クラウド導入は企業にとって欠かせない戦略の一つとなっています。
特に、スモールビジネスやスタートアップにとっては初期投資の削減やリソースの最適化が可能です。
しかし、クラウド導入にはセキュリティ、データプライバシー、移行プロセスの管理など、考慮すべきポイントが多々あります。
本記事ではクラウド導入による業務効率化について、実践的なアプローチと重要な考慮事項を交えて解説します。
小中規模プロジェクトを中心にSEやコンサルとして活動。クラウド導入やスタートアップ、新規事業開拓の支援も経験しました。
クラウド導入できるシステムやサービス

クラウドサービスにより、システム基盤、アプリケーション、データ管理、エンドユーザー環境、セキュリティ、データ分析など、ITの多くの領域をクラウド上で実現できます。様々なニーズに合わせて最適なクラウドサービスを組み合わせていくことが重要です。
代表的なものを紹介します。
サーバインフラ
- Web/APサーバー
- DBサーバー
- メールサーバー
- DNS/DNSサーバー
オンプレミスのサーバーをクラウド上に置き換え、サーバーリソースをクラウドから調達することができます。Webサーバー、データベースサーバー、アプリケーションサーバーなどがクラウド上で構築可能です。サーバー自体や、ストレージ、バックアップ環境などをクラウドで利用できます。
アプリケーション
- Office 365のようなOfficeアプリ
- CRM/ERPなどビジネスアプリ
- コラボレーションツール
- 開発IDE/ツール
SaaSと呼ばれるクラウドベースのアプリケーションサービスが増えています。Officeツールはもちろん、大手ITベンダーの提供するクラウドアプリ、セキュリティソフトなどさまざまなアプリケーションをサブスクリプションモデルで利用できます。
データストレージ
- ファイル/オブジェクトストレージ
- データレイク/データウェアハウス
クラウドストレージサービスを利用することで、データのアーカイブ管理やバックアップ管理をクラウド上で行えます。データのライフサイクル管理などにも活用できるでしょう。
デスクトップ仮想化
- 仮想デスクトップ
- DaaS
クラウドリソースを活用して仮想デスクトップ(VDI)環境の構築やデスクトップをクラウドからサービスとして提供(DaaS)することができます。
どのデバイスからでもクラウド上の仮想デスクトップにアクセスできます。
社内ネットワーク
- ハイブリッドクラウド
- VPN/ネットワーク仮想化
クラウド上のリソースを社内LANや既存システムと統合して、クラウドに構築されたリソースを社内ネットワークの延長線上で利用できます。
セキュリティ対策
- メールセキュリティ
- WAF/IPS
- IDaaS
メールセキュリティ対策やWeb閲覧ポリシー、マルウェア対策など、様々なセキュリティ製品やサービスをクラウドから調達できます。
データ分析
- ビッグデータ分析
- BIツール/データ可視化
- AIサービス
ビッグデータ解析プラットフォームやAI分析ツールなどデータ分析環境もクラウド上に構築可能です。パフォーマンスとコストの両面からクラウドでの運用が有利な場合があります。
クラウド導入のメリット

クラウド導入はコストメリット、スピード、業務効率化、セキュリティ強化において大きな価値を生み出します。企業はクラウドを最大限活用することで、IT活用のイノベーションを加速させることができます。
それでは、詳しく解説します。
コスト削減ができる
クラウドでは、従来の自社システム構築時に必要だった、サーバー機器や施設の調達、人件費などの大掛かりな初期投資が不要になります。
クラウドベンダーが提供するパブリッククラウドサービスを利用するため、構築費用を大幅に抑えられます。
また、ランニングコストについても、利用した分の料金を支払うだけで済むため、無駄なリソースを保有する必要がありません。
従量課金制のものが多いため、業務量の増減に合わせてリソースを柔軟に調整できます。過剰なリソースを抱えずに済むので、コストを最適化できるメリットがあります。
迅速なシステム構築・導入ができる
クラウドサービスはインターネット経由で利用できるため、自社システムを新規に構築する場合に比べ、システム導入までの期間を大幅に短縮できます。短期間でサービスをリリースすることが可能です。
また、業務拡大などでリソースの増強が必要になった場合も、クラウド上でスピーディーにリソースの追加や割り当てができます。
従来のようにハードウェアを物理的に用意する必要がないため、ビジネスの機動力が大きく向上します。
業務の効率化ができる
クラウドベンダーが専門家集団によってシステムの管理・運用・保守を担ってくれるため、企業のIT部門の業務負荷が軽減されます。IT人材を他の事業部門に振り分け、本業に専念できるようになります。
また、クラウドサービスはインターネットさえあれば場所を選ばずにアクセスできます。
この特性を生かし、社員がリモートワークをしやすくなり、働き方改革の推進にも貢献できます。業務のモビリティが大きく向上します。
セキュリティ強化ができる
クラウドベンダー企業には専門のセキュリティ技術者集団がおり、高度なセキュリティ監視や対策を行っています。ウイルス対策や最新の脅威への即応体制なども整っているため、自社運用に比べてはるかに高いセキュリティ水準を期待できます。
さらに、クラウドではデータをベンダー側のセキュリティの高い施設に保管できます。システムダウンや災害発生時のデータ損失リスクも軽減されます。
セキュリティ強化とともに、事業継続性の確保にも貢献します。
クラウド導入のデメリットと解決策

