近年、人間の作業をコンピュータに代行させることで業務効率が大幅に軽減され、それを用いたビジネスも一般化してきました。顔認証やスマートスピーカーなどは人と同程度の認知が可能で、生活環境に変革をもたらしました。
画像や音声は機械にとって正しく判断ができない情報のため、パイプ役となるパターン認識と呼ばれる技術が利用されています。今ではAIとして一括りに説明されますが、重要な要素技術で現在でも実用化された例が多いです。なお、機械学習の一部に位置付けられる技術でもあり、混同されやすいです。
本記事ではパターン認識の特徴や機械学習との違いを解説し、事業の業務改善に役立つ応用事例を紹介しています。
大手通信会社でSEとして9年働き、現在は独立してフリーランスとして開業。 生成AIを活かした業務の効率化に取り組んでいる。
パターン認識とは?
パターン認識は、人間の認知能力をコンピュータで再現する技術です。画像、音声、文字などのデータから特定のパターンを見つけ出し、それを分類・識別する仕組みを指します。
パターン分析の基本的な流れは以下の3ステップです
1. データの前処理
– 画像や音声を数値データに変換
– ノイズの除去
– データの標準化
パターン認識におけるデータの前処理は、精度向上のための重要なステップです。
まず、画像や音声を数値データに変換し、機械学習モデルが扱いやすい形式にします。
次に、ノイズ除去を行い、データの品質を向上させます。
最後に、データの標準化を行い、異なるスケールのデータを統一し、モデルの学習を効率化します。これらのプロセスは、正確なパターン認識を実現するために不可欠です。
2. 特徴抽出
– 重要な特徴を数値化
– パターンの特定
– データの圧縮
特徴抽出はパターン認識の重要なプロセスで、データから有用な情報を取り出します。まず、データ内の重要な特徴を数値化し、分析可能にします。
次に、これらの特徴を用いて特定のパターンを見つけ出します。また、特徴抽出はデータの圧縮にも寄与し、情報を保持しつつデータ量を減らすことで、計算効率を向上させます。
これにより、モデルがより効率的かつ効果的に学習できるようになります。
3. 分類・識別
– 学習データとの比較
– AIパターンの認識
– 結果の出力
分類・識別は、パターン認識においてデータを特定のカテゴリに振り分けるプロセスです。まず、学習データと新しいデータを比較し、類似性を評価します。
次に、AIがこれまでに学習したパターンを活用して、新しいデータのパターンを認識します。
最後に、識別された結果を出力し、どのカテゴリに属するかを示します。このプロセスにより、AIは未知のデータを正確に分類し、実用的な情報を提供します。
パターン認識の定義と特徴
教師あり学習による認識
教師あり学習による認識は、正解ラベルが付けられたデータを用いてAIモデルを訓練する手法です。
まず、トレーニングデータを使ってモデルがパターンやルールを学習します。その後、新しいデータが入力された際に、過去の学習結果を基に高精度で分類や予測を行います。
この手法は画像認識や音声認識など幅広い分野で活用されており、正確な結果を得るために重要な役割を果たしています。
データの数値化
データの数値化は、情報をコンピュータで処理しやすくするための重要なプロセスです。例えば、アンケートの回答を数値に変換することで、データを簡単に集計・分析できます。
数値化には、名義尺度や順序尺度などの方法があり、データの特性に応じて適切な尺度を選ぶことが求められます。
これにより、データの正確な分析や意思決定が可能になりますが、誤った数値化は情報の歪みを招く可能性もあります。
確率的な判断
確率的な判断は、未来の不確実な状況に対して確率を用いて意思決定を行う方法です。
すべての可能な結果に確率を割り当てることで、特定の結果を予測するのではなく、複数のシナリオを考慮に入れた柔軟な判断が可能となります。
この手法は、サプライチェーン管理などでリスクを管理し、最適な意思決定を支援するために広く活用されています。確率的な判断は、期待される結果を基に経済的に優先順位をつける際にも重要です。
パターン認識と機械学習の比較
ゴール | 応用例 | |
パターン認識 | 人のように物事を認知 | 声紋認証、顔認証、OCR |
機械学習 | データの予測・比較 | 売上予測、レコメンド |
両者にはこのような違いがあります。
