企業が持つデータを保存しておく場所をストレージといいますが、ストレージの仕組みの中でも混同しやすいのが「SAN」と「NAS」です。一言で表すのならば、普段から名前を耳にしたり触れる機会が多いのがNAS、システム担当者しか関わりがないのがSANといったイメージでしょう。
SANとNASはどちらもネットワークストレージの接続形態を表しますが、名前が似ていても役割や用途が異なります。サーバ構成や運用方法によってどちらが適当なのかが変わってくるため、それぞれの違いを正しく理解するのが大切です。
今回はSANとNASの違いが何なのか、メリット・デメリットや特徴をわかりやすくご紹介します。
とある企業のシステム管理者として10年以上勤めています。 自身の経験や知識を活かし、誰にでも分かりやすい記事をお届けしたいです。
「SAN」「NAS」とは?

SANとNASはどちらもネットワークストレージ接続の仕組みではありますが、接続方式が異なるのが特徴です。
ネットワークストレージとは、ネットワーク内にファイルやデータベースを保管する場所のこと。一般的にはファイルサーバーなどがネットワークストレージと呼ばれますが、NAS自体もストレージ機能を有しているため、ネットワークストレージ=NASと表す場合もあります。
対してSANはストレージ機能を有しておらず、こちらは単純に接続方式のみを表していますので注意が必要です。
ここでは、SANとNASの違いについて詳しく解説します。
NAS (Network Attached Storage)
NASとは「Network Attached Storage」の略称です。直訳すると”ネットワークに取り付けられたストレージ”で、その名の通りネットワーク(LAN)内に配置されたストレージを表します。
既存ネットワークへ配置でき、同一ネットワーク内にいるパソコンやサーバーからアクセスしてファイルを共有する仕組みです。
本来NASは仕組みの名称なのですが、NAS自体がストレージ機能を持つため、一般的には「ファイルをネットワーク経由で保管できる場所」であり、ファイルサーバーとほぼ同じ意味として認識されています。
専用のソフトウェアなどが無くても構築でき、ファイルサーバーと比較しても導入が容易なのが特徴です。
SAN (Storage Area Network)
SANとは「Storage Area Network」の略称です。名称に”Network”が含まれている通り、サーバーとストレージ間を接続するネットワークの仕組みとなります。
NASと違ってSANは通常のネットワーク(LAN)から独立しており、ストレージ専用のネットワークです。サーバーとストレージ間はデータを高速で通信する必要があるため、ノイズにも強い光ファイバーを使ったFCスイッチを中継して高速伝送を行います。
SANを構築すれば大容量データを高速に伝送できますが、大規模なSANの構築に高度な知識とスキルが必要です。通信インフラも整えなければならないため、SANを導入するにはそれなりのコストと構築期間がかかります。
「SAN」「NAS」の違い

