製品開発において、「プロダクトオーナー」は製品の方向性を決定づける重要な役割を担います。
しかし、その具体的な仕事内容やスキルについて、よくわからないという方は少なくないのではないでしょうか。
この記事を読めば、プロダクトオーナーの役割や責任、必要なスキルなどが具体的に分かります。
プロダクトオーナーと他の役職の違いやプロダクトオーナーの将来性についても詳しく解説しているので、業務理解を深めたい方は、ご参照ください。
最後まで読めば、製品開発におけるプロダクトオーナーの重要性と、その役割の奥深さを実感できるようになります。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
プロダクトオーナーとは?
プロダクトオーナーとは、製品の方向性を決定づける重要な役割を担う人材です。
製品開発プロセスにおいて、ユーザーが本当に求めていることは何かを見極め、製品の目標や機能を定義する役割を果たします。
製品開発チームの方向性を、ビジネスとユーザー目線から、バランスが取れたものへと導くコミュニケーションの中心となる人材です。
具体的には、以下のような業務を担当します。
- ビジョンの策定
- 要件定義
- 優先順位付け
- 製品ロードマップ作成
- 開発プロセスの進捗管理
スクラム開発では、製品バックログの管理とスプリント計画・レビューを行うなど、アジャイル開発に不可欠な役割となっています。
製品の成功に向けて、開発チームと密にコミュニケーションを取りながら、顧客視点を開発に反映させることがプロダクトオーナーの主要な仕事です。
スクラムマスターやプロダクトマネージャーとの違い
プロダクトオーナーとスクラムマスター/プロダクトマネージャーの違いをまとめると以下の通りです。
役職 | 主な仕事 |
プロダクトオーナー | ・製品の機能を決定する ・開発の優先順位を定める ・顧客視点で何を作るかを決める |
スクラムマスター | ・開発チームの問題解決を支援する ・スクラムプロセスが守られるよう管理する ・開発プロセスにフォーカスしどのように作るかを決める |
プロダクトマネージャー | ・製品ライン全体の戦略を立てる ・複数製品のバランスと戦略的方向性を確認する |
この表から分かるように、プロダクトオーナーは個別製品の方向性を顧客視点で決定する役割を担っています。
一方、スクラムマスターは開発プロセスに注目し、プロダクトマネージャーは製品ライン全体の戦略に着目しています。
製品開発の成功のためには、これらの役割がそれぞれ連携することが重要です。
プロダクトオーナーは「何を作るか」を決め、スクラムマスターは「どのように作るか」をマネジメントし、プロダクトマネージャーは複数製品のバランスと戦略的方向性を考えます。
それぞれの視点と専門性を活かし、密なコミュニケーションと協力関係を築くことが求められます。
プロダクトオーナーの役割・責任
プロダクトオーナーは、製品開発におけるキーパーソンであり、以下のような役割があります。
- プロダクトビジョンを定義する
- 顧客ニーズを理解し製品要件を定義する
- 製品ロードマップを作成する
- プロダクトのガイドラインの遵守を確認する
順番に見ていきましょう。
プロダクトビジョンを定義する
製品開発において、まず大切なのは「この製品で実現したいことは何か」というビジョンを明確に定義することです。
例えば、SNSアプリを開発する場合、「SNS機能を持ったアプリを作る」という漠然としたビジョンでは、開発の方向性が定まらず混乱を招きます。
プロダクトオーナーは「写真共有が容易で、リアルタイムのコミュニケーションが楽しめる新感覚のSNSアプリを作る」など、具体的なビジョンを示しましょう。
ビジョン策定では、開発チームはもちろんのこと、取締役会や投資家など全てのステークホルダーと同じ方向を向くことが重要です。
同時に、会社の全従業員にビジョンを広める役割もあります。
顧客ニーズを理解し製品要件を定義する
プロダクトオーナーは、顧客が本当に求めていることを常に探求し、製品要件として明確化します。
例えば、スマホアプリの場合、UIの洗練さだけでなく、操作性や処理速度など、顧客にとってのメリットを要件に落とし込みます。
顧客ニーズの把握には、インタビューやアンケート、SNSの意見分析など、多面的な手法が必要です。
ただし、単に顧客の「言われた要望」を要件化してはいけません。
製品が解決すべき根本的な問題は何かを見極め、製品の目標を考える力がプロダクトオーナーには求められます。
