トレーサビリティという言葉をご存じでしょうか?
製品の産地や生産工程など、製品がどこで生産されたものか、どこへ出荷されたか追跡可能であることを示す用語です。
昨今は消費者の安全意識が高まっており、法律も施行されるなど、年々重要性が増しています。
本記事では「トレーサビリティとは何か」、「どのようなメリットや課題があるのか」、「どのような企業がどのようなシステムを導入し実現しているのか」を解説します。
トレーサビリティについて知りたい方、業務効率化のためのシステム導入を検討している方には特に役に立つかと思いますので、ぜひご一読ください。

現役エンジニアです。プログラミングは基本的にどの言語も好きですが、特にSQLとVBAが好きです。趣味は釣り。
トレーサビリティとは?
トレーサビリティは製品ができるまで、また、消費者に届けられるまで一連の情報を追跡できることを意味します。
過去に狂牛病や食品の産地偽装が発生したことを受け、消費者が食品の安全性に不信感を持ったことをきっかけに、食品やその他業界においても重要性が高まっています。
本章では、トレーサビリティの概要と重要性についてご説明します。
トレーサビリティの定義と概要
トレーサビリティは製品の産地や製造過程、どこへ出荷されたかなど各種情報をトレース可能であることを意味します。
「Trace(トレース)」と「Ability(アビリティ)」を繋げて作られた言葉で、日本語では「追跡可能性」と言われます。
消費者の情報が分かることで、製品に問題があることが分かった場合にすばやく製品回収ができ、また、どの過程で問題が発生したのか調査の観点でも役に立ちます。
※原材料から製品の製造や配送まで追跡することをトレースフォワード、逆に製品から原材料まで逆方向に追跡することをトレースバックと言います。
企業間を跨いでの追跡か社内での追跡かに応じて、トレーサビリティは下記の2種類に分けられます。
- チェーントレーサビリティ:原材料の生産や製造、小売業者など企業を跨いで追跡する手法
- 内部トレーサビリティ:一つの工場や企業内で、製品の製造や検証の過程を追跡する手法
トレーサビリティの重要性
日本で重要性を増すことになったきっかけは、2002年に日本で初めてBSE(狂牛病)が発覚した際です。
BSEが発覚してしばらくは、多くの消費者が牛肉に不安感をもち消費量は急落しました。
その後は牛トレーサビリティ法という法律も施行され、現在では牛肉一頭一頭に個体識別のためのタグが付与され、牛の出生や加工の情報の届け出や公表が義務付けられています。
また、過去に産地偽装が問題となったことを受け、米に関しても米トレーサビリティ法律が施行されています。
現在は米の生産や流通情報を保存することが義務づけられており、消費者は情報を確認することができます。
その他、牛肉や米以外についても全般的に消費者の安全意識は高くなっています。
製品の産地や生産過程が明確であること、もし製品に問題があった際はすばやく回収し原因を調査し対策を練ることが企業活動として今後ますます重要になるでしょう。
トレーサビリティのメリット
トレーサビリティの重要性についてご説明しましたが、社会的に重要であるというだけでなく、企業活動にもメリットが存在します。
具体的には、品質の担保・顧客の信頼獲得へつながり結果的には売上の向上要因となります。
ここでは、製品を追跡可能であることが企業活動へどのように品質担保や信頼獲得へつながるのかを解説します。
品質管理の向上
トレーサビリティが取れている場合、問題があった際の影響範囲の特定がスムーズにでき、不良品の流通防止になるという利点があります。
例えば製造業の場合、部品に問題があった際にその部品を使用している製品情報が明らかであるため、流通をストップする必要がある製品、またリコールすべき製品を迅速に把握することができます。
製造業を例に記載しましたが、食品業で原材料に問題があった場合、IT業界で検証結果に問題があった場合などほぼすべての業界で共通するメリットと言えます。
また、製品をトレースし問題が発生した時点をピンポイントに特定できるため、原因分析や再発防止に役に立ち、品質の向上に繋がります。
まとめると、製品を追跡可能である場合、品質管理について下記のようなメリットがあります。
- 問題の影響範囲をすばやく特定できる
- 不良品の流通を未然に防ぐ
- 問題の原因分析と再発防止に役に立つ