SANとNASは名称は似ていますが、仕組みや用途は大きく異なります。
特にデータ処理方式と伝送速度が大きく異なり、ブロック単位で専用ネットワーク(FCチャネル)を使って通信するSANと、ファイルシステムを用いてLANで通信するNASでは、SANの方がかなり速い通信が可能です。
また、SANは基本的に企業にあるサーバーとストレージ間の通信で使われるため、家庭では使われません。一方、NASは家庭や中小企業でよく使用されますが、企業においても部署内だけで使うファイルをバックアップするためなど、限定的な使い方を行うケースも多々あります。
ここでは、SANとNASの違いについて項目ごとに解説します。
ファブリック
ファブリックとは「サーバーとストレージの接続方式」を表します。
NASについては、通常サーバーとNASがダイレクトに接続を行いません。サーバーとNASは同じイーサネット(LAN)内に存在しており、パソコンとサーバーが通信するのと同様に、パソコンからNAS、サーバーからNASのようにイーサネットレベルで通信を行うのが一般的です。
一方SANは、サーバーとストレージをイーサネットから独立した専用のネットワーク(FCチャネル)で接続します。接続を中継するFCスイッチは光ファイバーで構成されており、通信時に発生するノイズ干渉の影響が少なく、安定かつ高速な通信が可能です。
また、これまではFCチャネルでの接続がほとんどでしたが、近年生まれたiSCSIによってTCP/IPネットワークでストレージ接続できる「IP-SAN」での構築も広まってきました。
データ処理
SANとNASは、データの保存(ストレージ)方法が異なります。
SANは、データストレージにおいて最も簡単な方式であるブロックストレージです。サイズが固定されるブロック単位でデータを処理するため、サーバーはストレージ内にあるファイルへ高速かつ簡単にアクセスでき、すぐに編集が行えるといった特徴があります。
一方NASは、パソコンやサーバーと同様のファイルストレージです。データがファイルやフォルダ単位で保管され、特定のファイルを開く場合はファイル名を基にアクセスを行います。
NASは家庭や中小企業で多く導入されており、普段利用するファイルサーバーと同じ形で利用できるのが特徴です。
プロトコル
SANとNASはその用途の違いから、データへアクセスする際のプロトコル(I/Oプロトコル)も異なります。
SANは、主にSCSI・iSCSI・FCoEプロトコルを用いてデータ伝送を行っており、中でも比較的新しいプロトコルであるiSCSIは、従来のFCチャネルではなく既存IPネットワーク上でSANのデータ伝送を実現できたため、SANの構築コストの低価格化を進めました。
NASは、一般的なパソコンと同様のTCP/IPプロトコル(通常のイーサネット)を使用します。その他ではSMBやHTTP、CIFS、NFSなど、こちらもサーバーやパソコン間ファイルのやり取りで用いられるプロトコルも使用可能です。
パフォーマンス
SANとNASはハッキリと性能に違いがあるため、その性能に適した利用方法があります。
基幹システムやデータベースは高い応答速度が求められるので、採用するストレージはNASよりもSANの方が高いパフォーマンスを発揮できます。
一方、NASはファイルストレージであるため、SANよりも転送速度(スループット)が遅く、遅延時間(レイテンシ)が長いのが一般的です。しかし、イーサネットの性能(速度)次第ではこれらのデメリットを補えるため、使用目的からSANとNASどちらが適切なのかを選ぶ必要があります。
価格
SANやNASに搭載するストレージ量にも比例しますが、一般的にはNASの方が導入費用・運用コストが安価です。
NASは企業がファイルサーバー代わりに導入するケースも多く、各社が製品ラインナップを揃えている、かつ性能バリエーションも豊富なため、予算に合った製品を選びやすい側面もあります。
SANはハードウェア費用自体も高価ですが、FCスイッチや管理ソフトウェアなど、SANを構築するのに必要な物が他にもあるため、価格は高騰しがちです。NASは管理ソフトウェアも本体に含まれているのが一般的なため、導入コストを安価に抑えられます。
拡張性
通常、安価なNASはストレージ(内部ハードディスクなど)容量の追加程度であれば可能ですが、その他の拡張性はほぼありません。ハイスペックなNASであれば、クラスター構成を組んだり、CPUやメモリの増設も可能な「スケールアップNAS」といった製品も存在します。
一方、SANは拡張性が高いのが特徴です。標準的にスケールアップ・スケールアウトが可能なため、必要なタイミングでストレージ容量や性能の向上が容易に行えます。
コストはかかりますが、SANの冗長化も可能です。メインで稼働するストレージ自体やFCスイッチに障害が発生しても、冗長化しておけばシステムへの影響を最小限に抑えることができます。
管理
NASは既存のイーサネット(LAN)への追加が簡単にでき、標準で搭載された管理画面からNASの稼働状態を常に確認できます。NASへのアクセス権限やユーザーの追加も管理画面から行えるため、システム管理に不慣れな人であっても対応が可能です。
SANは構成が複雑であり、専用の管理ソフトウェアを使う必要があるため、専門の知識を持っていないと日常の管理は難しいでしょう。
また、システム稼働後にSANを新たに追加するのも非常に高いレベルの準備が必要です。既存のネットワーク構成含め再設計が必要となり、導入時にはシステム停止が必要となる場合があります。
SAN (Storage Area Network) のメリット・デメリット

引用元:Freepik
ここでは、SAN (Storage Area Network) のメリット・デメリットについて改めてご紹介します。
FCスイッチを介してデータの高速伝送が可能となるSANは、企業においてサーバーやストレージが多数ある場合に非常に有効です。LANから独立したネットワークを構築するため、イーサネットの影響を受けず、パフォーマンス低下が起きにくい仕組みでもあります。
NASとは違い通常のファイルシステムを使っていないため、サーバー機器側から見ると追加のディスク領域として利用も可能です。
企業の基幹システムやデータベースの高速化、拡張を考えているのであれば、SANの導入を検討してみましょう。
SANのメリット
SANのメリットは下記の内容が考えられます。
- 複数台のストレージを1つの大きなストレージとして柔軟に管理できる
- 既存イーサネットから独立した専用のネットワークを構築できる
- FCスイッチを介すので既存ネットワークが混雑しても影響を受けず、高速アクセスを維持できる
- 冗長構成が可能なため、予期せぬシステム障害でも影響を最小限に抑えられる
- ブロック単位でデータを処理しており、高速処理が可能
上記のようにSANは、「ストレージの統合・集中管理」「サーバー・ストレージ間の高速アクセス」が最大のメリットです。
企業内の基幹システムやeコマースサイトなど、安定稼働・高速スループットを求められる環境ではSANの導入をおすすめします。
SANのデメリット
メリットに対し、SANのデメリットは下記内容が考えられます。
- SANの導入には高度なスキル、専門知識が必須
- ストレージ装置に加え、FCスイッチなど専用機器の導入コストが高額
- SANを管理する専用ソフトウェアが別途必要となり、活用するには知識が必要
- SANを導入するために前提条件となるインフラ整備が必要となる
- ストレージ装置の集約が可能だが、その分、管理は複雑かつ高度になる
SANの導入・運用管理には高度な専門知識が必要です。専任の担当者を採用する、もしくは、SANの導入実績が豊富なベンダへ依頼するなど、適切な構築方法を選ぶ必要があります。
また、SANの導入コストは非常に高額です。ストレージ装置本体だけでなく、専用機器や管理用ソフトウェアなどが必要になる点に注意しましょう。
NAS (Network Attached Storage)のメリット・デメリット

