大手企業から個人事業主まで利用する会計ソフト。事務系ソフトの定番でありながら、その選択肢はあまりにも広いため、自社にあった会計ソフトを選び出すのは大変です。また、2023年10月から始まったインボイス制度により、事務負担が増加したことから、インボイス対応の会計ソフトを導入することにした個人事業主や小規模事業者も多いのではないでしょうか。今や、事務効率化には会計ソフトは欠かせない存在です。
この記事では、会計ソフトについて詳しく説明し、選定に役立つ分類方法をご紹介します。そして、その分類に応じたメリット・デメリットをご紹介します。また、インボイス制度の施行に伴い必要となった機能についてもご紹介します。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
会計ソフトとは?
会計ソフトは、企業におけるすべての会計処理を記録し、決算に必要な帳簿書類を作成するためのシステムです。会計処理とは、お金の出納はもちろんのこと、掛取引における売上などの債権・債務や、会計ルールで定められている減価償却や貸倒引当金なども存在します。これらすべてのお金の動きや蓄えを管理し、集計したうえで決算処理まで実行します。
会計ソフトを導入することで、会計担当者の業務負担が軽減され、人的ミスを防ぐことにもつながります。業務が効率化されれば、人件費の圧縮にもつながります。
会計ソフトのメリット
会計業務は大量のデータ入力が必要になります。作業量が多ければ多いほど、人力での対応はミスを誘発しやすくなります。ここでは、5つの観点から、会計ソフトを導入することによるメリットをご紹介します。
業務効率化や人件費削減は、言い換えれば「人さえいればできること」を会計ソフトが代替するので、費用対効果が単純に計算できます。しかし、ミスの防止や法改正対応など、単純に金額換算しづらいメリットもあり、視野を広げて検討を行う必要があります。
会計業務の効率化
最大のメリットは、会計業務が効率化されることです。大企業になると、無いことが考えられない世界であり、その中でどこまで機能を活用して効率化を行うかがポイントになります。一方、中小企業や個人事業主の場合、専任の経理担当者もおらず、経営者がみずから会計業務を行うことも多いでしょう。会計業務の効率化は、経営者が本業に集中する時間を捻出できるようになります。
会計ソフトはさまざまな入力補助機能があり、1つ決まれば連鎖的に決まる項目は、自動入力してくれます。伝票や請求書を入力すれば、決算帳票まで一気通貫の処理を行ってくれるので、会計ソフトを使わない場合とは作業量が雲泥の差です。
機能が豊富な中規模以上のソフトの場合、対応する申告書も増え、さまざまな帳票の作成や保管が自動化されます。
単純ミスを未然に防ぐ
会計業務では、決算書類を始めとするさまざまな書類を作りますが、会計ソフトでは可能な限り入力項目を削減し、自動で書類を作成する仕組みになっています。また、中堅以上のシステムになれば、EDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)などのシステム間連携の仕組みを通じて、外部システムからのデータを人力での入力なく反映できます。
こうしたさまざまな入力作業を軽減する機能は、人がミスをする箇所自体も大幅に減らしています。会計ソフトでは、簿記のルールに従ってデータの流れが構築されているため、ソフトのロジックに任せることでミスも減っていきます。
税制改正、申告書の様式変更の対応
税関連のルールは、法改正も多く頻繁に対応内容を変更する必要があります。都度変更に対応することは面倒で、ミスがあれば追徴課税などの罰を受ける可能性もあり、慎重に対応しなければなりません。しかし、会計ソフトのベンダーはこうした改正内容を適時にシステム改修で反映してくれることが多く、自社で対応する範囲が少なくなります。
また、こうした改正の情報を漏らさず把握することが難しいです。これをソフトベンダーが担ってくれるのが頼もしいところです。
加えて、税改正があると必ず変わるのが申告書の様式です。自社開発などを行っていると、対応のために自社の要員で改修を行わなければなりません。これも、ソフトベンダーが対応してくれることが多く、会計ソフトを導入するメリットになっています。
電子帳簿保存法に対応
