近年、ITを始めとしたテクノロジーの進化は目覚ましいものがあり、経営の根本となるビジネス戦略にさえも影響を及ぼすようになりました。従って、企業の経営者や各部署のトップは自社の財務体質や同業他社のビジネス戦略だけでなく、テクノロジーの動向についても目を光らせなければならなくなりました。
本記事ではそんな進境著しいテクノロジーをビジネス戦略に上手く活用した事例の1つ、具体的に言うとオムニチャネルとはどのようなものかを解説します。
20年超のシステム開発経験を活かし、AI・機械学習のエバンジェリストとして活動中。新技術の追求と、日本のAI活用を世界一に導くことに情熱を注ぐ。開発の全工程に精通し、知識と行動力で未来を切り拓く。
オムニチャネル対応とは?

そもそもオムニチャネルとは、実店舗だけでなくスマホアプリやWebサイトなども企業とユーザーの接点として使用・連携させ、一貫した顧客エクスペリエンスをユーザーに提供してアプローチすることを言います。
この章ではオムニチャネルの更なる詳しい定義やどのような要素を使用するか、と言ったことを解説していきます。
これらの事柄を知ることで、まずそもそも自社のビジネスをオムニチャネル対応する必要があるか否かを知ることができます。
【特徴とポイント】
- 顧客接点の一元化
全てのチャネルで一貫した体験を提供することで、顧客は自分の好きな方法で商品を探し、比較し、購入することができます。
例えば、スマートフォンで商品を検索し、実店舗で実物を確認した後、オンラインで購入するといった柔軟な購買行動が可能です。 - 情報連携の重要性
在庫、決済、販促情報などを統合的に管理することで、リアルタイムな在庫確認や、チャネルを横断した一貫性のあるプロモーションが実現できます。
これにより、顧客に対して常に正確な情報提供が可能となります。 - 柔軟な購入オプション
オンラインで注文して店舗で受け取る、店舗で在庫を確認してオンラインで購入するなど、顧客のニーズに応じた多様な購入方法を提供できます。
【実現のための要件】
- システム連携
・在庫管理システム:全チャネルでのリアルタイムな在庫把握
・決済システム:統一された安全な決済処理
・顧客管理システム:購買履歴や顧客情報の一元管理
・API連携:他社システムとの円滑な情報連携 - 企業間協力
・物流会社との連携:配送状況の共有と効率的な配送管理
・決済代行業者との提携:多様な決済手段の提供
・システムベンダーとの協力:技術的な課題解決とシステム開発
実現に向けては、自社の状況や規模に応じた段階的な導入が推奨されます。まずは現状の課題を明確にし、優先順位の高い領域から着手することで、効果的なオムニチャネル戦略の構築が可能となります。
オンラインチャネル
デジタル時代における顧客接点として、オンラインチャネルは不可欠な存在となっています。主な要素として、ECサイト、スマートフォンアプリ、SNS、メールマガジンなどが挙げられます。
特筆すべきは、24時間365日の購買機会の提供と、詳細な顧客行動データの収集が可能な点です。
また、AIやチャットボットを活用したパーソナライズされた商品レコメンドや、リアルタイムでのカスタマーサポートも実現可能です。さらに、スマートフォンの位置情報と連動した近隣店舗の在庫確認など、オフラインチャネルとの連携も容易です。
オフラインチャネル
実店舗を中心としたオフラインチャネルは、デジタル化が進む現代でも重要な顧客接点です。店舗ならではの強みは、商品を実際に手に取って確認できる体験価値と、従業員による対面でのきめ細かいサービス提供にあります。
近年では、デジタルサイネージやタブレット端末を活用した店頭での商品情報提供、スマートフォンアプリと連動したポイントサービス、デジタル決済対応など、テクノロジーを活用した顧客体験の向上が図られています。
また、実店舗での接客データをデジタル化し、オンラインチャネルとの情報連携を行うことで、よりパーソナライズされたサービス提供が可能となっています。
オムニチャネルと似ているチャネル

