システム開発を行う際に、WBS(Work Breakdown Structure)がプロジェクト管理で用いられるケースが多くみられます。
システム開発のプロジェクト未経験の方からすれば、「WBSってなに?」「WBSは重要なものなの?」と思いませんか?
プロジェクトを成功に導くために、WBSを正しく理解することは重要です。
本記事では、システム開発におけるWBSの意味、メリットや重要性、実際の作成手順までわかりやすく解説します。
都内でITエンジニアとして4年間お仕事しています。主に組み込み系のシステム開発を行っており、お客様のビジネス拡大に貢献しています。
システム開発におけるWBSとは?

システム開発におけるWBSは、プロジェクトの各工程のタスクを詳細な単位に分解する手法で、「作業分解構成図」と呼ばれます。
細分化することで、タスクの管理や進行が効率的になります。
WBSは、要件定義からデプロイメントまでの各フェーズを詳細に整理し、プロジェクトの目的達成に必要なタスクの相関関係が一目で確認することが可能です。
そのため、プロジェクトの目的達成に必要である開発チームの方向性を統一できます。
WBS(Work Breakdown Structure)とは何か?
WBSとは、システム開発の各工程をタスクごとに分解して、プロジェクト進行に必要な全タスクを可視化することです。
文字通り「作業(Work)」を「分解(Breakdown)」して「構造化(Structure)」します。
プロジェクトを構成するための1つ1つのタスクを洗い出して可視化する方法であり、プロジェクト管理によく利用されています。
WBSは、細分化されたタスクをプロジェクトの進行する順序に並べ、図や表で可視化して作成します。
タスクを可視化することで、システム開発の各フェーズのタスクを一目で確認でき、必要なタスクの抜け漏れの防止が可能です。
システム開発におけるWBSの目的
WBSは、システム開発プロジェクトを成功に導くための重要なツールです。
その主な目的は以下の通りです。
- プロジェクトの全体像を把握するため
- タスクの漏れや重複を防ぐため
- プロジェクトに必要なリソースを把握するため
プロジェクトの全体像を把握するため
WBSを作成することで、プロジェクトを構成するすべてのタスクを洗い出し、構造化できます。
この作業をすることで、プロジェクトの全体像が明確になり、関係者全員がプロジェクトの内容を正しく理解できるようになります。
全体像を把握することは、プロジェクトを円滑に進めるための第一歩です。
タスクの漏れや重複を防ぐため
プロジェクトを細分化されたタスクに分解することで、必要なタスクの漏れや重複を防止できます。
その結果、プロジェクトの品質向上と効率化に大きく貢献することが可能です。
WBSを活用すると、すべてのタスクが明らかになり、適切な順序で実行されることも保証されます。
チームメンバーと進捗を共有する際にも便利です。
プロジェクトに必要なリソースを把握するため
WBSを作成する過程で、各タスクに必要な時間、人材、予算などのリソースを明確にできます。
例えば、システム開発プロジェクトでは、以下のように各タスクの工数を詳細に見積もれます。
- 要件定義フェーズに10人日
- 設計フェーズに20人日
- 実装フェーズに50人日
- テストフェーズに30人日
そのため、プロジェクト全体に必要なリソースを正確に把握し、適切に配分することが可能です。
リソースの最適化は、プロジェクトを成功に導くための重要な要素の一つです。
WBSとガンチャートの違い
WBSと似ている概念にガンチャートがあります。
WBSはプロジェクトに必要なタスクを細分化したものに対して、ガンチャートはそれらのタスクを棒グラフで表示したものです。
それぞれの違いをまとめたのが以下の表です。
| 項目 | WBS | ガンチャート |
| 目的 | プロジェクトの全体像を明確にする | プロジェクトのスケジュールを視覚的に表現する |
| 表現方法 | タスクを階層構造で表現 | タスクを横軸に時間、縦軸にタスクをとった棒グラフで表現 |
| 作成タイミング | プロジェクトの初期段階で作成 | WBSで分解されたタスクをもとに作成 |
| 管理対象 | プロジェクトのスコープ(範囲)を管理 | プロジェクトのタイムライン(スケジュール)を管理 |
WBSは、プロジェクトの全体像を明確にするために、タスクを階層構造で表現します。主にプロジェクトのスコープ(範囲)を管理するために使用されるのが目的です。
一方、ガンチャートは、プロジェクトのスケジュールを視覚的に表現するために、活用。タスクを横軸に時間、縦軸にタスクをとった棒グラフで表現します。
両者は、プロジェクト管理において異なる役割を果たしますが、組み合わせることで、プロジェクトの効果的な管理が可能です。
WBSの具体的な作成手順

