「ニアショア開発」とは、主に都市部の企業が地方のパートナー企業にシステム開発を依頼する手法です。
一方、「オフショア開発」は、国内企業が海外の企業、例えば中国の企業に業務を外注することを言います。
これらの手法は、特に人件費削減を目的として採用されますが、オフショア開発では言語や文化の違いによるコミュニケーションの障壁が課題となることがあります。
この記事では、ニアショアとオフショアの開発のメリットとデメリットについて検討し、成功するためのポイントを解説しましょう。
ニアショア開発とは

ニアショア開発について説明します。
ニアショア開発とは、地理的に離れた日本国内の別の場所にあるオフィスにシステムやソフトウェア開発の仕事を外注することです。
例えば、東京や大阪などの都市圏の企業が、コスト削減のために人件費の低い九州や東北の地方企業に開発業務を委託するケースがこれに該当します。
このアプローチは、特に開発コストを抑えつつ、国内での業務遂行を可能にするというメリットがあります。
ニアショア開発のメリット

ニアショア開発のメリットを説明します。
コスト削減が可能
地方の最低賃金は都心部よりも一般的に低く設定されており、これが人件費を削減するメリットとなっています。
さらに、地理的に近い企業間では、海外の業者に比べて従業員の移動が容易で、交通費も抑えられます。
そのため、ニアショア開発は、発注先次第でコスト削減が可能な手法と言えるでしょう。
コミュニケーションが円滑になる
ニアショア開発のメリットは、日本人同士でやり取りできるため、コミュニケーションが円滑になる点です。これにより、求める品質レベルの認識に差異が出にくく、細かな提案や要件調整がスムーズに行えます。さらに、国内で完結するため対面での打ち合わせが容易で、密なやり取りが可能です。
また、ニアショア開発では言語やコミュニケーションの違いから生じるギャップが小さくなります。これにより、伝達の正確性が高まり、要件の詳細を詰めやすくなります。同じ文化圏にいるため、作業手順や了解事項について文化的な解釈のずれが生じにくく、相互の文化理解に基づいた円滑なやり取りが可能です。
時差の少なさによる効率性向上
ニアショア開発では、国内企業が相手であるため、時差の懸念はなく、素早い対応とフィードバックが可能です。
一方、オフショア開発では、時差の遅れがプロジェクトに影響を及ぼすことがあります。
時差の少なさはプロジェクトの効率性と成果に大きく影響するため、適切な開発パートナーの選定が重要でしょう。
その地の専門知識を活かせる
大都市圏ではIT専門家が不足している一方で、地方にはこれらの人材を確保できる可能性があります。
地方の企業が育てた人材だけでなく、Uターン、Iターンを選択したエンジニアも含まれます。
ニアショア開発を通じて、人材が豊富な地域から不足地域への人材流動が可能になり、その他の専門知識を活かせるのです。
地方には、特定の先進技術分野で卓越した実力を持つ企業や研究機関が存在します。これらの技術力を活用することで、高度なニアショアリング事業が実現できます。
地元企業・機関と連携することで、地域コミュニティとの密接な協力関係を構築できます。地域に根ざしたビジネスモデルを作り上げることが可能になります。
ニアショア開発とオフショア開発の違い
ニアショア開発とオフショア開発の違いを表で説明します。
| ニアショア開発 | オフショア開発 | |
| 発注先 | 国内 | 東南アジア |
| コスト削減 | 小さい | 大幅に削減可能 |
| コミュニケーション | スムーズなコミュニケーションができる | 言語や文化の違いによりコミュニケーションが難しい |
| 品質管理 | 開発リーダーに現場を任せやすい | コミュニケーションに起因して進捗や品質の管理が難しい |
| 時差 | なし | 時差があるため迅速な対応が難しい場合がある |
| 為替変動 | 影響を受けない | 影響を受ける |
発注先
ニアショア開発は国内の遠隔地での事業を指すのに対し、オフショア開発は、自国外の地域で行われる事業のことです。
そのため、発注先はそれぞれ異なります。
ニアショア開発の発注先は日本の地方都市を含む国内の遠隔地です。
