統計学を勉強しているとベイズ統計という言葉を目にする機会が多いです。
機械学習やマーケティングなどに応用されており、重要性は増しています。
ビジネスの課題を解決するために活用できる場面は多く、学ぶ価値のある理論です。
本記事ではベイズ統計について基礎から応用までを詳しく解説していきます。
初心者でも理解しやすいようにわかりやすく解説しているため参考にしてください。
WEBライター歴12年です。IT系の記事執筆経験は豊富にあります。
ベイズ統計の基礎知識

ベイズ統計とはベイルの定理をベースとした統計学のことであり、他の統計学理論とは異なる点が多いです。
一般的な統計学と比べて知名度が低く、よく理解していない人がいるかもしれません。
以下ではベイズ統計について定義や基本原則、ベイズの定理の基本についてまで解説していきます。
ベイズ統計とは何か?
トーマス・ベイズが生み出したベイズの定理を基本とするのがベイズ統計です。
主観確率を扱う理論であり、客観確率を扱う他の統計学とは考え方が異なります。
最初に仮説を設定して事前確率を評価し、データを得ていく中で確率を更新していき、結論を出すのが特徴です。
データが得られる度に確率を更新していくという考え方をベイズ更新と呼びます。
データを追加して再学習することで精度を上げていく統計モデルといえるでしょう。
データ標本は必ずしも必要ではなく、不十分なデータしかない状況でも確率を導いていきます。
標本を用意することを前提とする他の統計学とは一線を画するのがベイズ統計です。
ベイズの定理の基本

ベイズの定理を数式として示すと「P(X)P(Y∣X)=P(Y)P(X∣Y)=P(X∩Y)」になります。
「P(Y∣X)」とは、Xが起きる条件においてYが起きる確率であり、条件付き確率のことです。
「P(X)」はXが起きる確率のため、「P(X)P(Y∣X)」はXとYが共に起きる確率であり、「P(X∩Y)」と一致します。
ベイズの定理ではP(X),P(Y∣X),P(Y),P(X∣Y) のうち3つがわかれば、残り1つも導けるのが特徴です。
実際には条件付き確率を求めるケースが多いため、ベイズの定理は「
P(Y∣X)=P(Y)P(X∣Y)/P(X)」と表現される場合があります。
上記のうち、「P(Y∣X)」は事後確率、「P(Y)」は事前確率、「P(X∣Y)」は尤度です。
尤度とは、原因となる事象の起きる確率の大きさと理解しましょう。
たとえば、複数の工場で部品を製造していて、各工場で不良品が生じる確率がわかると、1つの部品を取り出して不良品だった場合に特定の工場で生産された確率を求められます。
ベイズ統計のメリット

ベイズ統計を用いると他の統計的手法ではわからない事象を求めることができます。
不確実性の高い状況であっても、少ないデータで結論を出せる手法です。以下ではベイズ統計のメリットについて詳しく解説していきます。
不確実性の高い状況に対応できる
不確実性の高い事象に適応できるのがベイズ統計のメリットです。
時系列のあるデータのように時間によって変化していき、データがつながっているようなものは不確実性が高くなります。
データが独立していないような状況は、通常の統計学ではモデル化するのが難しいでしょう。
ベイズ統計の場合は、新しいデータを次々と推論に加えていく仕組みのため、時系列により変化するデータにも対応可能です。
近年はコンピュータ技術が発達したことで、膨大な計算の処理が簡単にできるようになり、ベイズ統計を応用しやすい環境が整っています。
不確実性の高い状況に対応するには膨大な計算が必要ですが、不確実性の高い事象であっても統一的な定量化が可能になりました。
限られたデータからでも推論できる
ベイズ統計はデータが限られていたとしても推論できるのがメリットです。
サンプル数が少なかったとしても、条件を設定して推論を重ねることで答えを導きます。
少ないデータであっても、随時データを更新していき条件設定を新たに行っていくのが特徴です。
新しいデータが得られる度に事実の補正をしていくことで、真実に近づけていく作業を繰り返します。
実際にベイズ統計を用いた推論は信頼性の高いものであることが多く、実用的な手法です。
現実の問題ではデータが僅かしか得られないことが多く、役立つ場面はたくさんあります。
たとえば、ビジネスにおいてマーケティングの回答を導き出すのにも効果的です。
新しい情報に基づいて確率を更新できる
ベイズ統計では、新しい情報に基づいて条件設定を繰り返すことで、確率を更新していけるのがメリットです。
最初に出される確率は主観的な確率であり、それは精度の低いものになります。
そこから新しい情報を得るごとに確率を更新していく作業を行うことで、確率を真実に近づけていくことが可能です。
また、データが次々と変化していくような事象に対しても対応可能です。
データの変化に対して柔軟に対応できるのがメリットであり、従来の統計手法では不可能な事象についても推定できます。
解釈しやすい
ベイズ統計を行うと直感的に解釈しやすい回答を得られる点がメリットになります。
問題の回答について確率分布を得ることが可能です。
Aという回答の確率は60%、Bという回答の確率は40%といった確率分布を得られるため、解釈しやすい結果を得られます。
一般的な統計学の場合は数々の推論を重ねて、最終的に得られる回答は抽象的なものになるのが特徴です。
ベイズ統計を使った場合は、統計学に詳しくない方に対しても明確に結果を示すことができます。
結果は理解しやすい形で得られるため、そこから応用に繋げやすくなるでしょう。
ベイズ統計の課題点・注意点