デジタル技術の進化に伴い、消費者の購買行動も大きく変化しています。スマートフォンで商品を探し、実店舗で確認し、オンラインで購入するなど、購買プロセスは複雑化しています。
このような変化に対応するため、企業の販売チャネル戦略も進化を遂げてきました。
マルチチャネルからクロスチャネル、そしてオムニチャネルへと、より統合的で顧客中心の戦略へと発展しています。
ここではマルチチャネルとクロスチャネルの特徴と違いを詳しく解説し、企業が目指すべき方向性を考察します。
| マルチチャネル | クロスチャネル | |
| 特徴 | 複数チャネルの個別展開 | 一部チャネルの統合的展開 |
| 情報連携 | なし(個別管理) | 部分的 |
| 在庫管理 | チャネルごとに個別 | 一部共有 |
| 顧客データ | 個別管理 | 部分的に共有 |
| 購買体験 | チャネルごとに異なる | 部分的に統一 |
| 運営方針 | 独立運営 | 一部連携 |
| 導入難易度 | 低 | 中 |
マルチチャネル
マルチチャネルは、企業が複数の販売チャネルを並行して展開する戦略です。
各チャネルは独立して運営されることが特徴で、在庫管理や顧客データもチャネルごとに個別管理されるケースが一般的です。
このため、チャネル間での情報連携は限定的であり、例えばECサイトで確認した商品の在庫状況が、実店舗の在庫状況と連動していないといったことが起こります。
顧客にとっては選択肢が増える一方で、チャネルごとに異なる価格設定や、ポイントプログラムの非連携といった不便さが生じる可能性があります。
クロスチャネル
クロスチャネルは、マルチチャネルを進化させた販売戦略で、複数のチャネル間で部分的な連携を実現したものです。
顧客データや在庫情報は、一部のチャネル間で共有され始めており、限定的ながらチャネルを横断した購買体験を提供できます。
ただし、全チャネルでの完全な情報連携やシームレスな顧客体験の提供には至っておらず、部分的な連携に留まるのが特徴です。
オムニチャネル対応のメリット

オムニチャネル対応は、企業にとって大きな投資と労力を必要とする取り組みですが、その効果は顧客体験と企業価値の両面で非常に大きなものとなります。
特に、顧客満足度の向上、データ分析による顧客理解の深化、そしてサービスの利便性向上という3つの側面で、具体的な成果が期待できます。本記事では、これらのメリットについて、実例を交えながら詳しく解説していきます。
顧客満足度が上がる
オムニチャネル対応により、顧客は自分の好みや状況に応じて最適な購買方法を選択できるようになります。
また、全てのチャネルで一貫した商品情報や価格が提供されることで、顧客の不信感や混乱を防ぐことができます。
さらに、過去の購買履歴や閲覧履歴に基づいたパーソナライズされたレコメンドにより、顧客は自分に最適な商品との出会いを得やすくなります。
このような一貫した顧客体験の提供は、ブランドへの信頼度を高め、長期的な顧客ロイヤリティの向上にもつながります。
顧客分析ができる
オムニチャネルでは、オンラインとオフラインの全ての顧客接点でのデータが統合して収集されます。これにより、顧客の行動パターンを総合的に分析することが可能になります。
このデータを活用することで、商品開発やマーケティング施策の精度を高め、より効果的な事業戦略を立案することができます。
また、顧客の購買行動の予測モデルを構築することで、需要予測の精度向上や、個々の顧客に最適なタイミングでの販促アプローチも実現できます。
こうしたデータドリブンな意思決定は、経営効率の向上にも大きく貢献します。
顧客にとってのサービスの利便性が上がる
オムニチャネル対応により、顧客は時間や場所の制約を受けることなく、シームレスなショッピング体験を享受できます。
また、ポイントやクーポンもチャネル横断で利用可能となり、顧客の利便性が大きく向上します。さらに、チャットボットやAIを活用したカスタマーサポートにより、24時間365日の問い合わせ対応も実現可能となります。
加えて、スマートフォンアプリと実店舗の連携により、店舗内での商品検索や在庫確認、電子レシートの発行など、従来の購買体験を大きく向上させるサービスも提供できるようになります。
オムニチャネル対応のデメリット