消費者への信頼向上
トレーサビリティが取れていると、「誰がどのように生産したか」が明らかであり、消費者の安心感につながります。
消費者の目線にたつと、できるだけ多くの情報が開示されている方が心理的に安心するためです。
トレーサビリティが消費者の安心に繋がるということは既に認知が進んでいます。
例えば、スーパーで「私が生産しました」と生産者の名前と顔写真が載っている野菜や果物を見たことはないでしょうか。
生産者情報が開示されている方が、消費者としては安心し、購入に心理的な抵抗が減るため、生産者情報を明記した販売方法が増えています。
このように、各種情報が正確に保存され開示されていると、消費者への信頼に繋がり結果的に売上向上へ繋がります。
費用対効果を考える上で、抑えておきたいポイントですね。
トレーサビリティの体系図
計測器業界においてもトレーサビリティは重要視されています。
計測に使用した機器が国家標準または国際標準に準じていることを追跡するため、トレーサビリティ体系図というドキュメントが使用されます。
体系図が作成されていると、計測に使用された機器が何の基準で校正されたものかが分かり、基準に準じた機器で正しく計測されていることになるため、品質担保に繋がります。
ここでは、体系図の概要や作成方法についてご紹介します。
トレーサビリティ体系図の構成要素
トレーサビリティ体系図は、校正に使用された機器が国家/国際標準までトレース可能であることを証明するドキュメントです。
※校正とは、計測機器の計測結果と標準値がどの程度合っているかを確認する作業です。
体系図を校正する要素は、主に下記の4つです。
下記の4つをフローチャートでつないだものが体系図となります。
- 国家標準/国際標準:AISTやNMJなど、計量器の信頼性を確保するために定められた標準
- 校正機関:校正を依頼したメーカーや外部校正企業
- 一次校正器:二次校正機器と比較するために基準測定機器
- ニ次校正器:校正対象となる機器
トレーサビリティ体系図の作成方法
体系図は、外部の校正企業・校正機関に校正を依頼した場合は基本的に校正証明書とセットでもらえます。
また、企業によってはWebで公開している企業もあり、外部から入手可能であることが多いです。
もし自社にて体系図を作成する場合、以下の手順にて作成が可能です。
- トレース先となる国家標準や国際標準を確認する
- 校正作業をおこなう
- 二次校正器と一次校正器をフローでつなぐ
- 一次校正器と標準をフローでつなぐ
体系図は、他のドキュメントとセットで準備することもあります。
校正証明書、基準器の校正書とトレーサビリティ体系図の3点が準備されていると、さらに品質担保につながります。
気になる方は他のドキュメントについても確認しみてください。
トレーサビリティのシステムとツール
トレーサビリティを確保するには、保存すべき情報が多く情報を管理・入力する負担が大きいという課題が存在します。
上記のような課題を解消するために、情報を自動登録し利用者の負荷を下げるシステムやツールがリリースされています。
情報の一元管理や自動記録といった情報管理のサポート機能のほか、マーケティング支援機能をもつシステムもあります。
トレーサビリティ管理を検討している方はもちろん、業務の効率化などでシステム導入を検討している方はぜひご一読ください。
トレーサビリティ管理システムの機能
製造業を例に、管理システムの機能についてご紹介します。
下記は製造業で実際に使用されるシステムの機能の一例です。
- 部品や製品情報、製造工程の一元管理
- 過去帳票の管理
- 工場や設備のリアルタイムな稼働状況を表示
- 特定の部品を使用した製品など、システムによるトレース機能
- 作業日報の作成
- 過去の生産情報や売上情報を蓄積したマーケティング支援
問題が発生した際のトレース機能に加え、ペーパーレスで作業日報を作成できるといったスタッフ作業の効率化、蓄積された生産や売上情報をもとにマーケティング支援機能をもつシステムもあります。
問題に備えるばかりではなく、効率的な生産をサポートしてくれるメリットがあることが分かりますね。
トレーサビリティ向上のためのツール
トレーサビリティを管理するには膨大な情報量を取りまとめる必要があり、すべて手でおこなうと負荷が高くなる懸念があります。
ここては、IT業界でトレーサビリティ管理をサポートしてくれるツールをご紹介します。
