開発を行う際にいろいろ調べていると「スパイラル開発」という言葉を見聞きするでしょう。
開発を行う際、スパイラル開発が一般的な開発手法と何が違うのか理解しておく必要があります。
しかし、スパイラル開発の進め方やメリット、デメリットを把握しきれていない人は多いでしょう。
そこで今回は、スパイラル開発の進め方とメリット・デメリットを解説していきます。
適切な開発を行うためにもスパイラル開発について深く知っておきましょう。
プログラマー兼ネットワークエンジニア。 24歳でエンジニアの世界に飛び込むも、いきなり大手企業機器の検証担当に。 その後も検証をこなしていく中で、自動的にできないものかと試行錯誤しているといつの間にかプログラマーへとステップアップ。 現在はプログラミングの方が好き。
スパイラル開発とは?

スパイラル開発は、作成するシステムを複数のサブシステムに分割し、サブシステムごとに開発工程を繰り返しながら進める開発手法です。例えば、開発を3つのサブシステムに分割した場合、サブシステム1を開発して納品した後、サブシステム2の開発に移行する、という形で順にサブシステムを開発していく流れを取ります。
サブシステム1の納品物はプロトタイプであり、リリースはしません。顧客からのフィードバックを受けて次のサブシステム2を開発します。複数のサブシステムに分けて開発を進めることで、開発規模が大きい場合でも、早い段階で顧客に開発内容を確認してもらえます。その結果、手戻りが少なくなり、システム全体の完成度が高まるのです。
スパイラル開発では、ウォーターフォール開発のような完全な要件定義や詳細な計画を事前に策定する必要がありません。開発プロセスの途中で変更や修正を加えることができるため、柔軟性や適応性に優れています。また、工程にプロトタイプの作成を含んでいることで、さまざまなリスクを事前に洗い出し、早い段階で対策できます。
このような特徴から、スパイラル開発は、スケジュールや仕様変更への柔軟な対応が求められつつも、品質が重視されるような開発に向いています。例えば、機能要件が明確ではない新規の大型開発で、品質も重視される場合に適しています。
スパイラル開発の進め方と流れ

スパイラル開発の進め方と流れを理解することで、プロジェクト管理やソフトウェア開発の効率を大幅に向上させることができます。
ここでは、スパイラル開発の具体的な進め方と流れを紹介します。
- 要件定義
- 基本設計
- 詳細設計
- 開発・テスト
- 評価・改善
それぞれのステップで何が行われるのか、詳しく説明していきます。
要件定義
要件定義では、プロジェクトの目標や必要な機能を明確にします。
スパイラル開発における要件定義は、各スパイラルごとに行われるため、ユーザーのフィードバックを取り入れながら、柔軟に進めることが求められます。
要件定義の具体的なステップは以下の通りです。
・ユーザーへヒヤリングを実施してニーズを把握する
・ビジネス要件を整理し、優先順位を付ける
・技術的な制約や要件を確認する
・要件仕様書を作成し、ユーザーへ共有する
スパイラル開発では、要件定義の段階で得られたフィードバックを次のスパイラルに反映することで、プロジェクトの改善を続けることができます。
基本設計
基本設計では、要件定義で明確になった目標や機能をもとに、システム全体の構造や設計を具体化します。
スパイラル開発における基本設計は、各スパイラルサイクルごとに行われ、段階的に詳細化されていきます。
基本設計の具体的なステップは以下の通りです。
・システムの全体構造を設計する
・各モジュールやコンポーネントのインターフェースを定義する
・データフローとデータ構造を設計する
・各機能の概要設計を行う
スパイラル開発では、基本設計の段階で得られた情報やフィードバックを次のサイクルに反映することで、設計の精度を高め、プロジェクトの改善を続けることができます。
詳細設計
詳細設計 では、基本設計で定義されたシステムの構造をさらに具体化し、実際のプログラムやデータベース設計に落とし込みます。
スパイラル開発における詳細設計は、各スパイラルごとに行われ、段階的に深めていくことで、柔軟かつ適応性の高い設計が可能となります。
詳細設計の具体的なステップは以下の通りです。
・各モジュールやコンポーネントの具体的な設計を行う
・プログラムのロジックやアルゴリズムを詳細に記述する
・データベースのテーブル設計やインデックスの設定を行う
スパイラル開発では、詳細設計の段階で得られたフィードバックを次のスパイラルに反映することで、設計の精度を高め、プロジェクト全体の品質を向上させることができます。
開発・テスト
開発・テスト では、詳細設計に基づいて実際にプログラムを作成し、動作確認を行います。
スパイラル開発における開発・テストは、短いサイクルで繰り返し行われ、逐次的な改善とフィードバックの反映が可能です。
開発・テストの具体的なステップは以下の通りです。
・詳細設計に基づいてプログラムを作成する
・各モジュールやコンポーネントの単体テストを実施し、個別の動作確認を行う
・複数のモジュールを統合し、システム全体の結合テストを実施する
・テスト結果をレビューし、必要に応じて修正や改善を行う
スパイラル開発では、開発・テストの段階で得られたフィードバックを次のスパイラルに反映し、段階的に品質を高めていくことが求められます。
評価・改善
評価・改善 では、開発とテストが終わった段階で、システム全体のパフォーマンスや品質を評価し、次のスパイラルに向けて改善点を洗い出します。
スパイラル開発における評価・改善は、各サイクルの終わりに行われ、プロジェクトの進行に伴って継続的に品質を向上させることができます。
評価・改善の具体的なステップは以下の通りです。
・ユーザーからのフィードバックやテスト結果をもとに、システムの評価を行う
・評価結果を分析し、問題点や改善点を特定する
・改善策を検討し、次のスパイラルで実施する内容を決定する
・改善点を反映した計画を策定し、次のスパイラルの準備を行う
スパイラル開発では、評価・改善を繰り返すことで、段階的にシステムの品質を高め、ユーザーの要求に応える柔軟な開発が実現できます。
スパイラル開発のメリット

