アメリカのシリコンバレーのような多くのベンチャー企業がしのぎを削る界隈で近年、「ピボット」という用語が盛んに囁かれるようになりました。
この「ピボット」は、日本語で言えば「方向転換」や「路線変更」という意味です。
当初のプロダクトビジョンに固執せず、現実の市場反応や自社の現状に合わせて適切に「方針を変えていく」という経営戦略の考え方。
それがピボットです。
「当初のプロダクトヴィジョンの堅実性をガチガチに固めるよりむしろ、プロダクトの方向性を何度もピボットし続け、より市場との親和性(PMF)を上げていく柔軟性を重視するべきだ」という考え方は、今では当たり前のスタートアップ戦略になりました。
この記事では、スタートアップやプロダクト開発の際に「ピボットする」というキーワードについて、わかりやすく説明します。
![Nao Yanagisawa](https://xs691486.xsrv.jp/wp-content/themes/JITERA/images/director-nao-1.png)
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
ピボットとは何か
ピボット(pivot)とは、もともと「機械の旋回軸」を意味する英単語です。
それが転じて、プロジェクトや経営の方向転換、戦略の変更を指すビジネス用語として用いられています。
これまでの事業内容やビジネスモデル、経営や開発について、現実に合わせて戦略方針を修正すること全般をピボットと呼びますが、単なる「方向転換」を超えて
- スタートアップ時に目指した事業戦略が、実情に合わせて軌道修正を迫られた際の戦略的フレームワーク
- 現状の打開に向けて、これまでのやり方から視点やアプローチを変えて、全く異なるアイデアや企画に舵を取るための客観的経営分析
- KPI達成度の慢性的な停滞や既存市場の大変動に対し、アプローチを根本的に変えることによって新市場を切り開く、いわゆるコペルニクス的転回的発想法
のようなイメージを内包しています。
また、手法そのものだけでなく、「市場での立ち位置を客観的に分析し、これまでの方向性を大きく修正してでも自社を本当に必要としているニッチな市場を見つけられるか」という経営戦略や組織体質そのものの柔軟性自体を「ピボット」と呼ぶ場合もあります。
要するに、ピボットとは「常に変化し続けるビジネスの荒波へ向けて起業するならば、初志貫徹にこだわらず、自身の強みを活かせる方向へ自由に転換していける柔軟性こそ、成功の秘訣である」という考え方やフレームワークのことです。
スタートアップやプロダクト開発におけるピボットの重要性
近年、スタートアップを目指す際にピボット戦略が意識できているかどうかが、成功のためにはとても重要であると考えられています。
スタートアップの失敗談が語られる際に、しばしば結論の焦点が「リソース不足」に終止してしまうことはご存知でしょうか。
そもそも誰しもがスタートアップ時には、「やる気とリソースさえ満たされれば、このアイディアは成功する」という確信を持って起業します。
それでも失敗したのだから「全てはリソース不足のせい」と結論づけてしまうのも、ある意味自然なことでしょう。
ですが現実のビジネスにおいて、「十分な資金があれば必ずアイディアは実を結ぶ」なんてことはありません。
当初の想定通りトントン拍子に事業化が進んだスタートアップ企業はほとんど存在しません。
多くの成功事例において、大抵は当初のビジネスプランが暗礁に乗り上げ、方針転換や路線変更(ピボット)を余儀なくされ、紆余曲折を経た後に新天地(最適市場)を探し当て、成功を手にしています。
ピボットとは、言い換えれば、夢と現実のすり合わせ作業とも言えるでしょう。
スタートアップやプロダクト開発における「壮大で大空に羽ばたくような夢」を、「泥臭く地に足がついた実業」に、どれだけ早く近づけていくのか。
そう考えると、ピボットの重要性に納得がいくのではないでしょうか。
近年では、どれだけすばやく、何度もピボットを繰り返し、プロダクトを市場へ適合できるかどうかが重視されるようになりました。
「プロダクトのピボット」はスタートアップにおいて避けられない工程であり、ピボットへの柔軟性こそがスタートアップ成功の秘訣と考えられています。
スタートアップにおけるピボットの役割
新規事業を起こした際に、市場のニーズを完璧に捉えたサービスが最初から完成していることは極めて稀です。
実際には何度も方向転換しながら周りを見渡すことで、初めて自身のアイディアの本当の価値を客観視することができます。
