Actix WebはRust製のWebアプリケーションフレームワークです。
高性能で使いやすいことが特徴ですが、初心者には難しく感じられる部分もあります。
この記事では、Actix Webの基本的な機能、メリット・デメリット、使用する際のポイントについて解説します。

現役のシステムエンジニアとして10年程度のキャリアがあります。 Webシステム開発を中心に、バックエンドからフロントエンドまで幅広く対応してきました。 最近はAIやノーコードツールも触っています。
Actix Webとは
Actix Webは、Rustプログラミング言語を用いた、高性能でスケーラブルなWebアプリケーションやAPIを構築するためのフレームワークです。Rustの安全性とパフォーマンスを活かしながら、効率的なWeb開発を実現できます。
Actix Webは、非同期IO (入出力)を使用しており、これにより、高いスループットと低いレイテンシを持つアプリケーションの構築が可能です。
また、Rustの非同期プログラミングは、async/await構文を用いて「実行権限の移譲」を容易にし、非同期処理をシンプルに扱えるようになっています。これにより、高パフォーマンスなサーバーサイドアプリケーションの構築が行えます。
さらに、Actix Webは、HTTP/2、ログ記録など多くの機能を提供し、拡張性が高い点も特徴です。
開発者は独自のライブラリを容易に作成でき、任意のActixアプリケーションで使用することが可能です。また非常に軽量かつ高速なため、すべての言語のフレームワーク内で非常に高い速度を誇ります。
Rustの高速性は、CやC++と遜色ないスピードを実現しており、GoやJavaよりも速いとされています。
これはメモリ管理における所有権、借用、ライフタイムという独特な概念を用いることにより、GC(ガーベージコレクション)を用いずにメモリの安全性を高めることに成功しているからです。
このような独自の仕組みにより、Rustはコンパイル時に安全性のチェックを自動で行い、安全性と速度のトレードオフを解消しています。
Actix Webが役立つ場面
Actix Webは、その高性能と柔軟性から、以下のような場面で役立ちます。
- 高性能が求められる場合
- システムリソースを効率的に使用したい場合
- 安全性が重要な場合
- マイクロサービスアーキテクチャの実装時
- リアルタイムWebアプリケーションの開発
以下では、Actix Webが特に役立つ場面について紹介します。
高性能が求められる場合
Actix Webは、アクターモデルと非同期I/Oを活用しており、これにより高トラフィックなWebサービスやリアルタイムアプリケーションで高いスループットを実現します。
このため、大規模なeコマースプラットフォームやソーシャルメディアサイトなど、多数のユーザーが同時にアクセスするWebアプリケーションの開発に適しています。
システムリソースを効率的に使用したい場合
Actix Webは高速なだけではなく、システムリソースを効率的に使用できるという特徴もあります。
メモリ使用量が少なくCPUの使用効率が高いため、リソースの制約が厳しい環境でも安定して動作します。
例えば、IoTデバイスや組み込みシステムなど、限られたリソースで動作するアプリケーションの開発や、サーバーコストを削減したい場合に役立ちます。
安全性が重要な場合
Actix Webは安全性が高いことでも知られています。このため、金融系アプリケーションやヘルスケアシステムなど、高度なセキュリティが要求される場面でも使える点が特徴です。
Rustは型安全性と所有権システムを活用しているため、メモリ関連の脆弱性を大幅に削減できます。また、JWT認証などのセキュリティ機能も容易に実装できるため、安全なAPIの構築に適しています。
マイクロサービスアーキテクチャの実装時
Actix Webは、非同期処理のサポートによりスケーラブルなマイクロサービスを構築することが可能です。
また、非同期処理のサポートにより、サービス間の効率的な通信も実現可能です。
独立してデプロイ可能な小さなサービスを構築する場合や、スケーラビリティと保守性を向上させたい場合などに活用できるでしょう。
リアルタイムWebアプリケーションの開発
Actix Webでは、WebSocketやServer-Sent Events(SSE)を利用することで、クライアントとの双方向通信やデータのリアルタイム配信が可能です。
このため、リアルタイムチャットアプリケーションやデータストリーミング、ゲームなどの開発に適しています。
高性能な非同期処理により、多数の同時接続を効率的に処理することが可能だと覚えておきましょう。
Actix Webの基本的な使い方
ここでは、Actix Webを使用して基本的なWebサーバーを実装する手順を説明します。
全体の流れは以下のとおりです。
- 新しいRustプロジェクトを作成する
- Cargo.tomlに依存関係を追加する
- src/main.rsを編集する
- サーバーを実行する
- ブラウザまたはcurlでアクセスしてテストを行う
各手順ではコード例を含めて説明していくので、ぜひ参考にしてみてください。
1. 新しいRustプロジェクトを作成する
まず、新しいRustプロジェクトを作成します。ターミナルで以下のコマンドを実行します。
cd actix_web_example
このコマンドで「actix_web_example」という新しいプロジェクトが作成され、そのディレクトリに移動します。
2. Cargo.tomlに依存関係を追加する
次に、Cargo.tomlファイルを開き、actix-webを依存関係として追加します。
actix-web = “4”
3. src/main.rsを編集する
src/main.rsファイルを開き、基本的なWebサーバーを実装します。
以下のコードを記述します。
use actix_web::{get, web, App, HttpResponse, HttpServer, Responder}; #[get("/")] async fn hello() -> impl Responder { HttpResponse::Ok().body("Hello, Actix Web!") } #[get("/greet/{name}")] async fn greet(name: web::Path<String>) -> impl Responder { HttpResponse::Ok().body(format!("Hello, {}!", name)) } #[actix_web::main] async fn main() -> std::io::Result<()> { HttpServer::new(|| { App::new() .service(hello) .service(greet) }) .bind(("127.0.0.1", 8080))? .run() .await }