電子帳簿保存法とは、法的に長期間の保管が義務となっている帳票を、電子データで保持することが認められた法律です。会計帳簿は最大10年の保管が義務付けられており、これらを紙で保管し続けるのは煩雑で、場所も取ります。
また、メールで届いた請求書など「電子取引データ」は、それを紙で印刷するのではなく、電子データとして保持するルールになりました。電子帳簿保存法は、2015年以降の約10年間で5回もの改正が行われており、デジタル化の推進に向けて政府の改革が進んでいる分野です。会計ソフトの多くは電子帳簿保存法に対応しており、法改正に追随できるのも大きなメリットです。
会計担当者が初心者でも操作できる
会計ソフトは、伝票入力すれば総勘定元帳、試算表、貸借対照表(B/S)、損益計算書(P/L)などといった主要な決算書類を自動作成してくれます。中には、有価証券報告書の作成まで自動化・半自動化を行ってくれるソフトも存在します。
さらに高度なソフトになれば、簿記2級レベルの知識である製造原価計算や連結会計などにも対応しており、複雑な計算やデータ連携を自動化してくれます。これにより、簿記の高度な知識を持たない担当者であっても、会計ソフトの力を借りて会計業務をこなすことができます。事前のキャッチアップが「簿記2級を取ること」ではなく「会計ソフトの使い方を覚えること」に変わり、会計初心者でも早期に戦力化できます。
会計ソフトのデメリット
会計ソフトを導入するのはもはや常識と化しています。しかし、導入によって発生する新たな困難や課題もあります。ここではわかりやすく「デメリット」と記していますが、どちらかというと「リスク」と考える方がいいでしょう。問題があったとしても、会計ソフトを導入しないという選択肢はほぼ無いためです。
ここでは、会計ソフトを導入することによって発生する課題やリスクの代表例を4つご紹介します。
初期コストやデータ移行などの手間
会計ソフトは、買ってすぐに運用が始められるわけではありません。勘定科目や取引先などのマスタを整備する必要があります。
また、一定以上の規模の企業であれば、前の会計ソフトから、今回導入する会計ソフトへのデータ移行が必要でしょう。このとき、移行するのはマスタデータだけではなく、過去の仕訳や請求情報などのトランザクションデータも必要になります。
加えて、業務を効率化するために、仕訳の自動入力パターンを設定することもあるでしょう。
これらは会計業務の効率化のために必要な作業ではありますが、導入の初期コストは大きくなる可能性があります。大企業の会計ソフト刷新では、年単位の巨大なプロジェクトになることもあります。自社の規模と対象の会計ソフトに合わせて、初期コストを適切に見積もることが重要です。
外部の不正アクセスや内部関係者のデータ改ざんの危険性
会計ソフトの導入により、サイバーセキュリティの観点からのリスクが増大することにも注意が必要です。一般に会計ソフトは堅牢なセキュリティ機能が備わっていますが、最新のセキュリティ機能への対応や、セキュリティパッチの欠かさない適用など、二重三重にわたる対策を実施する必要があります。
近年問題視されているのは、外部からのサイバー攻撃ではなく、内部犯行者の存在です。自社社員だけでなく、業務委託先の不適切な管理や悪意によるセキュリティ事故が多発しています。充分なセキュリティガバナンスを構築するべきです。
しかし、それでも会計ソフト導入前よりは良いと考えるべきです。会計ソフト導入前は、紙やエクセルでの管理によって、不正アクセスや改ざんがあっても気づきにくいのです。
情報漏えいや消失のおそれ
情報漏えいについては、特に注意が必要です。特に上場企業の場合、決算の公表前に一部に情報漏えいがあった場合、インサイダー取引を誘発するおそれもあるため、コンプライアンス事案となる可能性があります。
また、近年猛威を振るうランサムウェアなどによってデータが消失や暗号化(復元不能)されてしまった場合、決算発表期限に間に合わないおそれがあります。上場企業には通称「45日ルール」と呼ばれる決算発表の期限も存在します。特に金融商品取引法(金商法)が定める報告書には提出遅延による罰則が適用されることもあるため注意が必要です。2024年4月から四半期報告書の提出は不要となりましたが、6ヶ月に1回の報告は引き続き必要で、提出期限と罰則はいまだ有効です。