多くの場合、何度も想定外や市場とのミスマッチにぶつかりながら軌道修正(ピボット)し続けて、スタートアップの成功にこぎつけます。
※この回転率をより早く回すためにMVP開発手法が注目を集めていますが、MVP開発についてはまた別の記事で紹介しています。
ここでは、スタートアップにおけるピボットの役割について、もう少し深掘りしたいと思います。
事業の成功の可能性を高める
「ピボットする」とは主に新規事業を始めるスタートアップ段階のベンチャー企業が、
- 事業展開の可能性を探るため
- 自身のアイディアの実現性と現実感を調節するため
といった前向きな目的に向かって方針転換する際に用います。
スタートアップ期に自身のプロダクトを客観視するのはとても難しい行為です。
サービス開始後にPMF(プロダクトマーケットフィット)がなかなか達成できないときなどは、思い切った軌道修正が求められます。
プロダクトビジョンの策定後も、市場の反応を見ながら何度も方向性を変更を繰り返すことで、より自社に適した方向性へ段階的に固めていくことができます。
例えばターゲット層を大きく変更するだけでも、自社のサービスにフィットする新規市場を開拓できるかもしれません。
事業のリスクを軽減する
スタートアップだけでなく、継続中の事業についてのリスクを減らすべく
- 先行きにリスクや不安がある事業の展開を分析し、客観的に原因を追求する
- 現在のKPIの妥当性や自社のリソース分配を見直す契機にする
- 自社の強みや主力サービスの市場影響力を、今とは別のアプローチを模索してより盤石にする
といった目的でも、よくピボットを行います。
ピボットの検討を行うためにはまず、市場の分析と自社の客観視が必要になります。
そのため、自然と事業の把握や今後の市場動向についての見直しが行われるため、リスク軽減効果が期待できるのです。
新規事業やプロダクトでピボットが必要とされる状況・タイミング
安易なピボットの実行は建設的ではありません。
ともすれば、面倒な問題から目をそらし単に現実逃避しているだけで終わることが多いです。
既存の方針を大きく変更するのには適切なタイミングや状況というものが存在します。
スタートアップの際にピボットが必要とされるタイミングについて、いくつか紹介します。
市場ニーズが事業計画から大きく異なる時
市場ニーズが事前計画から離れたときこそ、ピボットの検討が必要になります。
市場ニーズが小さくなった場合、当然既存の計画は困難になります。
ですが、市場ニーズが小さくなったということは逆に新たなニーズや機会が別の場所で生まれている可能性が高いです。
小さくなった市場のよりニッチな需要に焦点を絞ることで、より効果的に顧客にアプローチをかけ、逆に市場を独占してしまえるチャンスかも知れません。
逆に予想外の市場成長にも注意が必要です。
ビジネスの規模を拡大するチャンスであることは当然として、これまで見向きもしていなかった巨大資本が参入する危険性もあります。
ピボットの検討を通じて市場の需要を常に敏感に感じ取ることで、自社の製品やサービスを最適なプランに調整することが可能です。
KPIの達成状況が悪い時
KPIの達成状況が芳しくない場合、ピボットの検討は新たな問題提起のきっかけを与えてくれます。
新たな観点や別の市場、活用方法の検討を行うことで、既存の問題を特定し、改善策を見つける機会が得られます。
ピボットを通してより広い視野を獲得することで、現在の戦略やアプローチの修正点を見つけ出し、KPIの達成やより重要な指標の発見に繋がります。
顧客の反応がよくない時
顧客の反応が悪いときは、自社の想定と実際の市場ニーズにギャップが生まれている可能性があります。
そして、顧客のフィードバックを適切に分析できれば、そのギャップからヒット商品を生み出すことも十分にありえます。
例えば、若者向けダンス投稿SNSであったtiktokは、若年層離れをきっかけに経営方針を転換し、現在ではあらゆる商品や体験をプロモーションできる「動画で消費や行動を促すプロモーションプラットフォーム」へと変化していきました。
顧客の反応から市場を見直し、サービスの軌道を修正することで、より顧客のニーズに合わせたサービスへと成長させることができるのです。
競合環境に変化があった時
競合環境や同業他社に大きな変化が生じたときに、将来の業界変化を見据えていち早く行動を起こす必要があります。
その際にピボットの検討を行うことで、現在の事業戦略と市場ニーズの適合性を確認し、現在の自社の市場での立ち位置が明確になります。
そして、今後の経営リソースをどの事業に振り分けるべきかといった早期の経営判断に繋がります。
立ち位置が明確になることで、プロジェクトメンバー全体に問題点の共有も進むでしょう。