クラウドにはさまざまなリスクが存在します。リスクを認識し適切な対策を講じることで、クラウドの恩恵を最大限に生かすことができます。
企業はクラウドのデメリットも考慮し、自社に最適な形でクラウドを活用していくことが求められます。
ランニングコストがかかる
クラウドは従量課金制や継続的な課金が必要な場合が多いため、ランニングコストが発生し続けます。長期的にコストが高くつく可能性があります。
対策としては、適切なリソース計画と最適化を行い、無駄なリソース利用を抑えることが重要です。オンプレミスとのハイブリッド運用で柔軟にコストを調整するのも一つの方法です。
ベンダーロックインが起こる

ベンダーロックインとは、特定ベンダーのクラウドサービスに依存してしまうことです。
ベンダーロックインが起こると、移行が困難になるロックイン状態に陥るリスクがあります。
対策としては、オープンな標準規格に基づくサービスの利用、マルチクラウドの活用、データポータビリティ確保などが有効です。クラウド間のポータビリティを確保することが肝心です。
セキュリティリスクがある
クラウドはインターネット経由で利用するため、セキュリティリスクが存在します。不正アクセスや情報漏洩の危険性があります。
- 通信経路上での情報傍受のリスク
- サイバー攻撃を受けるリスク
- クラウド内部でのデータ漏えいのリスク
- クラウド側の不備や人的ミスによるセキュリティインシデント
対策としては、ベンダーのセキュリティ体制を確認し、自社でも厳格なアクセス制御や暗号化などを行う必要があります。セキュリティ監査にも力を入れましょう。
データの所在が不明確になる
クラウド上のデータ所在が不明確になるリスクがあり、データ管理が難しくなる可能性があります。
特にパブリッククラウドの場合、データがどこに保管されているかが不明確になることがあります。複数のデータセンターに分散されていたり、ベンダー側の裁量で移動したりする恐れがあります。
このため、データの収集ルール、データ保存場所の制限、データ消去ルールなどを明確にする必要があります。ベンダーとのデータ管理ポリシーを詳細に決めることが重要です。
また、プライバシーや法規制の観点からデータの国外移転にも注意を払わなければなりません。
ネットワーク環境への依存
クラウドはインターネット回線に完全に依存しているため、回線障害時にシステムが利用できなくなるリスクがあります。回線切断によるサービス停止は、ビジネスに甚大な影響を及ぼします。
このため、通信回線の二重化や多重化、WANアクセラレーション、キャッシュサーバーの活用などで回線を安定させる必要があります。
また、ミッションクリティカルなシステムについてはオンプレミス環境との連携や非常用バックアップ体制を整備しておく必要もあります。
クラウド導入の進め方