製品ロードマップを作成する
製品ロードマップとは、製品開発の各フェーズのスケジュールとマイルストーンを路線図のように可視化したものです。
プロダクトオーナーはこのロードマップを作成し、開発の方向性を示します。
製品ロードマップには、短期的な開発スケジュールだけでなく、中長期的な製品戦略も含めます。
例えば、スマートスピーカーのロードマップなら、次期バージョンの機能追加だけでなく、3年後を目処に家電製品との連携機能を視野に入れる、といった中長期の展望が示されるべきです。
プロダクトオーナーはロードマップ策定の際、市場動向や技術トレンドを予測するとともに、開発リソースの制約も考慮する必要があります。
ロードマップ作成では、開発チームと十分な議論を重ねて、合意をすることが大切です。
プロダクトのガイドラインの遵守を確認する
プロダクトオーナーは、開発段階で製品が当初のビジョンや要件から逸脱しないよう、ガイドラインの遵守を確認します。
ガイドラインには、ブランドイメージの統一性に関するものや、操作性とパフォーマンス指標など、多岐にわたる項目が含まれます。
プロダクトオーナーはこれらのガイドラインを開発初期に策定し、設計・コーディングの各フェーズで順守されているかをチェックしなければなりません。
ガイドライン順守は、開発スピードを上げるだけでなく、ユーザー体験の一貫性を保つことにもつながります。
プロダクトオーナーは、ガイドラインを明確化するとともに、開発メンバーがその意義を十分に理解し運用できるよう教育する責任があります。
開発チームとの橋渡し
プロダクトオーナーは、製品開発の全工程において、開発チームとの橋渡し役を務めます。
- 1.製品設計の段階では、顧客のニーズが製品の仕様に正しく反映されているかをチェック
- 2.試作品ができあがったら、それが品質基準を満たしているか確認
- 3.製品が発売された後は、ユーザーの意見を集めて分析し改善点の洗い出し
プロダクトオーナーは、開発の流れ全体を常に把握しておくことが大切です。
もし設計の段階で要件に変更が必要だと判断した場合は、開発チームの体制や予定に影響が出ないように調整しながら、設計変更の指示を出さなくてはなりません。
このように状況の変化に素早く対応し、柔軟に方針を修正できるかどうかが、プロダクトオーナーの手腕の見せ所です。
プロダクトオーナーには優れたマネジメント能力が求められる理由がここにあります。
ステークホルダーとの調整
プロダクトオーナーは、製品開発にステークホルダー(株主や経営陣など)と協力し、同じ目標に向かって進むための調整役を務めます。
例えば、新しい製品を開発するときは、開発部門だけでなく、営業部門、マーケティング部門、顧客サポート部門などの部署が関わります。
プロダクトオーナーは、それぞれの部署の役割と方針をよく理解した上で、全体がうまく連携できるように働きかけることが重要です。
時には、部署同士の意見が食い違うこともあります。
開発者は高性能な製品を作りたがるかもしれませんが、営業担当者からすると、シンプルで安い製品のほうが売れると考えるケースは少なくなりません。
そのようなときは、プロダクトオーナーが間に入って話し合いをリードし、会社全体にとって最適な製品設計を目指します。
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プロダクトオーナーに必要なスキル
プロダクトオーナーには、製品開発を成功に導くための多様なスキルが求められます。特に重要なのが、次の4つのスキルです。
コミュニケーション力
プロダクトオーナーは、顧客、設計者、エンジニアなど、多くの人とコミュニケーションをとる必要があります。自分の意図を正確に伝える力が欠かせません。
プロダクトオーナーは、チーム内のコミュニケーションを活性化させる重要な役割を担います。顧客ニーズを開発チームに適切に伝え、機能優先順位についてすり合わせを行う必要があります。
また、専門用語を避け、分かりやすい表現を使って説明できる能力も大切です。開発メンバーそれぞれの背景知識は異なりますので、丁寧に理解を得るコミュニケーションが必須です。
良好な人間関係を構築するためには、相手の立場に立って前向きに建設的な議論を引き出す力もプロダクトオーナーには求められます。
優先順位付け能力
限られた時間とリソースの中で、先にどの機能を実装するか優先順位を決める力が求められます。顧客ニーズと開発効率の、バランスを考えた思考力が必要です。