市場の変化に対し、いち早く競合他社との差別化を図ることで、市場シェアの獲得や収益の増加につながります。
新規事業やプロダクトでピボットを成功させるポイント
![](https://xs691486.xsrv.jp/wp-content/uploads/2023/11/2010.i039.003_business-startup-isometric-1024x922.jpg)
著作者:macrovector/出典:Freepik
プロジェクトの方針転換は諸刃の剣です。
そもそも、ビジネスの方向性をコロコロ変えるのはあまり良くありません。
振り回される従業員はついていけなくなりますし、市場からの信用もすり減っていきます。
そのため、「ピボットする」という決断を「ビジネスの成功」につなげるためには、意識するべき注意点が存在します。
では、スタートアップを目指すベンチャーや、新規事業へ乗り出す企業がピボットを成功させるポイントとはどこにあるのか。
いくつかのキーポイントについて紹介します。
顧客のニーズや価値観を理解する
ピボットを行う前に、市場ニーズやその中でのサービスの立ち位置について十分に理解していなければなりません。
そもそもピボットは、
- 市場理解度の不足による迷走のリスク
- 何度も方針が変わることによるブランドイメージの損傷
- リソースの無駄使い
- 土壌やファンが醸造されないため、競合他社との差別化が困難になる
- 市場拡大チャンスを逃す
など多くのリスクを抱えています。
これらのリスクを回避し、有意義なピボットを行うためには十分な市場調査や顧客の理解が必要になります。
言い換えれば、ピボットとは市場や顧客との対話の結論として実施されるべきなのです。
顧客からより愛される方向性へと転換することで
- 顧客のニーズを理解してPMFを向上させる
- 顧客満足度を重視し、ブランドイメージを高める
- よりプロダクトの価値を高め、市場競争力を強化する
- 顧客自身への共感や信頼感を高め、ファンを醸造する
などの重要なメリットが得られます。
そのため、ピボットの検討は顧客のニーズや価値観を必ず理解した上で行いましょう。
具体的なピボットプランを策定する
ピボットの策定は可能な限り具体的かつ明確に行わなくてはいけません。
「優れたピボットは、メンバー全員が納得できる」と言われています。
曖昧で独善的な方向転換には誰もついていけません。
具体的なピボットとは、例えば
- 方向性の明確化
- 変更すべき方向性や戦略、その意図が明確に示されているか
- 効率的なリソース活用
- 現在のリソースを把握した上で、新たな目的に対して効率的に活用するための道筋が示せているか
- 方針修正がもたらす影響範囲は明確か
- 変更がもたらす混乱は最小限に抑えられるか
- フィードバックの活用
- 市場や顧客からのフィードバックを十分に分析したか
- 特にピボットするに至った経緯や、判断に用いた情報やデータは明確かつ定量的に整理され、共有されているか
- 成果の可視化
- 方針変更後の目標、成果、進捗の定義と、それぞれの達成度を示す指標は明確か
の5つを意識すると良いでしょう。
誰の目にも明らかで具体的なピボットプランを策定することで、チーム全体が同じ目標に向かって一致団結し、効果的な行動へ移ることができます。
ピボットのタイミングを計る
安易なピボットの乱用は、逆にブランドイメージの損失に繋がります。
方針変更はリスクを伴うからこそ、ここぞというタイミングで振るうべきです。
ピボットを行うタイミングとしては、現状を把握できる十分なデータが集まり、効果検証が済んだあとが良いでしょう。
一般的なビジネスサイクルで言えば
- スタートアップやサービスの「仮説を立てる」段階
- サービスのリリースと市場への売り込み段階
- 市場からのフィードバックを得て、効果を検証する段階
の3ステップを終えたタイミングになります。
例えば、
- これまでの市場ニーズから、売れそうなサービスを企画する
- 2~3ヶ月のスパンを区切り、ターゲットを絞って新しいサービスを売り込む
- 2ヶ月で10社にセールスしたがLOIが振るわなかった
という所まで来て、ようやく「方針転換を考える」という段階に入ります。
また、チームに「方針転換の議論を受け入れる余裕があるか」も重要です。
- 人員やリソースの余裕
- 組織体制の盤石さ
- ステークホルダーとの関係性や約束事
プロジェクトのキャパシティには様々な組織的要素が関わってきます。
極端な例になりますが、中間決算の棚卸しで慌ただしい中、急に方針転換を行おうとしても誰もついていけません。