一方、オフショア開発では、中国、インド、ベトナムなどの東南アジア諸国がよく選ばれる発注先です。
コスト削減
コストの面から見ると、オフショア開発の方が大幅に削減できます。
その理由は、インドやベトナムなどの東南アジア諸国は、日本よりも労働コストが低いため、ソフトウェア開発の費用を大きく抑えることができるからです。
一方で、ニアショア開発では、地方の企業に開発を依頼することで、都市部の企業と比べてコストを削減できますが、オフショア開発ほどの大幅な労働コストの削減は見込めないでしょう。
コミュニケーション
ニアショア開発では、開発プロジェクトを国内の地方企業に委託することで、言語や文化の違いによる障壁が生じません。
これにより、オフショア開発時に頻繁に見られるコミュニケーションの問題を回避できるため、円滑なプロジェクト進行が期待できます。
品質管理
ニアショア開発では、日本人チーム間の円滑なコミュニケーションが可能ですから、現地開発チームのリーダーに責任を委ねることができます。
一方、オフショア開発では、言語と技術の両面で高い能力を持つブリッジエンジニアが必要です。
これは、現地のリーダーに全てを任せると、コミュニケーションの障壁により、誤解や品質問題が生じる可能性があるためです。
時差
オフショア開発においては、時差により緊急の要望に即時対応が難しい場合があります。
これは言語や文化の差異に加え、地理的な距離や時間のずれを考慮したコミュニケーション戦略を必要とします。
効果的なプロジェクト運営のためには、これらの要素を踏まえたアプローチが求められるでしょう。
それに比べ、ニアショア開発では基本的な業務時間が同じであるため、よりコミュニケーションは取りやすい形態となります。
為替変動
オフショア開発では、世界の政治経済の変動が為替レートに影響を及ぼし、結果として収益性に不確実性が生じる可能性があります。
一方で、ニアショア開発は国内で行われるため、このような為替リスクから免れ、より安定した経営が期待できます。
ニアショア開発のデメリット
ニアショア開発のデメリットを説明します。
発注先の企業選定が難しい
ニアショア開発は、コスト削減やリスクの軽減など多くのメリットがありますが、適切な外注企業を見つけることが難しいという課題も抱えています。
特に人気のある地域や企業では、既に他のプロジェクトを手がけているため、スケジュールが合わない場合が多いです。
このような状況を避けるためには、複数の地域や企業を候補リストに入れておくことが重要です。
エンジニア確保が難しい
地方における人材確保の課題は、都市部と比較して顕著です。
人口が少ないため、特にエンジニアリングの分野で適切なスキルを持つ人材を見つけることが難しくなります。
これは、システム開発を必要とするプログラミング言語の専門知識を持つエンジニアが不足していることに起因しており、結果としてニアショア開発の実施が困難になる場合があります。
コストがオフショアより高い
首都圏での開発に比べ、ニアショア開発はコスト削減には有効ですが、オフショア開発と同等の節約効果は期待できません。
ニアショア開発を利用することで、首都圏での開発コストを約10~30%削減できるとされています。
一方で、ベトナムのようなオフショア開発先では、50~70%のコスト削減が見込めると言われており、近年、多くの企業に選ばれています。
技術的な差が生まれる可能性がある
外注先の企業が常に高い技術力を持っているわけでないことは、特に地方の企業において顕著です。
最新の技術トレンドに遅れをとっている可能性もあり、これは人工知能のような専門的な開発プロジェクトにおいて特に問題となります。
地方のIT企業が古い技術環境で作業を行っていることもしばしばあり、これが開発能力の低下やクライアントの要求を満たせない原因となることも少なくありません。
しかし、地方にも最新技術を駆使する優秀なエンジニアは存在し、ニアショア開発ではこれらのエンジニアが所属する企業を見つけることが成功の鍵となります。
適切な企業とのマッチングは、プロジェクトの成果を大きく左右するため、慎重な選定が求められます。
ニアショア開発を依頼する方法
ニアショア開発を依頼する方法として、主に2つあります。
ニアショア機構から探す

