デュアルシステムって何だろう。システム障害が起きた時の対応で、頭を痛めた経験がある方も多いと思います。
自社システムの安定稼働はビジネスに欠かせません。しかし、システムトラブルや災害が起きた時のリスク対策が十分でないのが現状です。
この記事を読めば、デュアルシステムの導入で高可用性を実現し、システムリスクを大幅カットできる方法がわかります。具体的には、デュアルシステムの特徴、メリット、デメリットを解説した上で、デュプレックスシステムとの意味の違いも説明します。
実際の運用面では、デュアルシステムの導入手順、BCP対策、運用コストの削減方法を詳しく紹介しています。コスト感覚も掴めるよう、初期構築費用から運用保守コストまで目安を提示しています。
デュアルシステムとは

デュアルシステムとは、システム(アプリケーションやデータベース等)を2系統用意し、同じ処理を並列で稼働させることです。
例えば、社内システムをクラウド上に構築したイメージです。東日本地域と西日本地域の2拠点を設け、それぞれに同じシステム構成を作成します。
こうすることで、一方のシステムで障害が発生しても他方のバックアップシステムで処理を継続できます。自然災害等で一拠点が使用不能になっても、事業影響を最小限に抑えられるのが特徴です。
デュアルシステムのメリットとしては高可用性、災害対策、アップグレード容易性などがあげられます。一方で、コストや運用の負荷が2倍になるデメリットもあります。
具体的には、デュアルシステムを活用することで、システム障害や災害が起きても互いにバックアップし合い、継続稼働が可能です。例えば、メインのデータセンターが停電した場合でも、別のリモートサイトに処理を引き継ぐことができます。
アップデート作業の際も、一方を停止して更新作業を行い、他方で業務を継続するといったことが実現できます。双方のデータを分析し合うことで、予知保全の向上や最適化も期待できるといったメリットがあります。
一方で、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク等、必要なリソースが2倍になることで初期コストと運用コストが大きくなるのが難点です。また両システムのデータ同期や、運用保守の手間もかかります。
デュアルシステムのメリット

デュアルシステムを使うことで、システムの信頼性と安定稼働が向上します。具体的な利点としては、次の4つがあげられます。
| メリット | 内容 |
| 高可用性 | 障害時でもサービス継続が可能 |
| 災害対策強化 | 地理的に離れた拠点でリスク分散 |
| アップグレード容易性 | 一方を運用したまま他方の更新ができる |
| 蓄積データの活用 | データ分析で新たな気づきや最適化が期待できる |
システム障害への対応が可能
システム障害が発生した場合でも、互いにバックアップをし合うことができるので、サービスを継続できる可能性が高くなります。例えば、通信回線の切断やデータセンターの停電があっても処理を続けられます。
具体的には、メインのシステムで障害が発生しても、即座に別のバックアップシステムに処理を切り替えます。事前に両システムのデータ同期を実施しているので、継続してサービスを提供することができるのです。
切り替えは、自動または手動で実行されますが、ユーザーにとっては一時的な処理遅延以外気づかない場合が多いでしょう。
例えば、通信回線が切断したり、サーバやストレージのハード障害が起きた場合も対応可能です。ソフトウェア障害の場合も、切り替えれば継続できます。処理性能は多少低下するかもしれませんが、サービス自体は続くことが可能なのです。
リージョン間のネットワーク障害が発生した場合にも有効です。災害時のインフラ復旧に時間がかかる場合でも、処理の継続性を実現できるのが強みです。
災害対策強化
東日本大震災の教訓もあり、自然災害への対策が求められています。デュアルシステムなら遠隔地にもう一拠点を置くことができ、災害リスクを分散できます。
例えば、東日本と西日本にそれぞれシステム拠点を設置します。一方で大規模災害が発生した場合でも、他方の拠点で事業継続が可能です。
首都直下型地震、南海トラフ巨大地震等の発生が予想されていますが、デュアルシステムなら影響を最小限に抑えられます。
災害対策としては、寸断区間もしくは複数の異なる停電区画にデータセンターを設置する方が理想的です。ライフラインが途絶した場合も、発電機による電力供給で数日~1週間程度の稼働は可能でしょう。
データのバックアップも重要ですが、システム自体の冗長化を講じないと、回復までに相当な日数を要することになります。デュアルシステムならある程度の災害にも対応できるようになります。
地理的な分散配置と、データの同期がポイントになります。大地震等が起きても他方が稼働すれば、事業への影響を大幅に軽減できるのです。
アップグレードが容易になる
システム更新のため、一時的に1系統を停止しても他方を稼働させることが可能です。ダウンタイムを心配することなく、段階的にアップグレードできるのが魅力的です。
