電気事業者にとって、発電した電力の安定供給と効率的な運用を行うためには「電力需要予測」が欠かせません。
一般家庭はもちろん、工場や商業施設などでも日々大量の電気を使っていますが、消費する電力は季節の変化や時間帯、人流の増加や景気といった様々な要因によって増減します。
一旦発電した電気は、電気エネルギーそのままの形では貯蔵(ストック)できず、発電所を過度に運転させると事業者の損失になってしまうため、需要に応じた無駄のない電力供給が必要です。
この記事では、電力需要予測の目的や、電力需要予測をシステムを使って行う手順を解説します。
とある企業のシステム管理者として10年以上勤めています。 自身の経験や知識を活かし、誰にでも分かりやすい記事をお届けしたいです。
電力需要予測とは?

電力需要予測とは、様々な要因によって増減する「電力の需要量」を予測し、電気事業者(発電所)の効率的な発電に役立てる仕組みです。
特に現代では下記に挙げた要因などによって、電力の消費量は増加し続けています。
- 地球温暖化の進行
- IT機器(パソコンやスマートフォン)使用量の増加
- クラウド技術の発展によるデータセンターの建設
- テレワークなど働き方の変化
かつては、気象データや実際の使用量などから計算し、最終的には人間の経験に基づいた需要予測を行っていました。
近年では、電気事業者ごとに独自の予測システムを構築したり、AI技術を活用してより精密な電力需要の予測が行えるようになっています。
電力需要予測の目的

電力需要予測は、発電事業者にとって効率的な発電計画を作成するために欠かせない仕組みです。
作った電気は貯蔵(ストック)できないため、作り過ぎてしまった電気はそのままムダになってしまい、電気事業者には余計なコストが発生してしまいます。
より具体的に電力需要予測の目的を知りたいなら、本項を参考にしてみてください。
発電所の運転計画
電気事業者は電力需要予測を元に、自社が持つ発電機の運転計画を日々調整しています。
運転計画に沿って発電機の出力の上げ下げを行いますが、出力が過剰になると余計なコストが生まれ、逆に出力が少ない場合だと、発電機の故障などの予期せぬ障害時に電力の供給不足が発生し、契約者へ電力を安定供給できないといった事態に陥る可能性があるのです。
多すぎず・少なすぎずの絶妙なバランスを保って発電所を適切に運転させるためには、正確な電力需要予測は欠かせないものとなっています。
送電網の運用
現代においては、送電網(発電所で作った電気を契約者まで運ぶ設備)の安定化が世界的にも重要課題とされています。
AI(人工知能)技術の発展によって大規模なデータセンターが世界各地に建設、また、電気自動車の普及、発電量が不安定なクリーンエネルギー(太陽光や風力)の推進など、日本のみならず世界的に見ても電力需要は高まっているのが現状です。
電力需要予測によって送電網の強化や増設の必要性が分かり、電力の安定供給へと繋がります。
電力取引
電力の自由化によって、今では多くの電力会社から自由に契約プランを選べるようになりました。
この電力の自由化に伴い発足されたのが、日本で唯一の電力卸取引市場であるJEPX(日本卸電力取引所)です。
いわゆる”新電力”と呼ばれる小売電気事業者は、自社で発電施設を持たないのでJEPXから電気を仕入れて契約者へ販売(供給)しています。
そしてJEPXが販売する電力の取引価格は、電力需要予測によって変動するのが特徴です。そのため小売電気事業者は、電力需要予測を把握して契約者への売値を調整しているといった背景があります。
省エネ対策
電力需要予測を活用して省エネ対策へ繋げている企業も存在します。
ある製造工場では、電力使用が特定の時間帯に集中しないように調整を行い、日々変化する電力の使用量を電力会社との契約量を超えないよう制御するのに苦心していました。
そこで長期の電力需要予測が可能となるシステムを導入し、早い段階からの電力抑制が可能となったため、電力需要のピークを調整して特定の時間帯に偏らないよう平準化(省エネ化)を実現したという事例です。
電力需要予測の方法