スパイラル開発のメリットは、ソフトウェア開発プロジェクトにおいて柔軟性と高品質を両立できる点です。
ここでは、スパイラル開発の具体的なメリット を紹介します。
- 仕様やスケジュール変更がしやすい
- 高品質なソフトウェア開発が可能
- リスクの最小化に抑えられる
これらのメリットについて、詳しく説明していきます。
仕様やスケジュール変更がしやすい
スパイラル開発では、仕様やスケジュールの変更が容易 です。
スパイラルごとに開発と評価を繰り返すため、各サイクルの終了時にフィードバックを反映し、必要に応じて計画を調整できます。
例えば、ユーザーの要求や市場の変化に対応する ために、新しい機能を追加したり、既存の機能を改良することが簡単にできます。
これにより、プロジェクトの方向性を柔軟に変更でき、常に最適なソリューションを提供できます。
スパイラル開発は、動的な環境でのプロジェクト管理に適しており、仕様やスケジュールの変更に迅速に対応することで、プロジェクトの成功確率を高めます。
高品質なソフトウェア開発が可能
スパイラル開発では、高品質なソフトウェアの開発が可能 です。
各スパイラルごとに開発と評価を繰り返すため、段階的に品質を向上させることができます。
例えば、初期段階で見つかったバグや問題点を次のスパイラルで修正 し、さらに新しい機能や改善点を追加することができます。
これにより、品質の高いソフトウェアを提供することができます。
また、定期的にユーザーフィードバックを反映する ことで、ユーザー満足度の高い製品を開発することができます。
スパイラル開発は、品質管理を重視したプロジェクト管理手法であり、継続的な改善を通じて高品質なソフトウェアを実現します。
リスクの最小化に抑えられる
スパイラル開発では、リスクを最小化 することが可能です。
各スパイラルごとに段階的に進行するため、早期に問題を発見し対応することができます。
例えば、初期段階で技術的な課題や仕様の不確定要素を洗い出し 、次のスパイラルで対策を講じることができます。
これにより、プロジェクト全体のリスクを低減し、安定した進行が期待できます。
また、定期的な評価と改善を繰り返す ことで、リスク要因を逐次解消し、プロジェクトの成功率を高めることができます。
スパイラル開発は、リスク管理を重視したプロジェクト管理手法であり、計画的なリスク対応を通じてプロジェクトの安定性を確保します。
スパイラル開発のデメリット