この場合は決算が終わったあとに、市場動向や決算結果をもとにピボットの検討を始めるべきでしょう。
逆に言えば、市場の大変動などで今すぐにでも新市場を検討しなければ行けない状況ならば、まずはチーム内に余裕を作ることから考えなくてはいけません。
組織、市場動向、現状、将来性。
ピボットを行う際は様々な外部要因を勘案し、方向性を変える頃合いを十分に見計らう必要があります。
ピボットをする際の組織とチームへの対応
![](https://xs691486.xsrv.jp/wp-content/uploads/2023/11/%E8%A9%B1%E3%81%97%E5%90%88%E3%81%84%EF%BC%88isometric-devops-compositions%EF%BC%89-983x1024.jpg)
著作者:macrovector/出典:Freepik
ピボットには、チームメンバーの理解と協力が不可欠です。
チーム全体で同じ目標に向かって方向を変えなければ、方針転換自体が失敗しプロジェクトは瓦解します。
とはいえ、ピボットはこれまでの方法論や目的意識を大幅に変化させるため、安易に行えばチーム内に不満や混乱を招いてしまいます。
ここではピボットの下準備として、どのような対応が必要なのか紹介したいと思います。
目標や計画を明確にする
チームの理解を得るためには、方針変更の理由や意図を十分に説明することが重要となります。
曖昧な目標や説明不足の計画には、だれもついていけません。
チームメンバーには、計画が変更となった契機や、新しい目標を明確に伝え、理解を得るようにしましょう。
ピボットには、チームメンバー全員が自分の役割や責任を理解し、プロジェクトの行末に納得して行動することが重要になります。
情報や知識を共有する
情報や知識が共有されていなければ、どこかで認識齟齬や食い違いが発生します。
チームメンバー全員が同じ方向を向くためにも、情報や知識はしっかりと共有しましょう。
サービスの路線変更や経営の方針転換を行う理由は様々ですが、そこには必ず
- 顧客からのフィードバック
- 業界の変動
- 自社の経営状況の変化
などのピボットを決断した確固たる情報やデータが存在するはずです。
ですが、その情報が一部上層だけでストップしてしまうと、下の人間は目的意識をなくし大きな抵抗感や不満感を抱えることになります。
ピボットは組織全体での団体行動が基本です。
組織内やメンバー内で情報や知識に格差があると、方針転換を行おうとしても全員ばらばらの方向に進んでしまい、空中分解してしまうことでしょう。
ピボットを行う際には、組織内で十分な情報や知識の共有を行うことが大前提となります。
フィードバックや意見を聞く
よりよりピボットのためにも、チームメンバーからのフィードバックや意見は積極的に集めるべきです。
どんなに明確でわかりやすいピボットであっても、「今までやってきたことを変更する」ということ自体が非常に大きなストレスとなります。
チームの関係をより強化し、軌道修正を行うプロセスやアプローチをチーム事情に合ったものに改善することで、プロジェクトの破綻リスクを大幅に抑えることができます。
そのため、チームメンバーの意見には積極的に耳を傾け、可能ならば意見の聞き取りだけではなく、メンバーが自由に意見を述べ、相互に議論を行えるようなコミュニケーションの場も用意することが、成功の鍵となります。
進捗を定期的に確認し適宜修正する
ピボットを行う際は、進捗を定期的に確認し、適宜修正するプロセスを設けてください。
どれだけ下準備をしても、プロジェクトの方向性を変える場合、絶対にどこかですれ違いは発生します。
組織内だけでなく外部にも気を配らなくてはいけません。
例えば、路線変更中に市場へ黒船が到来し、情勢が更に大きく変化する可能性も十分に考えられます。
次々と新しいものが生まれる現代のビジネスでは、様々な変動や食い違いを受け入れる必要があり、ピボットには唐突なトラブルや市場変化にも対応できる柔軟さが求められます。
当初の予定に固執せず、定期的に進捗や市場動向を確認し、チーム内の認識を共有し、意見をぶつけ合って、最適な方向性を探る努力を行いましょう。
ピボット成功のためのツール
ピボット自体は考え方やフレームワークが重要な概念であり、よく使われる専門ツールなどはありません。
ですが、ピボット成功のためには、現状の分析と問題の仮説検証が欠かせません。
ではうまく方針転換を成功させるための分析には、どのようなツールが活用されているのでしょうか。
よく使われるビジネスツールについて簡単に紹介します。
データ分析ツール