画像引用元:一般社団法人日本ニアショア開発推進機構
地方の企業と連携するには「ニアショア機構」を活用する方法があります。
ニアショア機構は、地域に根ざした企業とニアショア開発を望む企業をつなぐサービスです。こちらは、日本ニアショア開発推進機構という一般社団法人が運営しています。
また、無料で提供されるエンジニア調達サポートサービスもあり、ニアショア開発を考えている企業にとって非常に重要なサポートを受けることができます。
ニアショアIT協会から探す

もう一つの方法は、ニアショアIT協会を通じて探す方法です。
この協会は地方のIT企業がニアショア開発の案件を獲得するための支援を行い、地域経済の活性化を図っています。
会員になれば、他の会員企業からニアショア開発の仕事を受注することが可能です。
公式ウェブサイトで会員企業の情報を一部確認でき、協会を利用することでビジネスの幅を広げることができます。
ニアショアIT協会の公式サイト
ニアショア開発の具体的な進め方
ニアショア開発の具体的な進め方を説明します。
プロジェクト計画の立案を行う
適切なプロジェクト計画を立てるには、以下の5つのステップを順を追って検討していく必要があります。
- プロジェクトスコープの定義
- 必要な人的リソースの見積もり
- 作業スケジュールの決定
- プロジェクト費用の見積もり
- リスクアセスメントの実施
この順序通りに計画を進めることで、「何を実現するのか」「誰がどの工程を担当するのか」「いつまでに完了させるのか」「どの程度の予算が必要か」「どんなリスクがあり対策は何か」など、計画に不可欠な要素を抜けなく検討できます。
手順を逆にしたり飛ばしたりすると、後から修正が必要になる可能性が高くなります。
このステップを順守することで、手戻りのない効率的な計画策定が可能になるのです。
パートナー企業の選定
| 開発委託先選定のポイント | |
| ① 資料作成力 | システム開発プロジェクトにおいては、外部委託先が多岐にわたるドキュメントの作成を担当します。 そのため、提出される資料が正確で一貫性があり、読者に配慮した読みやすい構成か、またはストーリーに基づいた明瞭な説明がなされているかを、提案書の品質を通じて判断することが重要です。 |
| ② PM(プロジェクトマネジャー)のコミュニケーション力 | システム開発は、まだ多くの作業が人の手によって行われています。 この分野ではコミュニケーションが極めて重要であり、顧客や開発チームと効果的にコミュニケーションを取ることができるプロジェクトマネージャー(PM)は、プロジェクトの成功に不可欠です。 提案書のプレゼンテーションを行い、その中でPMのコミュニケーション能力を評価する方法は、一般的な実践です。 |
| ③ 企業自体の実力 | プロジェクトの成功は、委託先企業が提供する組織的なサポートに大きく依存します。 そのため、委託先のプロジェクトメンバーがどの程度のバックアップを受けられるかは重要な評価基準です。 また、企業の実績、蓄積された専門知識、品質管理のための体制、そしてプロジェクトの効率化を図るための標準化された作業プロセスやシステムの整備状況も、確実に把握しておくべき要素です。 |
| ④ 顧客志向 | プロジェクトの成功は、顧客と委託者が共通の目標を持ち、協力して取り組むことにかかっています。 これは、まるで同じ船に乗り、同じ方向に進むようなものです。 システムの完成だけを目指すのではなく、顧客のニーズを深く理解し、ビジネス価値を向上させるために必要な要素を見極めることが重要です。 RFPに記載されていない情報からも、企業のビジネス環境や業界の動向を読み取り、それに基づいてビジネス目標を達成するための戦略を立てる能力があるかどうかを評価することができます。 |
システム開発会社の選定は、提案された内容をどのように評価するかが鍵となります。
RFPに記載された要件と委託内容に沿ったソリューションや作業計画が提案されているか、見積もりが適正であるかは基本的な評価基準です。
しかし、リスクや困難が予想されるプロジェクトでは、より広範な視点での総合的な評価が、成功への道を切り開くために不可欠でしょう。
契約
| 契約書の項目 | 詳細 |
| 目的 | 契約の具体的な目的や内容は何か |
| 有効期限 | 結んだ契約の有効期限はいつまでか |
| 定義 | 契約書に使われている単語や言葉の定義 |
| 仕様 | システムの完成形はどのようなものか |
| 実施場所 | 業務を行う場所はどこか |
| 納期 | いつまでに何を納品するか |
| 報酬 | 具体的な報酬金額や支払い方法は |
| 不具合対応 | 納品物に不具合があった際の補償内容は |
| 権利 | 納品された成果物の権利は誰が所有するか |
契約書は、システム開発プロジェクトの基盤となる重要な文書です。
これには、製品の仕様から問題が発生した際の対応策まで、詳細にわたる取り決めが含まれています。
特に、形のないアプリケーションやソフトウェアの開発では、発注者と受注者間での認識の齟齬を防ぐために契約書が不可欠です。
これにより、契約違反を未然に防ぎ、万が一の紛争が発生した場合でも円滑に解決へと導くことができます。
システム開発の契約書は、「開発委託契約書」、「開発契約書」、「業務委託契約書」といった様々な名称で呼ばれることがありますが、その核となるのは「依頼された作業を完遂する」ことと、「納期内に成果物を提供する」という請負契約の本質です。
これらの文書は、プロジェクトの成功を保証し、双方の利益を守るためのものと言えるでしょう。
プロジェクト管理とコミュニケーション方法を決める
| プロジェクト管理ツール | 特徴 |
| HelpBoard |
|
| Agilefant |
|
| Backlog |
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| Genie Frame |
|
コミュニケーションツールの選択は、情報共有の効率性に大きく影響します。
アナログ手段では即時性に欠け、誤解を招くことがありますが、一方で高機能なITツールは使いこなすのが難しいと感じる人もいます。
このジレンマを解決するために、プロジェクト管理ツールが有効です。
これらのツールはプロジェクトの効率を高めるために設計されており、コミュニケーション管理も含まれているため、プロジェクトチームにとって使いやすい解決策となります。
ニアショア開発の成功事例