クラウド導入の進め方を解説します。クラウド導入は以下の4ステップを適切に実施し、継続的に改善を行うことで成功するものです。
- 計画・準備
- 設計・構築
- 運用・保守
- 継続的な改善
段階を踏みながら、組織文化や業務プロセスの変革も伴うことを認識し、全社的な取り組みとして推進しましょう。
進め方1. 計画・準備
計画・準備段階では、まず組織のニーズと目標を明確に定義することから始めます。
現在のIT環境を詳細に分析し、クラウド移行によって得られる利点と直面する可能性のある課題を特定します。この段階では、適切なクラウドサービスプロバイダーを選択することも重要です。
AWS、Microsoft Azure、Google Cloud Platformなど、各プロバイダーの特徴を比較検討し、自社のニーズに最も適したものを選びましょう。
また、移行するアプリケーションやデータの優先順位付けを行い、段階的な移行計画を立てます。セキュリティとコンプライアンスの要件も慎重に検討し、必要な対策を計画に組み込みます。
進め方2. 設計・構築
設計・構築段階では、選択したクラウドプラットフォーム上で新しい環境を構築します。
ここでは、スケーラビリティ、セキュリティ、可用性を考慮したアーキテクチャを設計します。必要に応じて、既存のアプリケーションをクラウド環境に適したものに再設計または最適化しましょう。
データの移行方法を決定し、テスト環境を構築してパフォーマンスやセキュリティの検証を行います。この段階では、自動化ツールを活用して効率的な構築とデプロイメントを実現することが重要です。
また、ユーザーやIT部門向けのトレーニングプログラムを準備し、新しい環境での操作方法や管理手順を習得させましょう。
進め方3. 運用・保守
運用・保守段階では、構築したクラウド環境の安定的な運用を維持します。
監視ツールを導入し、パフォーマンス、可用性、セキュリティの継続的なモニタリングを行います。インシデント対応プロセスを確立し、問題発生時に迅速に対処できる体制を整えましょう。
定期的なバックアップとディザスタリカバリ計画の実施も重要です。
また、クラウドリソースの使用状況を常に把握し、コスト最適化を図ります。セキュリティパッチの適用やソフトウェアのアップデートなど、日常的なメンテナンス作業も確実に実施しましょう。
進め方4. 継続的な改善
継続的な改善段階では、クラウド環境の利用状況や性能を定期的に評価し、最適化できないかを考慮します。
新しいクラウドサービスや機能が登場した際には、それらと現行のクラウドサービスを比較検討します。ユーザーからのフィードバックを積極的に収集し、サービス品質の向上に活かしましょう。
また、業界の動向や最新のセキュリティ動向を常に把握し、必要に応じて環境を更新します。
コスト効率を定期的に見直し、不要なリソースの削除や適切なインスタンスタイプの選択などを通じて、継続的なコスト最適化を図りましょう。
クラウド導入支援企業・サービスの選び方

クラウド導入は単なる技術的な移行ではなく、組織全体の変革プロセスです。ポイントを踏まえて戦略的に取り組むことが、成功への近道となります。
明確な目的意識を共有する
明確な目的意識を共有することは、クラウド導入プロジェクトの成功には大切です。
組織全体でクラウド導入の目的と期待される効果を明確に理解し、共有しましょう。これには、コスト削減、業務効率化、スケーラビリティの向上、イノベーションの促進など、具体的な目標を設定することが含まれます。
経営層から現場の従業員まで、全ての関係者がこの目的意識を共有することで、プロジェクトの方向性が明確になり、各自の役割と責任が明確になります。
従業員の教育・訓練を徹底する
従業員の教育や訓練を徹底することも、クラウド導入の成功に大きく貢献します。
クラウド技術は急速に進化しており、多くの従業員が新しい概念や技術を学ぶ必要が出てきます。
クラウドの基本概念だけではなく、セキュリティ考慮事項、新しいツールやプラットフォームの使用方法などを学ぶ機会を提供しましょう。
オンライントレーニング、ワークショップ、ハンズオンセッションなど、様々な形式を組み合わせることが効果的です。
また、継続的な学習により、従業員が最新の技術動向や活用方法を常に学び続けられる環境を整えることも重要です。
クラウド導入支援サービスを活用する
クラウド導入支援サービスを活用することは、特に初めてクラウドを導入する組織や、複雑な移行を行う場合に非常に有効です。
これらのサービスは、クラウドプロバイダー自身や専門のコンサルティング会社によって提供されており、豊富な経験と専門知識を活用することができます。
支援サービスは、初期の戦略立案から具体的な移行計画の策定、実際の移行作業、そして導入後の最適化まで、プロジェクトの全段階をカバーします。
専門家のアドバイスを受けることで、初歩的なミスを避けることができ、経験に基づいた効率的な導入が可能になります。
また、組織固有の課題に対しても、カスタマイズされたソリューションを提案してもらえるメリットがあります。
クラウド導入を成功させるポイント

