急速なIT技術の発達によりビジネスの変化は激しさを増していき、ソフトウェア開発に対する要求も多岐に渡り、常に変化への対応が求められています。
ソフトウェアの開発手法のなかでも、アジャイル開発とスクラム開発は急な要求や変化に柔軟に対応でき、効率的なソフトウェア開発が可能になる手法として知られていますが、その違いを明確に理解することはプロジェクトを成功に導くために必要です。
この記事では、それぞれの手法の特徴、適用シーン、選択基準について詳しく解説します。
アジャイル開発とは?
アジャイル開発は、迅速なシステム構築が可能で、急な仕様変更や顧客からの要望にも対応しやすい開発手法として注目されています。
顧客のニーズにいち早く応え、より満足度の高いシステム開発を行えるアジャイル開発はどのようなものなのでしょうか?
ここでは、アジャイル開発の基本や背景、開発を進める上での基本的な流れについて解説していきます。
アジャイル開発の基本
アジャイル開発は、ソフトウェア開発手法の一つで、機能単位で開発とテストを繰り返すことで、より早いスピードで機能をリリースできます。
従来の「要件定義→設計→開発→テスト→リリース」をすべての機能単位で行うウォーターフォール開発とは違い、システム全体から優先度の高い機能順に開発できるため、サービスインの時間を短縮できます。
また、開発途中の仕様や要件の変更に柔軟に対応ができる点もメリットの一つで、顧客の要望をすばやくシステムに反映し、満足度の高いソフトウェア開発を行えることも特徴の一つです。
アジャイル開発の目的
アジャイル開発の考え方が生まれたのは、2001年にアメリカのユタ州に集まった17人の技術者により議論されたことが始まりです。
その議論の中で、「アジャイルソフトウェア開発宣言」という文書がまとめられ、ソフトウェア開発において何を価値とするかについて記されています。
以下にアジャイル開発において何を価値とするか、文書の一部を抜粋してご紹介します。
- プロセスやツールよりも個人と対話
- 包括的なドキュメントよりも動くソフトウェア
- 契約交渉よりも顧客との協調
- 計画に従うことよりも変化への対応
(引用元:アジャイルソフトウェア開発宣言)
この宣言では、従来の開発のようなプロセスやドキュメント、契約交渉や計画遵守より、個人や顧客と対話・協調し、顧客の要求の変化に対応しながら動くソフトウェアを作ることに重きを置くことを提言しています。
このように、アジャイル開発は何よりも顧客のニーズを最優先としながら、より効率的に素早いサイクルで開発を進め、顧客に対する価値を提供することを目的としていることが分かります。
アジャイル開発の流れ
アジャイル開発の流れとしては以下の通りです。
- リリース計画
- イテレーション(1サイクルの開発)を実施する
- 成果物をリリースする
まずは、開発を進める機能ごとにいつまでにリリースするか、開発の期間や作業量などの計画を立てます。
リリース計画に含める要素としては以下の4つがあります。
- プロジェクト全体のゴール設定
- イテレーション(1つの開発サイクル)の期間
- ベロシティ(作業量)の算出
- リリースする機能の優先順位付け
リリース計画を策定したら、計画に基づいてイテレーションを実施します。
イテレーションとは要件定義~テスト、リリースまでの1回の開発サイクルのことで、1回のイテレーション終了ごとに成果物をリリースし、その後のフィードバックや修正は次のイテレーションで実施します。
このように、計画された開発サイクルを高速で回し、システムを完成に近づけていくことがアジャイル開発の基本的な流れです。
スクラム開発とは?
