顧客に新たな価値を生み出す「デジタルエコシステム」。
従来のビジネスモデルとは異なり、異なる業種・強みを持つ企業が連携することで実現できると言われますが、実際どんな意味を持つのかや事例などを知らないという人もいるのではないでしょうか。
この記事ではデジタルエコシステムについて基礎から解説。ざっくりと知りたい方も、実際に取り組みたい方もぜひ参考にしてください。

小中規模プロジェクトを中心にSEやコンサルとして活動。クラウド導入やスタートアップ、新規事業開拓の支援も経験しました。
デジタルエコシステムとは
デジタルエコシステムとは、インターネットやコンピューター技術を使って、いろいろな人や企業、サービスがつながり合っている環境のことです。
例えば以下のようなことが挙げられます。
- アプリ、ゲーム、SNSなどが集まる「スマートフォン」
- 売り手、買い手、配送会社などがつながる「オンラインショッピング」
- 制作者、視聴者、広告主が関わる「動画配信サービス」
これらが互いに影響し合い、新しいサービスや製品が生まれたり、便利な機能が追加されたりします。
自然界の生態系(エコシステム)では、動物や植物がお互いに関係し合って生きているように、デジタルの世界でも様々な要素が関係し合って発展しています。
このつながりによって、新しいアイデアが生まれやすくなったり、問題解決が速くなったりするのです。
デジタルエコシステムの種類
デジタルエコシステムには、取り扱うサービスによって使用されるエコシステムに違いがあります。
自社に適したデジタルエコシステムの種類を選ぶことで、他者との協業による成果を最大限発揮することが期待できます。
それぞれのエコシステムについて紹介します。
情報共有型エコシステム
1つ目は、情報共有型のエコシステムです。情報共有エコシステムとは、異なる業種間でデータの共有を行い、共有されたデータを利用して新たなサービスや商品を生み出すエコシステムです。
情報共有型エコシステムは、デジタルエコシステムの中でも、特に情報の取り扱いに注意が必要なエコシステムです。企業の機密情報や製造方法など、重要な情報を共有することになります。
したがって、他の企業と情報共有型のデジタルエコシステムを行う場合、適切なプライバシー対策とセキュリティ対策を行う必要があります。
技術共有型エコシステム
2つ目は、技術共有型エコシステムです。技術共有型エコシステムとは、異なる企業や組織が技術情報や製品の仕様などを共有することで技術のイノベーションや進歩を促進するエコシステムです。
オープンソフトウェアの開発などが当てはまり、異なる技術がスムーズに連携できます。技術共有型エコシステムでは、プログラミングやWEBサービスをつなぐAPI(Application Programming Interface)を通じて既存の技術を利用して新たなサービスを開発することができます。
特許共有型エコシステム
3つ目は、特許共有型エコシステムです。特許共有型エコシステムは、各組織が使用を許可された特許を共有することで特許を得た技術の利用を容易にし、特許の活用を効果的に行うエコシステムです。
特許を共有するデジタルエコシステムでは、複数の企業が特定の技術領域における特許を共有する「特許権プール」という仕組みを利用します。
「特許権プール」を利用することで、特許を利用した製品が複数の企業から市場に供給され、急速に普及し、市場拡大の効果が期待できます。
一方で、特許権の使用料によって発生する収入が減少する可能性があります。
そのため、どこまで特許権プールに提供し、どこまで自社で独占するかについて慎重に決断することが大切です。
通貨共有型エコシステム
4つ目は、通貨共有型エコシステムです。通貨共有型エコシステムとは、同じエコシステムに参画した企業の間で共通の通貨を使用し、相互に連携することで経済的な価値を提供するエコシステムです。
通貨を共有するデジタルエコシステムでは、通貨を基盤とした「トークンエコノミー」が形成されることがあります。
トークンエコノミーとは、独自通貨を軸とした経済圏のことであり、特定のサービス内で取引や報酬に機能します。
具体的には、あるサービスで商品を購入するとポイントが付与される仕組みなどを指します。
