業)にとって、SCMの導入は避けて通れないものです。
SCM導入を成功に導くためには、企業の戦略立案が重要になります。
また、優秀な人材を集める必要があります。
まだSCMシステムを検討してしないのであれば、本稿を機に検討を始めてみてはいかがでしょうか。
SCMの導入に関してお困りごとがあれば、実績豊富な株式会社Jiteraにぜひ一度ご相談ください。
貴社の要件に対する的確なアドバイスが提供されると期待されます。