かつては様々なデータや人間の経験則から電力需要予測を行っていましたが、現代ではAI(人工知能)技術の活用やビッグデータ分析といった技術の発展によって、電力需要予測の精度が向上しました。
ここでは、現代における電力需要予測の方法を詳しく解説します。
人工知能
近年のAI(人工知能)技術は、電力需要予測の方法としても採用されています。
気象情報の提供事業を行っている「株式会社ウェザーニューズ」では、最新の気象予測や過去の消費電力といった実績データをAIに学習させ、高精度で電力需要を予測するシステムを開発しました。
また、同社ではこのシステムを用いて、他社向けに電力需要予測サービスも提供しており、多くの電力事業者の運転計画の最適化に役立てられています。
天気予報
電力需要にも関係する「気温」や「湿度」といった天気情報と、過去の電力需要の実測値を基に近々の電力需要を予測する仕組みも開発されています。
近年では気象情報の精度が飛躍的に向上した経緯もあり、これら天気予報を活用した電力需要予測については、従来と比べて誤差が非常に少なくなっているのが特徴です。
地域ごとの人口や経済指標
地域によって人口や経済成長率は大きく異なり、また、その差は年々広がりつつあるのが現状です。
当然ながら、人口が増加し経済が発展しているエリアは電力需要も多くなるため、地域ごとの人口や経済指標に合った電力需要予測が必要となります。
電力需要予測をPythonで行う手順

ここまで電力需要予測の目的や方法について解説しましたが、これらの他にもオープンソースのプログラミング言語を用いて電力需要予測を行う手法についてご存知でしょうか。
電力需要予測に使われるプログラミング言語は「Python(パイソン)」と言い、様々なデータ分析タスクに広く利用されています。
ここでは、電力需要予測をPythonで行う手順について見ていきましょう。
Step1:データの準備
電力需要予測をPythonで行うためには、まずは予測の基となるデータが必要です。
今回必要となるデータは、気象庁が公開している「気象情報データ」と資源エネルギー庁が公開している「電力調査統計データ」を用います。
また、東京電力などエリアごとの電気事業者によっては、過去の電力使用量実績データを公開している事業者もあるため、より特定エリアに絞った電力需要予測を行いたい場合は、データを公開している電気事業者を選ぶといいでしょう。
Step2:データの前処理
気象庁や電気事業者が公開しているデータは、そのままの状態では使用できません。Pythonが読み込んで理解できる形にデータを加工(データクレンジング)する必要があります。
データの並び順や不要な項目が含まれていないかを確認し、電力需要予測に支障が出ないようにするのが目的です。
Step3:モデルの選択

電力需要予測で使用するデータの準備が整ったら、解析で使用するモデルを選択します。
モデルとは「事象の本質や仕組みを簡潔に表現する数式・理論」を表しており、Pythonで使用するモデルごとの考え方によって結果が導き出されます。
モデルは大きく分けて「統計モデル」と「機械学習モデル」の2種類あり、統計モデルは目的に応じて更に細かな分類へと分かれるのが特徴です。
統計モデル: ARIMAモデル、SARIMAモデル、指数平滑化モデルなど
既に確立された統計モデルは多数存在しており、中でも電力需要予測で活用できるモデルは「時系列モデル」と呼ばれています。一般的な時系列モデルは下記のとおりです。
- ARIMAモデル:ARモデル・MAモデルに加えて差分系列の考えを組み合わせた時系列モデル
- SARIMAモデル:ARIMAモデルに季節変動の概念を加えたモデル
- 指数平滑化モデル:過去値と実測値を用いて、時系列で将来の需要予測を割り出すモデル
機械学習モデル
機械学習モデルはAI(人工知能)技術にも深く関わっているモデルで、入力したデータに対して結果を導き出す(=出力する)仕組みです。
人間であれば予測に必要な要素が増えるとどんどん予測が難しくなりますが、機械学習モデルは入力するデータが増えれば増えるほど、より正確な予測ができるモデルとなっています。
Step4:モデルの学習
ここからは、機械学習モデルを使って電力需要予測を行っていきます。
加工したデータから学習用データとテスト用データを作成し、機械学習用にデータを正規化。Pythonに含まれるアルゴリズムであるSVM(サポートベクターマシン)を用いて、機械学習を行わせます。
Step5:予測結果の確認と評価
機械学習を行って出力された電力需要予測の結果を確認します。
予測結果の評価を行う際は、実際のデータと予測結果の比較を行うのがおすすめです。どれだけ誤差があったかによって、その電力需要予測の内容の信頼度が測れます。
さらに機械学習を進めれば、より精度の高い電力需要予測を得られるでしょう。
電力需要予測のまとめ

今回は、電力需要予測を行う目的やPythonで電力需要予測を行う手順についてご紹介しました。
電力需要予測は、電気事業者とって大きな影響があるのはもちろん、電力自由化によって多数生まれた小売電気事業者は、電力需要を電気料金に反映する仕組みを採用している事業者も多く、私たちの家庭にも無関係ではありません。
電力需要予測が行われる目的を理解すれば、影響範囲や重要性も分かるのではないでしょうか。
電力需要予測にもAI技術が活用されていますが、弊社では要件定義を書くだけでAIがアプリやシステムを自動開発するプラットフォーム「JITERA」を軸として、ウェブやスマートフォンアプリの開発、マーケティング、UI/UXデザインなども行っております。
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