オムニチャネル対応は、現代のビジネスにおいて避けては通れない重要な戦略です。しかし、その導入には慎重な検討と十分な準備が必要です。
特に、システム実装の複雑さ、大規模な初期投資の必要性、そして効果実現までの時間的課題という3つの重要な障壁が存在します。
本記事では、これらの課題について詳しく解説し、企業がオムニチャネル戦略を検討する際に考慮すべきポイントを明らかにしていきます。
実装が複雑
オムニチャネル対応の実装には、既存システムの大規模な改修や新規システムの導入が必要となります。
特に、在庫管理システム、顧客管理システム、決済システムなど、複数のシステムを統合的に連携させる必要があり、その調整には高度な技術力が要求されます。
また、実店舗のPOSシステムやECサイト、モバイルアプリなど、異なるプラットフォーム間でのデータ連携も必要です。さらに、セキュリティ対策や個人情報保護への配慮も欠かせません。
システムの複雑化に伴い、運用面での負担も増加し、社員教育や業務プロセスの見直しなど、組織全体での取り組みが必要となります。
初期コストがかかる
オムニチャネル対応の導入には、多額の初期投資が必要となります。システム開発や導入にかかる直接的なコストに加え、既存システムの改修、ハードウェアの更新、セキュリティ対策など、様々な関連コストが発生します。
また、社員教育のための研修費用、マニュアル作成、テスト運用期間中の人件費なども必要です。さらに、物流システムの整備や在庫管理の効率化のための設備投資も求められます。
これらの投資は、特に中小企業にとって大きな負担となり得ます。また、導入後の運用コストや保守費用なども考慮する必要があり、長期的な収支計画の策定が重要となります。
効果が出るまで時間がかかる
オムニチャネル対応の効果が本格的に表れるまでには、相当な時間を要します。
システムの完全な稼働までには、段階的な導入期間が必要であり、その間の試行錯誤や調整は避けられません。また、従業員が新しいシステムに習熟し、効率的な運用が可能になるまでにも時間がかかります。
顧客側も新しいサービスに慣れるまでに時間を要し、利用率が期待通りに上がらない可能性もあります。さらに、データ分析による効果測定や改善策の実施にも時間を要するため、投資対効果の検証には長期的な視点が必要です。
オムニチャネル導入からマーケティングを始めるまでの流れ

オムニチャネルの導入は、単なるシステム統合や技術導入以上の取り組みが必要です。
効果的なオムニチャネルマーケティングを実現するためには、明確な戦略策定から始まり、理想的な顧客体験の設計、システム統合の実施、そして継続的な改善まで、段階的なアプローチが重要となります。
本記事では、成功するオムニチャネルマーケティングのための4つの重要なステップについて、実践的なポイントを交えながら解説していきます。
戦略を策定する
オムニチャネル戦略の策定では、まず自社の現状分析から始める必要があります。
既存の販売チャネルの強みと弱み、顧客層の特徴、競合他社の動向などを詳細に分析します。その上で、明確な目標設定を行い、具体的なKPIを定めます。
これらの分析結果に基づいて、段階的な導入計画を立案し、優先順位付けを行うことで、効率的な展開が可能となります。
顧客体験を明確にする
理想的な顧客体験を設計する際は、顧客のジャーニーマップを作成し、各接点での期待される体験を具体化します。
また、ペルソナ設定を行い、異なる顧客層ごとの期待値や行動パターンを考慮した体験設計も重要です。さらに、カスタマーサポートの提供方法や、ポイントプログラムの設計など、付随するサービスについても検討が必要です。
システムを統合する
システム統合では、在庫管理、顧客データ、決済情報など、各種データベースの連携が核となります。
まず、既存システムの棚卸しを行い、必要な改修範囲を特定します。その後、APIの設計や、データ形式の標準化、セキュリティ対策の実装などを進めます。
統合に際しては、段階的なアプローチを採用し、重要度の高い機能から順次実装していくことが推奨されます。また、システム障害時のバックアップ体制や、データの整合性確保の仕組みも必要です。
さらに、従業員教育や運用マニュアルの整備など、人的な側面での準備も重要です。
効果検証し改善する
効果検証では、設定したKPIに基づいて定期的な測定と分析を行います。チャネル間の送客数、統合後の売上変化、顧客満足度調査の結果など、多角的な視点からデータを収集します。
特に重要なのは、オンラインとオフラインのデータを統合した分析で、顧客の全体的な行動パターンを把握することです。分析結果に基づいて、必要な改善策を立案し、優先順位を付けて実施します。
また、新技術の導入や顧客ニーズの変化にも柔軟に対応できるよう、継続的な見直しと更新のサイクルを確立することが重要です。
改善プロセスには現場の声も積極的に取り入れ、実務レベルでの課題解決も図ります。
オムニチャネルの成功事例5選

オムニチャネル対応により、顧客がオンラインとオフラインのどちらからでも、シームレスに商品を購入・利用できるようになります。各チャネルが統合され、顧客との接点が最適化されるため、利便性や満足度が向上します。
日本でもイオン、良品計画、ユニクロ、セブン&アイホールディングス、ニトリといった企業が、オムニチャネルを活用して顧客体験を改善し、成果を上げています。具体的な成功事例を見ていきましょう。
イオン