カスタマイズが難しい
自社独特の制度により、会計ソフトを個別カスタマイズする要望があるかもしれません。かつては、海外製のERPを自社用にカスタマイズすることが一般的でした。しかし、当時も今も、カスタマイズには多大な費用と期間、人の稼働が必要になり、困難なプロジェクトになります。
今では、さまざまな企業規模に合わせた製品がリリースされており、それぞれをAPI(Application Programming Interface)やデータ連携でつなぐことで、それぞれの製品の”いいとこ取り”ができるようにもなりました。個別カスタマイズは避け、複数製品の使い分けによって対応すべきでしょう。
会計ソフトが簿記初心者におすすめの理由
会計ソフトには、さまざまな補助機能があります。これらは入力などの業務を省力化するだけでなく、簿記や会計業務に習熟していない初心者にとっては、利用していくことで知識面を強化していくことにもつながります。新人を会計業務の担当にするときなどにも、会計ソフトを使うことで効率的な育成ができます。
ここでは、簿記初心者にとって会計ソフトの利用がおすすめである理由をいくつかご紹介します。
簿記の基礎的な知識を確認できる
まず、簿記の基礎的な知識を確認できるのがいいところです。たとえば伝票入力は貸借が一致しなければ登録ができなかったり、自動的に消費税の内訳を作成してくれたりする機能があります。仕訳入力から総勘定元帳、試算表を経てB/SやP/Lに反映されていくデータの流れも、自然に理解していきます。
簿記の基礎的な知識をキャッチアップしていくにあたっては、会計ソフトの使い方を習熟させながら勉強すると効率的です。
また、会計の実務を学ぶには、会計ソフトを通じて学ぶしかありません。たとえば、部門別にP/Lを作成するような管理会計の業務は、法律が求める制度ではありませんが、実務ではとても重要な業務です。
実践的な知識を習得するにも、会計ソフトを使いながら習熟することが効率的です。
勘定科目を自動で提案する機能がある
簿記は貸借、すなわち伝票の左側と右側両方に勘定科目が必要で、双方正しい勘定科目を選ぶ必要があります。初心者のうちは、ある取引について「相手方勘定科目」すなわち登録したい内容の逆側の科目をどれにしていいかわからないことがあります。
こうした時に、会計ソフトは自動的に候補となる勘定科目を提案してくれる機能があります。また、事前に取引の種類と仕訳パターンを関連付けておき、取引種類を入れたら仕訳のテンプレートを作成してくれることもあります。こうした機能を通じて、どういう取引だとどういう仕訳が基本的なパターンになるのかを学んでいくことができます。
帳簿を自動作成
会計帳簿を自動作成してくれるため、作業の手間が大いに省けます。また、伝票の登録漏れなどがあったとき、追加の登録を済ませて処理を実行することで、そのデータがどこにどのように反映されるのかを実感することができ、簿記の流れを体験することもできます。
特にこうした追加登録や修正などのような作業は、紙やExcelなどで行うと作業漏れが起きやすいです。会計ソフトを使えば、ボタン1つ、ときにはそれすら必要なく自動で集計されて、帳簿の再作成が行えるため、不正確な帳簿を作成してしまうリスクを大いに削減することができます。会計ソフトに合わせて業務フローを整備することで、再登録などの業務的に”差し込みでやってくる”フローも安全に処理できます。
給与管理システムと連携・自動仕訳ができる
事務ソフトとしては一般的な給与管理システムとの連携が容易なところもメリットです。給与計算で得られたデータは「労務費」として仕訳登録が必要です。また、管理会計を導入している場合は、部門別・プロジェクト別などに労務費を集約する必要があります。給与システムには給与仕訳の連携機能が備わっていることも多く、これらの集計作業を簡単に行えるようにもなります。
また、会計ソフト側に経費精算の振込機能がある場合、社員の振込口座は給与と共通であることが多いです。新規入社した社員の給与振込口座を会計ソフト側に連携し、登録の二度手間を防止することができることも多いです。
会計ソフトの種類と比較表
会計ソフトにもさまざまな提供形態があります。機能や価格面の比較はもちろん、企業規模に応じてクラウド、オンプレミスなどの選択肢にも適合度があります。