通貨を共有することで、閉鎖的な経済圏を形成することが可能になり、積極的に参加してもらうことで、ポイント商品券などのトークンを付加価値として顧客に提供することができます。
企業におけるデジタルエコシステムのメリット
デジタルエコシステムを取り入れることにより、企業にもたらされるメリットについて紹介します。
企業の新しいアイデアや技術の開発を促進
デジタルエコシステムは、企業の新しいアイデアや技術の開発を加速させます。
デジタルエコシステムでは、他社や顧客と簡単に交流できるようにします。すると、多様な視点や専門知識を取り入れやすくなり「これとこれを組み合わせたら面白いものができそう」と新しいアイデアが生まれます。
これにより、製品やサービスの改善が速くなり、企業の成長につながります。
パートナーシップと顧客体験の向上
他企業や顧客とのデジタルな繋がりにより、協力関係が強化されます。例えば、APIを通じたサービス連携や、顧客からの直接的なフィードバックの収集などです。
「こうしたらもっと良くなるよ」というアドバイスを直接もらえることで、より良い製品やサービスを作り上げることができます。
これは顧客ニーズにより適した製品やサービスを提供することにつながり、顧客満足度が向上します。
市場の拡大
デジタル技術を活用することで、地理的な制約を超えて新しい市場にアクセスできます。
オンラインプラットフォームを通じて、世界中の顧客にリーチすることが可能になり、ビジネスの規模を拡大する機会が増えます。
デジタルエコシステムの進め方
デジタルエコシステムの構築方法、管理方法について詳しくご紹介いたします。
進め方1. 計画する
デジタルエコシステムを構築するために計画を行います。まず、計画を行うにあたって自社のポジションを把握する必要があります。市場の環境から以下のことを分析することが大切です。
- 現在どのようなサービスがあるのか
- 自社がどのようなニーズに応えることができるのか
- 自社の核となるサービスの周辺を固めている存在は何か
以上のことを、分析することが必要です。このステップを踏むことで、自社に必要なエコシステムを適切に判断することが期待できます。
進め方2. テクノロジーとプラットフォームを選ぶ
自社のポジションが把握できたら、次にどのようなエコシステムが適しているかを検討します。
自社が提供しているサービスとすでに提供されている周辺領域のサービスを比較し、自社へのシナジー効果が高いエコシステムを検討することが重要です。
他社と協業する場合、自社はどのようなテクノロジー、情報を提供できるかを考えるとよいでしょう。
また、協業する場合、ある程度の資産が必要になることがあるため、その投資に対してどれほどの効果が得られるかを考える必要があります。
進め方3. 定期的に評価する
デジタルエコシステムを構築し、サービスを提供してから、サービスのパフォーマンスを監視し、定期的に評価を行うことが大切です。ユーザーの満足度、新たなニーズが生まれていないか確認することで、改良することができます。
また、問題が発生した場合は、迅速な対応と改善を行うことが求められます。
そのため、データをモニタリングするためのツールを導入することで、効率的な監視、また、早急な問題点の発見をすることが期待できます。
進め方4. 新たに協業できる企業や共創できる機会を検討する
市場には常に新たなサービスが生まれ、それに伴い顧客にも新たなニーズが生まれます。
デジタルエコシステムの協業が進むにつれて、サービスの品質向上とともに、デジタルエコシステムを協業する企業とともに新たに共創することが大切です。
そのために、自社の領域外の企業と協業を視野に入れながらビジョンを考えることが重要になります。
企業におけるデジタルエコシステムの成功事例
それでは、デジタルエコシステムを企業ではどのように活用するとよいのでしょうか。ここからは、企業におけるデジタルエコシステムの成功事例を交えてご紹介いたします。
Apple
Apple社は、デジタルエコシステムを多く導入していることで知られています。
iPhoneやMacなどのApple製品は、チップやカメラなど多くの部品を用いて作られており、部品によってさまざまな企業が携わって作成されます。