WBSの作成手順は、システム開発の各フェーズを明確にするための作業です。
要件定義から詳細設計まで、各段階でのタスクの詳細化や設計のポイントを整理し、効果的なプロジェクト管理を実現します。
| プロジェクト名 | 親タスク | 子タスク | 作業開始日 | 作業終了日 | 担当者 |
| 〇〇プロジェクト | 要件定義 | ステークホルダーとの対話 | 1/9 | 1/11 | 田中 |
| ニーズの詳細化 | 1/12 | 1/16 | 田中 | ||
| 要件定義書の編集 | 1/17 | 1/23 | 田中 | ||
| 基本設計 | 業務フローの構築 | 1/24 | 1/31 | 鈴木 | |
| 機能概要の整理 | 2/1 | 2/8 | 鈴木 | ||
| データモデルの設計 | 2/9 | 2/16 | 鈴木 | ||
| 詳細設計 | モジュール設計 | 2/17 | 2/26 | 山田 | |
| データベースの詳細設計 | 2/27 | 3/6 | 山田 | ||
| 入出力インターフェースの設計 | 3/7 | 3/15 | 山田 | ||
| 実装 | コーディング | 3/16 | 3/22 | 山田 | |
| 単体テスト | 3/23 | 3/29 | 山田 | ||
| 結合テスト | 正常系テスト | 3/30 | 4/5 | 山田 | |
| 異常系テスト | 4/6 | 4/12 | 山田 | ||
| システムテスト | 正常系テスト | 4/13 | 4/19 | 佐藤 | |
| 異常系テスト | 4/20 | 4/26 | 佐藤 |
WBSは、以下の5つの手順で作成します。
- クライアントにヒアリング
- タスクの洗い出しと細分化
- タスクの優先度を決定
- 作業担当者をアサインする
- タスクの期日を設定
クライアントにヒアリング
初めに、プロジェクトのゴールを明確化するためにクライアントにヒアリングを行います。
ヒアリングは、クライアントの要望を抜け漏れなくシステム開発に反映し、プロジェクトを成功させるために必要です。ここで、双方が共通認識を持てるように擦り合わせてください。
システムの要件や期待を正確に把握するための対話やミーティングを行います。
クライアントに要望や期待をヒアリングした結果、プロジェクトの方向性を理解し、プロジェクトのゴールを明確にできます。
タスクの洗い出しと細分化
クライアントにヒアリングを行い、プロジェクトのゴールを明確化した後に、プロジェクト達成に必要なタスクの洗い出しを行います。
タスクの重複や漏れがないように注意してタスクの洗い出しを行なってください。
タスクの洗い出しを行うとき、大きな作業フェーズからタスクを作成していくのがオススメです。
例えば、システム開発を行うプロジェクトでは、大きな作業フェーズとして以下が挙げられます。
- 要件定義
- 基本設計(外部設計)
- 詳細設計(内部設計)
- 実装(コーディング/単体テスト)
- 結合テスト
- システムテスト
- リリース/運用・保守
上記の作業フェーズを親タスクとし、親タスクに関連付ける形で子タスクを作成してください。
例えば、要件定義は、「ステークホルダーとの対話」「ニーズの詳細化」「要件定義書の編集」などといったタスクに細分化できます。
タスクの数は、プロジェクトのゴールや管理工数を考慮して設定しましょう。
タスクの優先度を決定
細分化されたタスクの優先度を決定します。
このとき、タスクの依存関係を考えるのがポイントです。
CタスクとDタスクは相互依存関係がないことが明確な時は、同時並行で作業を進めるといったタスクの依存関係を考えます。
このようにタスクの優先度を考える中で、クリティカルパスも設定しておく必要があります。
クリティカルパスは、プロジェクトにおいて最も時間がかかり、遅延するとプロジェクト全体に重大な影響を与える作業経路のことです。
クリティカルパスをメンバー全員がわかるように記載することでプロジェクトの遅延防止につながります。
作業担当者をアサインする
細分化された各タスクに作業担当者を設定します。
1タスクに作業者1人を設定し、メンバー全員が担当作業を一目で把握できるように作業担当者の割り振りを行ってください。
作業担当者を明確にしていないと、作業の担当範囲や責任が不明確になり、タスクの重複や期限内にタスクが完了できてないといったトラブルが発生します。
トラブルが発生してプロジェクトが遅延することを防ぐためにも、各タスクごとに作業担当者を設定してください。
タスクの期日を設定
各タスクごとに作業担当者を設定した後に、タスクの期日を設定します。
タスク期日の設定は、過去のプロジェクトの期日を参考にしたり、有識者の意見を聞いたり、作業担当者と相談して決定する方法があります。
作業担当者のスキルや経験によって、タスク完了にかかる時間が異なるのでタスクの期日を決めた後に現実的にタスクを期日内に終わらすことができるかを各作業担当者に確認してください。
タスクの期日を設定した後に、メンバーが一目でスケジュールやガントチャートを作成することもおすすめです。
システム開発のWBS作成時に重要なポイントは?