ピボットの検討の前に顧客からのフィードバックや経営データを定量化し、データ分析を行うことで、顧客や市場と自社との現状について重要な知見を得ることができます。
一般的には、普段使っているOffice ExcelやGoogle Workspaceの分析機能を使うことが多いです。
現在の汎用スプレッドシートツールには、初心者でも簡単に扱えるように洗練されたUIで、豊富で高度な分析機能が搭載されています。
例えばExcelのピボットテーブル機能と自動グラフ挿入機能だけでも、大量のデータをさまざまな観点で検証できます。
また「データ」タブには簡単に高度分析機能が扱える「分析」リボンが用意されています。
- Microsoft Excel
- データの整理、分析、可視化を行うための汎用的なスプレッドシートツール。
- Microsoft 365の1機能として様々なOfficeツールと連携できます。
- よく知らなくても簡単に分析機能が扱えるのが魅力です。
- Google Sheets
- オンラインで共同作業が可能なスプレッドシートツール。
- データの共有やリアルタイムの編集が可能で、多人数でより気軽に扱うことができます。
- Tableau
- 上記2つよりも、よりインタラクティブなダッシュボードを利用でき、データを視覚的に分析できる定番のBI(ビジネス分析)ツール。
- 直感的な分析機能が人気です。
仮説検証ツール
現状分析の結果、何らかの仮説を思いついたら、それが市場とどのようにマッチしているのか検証する必要があります。
仮説検証用のツールは目的によって多岐にわたりますが、まず最初はWeb分析ツールを使うのが良いでしょう。
- Google Analytics
- ウェブサイトやアプリのトラフィックやユーザー行動を追跡し、分析するためのツールです。
- 市場の反応やターゲットの行動を分析することで、自身の仮説の検証やマーケティング戦略の評価が行なえます。
- A/Bテストツール(OptimizelyやVWO)
- ABテストツールは、想定ターゲットに対し最適なバージョンを検証できるツールです。
- デザインやコンテンツなどの一部の要素だけを変更したいくつかの別パターン(AパターンやBパターン)を同時に比較検証できます。
- Google Optimize終了後は、OptimizelyやVWOといったツールが人気です。
- Webアンケートシステム(SurveyMonkeyやGoogleフォーム)
- アンケートや調査を作成し、回答を収集して分析するためのツールです。
- 具体的な顧客の意見や市場のニーズを直接把握するために利用されます。
- SurveyMonkeyやGoogleフォームといったツールが有名です。
コミュニケーションツール
分析したピボットの検討結果はチームに素早く共有する必要があります。
また、プロジェクトの現状やピボットのタイミングも、チーム内で話し合う必要があるでしょう。
共有には社内システムを使うことが多いですが、一般的なビジネスコミュニケーションツールとして、以下のようなツールも人気です。
- Slack
- チーム内のコミュニケーションや情報共有を行うためのチャットツールです。
- チャンネルごとにトピックを分けて議論することができます。
- Microsoft Teams
- Microsoft365と連携しながらチーム内でのコミュニケーションやファイル共有、オンラインミーティングを支援する総合コミュニケーションツールです。
- 事務に必要な機能が統合されたワークスペースが提供されます。
- Zoom
- 多人数でも安定したリモート会議が行える、オンラインミーティングツールです。
- コロナ禍でのリモートワーク需要に答える形で広く利用されているようになりました。
ピボット時に想定されるよくあるトラブル
路線変更や市場開拓というと前向きに聞こえますが、ピボットにはこれまでの方向性を捨てるということは大きなリスクがつきまといます。
ピボット時に想定されるよくあるトラブルについていくつか紹介します。
市場の変化を正しく捉えられなかった
ピボットを行う際に、市場の変化を捉えきれないというトラブルは非常によくあるものです。
なにかのアイディアを思いつきスタートアップを開始したとします。
市場の反応を見ながら方針を固め、本格的な製品化に向けてある程度の開発期間を設けました。
しかし、その開発期間中に競合他社が新たな技術を用いて市場ニーズが一変します。
この変化に気が付かずに製品をそのままリリースすると、市場の冷ややかな反応に面食らうことになります。
非常にざっくりとした例ですが