また、AppleStoreでは、Apple社以外の企業によって作られたアプリケーションが多く提供されています。
他社のアプリケーションをApple社の製品で統一して提供することで、ユーザーの幅広いニーズに応えることが可能になっています。
Amazon
Amazon社では、端末やネットワークなど各分野でエコシステムが形成されています。ECやクラウドサービスなどを提供しており、企業を呼び込むような戦略でデジタルエコシステムを構築してます。
特に「Amazon Echo」と呼ばれるAmazon社のAIスピーカーは音声だけでリモート操作することができます。
「Amazon Echo」はIoT関連の企業が多く携わっており、小型スピーカーやカメラが搭載されているスピーカーなど幅広い商品開発が行われています。
Alibaba
Alibabaのデジタルエコシステムは、eコマースを中心に多様なサービスの統合を実現しました。
Taobao、Tmallなどの取引プラットフォームを核に、Alipayによる決済システム、Alibaba Cloudのクラウドサービス、Cainiao Networkの物流ネットワークが連携しています。
さらに、Youkuの動画配信やWeiboのソーシャルメディアも加わり、包括的な生活サービスを提供。
これらのサービス間でデータを共有し、相互に連携することで、ユーザー体験を向上させ、企業の事業展開を支援しています。Alibabaのエコシステムは、中国のデジタル経済において重要な役割を果たし、継続的な成長と革新を推進しています。
デジタルエコシステムを進める上での注意点
メリットの多いデジタルエコシステムですが、実際に取り組むには注意があります。ここでは、注意したいポイントを紹介します。
これらの課題に適切に対応することで、デジタルエコシステムの持続可能な発展と、そのメリットの最大化が可能になります。
セキュリティとプライバシーの問題に注意する
デジタルエコシステムでは、大量の個人情報や企業データが共有・処理されます。これにより、サイバー攻撃や情報漏洩のリスクが高まります。
企業は強固なセキュリティ対策を実施し、データの暗号化やアクセス制御を徹底する必要があります。同時に、ユーザーに対して透明性を確保し、データの収集・利用に関する明確な同意を得ることが重要です。
システム依存性と脆弱性に注意する
デジタルエコシステムでは、複数のサービスや企業が密接に連携しています。この相互依存性は、一部のシステムに障害が発生した場合、エコシステム全体に影響を及ぼす可能性があります。
これらの問題に対処するため、企業はバックアップシステムの構築やリスク分散戦略の採用が必要です。
健全な競争環境を維持する必要がある
デジタルエコシステムでは、ネットワーク効果により大手企業がますます強大化する傾向があります。これは市場の独占や寡占状態を招き、新規参入者や小規模企業の成長を妨げる可能性があります。
健全な競争環境を維持するためには、適切な規制や監視が必要です。また、オープンな標準やAPIの採用を促進し、新規参入者にも機会を提供することが重要です。
デジタルデバイドを拡大する可能性がある
デジタルエコシステムの発展は、技術へのアクセスや利用能力の格差を拡大させる可能性があります。
この問題に対処するためには、インフラ整備や教育支援などの取り組みが必要です。企業や政府は、包括的なデジタル戦略を策定し、誰もが平等にデジタルエコシステムの恩恵を受けられるよう努めるべきです。
まとめ:デジタルエコシステムでイノベーションを促進
デジタルエコシステムは、技術とデータの融合によりイノベーションを加速させています。
クラウドサービスやAPIを通じて、組織間の連携が容易になり、新たなアイデアの迅速な検証が可能になりました。ビッグデータ分析は、市場洞察を深め、的確な意思決定を支援します。
また、地理的制約を超えたグローバルな協力が、多様な視点の融合を促進しています。
一方で、データセキュリティやデジタルデバイドなどの課題も存在します。これらに適切に対処しつつ、デジタルエコシステムの潜在力を活用することが、持続可能なイノベーション創出の鍵となるでしょう。
デジタルエコシステムに参画する際に自社の強み、どんなサービスを提供できるかについて悩んだときは、ぜひJiteraにご相談ください。