ここでは、提供形態を「クラウド型」「インストール型」「オンプレミス型」の3つに分類し、それぞれのメリット・デメリットをご紹介します。
クラウド型 | インストール型 | オンプレミス型 | |
価格 | 小規模用の低価格から 大企業向けの高価格まで様々 |
一般的に安価 | 小規模用の低価格から 大企業向けの高価格まで様々 |
契約形態 | 月額定額制がほとんど 年間契約で値下げの場合も |
買い切り | 初期ライセンスと保守料の 組合せが多い |
利用台数制限 | エディションに応じて変動 従業員向け機能(経費精算等) ではユーザー数に応じて変動 |
通常1台のみ | 小規模では10台以下が多い 大規模向けは個別相談 |
対応OS | Windows Mac可も多い |
Windowsのみがほとんど | Windowsのみがほとんど |
ブラウザ | Chrome/Edge/Firefoxが主流 Safari対応も一部有 |
ブラウザは使わない | ブラウザは使わないことが多い |
スマホ・アプリ対応 | アプリ対応も多い | 対応していない | 対応していないことが多い |
データ容量 | エディションに応じて変動 | PCのスペックに依存 | サーバーのスペックに依存 |
個別カスタマイズ | 不可がほとんど | 不可 | 対応可が多い |
バージョンアップ | 自動的に最新版を適用 | 不可 (最新版を買いなおし) |
可だが追加コスト有が主流 カスタマイズ箇所は非サポート |
セキュリティ | 常時監視、最新パッチ適用 インターネット上での利用に注意 VPN対応も一部有 |
ログイン管理程度 | ログイン管理・アクセス制限など |
データ復元 | 製品側でのサポート有が多い | 無し 利用者側でバックアップ必要 |
バックアップはユーザー責任が多い 保守サポートが一部支援する場合も |
クラウド型
クラウド型は、一般的にSaaS形態で提供され、インターネットを経由しクラウド上でデータを保存することができます。インターネット上で提供されるため、社内ネットワークに接続できない外部からの利用も可能です。経費管理システムなど、上長の承認ワークフロー機能などが提供されている会計ソフトの場合、出先で内容を確認して承認する作業が多いです。こうしたケースにおいては、インターネット経由で利用できるクラウド型は便利です。
クラウド型は一般的に固定の月額費用で利用でき、自動的にベンダーが最新機能を備えたバージョンアップを行うことが多いです。このため、思わぬ追加費用の発生が起きにくいのも特徴です。
メリット
前述の通り、定額費用で最新バージョンを利用できるのが最大のメリットです。また、多くのクラウド型会計ソフトは、企業規模に合わせた複数のエディションを用意しており、個人事業主などの小規模事業者にも安価で利用できる価格帯が存在します。会社が成長し、より高度な機能の活用が必要になれば、上位エディションへ契約を移管するだけで、これまで使ってきた下位エディションのデータがそのまま使えるのも良いところです。
また、一般的にシンプルな機能構成になっていることが多いため、分かりやすく使いやすい画面構成になっています。このため、会計業務の初心者にとっても使いやすいシステムになっています。
デメリット
インターネット空間で利用する以上、セキュリティ対策は欠かせません。多くのクラウド型会計ソフトでは、インターネットVPNなどを用いることにより、実質的に社内のネットワーク空間からのアクセスに制限することなども可能ではありますが、これはクラウド型のメリットを喪失しているとも言えるため、安易なアクセス制限には注意が必要です。
従来は「いかにファイアウォールの中に侵入させないか」というセキュリティ対策が主流でしたが、クラウド活用が当たり前になった現在、内部と外部のネットワーク境界の監視を強化するセキュリティは通用しません。クラウド型の導入を契機に、対策の前提を見直すことも重要になります。
インストール型
インストール型は、古くから存在するタイプのソフトで、クラウド型よりもさらに安価なものが多いです。街の家電量販店などでも販売されています。PCのローカル環境にデータを保存するタイプで、インターネットも必要としません。