ベイズ統計は万能な方法ではなく、他の統計的な手法とは異なる課題点や注意点が存在します。
苦手としていることや問題点について正しく理解しておくことで、効果的な解決策を取れるでしょう。
以下ではベイズ統計の抱える課題点・注意点や解決策について紹介します。
主観的な情報に依存しがち
最初の主観的な確率を用意して推論していく手法のため、主観的な情報に依存しがちな点がデメリットです。
最初に設定する確率は自由に設定できるため、結果を大きく左右します。
最初の設定に大きな問題があれば、そこから得られる推論の精度が低くなる点が問題です。
妥当な結果を得るためには、できるだけ客観的な情報をもとにして事前確率を設定することが求められます。
また、客観的な情報を得られない場合には、できるだけ平坦な確率分布を設定することが大事です。
主観的な情報を与えないように注意することで、精度を高めることができます。
そのため、客観性の求められる対象について導入するのはハードルが高いといえるでしょう。
計算量が多くなる場合がある
ベイズ統計は実施する際に計算量が多くなりがちな点が問題になります。
次々に新しいデータを与えて確率を更新していく手法だからです。
扱う対象によってはデータ量が非常に多くて計算量が膨大になる場合があります。
たとえば、マーケティングに利用する場合は、ターゲット層の行動や性質などに関するデータを大量に扱わなければいけません。
ビッグデータを扱うことが多いため、計算量の多さへの対策が必要になります。
計算量の多さに対処するにはマシンスペックを高めることと、数値計算アルゴリズムを工夫することが大事です。
専門知識が必要
ベイズ統計を実際の問題に適用するためには専門知識が必要になります。
仕組みについて正しく理解した上で、モデルに組み込むことが重要です。
何を得意としており、何を苦手としているのか、実用する際にどんな点が課題になるのか正しく理解しておきましょう。
専門知識を得たいならば、本や教科書などの書籍を通して学習を進めることをおすすめします。
また、実際にベイズ統計を使いこなせるようになるにはプログラミングのスキルや知識も必要です。
さらに、対象となる実データも用意しなければならず、多くの知識が要求されます。
ベイズ統計の応用例