優先順位付けにあたっては、顧客視点での重要度と、技術的観点での実装の容易さを比較検討する必要があります。プロダクトオーナーはこれらの観点を総合的に判断して、適切な優先順位を導き出すことが求められます。
また、市場環境や顧客ニーズの変化に合わせて、優先順位の見直しと再評価を行う継続的な作業も重要です。リリース後の顧客反応などを分析し、必要に応じて優先順位を修正する判断力もプロダクトオーナーには欠かせません。
要求分析力
顧客の要望から、本当に必要な機能とは何かを見極める分析力が大切です。ヒアリング内容を適切に解釈し、要件定義に結びつける能力が必要となります。
顧客ヒアリングでは、単に要望を聞き出すだけでなく、優先度や必要性を確認する必要があります。また、要望の背景にある目的や意図を掘り下げることで、本質的なニーズを明らかにすることができます。
分析にあたっては、聞き手側の視点や思い込みが、要件に反映されないよう注意することも大切です。顧客の発言内容の背景にあることを読み取る洞察力や、論理的な要件定義ができる能力がプロダクトオーナーには求められます。
課題発見能力
製品開発の初期段階から、解決すべき課題を洞察する力がプロダクトオーナーには求められます。早期に課題を発見し、解決策を提示できることが望まれます。
製品開発には、想定外の技術的課題や、当初は見過ごされがちなユーザーニーズの課題など、様々な問題が隠れているものです。プロダクトオーナーには、こうした課題を見抜く鋭い洞察力が必要となります。
課題発見のために大切なのは、既存の前提にとらわれない柔軟な思考です。ユーザー視点を強く意識し、問題の本質に迫るような観察力を磨くことが重要です。課題を解決へと導くロジカルシンキングも求められるでしょう。
問題の早期発見により、手戻りを最小限に抑え、スムーズな製品開発を実現できるのです。
スクラム開発におけるプロダクトオーナーの役割
スクラム開発は、製品要件を小さな単位で分割し、短期間のスプリントを繰り返すことで切り出した要件を順次実装していく手法です。
このスクラム開発手法において、プロダクトオーナーは製品の方向性を定める中心的な役割を担います。
具体的な役割は以下の通りです。
- 製品バックログの管理
- スプリントレビューへの参加
- スプリント計画会議への参加
以下、スクラム開発におけるプロダクトオーナーの主要な役割を見ていきましょう。
製品バックログの管理
プロダクトオーナーの重要な仕事の一つに、製品バックログの管理があります。
製品バックログとは、開発する製品に必要な機能や要件を全てリストアップしたものです。
プロダクトオーナーは、このバックログを作成し、それぞれの項目に優先順位を付けていきます。
その際、顧客にとっての価値や、技術的な実現難易度などを考慮します。優先度の高い機能から早めに着手できるよう、適切な判断が求められます。
また、各項目の工数を見積もり、実装にかかる期間を予測することも大切な役目です。
なぜなら、限られた開発リソースを有効活用するには、正確な見積もりが不可欠だからです。
加えて、バックログは定期的に見直し、優先順位を最新の状態に更新していく必要があります。
スプリントレビューへの参加
スプリントレビューは、開発チームがスプリントで完成させた機能を披露し、その出来栄えを確認する場です。
プロダクトオーナーは、このレビューに参加して開発の進み具合や成果物の品質をチェックします。
レビューでは、実装された機能が当初の要件通りに仕上がっているか、期待していた品質レベルに達しているかを確認します。
もし不具合が見つかれば、その修正の優先度を判断しなければなりません。
また、開発が進むにつれ、当初立てた要件が製品の方向性としてそぐわなくなってくる場合もあります。
そのような場合、プロダクトオーナーは製品のロードマップや優先すべき機能を見直し、次のスプリントで開発の方針を軌道修正することも大切です。
スプリント計画会議への参加
スプリント計画会議は、次のスプリントで実装する機能とタスクを決定する重要な会議です。
プロダクトオーナーはこの会議に参加し、優先的に実装すべき機能を提示します。
プロダクトオーナーは、顧客ニーズや製品戦略の観点から、次のスプリントで実装すべき機能の優先順位を判断することが重要です。
一方で、開発チームからは工数の見積もりと作業可能なタスク量の見通しが提示されます。
プロダクトオーナーは、これらの入力をもとに、優先順位と開発効率のバランスを考慮して、次のスプリントの目標を適切に設定する必要があります。