例えば、新システムへの移行時、まずは稼働中の本番システムをそのまま活用します。その状態で、もう一方の新バージョンのシステムをインストールすることができます。
新システム側で十分なテストを実施し、問題がなければ本番切り替えを実施します。本番システムを停止して、データ移行作業を実施、新システムでサービスを開始するという流れになります。
この場合、本番稼働のダウンタイムを最小限に抑えることができます。通常の切り替え方式だと長時間のサービス停止が避けられず影響も大きいですが、デュアル構成ならアップグレードに伴うリスクを大幅に軽減できるメリットがあります。
また本番運用の最中に、新機能の追加や機能強化を行うといった、マイクロリリースにも適しています。ユーザーへの影響を最小にとどめた上で、機能改善を提供できるのです。
こうしたアジャイル開発・運用に、デュアルシステムは大いに活躍します。
蓄積データの活用
両システムでデータ分析を行うことで、トラブル予兆の検知や業務改善の示唆を得ることも期待できます。予知保全や最適化にもつながります。
例えば、双方のシステムでログや利用データを蓄積していけば、大量のデータが溜まっていきます。これをビッグデータとして、分析・活用することが可能です。
異常検知に役立てたり、利用者の行動パターンを分析しサービス改善につなげたりできます。また、集めたデータ量に応じて機械学習精度も向上するので、自律運用にも有用な情報を得ることができます。
システム障害の予兆を、数時間単位あるいは1日前に検知できれば、本番環境への影響が大きく抑えられます。あるいは、ピーク時に自動スケールアウトを行う、といった自動化も可能になります。
双方のデータを照合することで、より精度の高いデータ分析を実現できます。大量のデータから、有用な情報を見いだすことができるのです。デュアルシステムは、データ活用という意味で大きな可能性を秘めています。
デュアルシステムのコスト削減効果
障害発生時の損失を防ぐことができるので、トータルとしてのコスト削減に寄与します。予算化して、前向きに導入しましょう。
デュアルシステムは冗長構成のため、ハードウェアやソフトウェア、回線等のコストがかかります。しかし、システムが停止した際の損失を考えると、総合的に見ればコストメリットが大きいと言えます。
例えば、基幹系システムが1時間ダウンした場合、売上高の10%減少と想定すると、その損失額はデュアルシステムの初期投資額を上回ります。こうした機会損失を防ぐ効果は、計り知れません。
BCP対策やリスク回避の観点から、デュアルシステムのコストは「将来の損失を防ぐための保険料」といった位置づけで捉えるべきでしょう。
デュアルシステムのデメリット

デュアルシステムにはメリットと同時に、次のようなデメリットや課題点も存在します。
| デメリット | 内容 |
| 初期コスト・運用コストの負担増 | IT資源が2倍必要となりコストが増大 |
| 運用・保守負荷の増大 | 複数システムのため保守運用業務が増える |
| 端末への影響リスク | クライアント側への影響解析が必要 |
| データ同期の処理負荷 | 大容量データの同期処理でサーバ負荷増 |
初期コスト・運用コストの負担増
サーバやネットワーク機器、ソフトウェア等のIT資源が2倍必要になるため、コスト負担が大きくなります。冗長性を高める分、建設費やランニングコストがかさむことになります。
具体的には、サーバ、ストレージ、ネットワーク機器、ソフトウェア等のライセンス費用が2倍程度かかります。デュアル構成のデータセンターも、東西に2ヶ所用意するため、設備投資は最小でも2倍に膨らみます。
運用段階でも、担当要員の人件費や電力料金等がかさむほか、データの送受信にかかる通信料金の増加もコストアップ要因になります。アプリケーションの保守・管理を委託している場合は、そのコストも2倍となるでしょう。
可用性を高め、信頼性を確保するための投資と捉え、前向きにコスト対効果を判断する必要があります。建設費と運用コストを比較検討し、可能な範囲での導入を検討しましょう。
運用・保守の負荷増
複数システムを運用することになるので、設定作業や監視、障害対応などの運用保守作業が複雑化します。担当者の負担が2倍になるといえます。
具体的には、監視対象のサーバやネットワーク機器、ミドルウェア、アプリケーション等が2倍になります。これらの設定変更やバージョンアップ作業は2系統分発生します。
障害発生時の原因究明や対応も、両システムで行う必要が出てきます。テスト作業が2倍必要となることも大きな負担増につながります。
運用保守作業の共通化や自動化を進めることで、人材不足やコスト増による課題はある程度緩和できますが、避けられない部分も大きいです。
担当者のスキルアップと体制強化が不可欠でしょう。外部委託で補完する選択肢も現実的と言えます。
端末への影響リスク