基本的には零細企業や個人事業主の利用を想定しているため、機能はシンプルですが、クラウド型以上に分かりやすく、会計知識があまりない人でも簡単に利用できます。たとえば、青色申告にチャレンジしたい人などにも優しいソフトです。
ただし、PCが壊れてしまったらデータが消失してしまうので、定期的なバックアップなども欠かせない点に注意が必要です。
メリット
なんといっても安価なことです。クラウド型は一般的にサブスクリプション契約での提供であるため、毎月定額費用がかかってきます。一方、インストール型は売り切りタイプが多く、一度購入すれば以降の費用は一切かからないことが多いです。
このため、資金繰りが厳しい会社創業期などに利用するにはうってつけです。安いものでは、数万円くらいからの利用もできるでしょう。
一方で、クラウド型のような自動バージョンアップの恩恵は受けることができませんが、最新バージョンのソフト購入費用も安価で、旧バージョンのデータを引き継いで利用できるため、総費用はもっとも低く抑えることができるでしょう。
デメリット
そもそも、インストール型の製品は少なくなってきています。多くのベンダーが、クラウド型への移行を推奨しています。
インストール型のデメリットは、PCにすべてのデータを保管するため、PCが故障したら大事なデータが消失してしまうことです。定期的にクラウドや外付けのストレージにバックアップを保管する必要がありますが、手間でもあり忘れやすいです。また、リアルタイムに保管などできるはずもなく、いざ故障した際には、一定期間のデータはバックアップに残っていないでしょう。
また、インボイス対応などのように法改正によって新たな機能が必要になった際は、基本的に最新バージョンを購入する必要があり、イレギュラーな出費が発生します。クラウド型の利用に比べ、急にまとまった出費が必要になる場合があることに注意が必要です。
オンプレミス型
オンプレミス型とは、自社のネットワーク内にサーバーを置き、回線を引いて構築するシステムのことです。クラウドが登場する前は、基本的に企業のシステムのほとんどは、オンプレミス型で構築されていました。また、オンプレミス型は専用線のネットワークを引くことで、自社の外にあるデータセンターにサーバーを置き、運用を委託する方式もあります。現在では、クラウド利用であっても、サーバーリソースだけの貸与を受け、実質的に社内でオンプレミス型のシステムを構築するのと変わらないスタイルで運用するIaaS型も存在します。
このように、現代のオンプレミス型は定義が曖昧になってきていますが、ここでは「自社の占有するサーバー空間において構築するシステム」をオンプレミス型と呼ぶことにします。
メリット
オンプレミス型のメリットは、自社固有の要件をシステムに反映させやすいことです。このため、特殊な業務が存在する場合、その要件をカスタマイズによって反映し、業務効率化を進めることが可能です。このカスタマイズ性が最大のメリットと言えるでしょう。
また、社内の他システムとの連携を構築するにあたっても、自社内のネットワーク同士となる場合は、管理が行いやすいです。このため、ある程度の規模以上の会計システムを構築するにあたっては、オンプレミス型で構築することが一般的でした。
また、インストール型との比較で考えると、クライアントPCには基本的にデータが保存されないため、PCの故障によるデータ消失や、紛失によるデータ流出が起きず、安心して利用することができます。
デメリット
オンプレミス型の会計ソフトは減少傾向にあります。理由は、オンプレミス型の会計ソフトベンダーは、SaaS対応を進めているからです。現在、多くの企業は自社でサーバーを持たなくなってきており、クラウド化の流れが会計ソフトにも訪れています。
また、SaaS型が広がっている理由は、オンプレミス型の特長であるカスタマイズ性が持つデメリットにもあります。カスタマイズした製品がバージョンアップするとき、カスタマイズ箇所がネックになります。いわば「改造車を車検に出す」ようなもので、ベンダーがバージョンアップを提供するとき、改造部分が正しく動くことは保証してくれません。このため、多大なコストをかけて開発のし直しをすることになります。このデメリットがあるため、カスタマイズを推奨しない流れが広がっています。
カスタマイズをしないのであれば、クラウドを採用せずわざわざオンプレミスを選ぶ理由が少なくなります。
会計ソフトでインボイス制度に伴う必要な機能は?
