アメリカ著作権法における「フェアユース」とは?判断基準や裁判例をわかりやすく解説

AI(人工知能)によって、世の中の仕組みは大きく変わり、さまざまな分野で便利なITが登場しています。

その一方、AIは大量のデータを学習する必要があることから、その学習データとして利用される知的財産に対する著作権侵害の問題が注目されるようになっています。

一方、米国では「フェアユース」という考え方が広がり、一定の基準に基づいた利用であれば著作権侵害にあたらないという法制度が整備されました。

本記事では、米国のフェアユースについて紹介し、日本国内での現状と共に解説します。

今後、グローバル化が進む現代において、グローバルスタンダードになるかもしれないフェアユースについて、理解しましょう。

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監修者 sakakibara_writer

コンサルティング業界に20年以上在籍。IT戦略・構想策定など上流系が得意。

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    フェアユースとは?

    フェアユースとは、米国の著作権法において、著作権侵害にあたらないこととされる「公正な利用(フェアユース)」のことです。

    フェアユースは、権利者によって著作権侵害が主張された際の抗弁事由として利用できます。

    著作者の許可なく著作物を利用しても、フェアユースに該当すると評価されれば、著作権侵害にはあたりません。フェアユースであるかどうかは判断基準が設定されています。

    ただし、その利用がフェアユースに該当するかどうかは個別の判断によります。

    したがって、こうすれば絶対にフェアユースに該当し、著作権侵害とならないというような絶対的なガイドラインや保証はありません。

    基本的な考え方は、著作物に新たな価値を付加したものであり、利用目的が公益的な要素を持つことが必要です。

    具体的には著作権法第107条に規定されています。

    フェアユースの目的

    フェアユースの目的

    著作物の利用においては、ニュース報道や教育・研究などの用途で活用するような、公益性がある場合があります。

    こうした著作物の利用において、あらゆるケースで著作者を保護し、著作物を気軽に利用することができないのは公益に反するという考え方です。

    そのため、著作者の権利を侵害しない利用方法であれば、より制限なく著作物を二次利用することを認めています。

    フェアユースの概念により、著作物の二次利用が行いやすくなり、情報の流通を円滑にする効果があります。

    ただし、現在のところフェアユースであるかどうかの判断は個別処理であるため、著作権侵害が争われれば、司法の場に持ち込まれることが前提になります。

    フェアユースは日本だと違法か?

    日本の著作権法の中には、フェアユースに相当する基準は設けられていません。著作物を複製することは、基本的にすべて著作権侵害として扱われます。

    ただし、日本においては第30条にて例外規程があり、私的利用を始めとした著作権の行使を制限し、第三者が著作物を自由に利用できるルールが制定されています。

    近年の改正により、機械学習のために著作物を学習データとして用いる場合などを対象とした例外規程が追加されています。

    フェアユースが適用される4つの判断基準

    フェアユースが適用される判断基準は、4つ規定されています。

    ただし、これらは最終的には裁判所による個別判断であるため、以下の条件を満たしていると認定されるかどうかは個別事案ごとに決まってきます。

    こうなっていれば絶対フェアユース、というガイドラインではないことに注意が必要です。

    これらは米国著作権法第107条に規定されています。

    1. 使用の目的および性質
    2. 著作権のある著作物の性質
    3. 著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性
    4. 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響