システム構成が変更になることで、クライアント側や周辺システムへの影響が生じる可能性もあります。十分な事前検証が必要になります。
具体的には、会社の基幹業務システムをデュアル構成に移行する場合、ユーザーが利用しているPCや周辺機器、既存アプリとの整合性を考慮します。
特に、オンプレミスからクラウド化するようなケースでは注意が必要です。クライアントPCのOSや、接続する周辺機器の種類によっては、システムの動作に不具合が発生したり、今まで使用していた文書や報告書の形式変更が必要になったりする可能性があります。
十分な期間をかけて移行前後でのシステムテストと、影響範囲の特定を行う必要があります。本番移行後のサポート体制や撤退計画も合わせて用意しておきましょう。
データ同期の処理負荷
システム間での、大容量データの送受信と同期処理が常時発生するため、ネットワークとサーバの負荷が増大します。
デュアルシステムの重要なポイントとして、両系統のデータ内容をリアルタイムに反映させる必要があります。取引データや主要マスタ情報等を定期的に同期するため、大容量のデータ通信が発生します。
その分、回線容量は比較的余裕を持った大容量のものを用意する必要が出てきます。データセンター間を接続する専用線は、冗長構成で複数回線を設定するなど、可用性確保も欠かせません。
データ受信側のシステムでも、同期処理のデータベース負荷が生じるので、サーバスペックにも余力が必要です。遅延が許されない基幹業務系の場合は、レイテンシ対策も重要になってきます。
データ同期作業の自動化と効率化が課題となります。
デュプレックスシステムとの違い

デュプレックスシステムでは、両系統のハードウェアで同時に処理を行うため、万が一の障害時でも業務を継続できます。
デュアルシステムは別々の2台のコンピューターを用意するのに対し、デュプレックスシステムは1台のコンピューター内部で二重化を実現する点が大きな違いです。
デュアルシステムは柔軟な構成が可能なのに対し、デュプレックスシステムは拡張性に限界があり、用途も特定の業務に限定されます。
システムの重要度や目的に応じて、適切な冗長化の方式を選ぶ必要があります。
デュアルシステムとデュプレックスシステムはどちらもシステムの信頼性を高める手法ですが、次のような違いがあります。
| 項目 | デュアルシステム | デュプレックスシステム |
| 構成 | 別システムで並列稼働 | 1台のハード内で併用 |
| スケール | 大規模 | 小規模 |
| 信頼性 | 高い | 標準的 |
用途・目的の違い
デュアルシステムは基幹システム、デュプレックスシステムは中小システムが対象です。
| 項目 | デュアルシステム | デュプレックスシステム |
| 用途・目的 | 基幹システム、大規模なクラウド、災害対策が特に重要視されるケース | 中小システムでの冗長化ニーズに応えることを目的とする。 |
構成要素の違い
デュアルシステムとデュプレックスシステムは、いずれもシステムの信頼性向上に貢献する手法です。
両者は類似していますが、下の表から分かるように、それぞれの構成要素の違いは明らかと言えるでしょう。
| 項目 | デュアルシステム | デュプレックスシステム |
| 構成 | 別システムで並列稼働 | 1台のハード内で併用 |
| スケール | 大規模 | 小規模 |
| 信頼性 | 高い | 標準的 |
メリットの違い
デュアルシステムとデュプレックスシステムのメリットを表にしました。
| 項目 | デュアルシステム | デュプレックスシステム |
| メリット | ・システム障害への対応が可能
・災害対策強化 ・アップグレードが容易になる ・蓄積データの活用 |
・初期コストが抑えられる
・導入が容易でスピーディー ・限られたスペースでも構築可能 ・サブのCPUのリソースの有効活用ができる ・障害発生時のCPUやメモリ等のハードウェアリソースの切替が迅速 |
デュアルシステムは主に負荷分散と冗長性、デュプレックスシステムは迅速な障害対応を重視します。
デュアルシステムのメリットは、以下の章で詳しく説明します。
デメリットの違い
デュアルシステムとデュプレックスシステムのデメリットを表にしました。
| 項目 | デュアルシステム | デュプレックスシステム |
| デメリット | ・初期コスト・運用コストの負担増
・運用・保守の負荷増 ・端末への影響リスク ・データ同期の処理負荷 |
・小規模システムに限定される
・拡張性に乏しい高負荷 ・高可用性には不向き ・1台のハードウェアに依存する ・コストパフォーマンスに限界がある |
デュアルシステムは高い可用性と性能を提供する反面、コストと運用の複雑性が増します。デュプレックスシステムはバックアップを確保しつつリソースの非効率性と切り替えの遅延が課題です。
デュアルシステムの活用方法・事例
デュアルシステムの活用方法・事例を紹介します。
事例①:デュアルシステムを活用したBCP対策
東日本大震災をはじめとする日本の大地震から学んだ教訓は、自然災害に対する事業継続計画(BCP)の策定に不可欠です。