アジャイル開発とよく比較される開発手法として、スクラム開発も有名です。
スクラム開発はアジャイル開発の一種と言われており、迅速なシステム開発と、仕様変更に柔軟に対応できる点では似通っていますが、スクラム開発にしかない特徴もあります。
ここでは、スクラム開発の目的や開発の基本的な流れについて解説していきます。
スクラム開発の基本
スクラム開発とは、少人数のチームに分かれて短期間の開発サイクルを繰り返すフレームワークのことで、アジャイル開発の手法の一つとして知られています。
スクラム開発には少人数のチームに分かれ、コミュニケーションを密接に取りながら開発を進めるという特徴があり、「誰が、何を、いつまでにやるべきか」という観点に立って役割・タスクを振り分け、それぞれがタスクを完了することで開発が進んでいきます。
スクラム開発はその名の通り、チーム全体で1つになって開発を進めるため、チームワークやコミュニケーションを重視する開発手法です。
スクラム開発の目的
スクラム開発の語源はラグビーの「スクラム」からきており、チームメンバー全員がコミュニケーションを取り合いながら協力し、顧客にとって価値ある開発を進めることを目的としています。
目的を達成するため、スクラム開発では「透明性」「検査」「適応」の3つの柱をもとに設計されています。
3つの柱 | 内容 |
透明性 | プロダクトとプロセスの経過と成果を全員に見えるようにする |
検査 | 開発しているプロダクトで顧客が望む成果が得られるか、開発プロセスに無駄がないかを確認する |
適応 | プロダクトの不具合を修正したり、開発プロセスの無駄を省くための施策を実行する |
スクラム開発では透明性の確保のため、毎日チームメンバーとのミーティングを開催しており、課題があればメンバー全員に共有されるため、プロダクトやプロセスを検査し、次回の開発プロセスで素早い修正が実現できます。
この3つの柱を実践することで、開発の無駄の発見や改善を継続的に実施でき、スクラム開発の本来の目的である顧客に対して価値のあるシステムの構築につながるため、しっかり理解しておくと良いでしょう。
スクラム開発の流れ
スクラム開発では、「スプリント」と呼ばれる一つの開発サイクルを繰り返すことにより、システム開発が進んでいきます。
基本的な開発の流れとしては以下です。
- スプリントプランニング(計画)
- デイリースクラム
- スプリントレビュー
- スプリントレトロスペクティブ
まずは、スプリントを実行する際の計画を立てます。
ここでは、開発する機能を優先順位をつけてリスト化し、作業工数や見積もりを明確にすることが目的です。
スプリントの計画後に各メンバーにタスクが割り振られ、スプリントが開始されます。
スプリント中は、1日15分程度行われるデイリースクラムと呼ばれるミーティングで、前回からの作業進捗や課題をチーム内で共有します。
開発終盤にはスプリントレビューを行い、成果物が要件を満たしているか確認します。
場合によってはステークホルダーに参加してもらい、さまざまな視点から成果物を評価してもらうこともあるでしょう。
最後にスプリントレトロスペクティブと呼ばれる、実行されたスプリントの振り返りを行うことで、チーム内の改善点を次回のスプリントへ活かしていきます。
アジャイル開発とスクラム開発の違いは?
スクラム開発はアジャイル開発の考え方より生まれた開発手法の一種であり、開発に対する考え方も似通った部分もありますが、それぞれの開発手法には違いもあります。
2つの開発手法の違いをおさえておくことで、どちらの手法がよりプロジェクトにとって適切なのかを判断できるようになるでしょう。
ここでは、アジャイル開発とスクラム開発の違いを解説し、それぞれの開発手法のメリット・デメリットについても解説していきます。
プロジェクト管理におけるアプローチの違い
アジャイル開発とスクラム開発では、プロジェクト管理におけるアプローチが異なり、特にフィードバックや改善の取り組みには明確な違いがあります。
アジャイル開発の場合は、顧客のニーズを最大化する考え方が強く、開発を進めていく中で顧客のフィードバックを常に成果物に反映します。
顧客を中心としたアプローチを取りながら開発を進めていくことで、最終的な成果物を顧客の求めるものに近づけます。
一方で、スクラム開発ではチーム内の連携やパフォーマンスを重視しています。
スクラム開発ではスプリントレビューを行い、顧客からのフィードバックを反映させるだけではなく、スプリントの終わりにはチーム内のパフォーマンスの評価を行い、改善点を次のスプリントへ活かしていきます。
以上のことから、プロジェクト管理のアプローチにおいては、アジャイル開発は「顧客重視」、スクラム開発では「チーム連携重視」であることが分かります。
チーム構成と役割分担の違い
チーム構成や役割分担についても、それぞれ違いがあります。