限られた期間で最大の顧客価値を提供できるよう、優先機能を決定するのはプロダクトオーナーの主要な役割の一つです。
プロダクトオーナーが取得するべき資格
プロダクトオーナーであれば、以下の資格を取得することをおすすめします。
- 認定スクラムプロダクトオーナー(Certified Scrum Product Owner®:CSPO®)
- プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(Project Management Professional:PMP®)
- 認定プロダクトマネージャー(Certified Product Manager:CPM)
詳細は以下の通りです。
認定スクラムプロダクトオーナー(Certified Scrum Product Owner®:CSPO®)
CSPO®は、スクラム開発におけるプロダクトオーナーの役割と責任について、体系的な知識を証明する国際的な資格です。
この資格を取得するには、Scrum Alliance®が認定する2日間のトレーニングコースを受講し、修了する必要があります。
コースでは、プロダクトオーナーの主要な仕事であるビジョン策定、要件定義、優先順位付けなどについて、実践的なノウハウを学ぶことが可能です。
また、スクラムチームとのコミュニケーション手法や、ステークホルダー管理についても理解を深められます。
プロダクトオーナーを目指す方には、まず取得をおすすめしたい資格です。
プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル(Project Management Professional:PMP®)
PMP®は、プロジェクトマネジメントのグローバルスタンダードとも言える資格です。
製品開発プロジェクトの計画、実行、監視、コントロールに関する知識を網羅的に学べます。
資格取得には、35時間のトレーニングと、プロジェクトマネジメント経験が必要です。
試験に合格することで、プロジェクトマネジメントに関する知識と経験を証明できます。
リスク管理やステークホルダー管理など、プロダクトオーナーに必要な管理スキルを習得できる点が魅力です。
認定プロダクトマネージャー(Certified Product Manager:CPM)
CPMは、製品戦略の立案からマーケティング、ライフサイクル管理まで、製品管理の全体像を学べる資格です。
資格取得には、製品管理に関する基礎知識と実務経験が求められます。試験では、市場分析や製品企画、マーケティング、財務分析など、幅広い領域からの出題があります。
市場分析や競合分析、価格設定など、プロダクトオーナーの業務に直結するスキルが身につきます。
特に、市場動向を踏まえた製品ロードマップの策定は、プロダクトオーナーにとって重要なスキルと言えます。
プロダクトオーナーの将来性
プロダクトオーナーは、今後ますます需要が高まる職種の一つです。
デジタル化が加速する中、ユーザーの視点を取り入れた製品開発がこれまで以上に重要になってきています。
プロダクトオーナーは、開発チームとユーザーとの橋渡し役として、製品の成功に欠かせない存在なのです。
例えば、自動運転車など最新技術を使った製品開発が盛んになっていますが、技術面だけでなくユーザー体験の視点も欠かせません。
プロダクトオーナーはまさにその役割を担うのにふさわしい人材だと言えるでしょう。
また、アジャイル開発手法が主流になる中で、プロダクトオーナーはスクラム開発のカギを握る重要な存在になっています。
実際、製品開発の現場では、プロダクトオーナーの経験を積んだ人が管理職や経営陣に抜擢されるケースが増えてきています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の時代において、プロダクトオーナーはキャリアアップが大いに期待できる職種だと言えるでしょう。
プロダクトオーナーのまとめ
今回の記事では、プロダクトオーナーの役割、必要なスキル、他の役割との違いなどについて解説しました。
プロダクトオーナーは製品開発の軸として、さまざまな業務の大きな責任を担う職種です。優れたコミュニケーション力やバランス感覚、洞察力などが求められます。
プロダクトオーナーを目指す方も増えていますが、実際には経験と知識が必要不可欠です。
株式会社Jiteraは、プロダクトオーナー業務に関するサポートを行っています。プロダクトオーナーに関してわからないことがあれば、サイトの問い合わせフォームからお問い合わせください。