2023年10月に導入されたインボイス制度。ほとんどの企業に影響があり、会計業務における事務負担が増加しました。そのため、多くの会計ソフトでは、インボイス制度に対応する機能をリリースし、事務負担の軽減を目指しています。
ここでは、インボイス制度の適用に伴い、どのような機能が必要なのかをご紹介します。インボイス制度には経過措置が設定されてはいるものの、早期に対応を済ませることが取引先との関係維持にも役立つでしょう。
インボイス制度とは
インボイス制度は、インボイス(適格請求書)を用いて、売り手が買い手に対し、正確な適用税率や消費税額を伝える仕組みです。現在、消費税率には軽減税率があるため、1つの請求書の中に、複数の税率が適用されることがあります。複雑化した消費税額の算出においてミスや不正を防止することを目的に導入されました。
買い手がインボイスの発行を求めた時、売り手は原則インボイスを発行する必要があります。ただ、今は経過措置期間であるため、インボイス対応を行っていない事業者も多くあります。しかし、買い手はインボイスを受領できない時、仕入税額控除が受けられず、納税額が高くなります。制度未対応のままでは、取引先に不利益が生じ、取引継続に支障が出る可能性があります。
インボイス制度に伴う必要な機能
インボイス制度では、売り手がインボイスを発行する必要があります。まず、自社(あるいは個人事業主)が「適格請求書発行事業者」の登録を受け、請求書にはその登録番号を記載する必要があります。また、複数税率が含まれている場合、税率ごとに区分して対価となる請求額を記載し、それぞれの消費税額を記載する必要があります。
たとえば、8%の商品を1,000円、10%の商品を2,000円販売し、その請求書を発行する場合は以下の情報を記載する必要があります。
8%商品 | 10%商品 |
販売価格合計:1,000円 消費税:80円 |
販売価格合計:2,000円 消費税:200円 |
販売価格合計:3,000円 消費税:280円 |
インボイス(適格請求書)の作成・発行
インボイスの発行は、売り手が行います。売り手はインボイス制度に応じた請求書を作成・発行しなければなりません。また、適格請求書発行事業者に附番された登録番号を出力することも必要です。
加えて、電子データでインボイスを発行した場合、その帳簿の保存も電子データで保存する必要があります。詳細な要件は、電子帳簿保存法にて定められています。
また、システム対応のことを考えると、買い手としてインボイスを受領した際の仕組みも必要です。インボイスの内容を確認し、電子データで保存する機能も必要でしょう。
このため、インボイス対応の会計ソフトでは、インボイスの出し手として必要な作成・発行機能、出し手・受け手双方に必要な保管機能が提供されています。
適用税率ごとの明細仕分け
先述の通り、請求額の内訳に複数の税率が適用されている場合、インボイスでは税率ごとに請求額・消費税額を区分して明示する必要があります。このため、税率の区分ごとに集計し、請求書に出力する機能が必要になります。
また、インボイス制度には、適用への猶予期間が設定されています。このため、取引先の中には適格請求書発行事業者としての登録が完了していないところもあるでしょう。仕入税額控除について、2026年9月30日までは80%、2029年9月30日までは50%まで仕入税額控除の相当額として処理することができます。時限措置ではあるものの、複数の制度が並立する期間の運用は複雑です。この運用を円滑にする機能も重要です。
このことから、それぞれの明細について適用されている税率を明示し、それぞれを集計するなどの機能が必要になります。
会計ソフトのまとめ
この記事では、会計ソフトについて紹介してきました。会計ソフトは、大手企業のみならず、いまでは零細企業や個人事業主にとっても、欠かせないソフトとなっています。また、インボイス制度のスタートにより、その重要性はますます大きくなりました。
会計ソフトにも、クラウド型・インストール型・オンプレミス型などの形態があり、それぞれの特徴を踏まえて選定を行う必要があります。会計ソフトは古くからあるソフトのため、ベンダーの数も多く選定は悩むところです。選定のポイントは、自社の規模や運営体制とのバランスです。良い機能を豊富にそろえていることが必ずしも良いわけではなく、自社の現状に照らして、バランスが良いソフトを選ぶべきでしょう。
また、会計ソフトが扱う業務の周辺には、会計ソフトが対応していないさまざまな処理があります。これらを自動化し、会計ソフトと連携することで、さらに業務効率化を進めることもできるでしょう。その際には、開発を効率化し、完成物をベンダーロックインさせない仕組みも重要になります。Jiteraでは、会計ソフトの導入、周辺を含めた会計システム開発に関するご質問やご相談を受け付けておりますので、もしご興味があればぜひご相談ください。