    1.使用の目的および性質

    使用の目的が何であるか、たとえば商用なのか、非営利なのかを指します。

    例えば、第107条にはフェアユースと定義される使用目的の例として「批評」「解説」「ニュース報道」「教育」「研究・調査」を例示しています。

    また、新しい表現や意味(性質)がオリジナルのものに追加されているかを重視します。

    これは、二次利用が単なるオリジナルのコピーであるのか、そうでないのかを判断基準に取り入れているということです。

    これらをまとめると、商用よりも非営利、丸パクリよりも引用の方がフェアユースとして認められやすいということを意味しています。

    2.著作権のある著作物の性質

    たとえば、利用される著作物を用いて作成する新たな著作物が、ノンフィクションであるかどうかが問われます。

    ノンフィクションは事実に基づくコンテンツになり、フィクションのものと比べると、ノンフィクションはフェアユースであると認められる可能性が高くなります。

    たとえば伝記や回顧録、史実を基にした歴史映画などの作品における過去の著作物の利用などが一例です。

    ただし、ここではノンフィクションだけを判断基準にしているわけではありません。

    単なる事実のみを伝えているニュースや、復刻が困難であった絶版の復刻などについても、フェアユースを認定される可能性が高まるとされています。

    3.著作権のある著作物全体との関連における使用された部分の量および実質性

    利用する著作物についての利用量が重要な判断要素になっています。

    丸々コピーするよりも、一部のみ引用している方がフェアユースと認定される可能性が高まります。

    また、二次利用するにあたって、自身の著作物で必要な最小限度の流用になっているかも重要です。

    自身の新たな表現を行うにあたり、その表現に必要な限度を大きく超えて流用していれば、フェアユースが否定される可能性があります。

    さらに、利用している箇所が元の著作物の核心部分であるかどうかも重要です。

    例えば、元の著作物が論説であれば、主張したい中核部分があります。物語であればクライマックスがあります。

    こうした箇所を引用した場合、フェアユースが認められない可能性があります。

    4.著作権のある著作物の潜在的市場または価値に対する使用の影響

    平たく言えば、元の著作物の売れ行きの邪魔になるかどうかです。

    探偵小説であれば「犯人は〇〇」「犯行の手口は・・・」などの情報が引用されれば、大いに元の著作物の営業妨害になるでしょう。

    また、判断基準は「市場または価値」とされているように、単に営業的な損失があるかどうかだけではなく、その著作物の価値を毀損することが無いかも見ています。

    例えば、悪質なパロディによって芸術性の高い作品に、下品なイメージを付加されてしまった場合などもあるでしょう。

    ただし批評はフェアユースと認められる一例とされており、著作物に対して負のイメージを付与することそのものがフェアユースを否定されるわけではありません。

    フェアユースの法的背景と歴史

    ここでは、日本と海外の著作権法の改正の変遷をたどり、フェアユースに関する取扱いや検討の歴史をご紹介します。

    現状、フェアユースの概念が法的に整備されているのは米国となりますが、日本にも一定の著作権行使を制限する規程が存在しています。

    日本と海外の著作権法における違い

    日本の著作権法には、フェアユースに相当する包括的な権利制限の規程はありません。現状は第30条に個別の規定が列挙されている状況です。

    私的利用も、著作権侵害にあたらないとされているものの1つです。

    たとえば、自分が聞くための音楽のセットリストを作ることなどがあたります。昔はCDをレンタルして、自分のプレイヤーにダビングすることが当たり前でした。

    これらの行為も、著作権法で認められている例外規程です。

    先にご紹介した通り、近年第30条の4により、機械学習のトレーニングのために著作物を利用することも認められました。

    著作権法の改正とフェアユースの関連性

    米国では、1976年に行われた著作権法の改正でフェアユースが導入され、以降も適用範囲を巡る議論が続いています。

    裁判所によって総合的に判断されるのが現状であるため、法的予見性、すなわち結果の予測が難しいことから、さまざまな団体がガイドラインの作成を試みています。

    日本でも導入の検討が行われたことがありますが、現時点では日本の著作権法にフェアユースの法概念は導入されていません。

    著作権保護の例外とする事項は個別列挙する形を採っています。これはEUについても同様です。

    ただし、日本では著作権法第30条の4により「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用」について、一定の範囲での未許可利用が認められました。

    AIトレーニングは、その著作物の利用によって思想や感情の享受を目的としない、すなわち論説を読んで学んだり、物語を読んで感動をしたいわけでもない利用です。

    さらに、技術開発や情報解析のために活用することを認めてもおり、日本におけるAI開発の促進を目的とした法改正であるとされています。

    フェアユースの導入国

    米国が有名であり、先駆者でもありますが、フェアユースの法概念が導入されている国はほかにもあります。韓国、イスラエル、シンガポールなどが該当します。

    その他、イギリスでは「フェアディーリング(Fair Dealing)」という概念があり、非商業目的または私的学習での複製が認められています。

    前述の日本におけるAI開発促進を目的とした法改正も、一部フェアユースの法概念を導入したものといっても良いでしょう。

    米国におけるフェアユースの裁判例

    フェアユースであるかどうかの判断は、裁判所による個別判断であるため、訴訟事案となった場合は判決が出るまで結論が出ません。

    ここでは、4つの判例をご紹介し、フェアユースであるかどうかの判断がどのように行われたのかご紹介します。

    Kelly事件

    Kelly氏は本訴訟における原告で、プロの写真家です。Kelly氏は、自身の写真画像を自身のウェブサイト、または許諾した他のウェブサイトに掲載しています。

    被告はインターネット検索エンジンを運営していました。そこでは、他のウェブサイトをクロールした画像をサムネイルとして表示し、クリックすると元のサイズで表示することができる仕組みを有していました。

    Kelly氏は、被告が自身の画像を無断で使用しており、著作権侵害であると訴えました。

    本判例では、主に以下の理由で、フェアユースであると認定されました。

    • 被告が画像の販売等によって利益を得ることを目的としたわけではないこと
    • 元の著作物の市場を奪ったり、価値を損なうものではないこと

    フェーマス・モンスター事件

    雑誌「Famous Monsters of Filmland」に掲載されたイラストについての判例です。

    当該のイラストレーターの業績を回顧する出版物に、イラストが無断掲載されたことに対して著作権侵害を訴えたものです。

    本判例では、使用目的が当該イラストレーターの回顧録であり、元の著作物とは使用目的が異なると判断されました。

    また、利用されたイラストはごく一部であるとともに、元の雑誌はモンスター映画のファン向けのもの。回顧録は芸術的な視点でアーティストを特集したものであるとされました。