引用元:Freepik
続いて、NAS (Network Attached Storage)のメリット・デメリットについても改めてご紹介します。
SANと比べると容易に取り扱えるNASは、ITの専任担当者でなくとも構築が可能です。個人や中小企業におけるファイルを安全に保管できる場所として、NASは適切な選択だといえます。
また、専門知識がないと管理が難しいSANとは異なり、NASの管理画面は普段から使うパソコンやサーバーとほぼ変わりありません。直感的に操作が可能なので、誰でも管理がしやすいといった点もNASの特徴だと言えるでしょう。
部署内だけや個人が持つファイル管理を安全かつ楽に行いたいのであれば、NASを導入してみはいかがでしょうか。
NASのメリット
NASのメリットは下記の内容が考えられます。
- 導入にかかるコストが比較的低い
- 従来のファイルシステムを使用するので、新しい操作を覚える必要が無い
- 管理用ソフトウェアが標準で内蔵されているので、別途準備がいらない
- 既存のネットワーク(LAN)環境へすぐに追加できる
- 管理画面が直感的に操作できるため、専任の担当者でなくとも管理が可能
- 異なるサーバー間、パソコン間であってもファイル共有が可能
上記のようにNASは、「低コストで導入が可能」「管理画面の操作が容易」「簡易的なファイルサーバーとして運用できる」点がメリットだといえます。
NASは本格的なファイルサーバーを導入するまでの”繋ぎ”としても運用できるため、目的に応じた利用をおすすめします。
NASのデメリット
メリットに対し、NASのデメリットは下記内容が考えられます。
- NASのアクセス速度は既存のイーサネット(LAN)の影響を大きく受ける
- NASは拡張性が低く、導入後に性能を向上させにくい
- 同じLAN内でストレージの共有ができるが、逆にネットワーク全体へ負荷がかかる可能性がある
- ストレージ内にある共有ファイルは、同時に複数人での編集ができない
NASは導入が容易な一方、高度な設定ができず、拡張性は低いと言わざるを得ません。導入後に性能不足を感じた場合でも、改善させるのは困難です。
また、パソコンやサーバーと同様のイーサネット上へ追加するため、大容量のファイル転送を行うとネットワークへ負荷がかかり、全体の速度遅延に繋がるといったデメリットも考えられます。
「SAN」「NAS」を選ぶ基準は?

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ここまでSANとNASのメリット・デメリットをそれぞれご紹介しましたが、それらを踏まえ、最終的にどのような場合にどちらを選べばいいのでしょうか。
SANとNASでは役割や導入ニーズが大きく異なります。適切な場面で導入すれば無駄なコスト発生を抑えられ、システム動作や業務改善が期待できるでしょう。
ここでは、SANとNASを選ぶ基準について解説します。
SANを選ぶのは扱うデータベースの規模が大きい大企業
SANを選ぶのは「扱うデータベースの規模が大きい大企業」です。大企業で取り扱うデータ量や業務システムのボリュームは非常に大きく、それに比例してデータベースの規模も大きくなります。
SANは既存のイーサネットとは独立したネットワークを構築するため、データベースへの高速アクセスが実現でき、安定した接続が実現可能です。
コストはそれなりに必要となりますが、かけたコストに見合った環境改善が期待できるでしょう。
NASを選ぶのは扱うデータ量がそれほど大きくない中小企業
NASを選ぶのは「扱うデータ量がそれほど大きくない中小企業」です。
日々扱うデータ量が少ない中小企業であれば、多大なコストがかかるSANまでは必要ありません。NASであれば製品バリエーションが豊富であり、自社の規模に合った製品が見つかる可能性が高いでしょう。
NASは導入前に大がかりなインフラ整備も不要です。導入自体が容易であり、管理も手軽なので、システム専任担当者を置けない中小企業に最適な選択といえます。
「SAN」「NAS」違いのまとめ

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今回は、SANとNASの違いや、メリット・デメリット、それぞれの特徴を解説しました。
SANとNASは名称が似ていますが、仕組みや使用用途が全く異なります。
基本的にはシステム規模が大きく、日々大量のデータのやり取りを行う大企業向けなのがSANで、システム規模がそれほど大きくはない中小企業や個人向け、そしてファイルの保存を簡易に行いたい場合にNASがおすすめです。
コストや専門知識が必要だが信頼性の高いSANと、環境に影響を受ける部分も多いが安価かつ手軽に導入できるNAS、どちらが目的に合うか、ぜひ比較検討してみてください。
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