ベイズ統計は多くの分野の問題を解決できるため応用例が多いです。
実際に活用されている主な分野を以下にまとめました。
- 機械学習
- 医療
- 科学研究
- マーケティング
- ビジネスでの意思決定
従来の統計学では解決できなかった問題にもベイズ統計であればアプローチできます。
多くの分野の事例を知ることで、これから扱う際の参考になるでしょう。
以下ではベイズ統計が実世界の問題解決にどのようにして役立っているのか例を紹介します。
機械学習
機械学習を進めていく上で必須とされているのがベイズ統計です。
機械学習モデルを構築する際には、ディープラーニングとベイズ統計を組み合わせるケースが多いです。
ディープラーニングにベイズ統計を取り入れることによって、より精度の高いモデルが完成します。
ベイズ統計は新しいデータを学習しながら確率を変化させていくのが特徴です。
そのため、機械学習の仕組みと類似している部分が多く、相性が良いです。
これから機械学習について学びたいならば、ベイズ統計を理解しなければいけません。
機械学習のモデル設計をする上でベイズ統計の考え方が用いられるからです。
機械学習において用いられる計算上のテクニックの多くは、ベイズ統計と類似性があります。
機械学習に興味のある方はベイズ統計の学習を進めましょう。
医療
医療の分野においてもベイズ統計の考え方は多くの場面で効果的です。
医師には多くの意思決定をする局面があり、その際の根拠を求めるために使われることがあるのがベイズ統計です。
検査を実施するケースや最適な治療方法を提案するケースで使われます。
ベイズ統計は不確定な状況において確からしい結論を導くための手法です。
現場でデータが不足する事態が多く、より真実に近い選択をする上でベイズ統計は重要な役割を果たします。
最近では新型コロナウイルスの研究において利用されるケースが多いです。
科学研究
科学研究の分野では多くの領域でベイズ統計が採用されています。
たとえば、心理学の分野ではベイズ統計が使われた研究が増えており、注目度が高いです。
心理学の研究は最初に仮説を立てた上で、仮説が正しいのかを統計的に評価するという流れが一般的とされています。
仮説の正しさを評価する際にベイズ統計を用いることができ、モデルの正しさの根拠を導き出すことができます。
他には軍事統計や保険数理といった実務に近い分野においても利用例は多いです。
得られるデータが限られるような分野において、特に活用事例が増えています。
生態学の分野においてもデータ解析の手法として事例は豊富です。
今後も科学研究においてベイズ統計は活躍するでしょう。
マーケティング
ベイズ統計はマーケティング領域においても多くの場面で活躍しています。
消費者の行動や企業行動などを解明するためにベイズ統計を用いた統計モデルの活用は効果的だからです。
マーケティングで得られるデータは最終的な結果に関するものばかりであり、個人単位のデータを詳細に集めるのは難しいとされています。
そこで、ベイズ統計によって事前の確率に関する仮説を立てて、データを与えていき、確かな確率を求めることで、マーケティングに関する回答を得られるでしょう。
消費者の行動などデータが限られているものについても、ベイズ統計であれば有効な回答を導き出すことができます。
今後のマーケティング戦略について方向性を決める際には、ベイズ統計による回答はとても役立つでしょう。
ビジネスでの意思決定
ビジネスを進める上での意思決定の場面においてベイズ統計は活躍します。
たとえば、人材採用の場面では、どの人物を採用するかどうか決めるのに悩む場面は多いです。
人災採用は不確実性の高い事象のためベイズ統計による推測が有効であり、期待効用の高い人物を採用できます。
どんな事業により多くの資金を費やすのか決める上でもベイズ統計は役立つでしょう。
ベイズ統計により、最もお金が儲かる事業を予想して、多くの資金を費やすという選択ができます。
適切な意思決定をする上でベイズ統計は幅広い問題に適用できるため、ビジネスの場で利用価値の高い手法です。
【入門者向け】ベイズ統計学の本・教科書

ベイズ統計学を学びたいならば、本や教科書で入門者向けのものを読むことをおすすめします。
需要の高い分野のため、いろいろなタイプの書籍が出されており、効率的に学ぶことが可能です。
以下では入門者向けでおすすめの書籍を紹介します。
『完全独習 ベイズ統計学入門』

『完全独習 ベイズ統計学入門』はダイヤモンド社より出ているベイズ統計学の入門書です。
中学数学を忘れている方でも理解しやすいように書かれていて、確率やルートなどの概念について理解していない方でも読み進められます。
徹底的に優しく解説された本であり、統計学に興味のある人やIT業界で働いている人などに特におすすめです。
四則計算のみで理解できるように解説されているため、気軽に読めるでしょう。
ベイズ統計学の基本的な理論から実践的な内容まで網羅されています。
練習問題が掲載されているため、各セクションの問題を解いていくことで、理解を深められるでしょう。
『統計と確率 ベイズ統計編』

『統計と確率 ベイズ統計編』はニュートン別冊というムック本のシリーズの1つであり、ベイズ統計を取り上げています。
何の予備知識のない人でも1から理解できるように解説された本です。
平均値や分散・標準偏差、正規分布など統計学の基礎から解説されています。
確率についても、大数の法則や順列・組み合わせ、ランダムウォークなど基本的な概念から学べるのが特徴です。
3囚人問題や感染症の検査、オオカミ少年などの問題を取り上げながらわかりやすく解説していきます。
実際の数理モデルについても取り上げており、どのような実践で役立つ手法なのか理解しやすいです。
『図解・ベイズ統計「超」入門 あいまいなデータから未来を予測する技術』