このコードでは、以下の機能を実装しています。
- ルートパス(“/”)にアクセスすると”Hello, Actix Web!”を返すhello関数
- “/greet/{name}”パスにアクセスすると”Hello, {name}!”を返すgreet関数
- サーバーを8080ポートで起動するmain関数
4. サーバーを実行する
ターミナルで以下のコマンドを実行してサーバーを起動します。
これでサーバーが起動し、リクエストを受け付ける準備が整います。
5. ブラウザまたはcurlでアクセスしてテストを行う
サーバーが起動したら、ブラウザまたはcurlを使用してテストを行います。
ブラウザの場合のテスト方法は以下のとおりです。
- http://localhost:8080 にアクセスすると、”Hello, Actix Web!”が表示されます。
- http://localhost:8080/greet/Alice にアクセスすると、”Hello, Alice!”が表示されます。
curlの場合は以下のコマンドを実行します。
curl http://localhost:8080
# 出力: Hello, Actix Web!
curl http://localhost:8080/greet/Bob
# 出力: Hello, Bob!
以上の手順で、Actix Webを使用した基本的なWebサーバーを実装できました。
ルーティングやミドルウェアの追加、データベースとの連携などの機能を追加することで、より複雑なWebアプリケーションやAPIを開発できます。
他にもimplという機能を使って特定の型に関連する関数やメソッドを定義したり、マクロという機能を使って複雑なロジックを簡潔に表現したりする機能もあります。
implやマクロといった機能も活用することでactix_webによるWebフレームワークの開発がさらに便利になると覚えておきましょう。
Actix Webでホットリロードをする方法
Actix Web自体にはホットリロード機能が組み込まれていません。このためソースを変更しても自動リロードされません。
しかし、cargo-watchのような外部ツールを使うことで、コードの変更を自動的に検知し、アプリケーションを再起動させることができます。
これにより開発効率が大幅に向上しますが、大規模なプロジェクトでは再コンパイルに時間がかかる可能性がある点には注意が必要です。
以下では、Actix Webをホットリロードする方法について具体的なコード例を交えながら説明します。
1. cargo-watchをインストールする
まず、cargo-watchをインストールします。
ターミナルで以下のコマンドを実行します。
2. プロジェクトディレクトリに移動
Actix Webプロジェクトのディレクトリに移動します。
3. cargo-watchを使用してプロジェクトを実行する
cargo-watchを使用してプロジェクトを実行します。
以下のコマンドを実行することで、cargo-watchがファイルの変更を監視し、変更が検知されたらcargo runを実行します。
4. コードを編集する
任意のエディタでプロジェクトのコードを編集します。
例えば、src/main.rsファイルを開いて、”Hello, Actix Web”を”Hello, Actix Web with Hot Reload!”に変更します。
use actix_web::{get, App, HttpServer, Responder}; #[get("/")] async fn index() -> impl Responder { "Hello, Actix Web with Hot Reload!" } #[actix_web::main] async fn main() -> std::io::Result<()> { // ... (rest of the code) }