デュアルシステムを採用することで、事業のリスク分散が可能となり、これが強力な対策につながります。
デュアルシステムのメリットは、地理的に分散した場所にデータセンターを設置し、事業資産を分散させることができる点です。
たとえば、東日本と西日本にデータセンターを設置し、平時は両方のセンターで業務処理を同期させます。
災害が発生した場合、影響を受けていないセンターがすぐに業務を引き継ぐことができます。
この柔軟性がデュアルシステムの大きなメリットであり、BCPの有効な手段となるのです。
国内だけでなく、海外にも目を向け、より安全な地域に拠点を設けることも一般的です。
初期投資は必要ですが、災害リスクを軽減するために、デュアルシステムの価値は再評価されています。
事例②:金融取引システムや医療機関向けの停止させられないシステム
金融システムや医療機関向けなどの重要な業務を支えるシステムは、24時間年中無休で動き続ける必要があります。
そのため、デュアルシステムが採用されることがあります。
システム開発が完了した後も、計画通りに処理を行い、信頼性を保つための継続的な運用が不可欠です。
常に稼働を続ける必要があるシステムでは、デュアルやデュプレックスシステムを用いた運用が効果的です。
デュアルシステム導入の参考コスト

| カテゴリ | 費用 |
| ハードウェア・ソフトウェアコスト | 3,000万円~ |
| 導入構築コスト | 1200万円前後 |
| 運用・保守コスト | 2,000万/年程度+ランニングコスト1,000万円/年 |
| 移行コスト | 6ヶ月から12ヶ月の期間でSEが5人~10人程度 |
デュアルシステムを構築する際に、以下のカテゴリでコストが発生します。目安となる金額や費用の考え方について解説します。
ハードウェア・ソフトウェアコスト
サーバやストレージ、ネットワーク機器と、OSやミドルウェア、アプリケーションのライセンス購入にまつわるコストです。
デュアル構成のため、ハードウェアは最小でも2台分が必要です。仮にアプリケーションサーバ1台500万円、ストレージ300万円程度で計算すると、合計1,500万円は見込んでおくべきです。
ソフトウェアについてもOS、データベース、アプリケーション、バックアップ、監視ツール等のライセンスが2系統分(常には1系統のみ稼働ですが)必要になります。こちらは、合計1,000万円程が目安といえます。
ハードウェア保守料金も含め、予算計上の目安としては、少なく見積もっても3,000万円は覚悟する必要があるでしょう。
導入構築コスト
外部コンサルティング会社に依頼する、設計・構築作業と、設定やデータ移行にかかる人件費の合計です。
デュアルシステムの構築には、高度なネットワーク技術やセキュリティ知識が求められるので、設計・構築を外部のITコンサルティング企業に委託するケースが多いです。
構築期間は、6ヶ月から1年ほどで、その期間のコンサル人材と、設定作業やデータ移行を担うSESの人件費が主な費用となります。
案件規模で異なりますが、コンサル料金が月200万円ほどで、それが6ヶ月で稼働するとして、最低でも1200万円前後が目安と思われます。
運用・保守コスト
日常的な監視・運用や障害対応の人件費のほか、データセンター等の設備運用コストも含みます。
デュアルシステムの場合、複数拠点・複数システムを運用管理するので、通常の単一システム構成よりも人的リソースが必要になります。
一例として、3名体制でローテーションを組んだ場合、年間人件費は2,000万程度がかかると見込めます。加えて、消耗品費用や通信回線使用料等のランニングコストとして1,000万円/年が目安です。
さらに災害時の代替拠点をクラウド上に用意するケースも多く、そのデータセンター利用料やトラフィック料金も負担する必要があり、年間500万円前後が相場です。運用保守コストも総合的に判断する必要がある重要項目です。
移行コスト
既存システムから、新システムへ切り替えるための作業に伴うコストです。
移行作業は大きくデータ移行とシステム切替の2つに分かれますが、既存データを新システムに取り込み作業が、複雑かつ人力を要する場合が多いです。
特に、汎用データを加工して、新システムに合わせた形に変換する等の作業が発生する場合、SE人件費が最大のコスト要因となります。
規模感としては、6ヶ月から12ヶ月の期間で5人~10人程度のSEが稼働することが一般的です。
デュアルシステムのまとめ

今回はデュアルシステムの仕組み、メリット、デメリット、コスト等について詳しく解説してきました。
デュアルシステムの大きな利点は、システム停止リスクを低減させ、サービスの信頼性と可用性を向上できることです。一方で、コスト面や運用面の課題も存在します。
業務目線で、システムのインフラ重要度を考慮しつつ、コスト対効果も勘案して検討することをおすすめします。
導入についてさらに詳細を知りたい場合は、株式会社Jiteraにご相談ください。