スパイラル開発には多くのメリットがある一方で、注意すべきデメリットも存在 します。
ここでは、スパイラル開発の主なデメリットを紹介します。
- プロジェクトの全体像を把握しづらい
- 開発のコストが高くなりがち
それぞれのデメリットについて詳しく説明します。
プロジェクトの全体像を把握しづらい
スパイラル開発では、プロジェクトを小さなスパイラルに分割して進行するため、全体像を把握しづらい というデメリットがあります。
各スパイラルが独立して進行することから、全体の統一性が欠ける場合があります。
例えば、最初のスパイラルで決定した仕様が後のスパイラルで変更される ことがあるため、整合性を保つのが難しくなることがあります。
さらに、進捗管理やリソースの配分が難しくなり 、結果的にプロジェクトの効率が低下する可能性があります。
スパイラル開発を採用する際は、定期的なレビューや全体の進捗確認を行い、全体像を常に把握するよう努めることが重要です。
開発のコストが高くなりがち
スパイラル開発では、開発のコストが高くなりがち というデメリットがあります。
各スパイラルごとに設計、開発、テスト、評価を行うため、通常の開発手法と比較して時間とリソースが多く必要となります。
例えば、要件変更や改善を頻繁に行う ことで、追加の作業やテストが増え、コストが増加します。
また、ユーザーのフィードバックを反映しながら進行するため、予期しない変更や追加機能の要請が発生 しやすく、それに対応するためのコストが増大することもあります。
スパイラル開発を採用する際は、コスト管理をしっかりと行い、予算内でプロジェクトを進めるための計画と調整が不可欠です。
スパイラル開発とアジャイル開発との違い

スパイラル開発と同様の反復型の開発には、アジャイル開発があります。スパイラル開発とアジャイル開発では、分割した機能ごとに開発を進める点でも共通しています。では、この2つの開発の違いはどこにあるのでしょうか。
スパイラル開発とアジャイル開発では、開発手法の目的が異なります。スパイラル開発は、仕様変更に柔軟に対応しながらも高品質なシステムの開発をめざしています。一方、アジャイル開発は迅速な価値の提供を通じてビジネス価値を最大化することにあります。 スパイラル開発とアジャイル開発は目的が異なることで、特徴にも違いが現れます。スパイラル開発とアジャイル開発の特徴の違いを紹介します。
リリースのタイミング
スパイラル開発とアジャイル開発の最も大きな違いは、リリースのタイミングです。サブシステムの開発でできた成果物はあくまでもプロトタイプであり、リリースはしません。一方、アジャイル開発は、分割した機能が開発できた段階でリリースします。
プロセスの柔軟性
スパイラル開発は、設計、開発、テスト、評価の各フェーズを繰り返して開発を進めますが、フェーズの順序は一定です。一方、アジャイル開発は、顧客の要望や状況に応じてプロセスの順序や内容を柔軟に変更できるようになっています。
プロジェクトメンバーの役割分担
スパイラル開発では、開発の各フェーズに対応するチームが専門的な役割を担当するため、メンバーの役割分担が明確に別れていることが一般的です。一方、アジャイル開発では、プロジェクトメンバー全員が柔軟に役割を変更し、プロジェクトの進行状況に応じて柔軟に対応できるようになっています。
ドキュメンテーションの重要性
スパイラル開発では、ウォーターフォール開発ほど緻密な内容ではなくとも、開発の各フェーズでのドキュメンテーションが重視されています。一方、アジャイル開発では、動作するシステム自体を開発することが最優先であり、ドキュメンテーションは必要最小限にとどめられる傾向にあります。
開発チームと顧客の関係性
スパイラル開発では、顧客とのコミュニケーションが重視されているものの、顧客と開発チームの関係性は比較的フォーマルです。一方、アジャイル開発では、顧客と開発チームが密接に協力して、システム開発を進めていくことが重要視されています。
このように、スパイラル開発とアジャイル開発では開発を反復する点では共通しますが、思想が異なることでリリースのタイミングや重視する点が異なります。ただし、目的は異なるものの相反するものではないため、スパイラル開発の初期にアジャイル開発を取り入れるなど、ハイブリット型の開発もあります。
スパイラル開発は、仕様変更に対する柔軟性と高品質な開発の実現が特長の開発手法です。ウォーターフォール開発では手戻りのリスクが大きい場合や、スピードよりも品質重視でアジャイル開発は向かない場合には積極的に検討してみてはいかがでしょうか。