パターン認識のゴールは、物事を高度に認知する機能を持たせることです。画像や音声など対象は様々ですが、認知以外の機能は想定していません。それ以外の学習手法は、機械学習の範疇といえます。
機械学習の対象は広く、パターン認識のほか、囲碁や将棋のAIに用いられる強化学習もその一部として分類されます。
パターン認識と機械学習の違い
パターン認識は元々、人の顔や物体など機械では扱い切れなかった情報に対して、特徴を見分けるために生まれました。
特定のタスクをこなすシステムを実現するために研究されてきました。
一方で機械学習は、近似や分類などを数値計算していく延長で生まれた技術で、そもそもの目的が異なります。
とはいえ手法だけで見れば重なる部分も多く、混同しやすいでしょう。
パターン認識ではデータの規則性を見つけ出し、人にしか扱えなかった音声や画像内の物体などを機械が認知できるようにルールを定めることを目的としています。
その中で使われる手法は機械学習の分野でも扱われるアプローチです。
なお、最近のAI技術では途中の認知プロセスを省略して、画像や音声から直接欲しい結果を出力する手法が主流です。
従来の古典的なアルゴリズムと比べて、中身がブラックボックスになりやすく、調整が難しくなります。
パターン認識と機械学習の共通点
パターン認識と機械学習の目指すところは違いますが、同様のプロセスを辿ります。
前処理、特徴抽出、分類・識別といった手順はどちらも同じです。
なお、データから規則性を見つけ出してルールを作るところは同じアプローチで、対象となるタスクが異なるだけです。
パターン認識では特徴を見分けることを主としているのに比べて、機械学習は対象タスクを絞らず、様々なタスクを解決するため汎用的で広い意味で使われる概念といえます。
パターン認識が使われる例
私たちの身近な場所で、パターン認識技術は既に多くの場面で活用されています。スマートフォンの顔認証から、音声アシスタント、文字の自動認識まで、様々な形で私たちの生活をサポートしています。
画像認識
画像認識は、パターン認識技術の中でも最も一般的な応用例の一つです。人間の目による認識作業をAIが代替することで、より正確で効率的な認識が可能になっています。
主な活用事例
1. 顔認証システム
– スマートフォンのロック解除
– 入退室管理
– 防犯カメラでの人物特定
顔認証システムは、画像認識技術を利用して個人を特定する手法です。スマートフォンのロック解除では、ユーザーの顔をスキャンしてアクセスを許可します。
入退室管理では、職場や施設へのアクセス制御に使用され、セキュリティを強化します。また、防犯カメラでの人物特定により、犯罪防止や捜査に役立ちます。
これらの応用により、顔認証は日常生活やセキュリティ分野で重要な役割を果たしています。
2. 製品検査
– 製造ラインでの不良品検出
– 食品の品質管理
– 部品の寸法測定
画像認識技術は製品検査において重要な役割を果たしています。
製造ラインでは、不良品を迅速かつ正確に検出し、生産効率を向上させます。食品の品質管理では、色や形状を分析して品質を評価し、安全性を確保します。
また、部品の寸法測定により、規格通りの製品が作られているかを確認し、精度の高い製造を支援します。
これらの応用により、画像認識は製造業の品質管理と効率化に貢献しています。
AIパターンによる画像認識は、人間の目では見落としがちな微細な違いも検出できる特徴があります。
音声認識
音声認識技術は、人間の話し声をテキストに変換したり、特定の音声パターンを識別したりする技術です。この技術により、簡単な音声指示で様々な機器を操作できるようになっています。
代表的な応用例
1. スマートスピーカー
– 音声コマンドの認識
– 自然な会話の理解
– 複数話者の識別
音声認識技術はスマートスピーカーの主要機能を支えています。これにより、ユーザーは音声コマンドを通じてデバイスを操作し、音楽再生や情報検索を行えます。
また、自然な会話の理解が可能となり、より人間らしい対話が実現します。
さらに、複数話者の識別機能により、異なるユーザーの声を区別し、個別に対応することが可能です。これらの応用は、日常生活の利便性を大幅に向上させています。
2. 自動文字起こし
– 会議の議事録作成
– 音声メモの文字化
– 放送内容の字幕生成
音声認識技術は自動文字起こしにおいて広く活用されています。
会議の議事録作成では、発言をリアルタイムで文字化し、記録業務を効率化します。音声メモの文字化により、録音内容を簡単にテキスト化し、情報整理が容易になります。