WBSを作るとき、システム開発の全体像をしっかりと描くことが大切です。
WBSは、プロジェクトの「地図」のようなものと考えてください。
この「地図」を上手に作ることで、開発がスムーズに進むようになります。
この章では、WBS作成する際に重要な以下の4つのポイントについて解説します。
- タスクをわかりやすく書く
- シンプルな構造を心がける
- 複数人の意見を取り入れる
- テンプレート・ツールを活用する
タスクをわかりやすく書く
WBSの中のタスクは、誰が見てもわかりやすいように具体的に書きましょう。簡潔で明確な言葉を使うことが大切です。
タスクの内容が不明確であると、正確に工数を見積もることもできません。
作業担当者に確認を行って、できるだけタスクの内容を具体的に記載してください。
タスクを具体的に記載できない場合は、工数を推測で見積らないようにしましょう。
推測で見積もりを行った不明確なタスクが、実際は膨大な工数に及ぶ可能性があります。
不明確なタスクは確定できない状態で残しておき、プロジェクトを進める中でタスクの内容を明らかにしましょう。
シンプルな構造を心がける
タスクを細かく分けるのは良いことですが、あまり複雑にしすぎると見る人が混乱してしまいます。
必要な情報だけをシンプルにまとめることを心がけましょう。
タスクを構造化する際には、親タスク、子タスクの関係性が正しいか、同じ階層のタスクの前後関係が時系列に合わせて分類できているかを確認してください。
また、シンプルな構造にするために、1タスク1担当者を心がけましょう。
1タスクに複数人の担当者が設定すると、タスクの責任者が誰であるのかが分かりづらくなるため、1つのタスクに対する担当者は明確に決めてください。
WBSを作成する際には、シンプルな構造を心がけて細分化されたタスクを一目でわかるように工夫しましょう。
複数人の意見を取り入れる
WBSを作るとき、プロジェクトに関わる人たちの意見やアドバイスを聞くことで、より良いWBSができあがります。
一人で考えるよりタスクの抜け漏れが少なくなるため、他のメンバーの声を大切にしましょう。
また、プロジェクトにメンバーをアサインした際の工数設定は、割り振られた作業担当者にWBSの確認をしてもらってください。
作業スピードには個人差があるため、プロジェクト管理者が計画したスケジュールとは異なる場合があります。
プロジェクト管理者のみでWBSを作成すると、「作業を完了させられる工数」ではなく、「納めなくてはいけない工数」になりがちです。
作業担当者と話し合って、想定しているスケジュールを超える場合は、必要ない工程がないか、重ねて進行させられるタスクがないかを確認して調整してください。
プロジェクトに関わる人の意見やアドバイスを聞いて、プロジェクト成功に導くWBSを作成しましょう。
テンプレート・ツールを活用する
WBS作成時には、テンプレートやツールを活用することで効率的に作業を進められます。
テンプレートを使えば、WBSの構造や必要な情報を漏れなく網羅でき、類似プロジェクトのWBSを参考にすることでタスクの抜け漏れを防げます。
また、WBS作成専用ツールを使うと、視覚的にわかりやすいWBSを作成することが可能です。後から見直した際に、ストレスになりません。
ただし、ツールに頼りすぎ、プロジェクトの特性に合ったWBSを作成することが重要です。
テンプレートやツールを上手に活用して、質の高いWBSを作成しましょう。
WBS作成の際に役立つツールおすすめ5選