アジャイル開発では、少人数で構成されたチームメンバーが自立して開発を進めます。特定の役職に縛られないため、必要に応じて様々な役割を担うことになり、メンバー全員が共通の責任を負うことで一体感を持って開発を進めます。
一方でスクラム開発では、開発メンバーの役割や責任が明確に定義されていることが特徴です。
スクラム開発は3つの役割で構成され、主な責任としては以下です。
役割 | 責任範囲 |
プロダクトオーナー | プロダクトバックログの作成や管理、開発の優先順位付けなどを実施する |
スクラムマスター | チームメンバーがスクラム開発のフレームワークに沿った活動を行えるようにサポートする |
開発メンバー | プロダクトの開発メンバー。スプリントバックログに従い開発を実施する |
このようなチーム構成や役割分担の違いは、プロジェクトの動きにも影響します。
アジャイル開発では、チーム全員が役割や課題感を共有することで、より一体感を持って開発を進められるのに対し、スクラム開発では、誰が何をすべきかがはっきりしているため、タスク管理が容易になるメリットがあります。
向いているプロジェクトの違い
アジャイル開発とスクラム開発では、開発手法の違いから向いているプロジェクトにも違いがあります。
開発手法 | 向いているプロジェクト |
アジャイル開発 | 要件の全体像が定まっていないプロジェクト
開発途中の機能の優先度が変更になる可能性のあるプロジェクト |
スクラム開発 | 納期よりも品質を優先するプロジェクト
要件がある程度固まっていて、必要な作業がタスク化できるプロジェクト |
アジャイル開発は要件の全体像が不確定で、都度仕様の変更が発生するプロジェクトに向いています。
プロジェクトの全体像が見えなくても欲しい機能だけに集中して開発を進められる点や、開発における仕様変更が発生しても、アジャイル開発であれば柔軟に対応できます。
一方で、スクラム開発ではメンバーに具体的な役割を与え、プロダクトバックログにて開発する機能の優先順位をつけながら開発していくため、プロジェクトの目標が明確で、必要な作業がタスクとして定義できるプロジェクトに向いています。
アジャイル開発のメリット・デメリット
アジャイル開発を行うメリットとしては具体的に以下のようなものが挙げられます。
- 高速な開発が可能
- 不具合による手戻りが少ない
- 顧客満足度の高い開発を行える
アジャイル開発では小さい機能単位で開発を進めていくため、短期間で高速な機能のリリースができ、不具合やバグが発生した場合でも手戻りが少なく済むことが大きなメリットです。
また、開発サイクルごとに顧客からのフィードバックを取り入れるため、常に顧客の要望に沿ったシステム開発が可能となり、顧客満足度の高い開発を行なえます。
一方で、デメリットとしては以下のようなものがあります。
- スケジュール管理が難しい
- 開発の方向性がブレる可能性がある
アジャイル開発は仕様変更に柔軟に対応できますが、仕様変更が多くなると、全体的な開発スケジュールが伸びたり予算が想像以上にかかる場合があります。
また、顧客からのフィードバックを何度も取り入れているうちに、当初の開発目的を見失いやすく、システムとしての方向性がブレてしまう可能性がある点もデメリットの一つです。
このようなデメリットを緩和するためには、定期的な開発スケジュールの振り返りが必要です。
スクラム開発のメリット・デメリット
スクラム開発を採用するメリットは以下のようなものがあります。
- 進捗状況が把握しやすい
- 仕様変更に柔軟に対応できる
- 工数の見積もりがしやすい
スクラム開発ではチームメンバーとのコミュニケーションを密に行うことを重視しており、1日15分のデイリースクラムで毎日進捗状況や課題を共有するため、一人ひとりの進捗状況を確認しやすい点が大きなメリットです。
また、スクラム開発は小さい機能毎にスプリントという単位で開発を進めていきます。急な仕様変更が発生した場合でも、次のスプリントに反映して柔軟な対応が可能なうえ、作業工数の見積もりについてもスプリントごとに行われるため、より正確な工数や費用を把握できます。
一方で、以下のようなデメリットも存在します。
- 高い技術力が必要
- コミュニケーション能力の考慮が必要
スクラム開発では、少人数のチームで短期間で開発を進めていく必要があるため、短い納期に対応できるだけの高い技術力やコミュニケーション能力が求められます。
どちらが欠けていても開発の妨げとなってしまう恐れがあるため、メンバー選定の際には技術力やコミュニケーション能力などを総合して見極めなければならない点がデメリットになることもあります。
アジャイル開発とスクラム開発を選ぶ際のポイント
プロジェクトの立ち上げ時に適切な開発手法を選ぶことはプロジェクト成功への大きな要因となります。