ニアショア開発は、多くの企業にとって効果的なアプローチとなっており、以下はその成功事例の一部です。これらの事例は、ニアショア開発のメリットとポテンシャルを示すものであり、ベンチャー中小企業が学び、活用するための示唆に富んでいます。
佐川急便の物流システム改善

問題点
佐川急便は老朽化した物流システムにより、バグが頻発しメンテナンスに多くの時間とコストがかかっていました。
ニアショア開発の活用
佐川急便は近隣地域にある開発会社にプロジェクトを依頼し、コミュニケーションをスムーズに行えるように頻繁に会議を実施しました。
解決の流れと結果
開発チームが既存システムの問題点を解析し、新しい物流システムを開発しました。新システムはバグが少なく操作性も向上し、メンテナンスコストが大幅に削減されました。
結果として、配送業務の効率が向上し、顧客満足度も向上しました
楽天モバイルのカスタマーサポートシステム導入

問題点
楽天モバイルは古いカスタマーサポートシステムにより対応が遅れ、顧客から不満が多く、サポート担当者の手動管理によるミスも頻発していました。
ニアショア開発の活用
楽天モバイルは国内の開発会社に新しいカスタマーサポートシステムの開発を依頼し、地方の開発チームとサポート担当者が定期的にミーティングを行い、要望や課題を詳細に共有しました。
解決の流れと結果
クラウドベースのカスタマーサポートシステムが構築され、リアルタイムでの顧客対応が可能になりました。これにより、サポート担当者の業務効率が大幅に向上し、対応ミスも減少しました。
結果として、顧客満足度が向上し、クレーム件数が減少しました。
まとめ:ニアショア開発を効果的に活用する

オフショア開発とニアショア開発は、開発コストの削減という大きなメリットがあります。少子高齢化によるエンジニア不足の深刻化や、国内開発コストの高騰などを受け、今後ますますこれらの開発手法への注目が高まると予想されるでしょう。
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