イオンは、全国規模の流通ネットワークとデジタル技術を活用し、オムニチャネル戦略を強化しています。
また、イオンは食品宅配サービス「イオンネットスーパー」を全国展開し、消費者が自宅で簡単に商品を注文し、最寄り店舗から直接配達を受けられるようにしています。
このサービスは特に高齢者や子育て世代に好評で、イオンの店舗とオンラインの接点を一体化させる取り組みとして成功を収めています。
イオンのオムニチャネル戦略は、地域社会とのつながりを重視しながら、顧客の生活に密着した利便性を提供することで、顧客満足度を向上させています。
良品計画

無印良品を展開する良品計画は、オンラインとオフラインを融合したオムニチャネル戦略で注目されています。
また、オンラインでのレビューや口コミを通じて、顧客が商品選びに役立つ情報を得られる仕組みを整え、購入体験の充実を図っています。
さらに、無印良品の一部店舗では、実際に商品を見て触れることで購入を検討しやすくする「体験型店舗」を設け、オンラインとオフライン双方の強みを融合させています。これにより、商品購入の前後で顧客との接点を強化し、顧客がどこにいても一貫した体験が提供されています。
ユニクロ

ユニクロは、アパレル業界においてオムニチャネルの先駆者的存在であり、オンラインとオフラインの垣根を越えたサービスを提供しています。
ユニクロ公式アプリを使うと、商品を試着予約し、店舗で直接試着することができます。また、オンラインで購入した商品の店舗受け取りサービスを提供しており、忙しい顧客が自分の都合に合わせて商品を受け取れる利便性を高めています。
さらに、ユニクロは「ユニクロマルシェ」という店舗内イベントやオンラインでの限定商品を展開することで、顧客にとって魅力的なショッピング体験を提供し、リピート購入を促しています。
ユニクロのオムニチャネル戦略は、アプリと店舗の連携により、顧客がスムーズかつ効率的に商品を選べる仕組みを提供することで、ブランドロイヤルティを高めています。
セブン&アイホールディングス

セブン&アイホールディングスは、コンビニエンスストアとオンラインサービスを統合し、利便性の高いオムニチャネル体験を実現しています。
特に「セブンネットショッピング」や「オムニ7」などのオンラインプラットフォームを活用して、顧客はセブン-イレブン店舗での商品受け取りや支払いが可能です。
また、アプリや電子マネー「nanaco」との連携により、スムーズな決済やポイントの活用が実現され、オンラインと店舗で一貫した購買体験が提供されています。
さらに、店舗にはセルフレジやデジタルサイネージなどの最新技術を導入し、顧客が短時間で必要な商品を手に入れることができるような環境を整えています。
セブン&アイのオムニチャネル戦略は、全国に広がるネットワークとデジタル技術を駆使し、日常の買い物をより快適で便利なものにしています。
ニトリ

ニトリは、家具・インテリア業界でオムニチャネル戦略を推進しており、顧客がより快適に商品を選べるように工夫しています。
さらに、オンライン限定商品やレビューの充実により、店舗では取り扱わない商品にもアクセスでき、選択肢が広がっています。
店舗内では、実物の家具を体験できるスペースやスタッフによるコーディネート提案が行われ、顧客が理想のインテリアを実現しやすくするサポートが提供されています。
ニトリのオムニチャネル戦略は、オンラインとオフラインの連携を通じて顧客体験を向上させ、ブランドの強みである「住まいを豊かにする」価値を強調しています。
オムニチャネル対応のまとめ

オムニチャネルを導入すると、顧客に統一された購買体験を提供でき、利便性と満足度の向上が期待できます。
オンラインとオフラインの接点をシームレスに結びつけることで、効果的なマーケティング戦略が可能になり、顧客ロイヤルティの向上にもつながります。
顧客がいつ、どこからでも商品やサービスにアクセスできる環境を整えることで、企業は競争力を高められ、長期的な成長を実現できるでしょう。
この記事を読んで是非オムニチャネル対応を進めたいと思ったものの、どのようなステップを踏めば良いかよくわからないという人も少なくないと思われます。もしそのような人がいた場合、株式会社Jiteraに相談してみることをお勧めします。
株式会社Jiteraは、新規事業やDX系統のプロジェクトの推進に豊富な経験を持っているうえにITに対しての知見も豊富であるため、テクノロジーと経営を上手く融合させて自社のビジネスを進化させる、オムニチャネル戦略に関する相談にはぴったりです。