    この理由により、複製の目的が合理的であると判断され、フェアユースが認定されることとなりました。

    Gaylord事件

    Gaylord氏は彫刻家で、記念像を作成。この記念像を撮影した社員を米国の郵便局が記念切手として採用しました。これに対し、Gaylord氏は米国政府を訴え、著作権侵害を提起した事件です。

    本判例では、切手としての販売が商用目的であり、著作物の性質を変形させるものではないと認定しました。

    このため、著作物に新たな価値を加えずに商用利用したとみなし、フェアユースの適用を否定しました。

    しかし、本判決においては第一審でフェアユースを認定しており、フェアユースであるか否かの判断が法的予見性、すなわち予測が非常に難しいことを表しています。

    サラ・シルバーマン氏の訴訟

    生成AIに関する著作権侵害の訴訟です。

    OpenAI社が開発したChatGPTと、FacebookやInstagramの運営で有名なMeta Platform社が利用する大規模言語モデル(LLM)のLLaMAを相手取った訴訟です。

    サラ・シルバーマン氏は、自身の著作を含む何十万冊もの書籍を無断でAIのトレーニングに使用したとして、両社を訴えました。

    しかし、米国地方裁判所は、2024年2月12日に、OpenAI社に対する訴訟の大部分を却下しました。

    生成AIによって出力される内容が、著作権を侵害する派生的な著作物であると認めませんでした。

    前述の通り、日本では著作権侵害の適用除外となる例です。著作権法第30条の4を制定しており、同様の訴えは日本においては棄却される可能性が高いと言えます。

    フェアユースの認定はあくまでも個別事案ごとの判断であるため、今後同様の訴えが同様の判決となるかは定かではありません。

    日本でフェアユースを検討した方がいい理由

    日本の法体系では、一部フェアユースに近しい規程が設けられていますが、全体的な法概念としてはいまだフェアユースが導入されているとは言えません。

    しかし、フェアユースの法概念は各国への採用が始まりつつあり、国際的な調和を取ることを考えれば、検討を加速させる必要があるかもしれません。

    また、日本でもAIトレーニングへの適用に向けて法改正を行ったように、技術革新を進めるためにフェアユースを導入することに意義があるかもしれません。

    国際的な調和を取れるから

    著作権はグローバル展開がもっとも進んでいる法概念の1つです。日本国内だけで保護されても、現代では著作権が十分に保護されているとは言えません。

    一方、著作権の適用を一部制限するフェアユースの考え方についても、日本だけが国際的な考え方から大きくずれてしまえば、今後不都合が起きることも考えられます。

    フェアユースによって作られたコンテンツや製造物が、日本では使えない等といったことが起きうるためです。

    現在のところ、国際的な条約においてフェアユースの定義や適用は殆どありませんが、今後フェアユースの国際的な枠組みについて議論が進む可能性もあります。

    既に複数の国がフェアユースの概念を導入しており、今後導入する国が増加していく可能性もあります。

    技術革新が進むから

    AIトレーニングへの著作物の活用については、日本の法改正、前述のサラ・シルバーマン氏の訴訟にもあるように、著作権保護の対象とすべきかどうかが既に大きな争点となっています。

    今後もAIは人々の生活の向上に大きな役割を果たすと考えられ、日本国内のAIの活用、国内事業者のAIビジネス成長のためにも、法的なリスクについて解消を行っていくべきです。

    現状はブラックリスト形式であり、個別に明記されたものだけが例外規程となっています。

    コンテンツがデジタル化し、活用の用途がどんどん広がっています。現在はAIトレーニングが俎上に上がっていますが、それ以外にも新たなテクノロジーの発展のために、著作物の活用が行われるかもしれません。

    その時に、著作者の権利を守りつつ、技術革新を止めないためのバランスを取るため、より柔軟な適用が行えるフェアユースが寄与する可能性があります。

    まとめ:フェアユースが今後日本で導入されるかチェックしよう

    フェアユースの概念は、先行する米国においても判断が難しい法規程であると考えられており、運用の課題があります。

    日本は米国ほどの訴訟社会ではなく、裁判所に判断してもらうまでの心理的ハードルも高く、米国のように追随すべきかどうかは判断が難しいところです。

    しかし、世界的にはフェアユースの概念が拡大しつつあり、技術革新を加速するために、日本も同様の法概念を導入する可能性はあります。

    今後もフェアユースに関する世界・日本の動向を注視していくべきでしょう。

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