5. 変更を保存する
変更を保存すると、cargo-watchが自動的に変更を検知し、プロジェクトを再コンパイルして再起動します。これにより自動リロードが行われます。
ブラウザを更新して、変更が反映されていることが確認しましょう。
これで、Actix Webプロジェクトでホットリロードが設定されました。コードを変更するたびに、アプリケーションが自動的に再起動され、最新の変更が反映されます。
この方法を使用することで、開発効率が向上し、変更の結果をすぐに確認できるようになります。ただし、プロジェクトの規模が大きくなると、再コンパイルに時間がかかる場合があるので注意が必要です。
Actix Webを使うメリット
Actix Webの主なメリットは、Rustの安全性と並行性を生かした高速な処理能力です。
Actix Webを利用することで、少ないコード量で効率的にWebアプリケーションを開発することが可能になります。また広範囲にわたるドキュメントと例が提供されているため、開発者は、迅速に学習し、使い始めることが可能です。
ここでは、Actix Webのメリットについて、詳しくみていきます。
高性能で高速なWebアプリが開発できる
Actix Webは、型安全性、豊富な機能、拡張性の高さ、そして驚異的な速度が特徴です。
開発者は、強力なリクエストルーティング、非同期IOの利点を生かした同期コードの実装、簡単なフォーム処理といった、多岐にわたる機能を利用できます。
具体的には、HTTP/2、ログ記録などの多くの機能を箱から出してすぐに利用でき、自分のライブラリを簡単に作成してActixアプリケーションで使用可能です。
また、Actix Webを使用することで、以下のような高度なWebアプリケーションの要件を満たすことが可能になります。
- HTTP/1.xおよびHTTP/2のサポート
- ストリーミング
- パイプライン処理
- WebSocketsのサポート
- 内容の透過的な圧縮/解凍
- マルチパートストリーム
- 静的アセットの取り扱い
- SSLサポート(OpenSSLまたはRustlsを使用)
さらに、JSONやURLエンコードされたフォームデータの処理も簡単に行えます。
この柔軟性と高速性は、特に高負荷なWebアプリケーションを開発する際に、CPUやメモリの使用量を最小限に抑えながら、安定したレスポンスを提供する上で非常に重要です。
非同期処理に強い
Actix Webは、非同期処理に特化したフレームワークです。複数のリクエストを効率的に並行処理でき、リアルタイムなアプリケーションの開発に適しています。
特にWebSocketのサポートにより、リアルタイムでの通信が要求されるチャットアプリケーションや、ゲーム、通知システムなどの開発において大きなメリットを提供します。
さらにWebSocketにおいて、Actix Webは高いパフォーマンスとともに、簡単なAPIを提供しています。これにより、開発者はWebSocketを使用したリアルタイム通信の実装を簡単に行えます。
特に、ELB(ALB)のようなロードバランサーを利用した環境でもWebSocket接続を効率的に扱うことができ、リアルタイム性が要求されるアプリケーションのスケーラビリティと可用性を高めることが可能です。
Rustエコシステムをフルに活用可能
Actix Webの最大のメリットは、Rustエコシステムを最大限に活用できる点です。
Rustのパッケージレジストリであるcrates.ioには、多数のライブラリが公開されており、Actix Webはこれらのライブラリと組み合わせることで、強力な性能と柔軟性を実現します。
Actix Webを使うデメリット
Actix Webは高性能で強力なWebフレームワークですが、いくつかのデメリットも存在します。