WBS作成は、プロジェクトの成功のための重要なステップです。
適切なツールやテクニックを利用することで、効率的かつ正確にWBSを構築できます。
このセクションでは、特に役立つツールやテクニックを紹介します。
ツール①: Microsoft Excel

WBSは、身近なツールであるMicrosoft Excel(エクセル)で作成できます。
Microsoft Excelは、WBSに使用できるテンプレートも用意されているため、すぐに使用可能です。
テンプレートを導入した後に、プロジェクトの内容やタスク数に応じて使いやすいようカスタマイズできます。
Microsoft Excelで作ったWBSは、列にタスクを並べ、その右側に担当者や期間を記載して表を作成するイメージです。
タスクの列は「大項目」や「中項目」、「小項目」といった階層を行に並べてタスクを細分化すれば、視覚的に理解しやすい表を作れます。
普段からMicrosoft Excelを使用している方であれば、まずはMicrosoft ExcelでWBSを作成してみてください。
ツール②: マインドマップ

マインドマップは、作業を洗い出す方法として有用です。
マインドマップとは、アイデアや作業内容など大まかなテーマを書き出し、その周辺に関連事項を書き連ねていく図です。
そして、会議の参加者間で合意形成をしながら、アイデアや作業内容を洗い出すことが可能です。
マインドマップを活用することで、アイデアや作業内容同士の因果関係が掴みやすくなり、タスクの漏れを発見しやすく、WBSの精度を上げることができます。
思いつくままに作業内容を書き出すことで、作業内容を細分化できるので興味があれば使用してみてください。
マインドマップ公式サイトへ
ツール③: ガントチャート

WBSを作成する際は、ガントチャートも合わせて作成してみましょう。
ガントチャートとは、作業担当者の割り当てやタスクの期間などを書き表した表です。
棒グラフを使用して、視覚的にプロジェクトの進捗状況を確認できる便利なツールです。
縦軸には作業内容、作業担当者名、作業の開始日と終了日などを記載し、横軸には日付、期間などを記載します。
ガントチャートを作成することで、視覚的にスケジュールと進捗状況が確認できるため、遅れているタスクが一目で確認できます。
そのため、遅れているタスクがあっても早めにスケジュール遅延対策を行うことができ、便利です。
WBSで作業内容の洗い出しとタスクの細分化された後に、ガンドチャートも合わせて作成してスケジュールを管理してみましょう。
ツール④:Trello

Trelloは、シンプルで直感的に使えるタスク管理ツールです。
カード形式でタスクを表現し、ドラッグ&ドロップで簡単に操作できます。
WBSの構造をボード上で視覚的に表現できるため、タスクの進捗状況も一目で把握できます。
また、カードにメンバーを割り当てたり、期限を設定したりすることもできるため、プロジェクト管理に最適です。
シンプルながらも強力な機能を備えたTrelloは、WBS作成におけるおすすめのツールの一つです。
ツール⑤:Asana

Asanaは、プロジェクト管理に特化したツールで、タスクの作成、割り当て、期限設定などが可能です。
WBSの構造をプロジェクト内で階層的に表現でき、サブタスクを設定することでより詳細なタスク管理ができます。
また、ガントチャート機能を使えば、プロジェクトのスケジュールを視覚的に管理できます。
さらに、コメント機能やファイル共有機能など、チームのコラボレーションを促進する機能も充実しています。
Asanaは、WBS作成からプロジェクト管理まで、一貫して行えるツールとして高い評価を得ています。
システム開発のWBSのまとめ

これまでシステム開発におけるWBSの重要性、作成手順、作成時のポイントについて解説しました。
WBSは、ソフトウェア開発の各工程のタスクを詳細な単位に分解する手法です。
WBSを用いてプロジェクトを管理すると、プロジェクト計画を明確に決められるため、精度の高い見積もりが可能です。
また、WBS作成時にタスクを細分化して視覚的に把握できると、タスクの抜け漏れ防止や不要なタスクの削除に役立ちます。
WBSはメンバーで共有してプロジェクトを管理していくための重要なツールのため、WBSをきちんと理解し、社内や開発会社とのコミュニケーションに積極的に活用していきましょう。
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