アジャイル開発とスクラム開発はシステム開発を効率的に行える開発手法ですが、採用するプロジェクトによってはかえって逆効果にもなりかねないため、プロジェクトの特性やチームの状況をよく見極めた上での判断が大切です。
このセクションでは、プロジェクトに最適な開発手法を選択する際の基準について解説します。
プロジェクトの規模と複雑性
まずは開発プロジェクトの規模や複雑性を確認しましょう。
アジャイル開発やスクラム開発では、少人数による高速な開発を行うため、開発規模が大きいプロジェクトや、関係するメンバーとのコミュニケーションが複雑化するプロジェクトには向いていません。
例えば、既存システムと連携するサービス開発や、インフラや官公庁といった大規模システムの構築などでは、開発スケジュールの管理やコミュニケーションが複雑化しやすいため、この場合はウォーターフォール開発が向いています。
アジャイル開発やスクラム開発のような、開発の自由度が高く、コミュニケーションを重視する手法の場合は、5人から多くても10人前後で進められる規模のプロジェクトが最適です。
例えば、Webアプリの開発や、新システムの立ち上げといったプロジェクトは、小規模~中規模かつ組織体系もシンプルなため、アジャイル開発やスクラム開発が向いているケースが多くあります。
ステークホルダーとの関係
アジャイル開発やスクラム開発では、発注側であるステークホルダーとの協力関係が必要不可欠です。
ウォーターフォール型開発では、発注側のステークホルダーは、プロジェクト立ち上げ時から要件定義までは密接に関わることが多いですが、開発からテスト、リリースといった工程には関与しないことが多くあります。
しかし、アジャイル開発やスクラム開発では、細かい要件を決めずに開発へと進んでいくため、より顧客の要求に合ったプロダクトの開発には発注側も含めたステークホルダーによる継続的なフィードバックが必要です。
そのため、ステークホルダーがアジャイル開発やスクラム開発に理解を示したうえで、開発側へのフィードバックに積極的に参加してもらえる関係を築ければ、アジャイル開発やスクラム開発をスムーズに進められるでしょう。
チームの経験と専門性
アジャイル開発とスクラム開発を行う上で共通していることは、チーム一丸となって開発に取り組むことです。
短期間かつ少人数で開発を進めるため、チームメンバー間でのコミュニケーションが円滑に行えるか、協力し合える雰囲気が醸成できているかといったチームとしての経験が何より重要です。
また、各開発メンバーの専門性も確認が必要です。
アジャイル開発では、各メンバーが要件定義、設計、開発、テストといった工程を行う可能性があるため、上流から下流工程までの業務経験を持っていることが必要です。
スクラム開発では、高い専門性を持っていることはもちろん、スクラムマスターやプロダクトオーナーといった、技術面だけではない知識や経験も必要となるため、メンバー選定の際には考慮しましょう。
このように、チームとしての経験と各メンバーの専門性を総合してより適切な開発手法を判断する必要があります。
要件定義について詳しく知りたい方は、以下関連記事もご参照ください。
予算と開発スケジュール
予算と開発スケジュールについても従来のウォーターフォール型の開発手法とは考え方が異なります。
ウォーターフォール型では、予算や開発スケジュールを要件定義時に計画してから開発に入ることが一般的です。
基本的に計画の遅れは許されないため、システム全体にかかる工数や費用を細かく見積もることが求められます。
しかし、アジャイル開発やスクラム開発では、システムを構成する機能単位で開発を繰り返し行うため、予算や開発スケジュールも機能単位で見積もれます。
そのため、最低限の機能をスモールスタートするような新規事業の立ち上げプロジェクトなどでは、低コストかつ短い期間での開発も可能です。
ただし、要件変更が多くなりすぎると、ウォーターフォール開発より高額となってしまう可能性もあるため、機能要件についてはできるだけ明確化し、精度の高い見積もりを行うようにすると良いでしょう。
アジャイル開発とスクラム開発のまとめ
アジャイル開発やスクラム開発は、従来の開発手法とは違い、ソフトウェア開発をより柔軟かつ効率的に行うための手法です。
それぞれの開発手法には目的や特徴、メリット・デメリットをおさえた上で、自社のプロジェクトに最適な開発手法かどうかを判断する必要があります。
また、すべてのプロジェクトにアジャイル開発やスクラム開発が適するとも限りません。
プロジェクトの特性やチームメンバーやステークホルダーとの関係性などに左右される場合もあるため、本記事を参考にしてプロジェクトの成功に最も貢献できる開発手法を選択するようにしましょう。
システム開発の経験が少ない場合は、要件定義やプロジェクトに適した開発手法を選択することが難しいこともあるのではないでしょうか。
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