- スマホの背面に貼る特殊なシールを開発していた。
- しかし急にスマホのカメラ性能のために、カメラ部分が出っ張ったデザインが主流となった。
- 多くの人が出っ張りをフォローする分厚いケースを付けるようになり、背面をさらさなくなってしまった。
といったような悲劇はよくあることでしょう。
近年加速する情報社会において、様々な新技術や新製品、急激なバズなどで流行が一変することがよくあります。
そのため、市場調査や顧客インタビューなど、積極的な市場調査を行い、市場のトレンドやニーズを正確に把握することが重要です。
また、アジャイルやMVP開発手法を採用し、積極的に市場と関わりながらサービスを段階的にリリースし続けることも有効です。
顧客のニーズを理解していなかった
スタートアップ時に、開発するサービスが本当にターゲットのニーズを捉えているのかは切実な問題です。
顧客のニーズを理解していなければ、何度方針転換を行おうとリソースの無駄遣いに終わります。
例えば、
特別な検索手法を取り入れたファンションシミュレーターを開発したとします。
最新のトレンドが一目でわかり、他のユーザーとファッションの組み合わせを共有できるようなプラットフォームサービスをスタートアップしました。
気に入ったスタイルは、その場で購入する機能がついています。
ですが、実際リリースしてみると市場のニーズを理解していなかった事に気が付きます。
主要なユーザー層は、ファッションに関心があるものの、その場での購入よりも単にトレンドや衣装の組み合わせを見るだけの用途に使用していたのです。
その結果、アプリの購入機能はほとんど使用されず、マネタイズできず、サービス継続が困難になってしまいました。
ピボットには、顧客との密接なコミュニケーションがかかせません。
コミュニケーション方法を確立し、フィードバックを積極的に取り入れることが重要なのです。
顧客のニーズや要求を収集できる場を用意し、定期的に調査・分析し、製品やサービスを改善するためのサイクルを構築することにも気を配るべきです。
組織や人材がついていけなかった
市場の調査を何度も行い、柔軟に方針転換するということは、プロジェクトの速度が加速し続けるということでもあります。
スタートアップの成功は急速な成長を呼びますが、組織や人材がその成長速度に追いつけず、業務の遅れや品質の低下を招いてしまうのです。
新しいニーズに対応するために新しい方向性や戦略を立てることと、適切なスキルや経験を持つ人材を育てることは同時に行わなければなりません。
ですが、育成の土台が用意できていない内からプロジェクトが急速に成長すると、既存の人員に多大なる負荷をかけ、人材離れやプロジェクト自体の崩壊を引き起こしかねません。
組織の成長は、人材の育成や適切な投資と共に段階的に行われるべきです。
将来必要になるスキルを事前に分析し、現状の人材やリソースを定期的に評価し、必要に応じて社員教育や採用に力を入れることで、組織全体を変化に対応できる強い組織へと変えていく必要があります。
資金が足りなくなった
スタートアップ前にマーケティング活動を通して多額の資金を調達したのはいいものの、最初に描いた規模が大きすぎて回収の見込みが届かず、資金が底をついた。
なんて失敗談をよく耳にします。
ピボットを行う際には、多くの場合リスクやコストがかかってきます。
かと言ってサンクコストを恐れていては取り返しの付かない事態に陥ります。
であればこそ、プロジェクトの成功には明確なロードマップの策定と、適切な資金の管理・分析・予測が重要になってきます。
特に資金調達計画はサービスの転換や拡張といった適切なタイミングで行うべきですし、成長のための投資と存続のための投資は常に両天秤にかけなくてはなりません。
この「規模感の釣り合いをどうするか」という観点から、最近では「最初は小規模(MVP)で開始する」スモールスタートやMVP開発が当たり前になってきました。
プロダクトでビジネスピボットに成功した事例
ここまでスタートアップの際にピボットを意識する重要性について様々な視点から紹介してきました。
では最後に、スタートアップ時と現在とで大きく路線変更した企業をいくつかあげ、実際にはどのような路線変更が行われていったのかピボット成功事例を紹介したいと思います。
Airbnb
現在世界最大の民泊仲介サイトに成長した「Airbnb」が、始めはとある仮説と1枚のマットレスから始まったのはご存知でしょうか。
家賃に悩むサンフランシスコ在住の二人組が、自宅の近くでよくカンファレンスが開催されていることを知り、「リビングにマットレスを敷いて、カンファレンス参加者相手に寝床を貸し出そうぜ!」と考えたのが事の発端です。