クラウド導入は比較的新しく、自社で経験を積むことが簡単ではありません。
しかし、ポイントを押さえつつ外部の知見を取り入れながら、全社的な取り組みを進めることで、確実に導入を成功に導くことができるでしょう。
明確な目的意識を共有する
クラウド導入の目的や期待される効果を経営層と現場の双方で明確に共有しておくことが大前提です。
コスト削減なのか業務効率化なのか、狙いを明確にし、全社的な理解と合意形成を図る必要があります。
目的意識が曖昧だと、途中で方向性を見失ったり、現場の協力が得られなくなる恐れがあります。
従業員の教育・訓練を徹底する
クラウドは従来の IT インフラとは異なる概念を多く含むため、従業員への教育が欠かせません。
管理者層に対してはクラウドの知識や新しい運用プロセスの訓練、一般ユーザー層に対してはクラウドサービスの利用方法の研修など、役割に応じた十分な教育と訓練を実施することが求められます。
教育不足が運用トラブルや生産性低下の原因にもなりかねません。
クラウド導入支援サービスを活用する
クラウド移行は高度な専門性が必要とされ、自社のみの人的リソースでは不足する可能性が高いでしょう。
そこで、クラウドベンダー提供の移行支援サービスや、専門のクラウドコンサルティング会社のサービスを活用することが賢明です。
外部の専門家から助言を受けながらプロジェクトを進めることで、過去の失敗事例や最新のベストプラクティスを参考にできます。
クラウド導入の企業事例

それでは、ここからは具体的な事例を見ていきましょう。クラウドを導入する際の参考にしてください。
医療法人社団ときわ

医療法人社団ときわでは、オンプレミスのRPAを運用していましたが更新期限が迫ったタイミングでクラウド化を検討しました。
AWSとの他のクラウドサービスを比較検討し、AWSの導入を決定。課題からの提案、要望への柔軟性、他社との円滑なコミュニケーションがベンダー選択のポイントだったそうです。
AWSとギガらくVPNを導入し、クラウド導入後は、情報システム部がいなくともAWSを無事導入・運用ができるようになりました。
ネットワークやAWS、RPAの知識が身に付いたことも、社内のノウハウとして役立っています。今後もICTやクラウドを活用し、さらなる業務効率化を目指していることのことです。
プリモ・ジャパン株式会社

プリモ・ジャパン株式会社は、従業員の増加に伴う給与業務の負荷増大や法改正への対応の必要性、システム運用負荷の軽減を目的に、人事給与システムの導入を検討していました。
これまで利用していた従来の人事給与システムでは、従業員数の増加時に給与計算など手作業の負荷が高まる課題がありました。また、マイナンバー制度をはじめとする将来の法改正への対応へも不安な声がありました。
そこで、クラウドサービスの「ProActive for SaaS」の導入を決定。データが一元管理され、様々なレイアウトでのレポート作成が効率化し品質の向上ができました。
これまで必要だった運用管理のコストが削減され、TCO(総所有コスト)の低減を実現しました。
株式会社タダノ

株式会社タダノではオンプレミス環境からクラウド移行を検討していたが、全面移行では運用環境の変化による学習コストが課題でした。
そこで、ベンダーは既存VMware環境をVMware Cloud on AWSに移行することを提案。
結果として、大規模移行の工数を削減しながら、高いスピード感と信頼性を実現し、スムーズな移行を可能にしました。また、ハードウェア管理運用コストも抑制できたとのことです。
プラットフォームの長所短所を考慮した提案が、DX実現につながった成功事例です。
まとめ:クラウド導入は専門家に相談を

クラウドの良さを最大限に活かすためには、導入から運用までを通して専門家の支援を受けることがおすすめです。
クラウド導入では、効率化や品質向上など受けられるメリットがたくさんあります。しかし、技術的な観点からぴったりのサービスを選ぶことや、効果的な運用には専門家の知見が欠かせません。
専門家に相談し、安全で効率的なクラウド活用を実現しましょう。
もし、クラウドサービス導入を検討されている方、連携など含めた開発環境や技術選定など課題をお持ちの方はぜひ一度Jiteraまでご相談ください。