『図解・ベイズ統計「超」入門 あいまいなデータから未来を予測する技術』は、SBクリエイティブの展開するサイエンス・アイ新書の中の1冊です。
ベイズの定理の基本から応用まで解説されており、実際に正規分布データをベイズ統計によって分析する事例まで取り上げられています。
著者である涌井貞美は、東京大学を卒業後に富士通に入社し、高校教員を経てからサイエンスライターになった経歴であり、実務的なこともしっかりと理解している人物です。
多くの書籍や雑誌の編集に携わってきた人物のため、こちらの書籍は内容を信頼できます。
レビューでは文系人間でも読み進めることができたという声があり、入門書として最適と評判です。
表紙に漫画のイラストがあるのですが、中身はしっかりと文章で各概念を説明しています。
『楽しみながら学ぶベイズ統計』

『楽しみながら学ぶベイズ統計』はSBクリエイティブから出版された書籍で、ウィル・カートによる著書を翻訳したものです。
一般読者を対象として実例を取り上げながらベイズ統計の基礎や実践的な活用方法までを解説しています。
高等数学の知識は不要であり、高校の代数レベルの知識さえあれば理解できるレベルの内容です。
スターウォーズでハン・ソロが小惑星間を飛行して生存できる確率を計算するなどユニークな内容が含まれています。
健康診断で珍しい病気の診断を受けた場合に、どの程度心配すればいいのかについても、確率を計算して説明しているため興味深い内容です。
パラメータ推定や仮説検定といった事柄も扱っており、実践的な項目が含まれています。
ベイズ統計と統計学の未来

ベイズ統計は注目度の高い分野であり、今後も多くの領域で応用されていくでしょう。
以下ではベイズ統計の新しい応用分野や、統計学における今後の役割について詳しく解説していきます。
今後、統計学はどのように社会へ影響を与えていくのか、ベイズ統計はどんな役割を果たしていくのか気になる方は参考にしてください。
新しい応用分野
テクノロジーが進展していき、膨大な計算量の問題を解決できれば、ベイズ統計はより広い分野で活用できるようになるでしょう。
たとえば、ロボット工学の分野ではモデル構築に応用されています。
データを収集してその場で最適な行動を学習・計画していけるからです。
医療現場では手術用ロボットにベイズ統計の理論を活用して、より安全で確実な運用が可能になるでしょう。
病気の診断をする際に少量の試料しか得られなくてもベイズ統計で重症度を確立できるようにする研究も行われています。
将来的には、少数のデータから病気のリスクをかなり高い精度で診断できるようになり、ガンの早期治療などで高い効果を発揮すると期待できるでしょう。
統計学におけるベイズの役割
従来の手法の欠点を解決し、幅広い問題に対処できるのがベイズ統計の役割といえるでしょう。
ベイズ統計は新しいデータが出てくるたびに結果を更新していける点が強みであり、伝統的手法との大きな違いです。
伝統的な統計手法では、最初に多くのデータを用意した上で解析を行い、最終的な結論を出します。
そのため、データが頻繁に変化する状況に対応するのが難しい点が問題となります。
ベイズ統計の場合は最初に確率を決めて、そこからデータを収集するごとに確率をアップデートしていく仕組みです。
現実の問題の多くは、データが頻繁に変化していくケースが多いため、従来の手法では対処できない場合でもベイズ統計が問題を解決できます。
まとめ:ベイズ統計を学びデータ分析や意思決定のスキルを向上

ベイズ統計は最初に主観的な確率を決めて、データを集めながら随時更新していく手法であり、応用範囲が広いです。
従来の統計学的手法の欠点を解消しており、最初に限られたデータしか存在しない状況にも適用できます。
機械学習との相性が良く、自動運転やロボット工学などでは欠かせない理論となっており、テクノロジーの進展とともに今後はより多くの分野で活用されていくでしょう。
ビジネスの意思決定の場面にも適用できる理論であり、データ分析や意思決定にも役立ちます。
ベイズ統計を学んでおけば、多くの問題の解決に活用できるでしょう。
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