この単純な発想が、予想外の反響を呼び、民泊仲介サービスAirbnbがスタートしました。
しかし、スタートアップから数年後には民泊サービスの需要は成熟し、Airbnbの成長も伸び悩むようになります。
そこでAirbnbは、単なるイベント参加者向けの民泊斡旋から、一般の旅行者や観光客向けの宿泊斡旋に事業領域を拡大する方針へと転換します。
彼らはユーザーからのフィードバックを集め、様々なニーズや要望、市場開拓の可能性を分析し、とある隠れたビジネスチャンスに気が付きます。
民泊を利用する顧客たちの多くが、「新しい場所を訪れた際に地元の文化や体験をより深く味わいたい」という潜在ニーズを抱えていたのです。
その後何度もピボットを繰り返したAirbnbは、宿泊施設だけでなく、現地体験や多種多様なアクティビティを仲介する総合バケーションレンタルサービスプラットフォームとして確固たる地位を築きました。
現在では、Airbnbは数百万人のホストとゲストを結びつける世界最大規模のプラットフォームとして世界中で利用されています。
Shopify
Shopifyは世界最大級のeコマースプラットフォームですが、元をたどれば個人のスノーボード専門オンラインショップから始まっています。
スノーボード愛好家のトビー・リュトケ氏は、かつてスノーボード専門のWebショップ「スノーデビル」を運営していましたが、当時ECサイトを開設するためには高度なIT知識と複雑なWebサイト構築技術が必要でした。
ECサイトやカートシステムが簡単に実装できない現状にいらだちを覚えた彼は、個人が簡単にECサイトを立ち上げられるサービスを構想します。
そんな経緯から、2006年に個人向けECサイト構築サービスShopifyがスタートアップしました。
ですが成長するにつれ、Eコマース市場の大きさや「大手ブランドやエンタープライズも、ECサイトの柔軟な構築方法を求めている」ことに気がつきます。
そこでShopifyは小規模向けビジネスから、大手ブランドやエンタープライズ向けの拡張サービスへと大きく方針転換します。
結果、柔軟性と効率的な販売方法を求めて多種多様な企業がShopifyのエンタープライズ向けプラン「Shopify Plus」に押し寄せ、現在のような世界規模のECサイト構築サービスへと成長しました。
ミクシィ
2004年、個人Webサイト同士の緩やかな繋がりによってソーシャルネットが築かれていたインターネット業界に、突如現れた招待制個人ブログ(日記)形式のSNSサイト「mixi」は非常に大きな話題となりました。
所謂Web 2.0の波に乗ったmixiは業績を急拡大。圧倒的な知名度とユーザーを獲得します。
ですが、その後TwitterやFacebookといった黒船が上陸するとSNS市場の競争が激化。
mixiは新たな方向性を模索する必要がありました。
そこでピボット先に選ばれたのが、当時流行の兆しを見せていたiPhone(スマートフォン)×ゲームというブルーオーシャンです。
2013年に iPhone向けゲームアプリ「モンスターストライク」(モンスト)をリリース。
瞬く間にエンターテイメント事業を拡大させ、現在の株式会社MIXIではデジタルエンターテインメント事業が8割以上を締めています。
まとめ:適切なピボットでプロダクトを成功させましょう
![](https://xs691486.xsrv.jp/wp-content/uploads/2023/11/%E9%81%8B%E7%94%A8%EF%BC%88business-growth-strategy-isometric-set%EF%BC%89-914x1024.jpg)
著作者:macrovector/出典:Freepik
ダイナミックに変動する現代のビジネス業界では、変化に対応できる柔軟な軌道修正力が重要になっています。
適切なピボット(方向転換)を行うことで、思いがけない突破口を開き、自社の新たな強みに気がつくことができるのです。
現在のプロダクトを暗礁に乗り上げさせないためにも、ぜひピボットという手段も意識してみてください。
とはいえ、ピボットは多くのトラブルや問題を抱え込む点には注意が必要です。
特に方針転換を無事に乗り切るには、ある程度の経験や知識、そしてITシステムを利用したデータ分析が欠かせません。
株式会社Jiteraでは、様々な経営課題に対し、国内実績豊富なITエンジニアによる伴走支援を行っています。
ピボットに興味はあるがハードルが高いと感じる企業様。
是非一度、株式会社Jiteraにご相談ください。
貴社の要件に合わせて最適なアドバイスを提供いたします。