以下ではActix Webのデメリットを紹介します。
学習コストが高い
Actix Webのデメリットの一つが、学習コストの高さです。
Rust言語自体が持つ独自の概念、特に「所有権(ownership)」「借用(borrowing)」「ライフタイム(lifetimes)」などの理解が必要になります。これらはRust特有の機能であるため、他の言語の経験者であっても新たに学習が必要です。
また、Rustは静的ディスパッチを用い、ガベージコレクション(GC)を持たない設計であり、メモリ管理をプログラマーが意識的に行う必要があります。これは、メモリ効率と実行速度の向上に寄与しますが、その分、学習のハードルを高めています。
Actix Web自体もRustの学習が前提となるため、開発者はRust言語の複雑性を理解し、適切に扱うスキルを身につける必要があります。
エラーハンドリングが面倒
Actix Webを使用する際、エラーハンドリングの面倒さは、デメリットのひとつです。特に複数のエラータイプを効率的に扱おうとすると、その複雑性は初心者にとって大きな障壁になり得ます。
例えば、Actix Webは非同期関数をサービスとして追加し、静的ファイルの取り扱いやテンプレートエンジンの利用をサポートしますが、これらの機能を活用する際に発生するエラーを適切にハンドリングする必要があります。
アプリケーションで使用するテンプレートエンジンやデータベース接続など、外部リソースの取り扱いにおいてエラーが発生することが多いと覚えておきましょう。
エコシステムがまだ発展途上
Actix WebはRust言語で開発された非常に高速なWebフレームワークであり、その性能と安全性は多くの開発者に評価されています。
しかし、そのエコシステムがまだ発展途上である点は、利用を検討している開発事業決裁者や管理職者にとって重要なデメリットとなり得ます。
Actix Webのエコシステムが発展途上という事実は、ライブラリやサポートコミュニティがまだ十分に充実していないことを意味します。
例えば、特定の機能を実装するために必要なライブラリが存在しない、または見つけにくい場合があり、これは開発の効率を低下させる可能性があるでしょう。
Actix Webを使用する際には、Rust言語の開発環境を設定し、新しいRustプロジェクトを作成してActix Webを依存関係に追加しなければいけません。
基本的なWebアプリケーションの作成プロセスはシンプルですが、Actix Webの高度な機能をフルに活用するためには、Rustの深い理解とともに、Actix Webの詳細なドキュメントやコミュニティのサポートを必要とします。
しかし、エコシステムが発展途上であるため、これらのリソースが限られている場合があり、開発者が特定の課題に直面したときに迅速な解決策を見つけるのが難しくなることがある点は認識が必要です。
まとめ:Actix Webで効率よく開発しましょう
Actix WebはRust言語をベースにした、高速で強力なWeb開発フレームワークです。
これは、高い並行性と安全性を必要とする現代のWebアプリケーション開発において、開発事業決裁者や管理職者にとって魅力的な選択肢となります。
Actix Webを採用する主なメリットは、その驚異的なパフォーマンス、システムリソースの効率的な利用、そしてRustの型安全性によるセキュリティの向上です。
しかし、Rust言語の学習曲線や、まだ発展途上であるエコシステムの成熟度がデメリットとして挙げられることもあります。
そのため、Actix Webを採用する際の人材育成や開発チームの構築は、適切な知識とスキルを持った開発者を確保することが重要です。
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