また、放送内容の字幕生成では、番組の音声を即座に文字に変換し、視聴者への情報提供をサポートします。
これらの応用により、音声認識は業務効率と情報アクセスの向上に貢献しています。
文字認識
文字認識は、手書きや印刷された文字をデジタルデータに変換する技術です。パターン分析により、様々な書体や筆跡の違いを認識することができます。
主な使用場面
1. OCR(光学文字認識)
– 紙文書のデジタル化
– 名刺情報の取り込み
– 手書き文字の認識
文字認識技術の一つであるOCR(光学文字認識)は、多くの場面で活用されています。
紙文書のデジタル化では、印刷物をスキャンしてテキストデータに変換し、検索や編集を可能にします。名刺情報の取り込みでは、名刺をスキャンして連絡先情報をデジタル化し、管理を簡単にします。
さらに、手書き文字の認識では、手書きのメモやフォームをテキスト化し、デジタルデータとして活用できます。これにより、情報の効率的な管理と活用が実現します。
2. フォーム入力の自動化
– 申込書のデータ化
– アンケート集計
– 住所録の作成
文字認識技術はフォーム入力の自動化において重要な役割を果たしています。申込書のデータ化では、手書きや印刷された情報を自動的にデジタルデータに変換し、入力作業を効率化します。
アンケート集計では、回答内容を迅速にデータベース化し、分析を容易にします。
また、住所録の作成では、名簿やリストから住所情報を抽出し、正確なデータ管理をサポートします。これらの応用により、業務効率と精度が大幅に向上します。
これらの技術は、認識精度の向上により、人間の作業を効率的にサポートする重要なツールとなっています。
パターン認識が使われているAIサービス
現代社会では、パターン認識技術を活用したAIサービスが私たちの生活やビジネスの様々な場面で活躍しています。人間の認識能力をAIで再現することで、より効率的で正確な作業が可能になっています。
顔認証
顔認証システムは、人間の顔の特徴をAIパターンとして認識し、個人を特定する技術です。スマートフォンのロック解除や、オフィスビルの入退室管理などで広く使われています。
最新の顔認証システムは、マスクを着用していても高い精度で認識が可能で、セキュリティ面での信頼性が向上しています。
OCR・文字認識
OCRは、紙の文書やスキャンした画像から文字を読み取り、デジタルテキストに変換する技術です。パターン分析により、手書き文字や印刷された文字を簡単にデジタル化できます。
外観検査
製造業では、製品の品質管理にパターン認識技術が活用されています。AIが製品の外観を検査し、傷や異物の有無を自動的にチェックします。
人間の目では見つけにくい0.1mmほどの微細な異常も検出可能で、製品の品質向上に貢献しています。
異常検知・予知保全
工場の機械設備の状態を監視し、故障の予兆を事前に検知するシステムです。AIが正常な動作パターンを学習し、違いを検出することで、問題が大きくなる前に対処できます。
これにより、予期せぬ機械の停止を防ぎ、メンテナンスコストを削減できます。
音声認識・音声分析
スマートスピーカーやスマートフォンの音声アシスタントは、人間の声を認識して様々な操作を実行します。
最新の技術では、話者の感情分析も可能になり、カスタマーサービスの品質向上にも活用されています。
議事録作成
会議の音声を自動的にテキスト化し、議事録を作成するサービスが普及しています。
パターン認識技術により、複数の話者の声を区別し、正確な文字起こしが可能です。これにより、会議の記録作業が効率化され、参加者は議論に集中できるようになっています。
パターン認識のまとめ
パターン認識は、人と同等の認知能力をコンピュータに持たせるために使われる技術です。これまで人手を要していた作業を自動化することで、業務効率の改善に大きく貢献します。
高精度で仕事量の多いAIは仕組みが複雑になりがちですが、特徴を見分けて照合する処理は比較的シンプルに実現でき、システムに組み込みやすいです。
すでに下記のような仕組みが実用化されてます。
- 生体情報の画像を用いた個人認証
- 音声の文字起こしによる履歴作成
- 手書き書類のデジタル化による手続きの自動化
単に物事の認知を担当するだけでなく、既存のサービスと組み合わせることでより高度なシステムへと昇華できます。
パターン認識を応用したシステムや業務改善についてのお悩みやご質問がございましたら、株式会社Jiteraにお気軽にご相談ください。