Next Design
プログラムやアプリケーションの設計を直感的におこなえるツールです。
Next Designを使用し可視的に設計をおこなえるほか、ツール上で設計をすることで自動的にプログラム情報を記録してくれます。
そのため、トレーサビリティ管理用に情報をインプットする必要がないというメリットがあります。
また、IT業界では品質管理のためトレーサビリティマトリクスがよく使用されます。
トレーサビリティマトリクスとは、要件、モジュール、テストケース、テストデータといった情報を表形式で記載したものです。品質管理や実装漏れを防ぐ目的で使用します。
Next Designではツールに蓄積された情報をツリー形式やマトリクス形式で表示可能なため、マトリクスを起こす必要がないというメリットも存在します。
トレーサビリティの課題
トレーサビリティを管理するには膨大な情報を管理する必要があり、その結果、システムが複雑になったりコストが高くなる傾向があります。
ここでは、上記の課題と対応策を簡単にご紹介します。
また、データ漏洩や改ざんといったセキュリティリスクについても簡単に対応策をご紹介します。
メリットが多いトレーサビリティ管理ですが、課題と対応策を理解し、効率的かつ安全なシステム管理ができるようぜひご一読ください。
実装コストと複雑さ
製品を追跡可能な管理体制を構築する場合、特にチェーントレーサビリティの場合には生産、処理、加工、流通など多くの関係企業と連携を取る必要があります。
その場合、どのように情報を保存するか、どのように体制を確立するかを複数企業間で話しあい、関係企業が納得する形での体制とする必要があります。
その結果、管理が複雑になったり検討や実装のコストが大きくなる傾向があるという課題が存在します。
チェーントレーサビリティ管理を実現するには、管理が負担とならないように、また、品質管理などでメリットが存在することを各企業が認識し、納得できる形で検討を進めることが重要です。
データセキュリティのリスク
トレーサビリティを取るためには、生産~小売、消費者の手に届くまで各フェーズの情報を管理する必要があり、情報改ざんや情報漏洩といったデータセキュリティについてのリスクが伴います。
そういったリスクに対し有効なのが、ブロックチェーン技術です。
ブロックチェーンとは、大まかに言うとデータを分散して管理する技術です。
製造業の場合は、生産、加工、卸売など各過程で個別の拠点や個々のデータベースにデータを格納するイメージです。
製品トレースの観点でブロックチェーンを活用するメリットは、データの改ざんが難しいという点です。
例えば特定のデータを改ざんしても前後のデータと整合性が取れないため発覚が早く、早い対応が可能になります。
また、サーバー負荷が軽いことやリスク分散ができるという嬉しい点もあります。
管理システムにメリットが多いため、システム導入を検討している方はぜひブロックチェーン技術を検討してみてください。
トレーサビリティの応用分野
トレーサビリティの課題やリスクについてご説明しましたが、システムを応用すると業務効率化など企業活動にメリットも存在します。
ここでは、製品の追跡が特に重要視される食品業界、製造業、医療業界でそれぞれシステムの応用例についてご紹介します。
自社の業界や企業に合ったシステムを導入することで、品質向上や業務効率化、業務の標準化に成功した企業もあります。
トレーサビリティ体制構築にお悩みの方、システムの導入を検討している方はぜひご一読ください。
食品業界でのトレーサビリティの応用
食品業界では、原材料の入荷予定、製造指示書、原材料情報や賞味期限、製品情報や出荷予定などの管理すべき情報があります。
各種情報をトレースできるよう管理することに加え、情報のトレースの仕組みを応用して下記の課題を解決するシステムもあります。
■課題
・情報入力の負荷が高い
・現場スタッフの高齢化や国際化により、各個人のスキルが異なる
ある食品トレーサビリティシステムでは、原材料のラベルを読み込むことで原材料に関する情報をクラウドに保存し、また、段ボールに貼り付けるラベルを読み込むことで作業工程や入荷に関する情報を自動保存する仕様としています。
これにより、Excelや帳簿に情報を書き込む作業が不要となり作業時間を短縮することができます。
また、情報の登録がラベルのスキャンで完結するため、スタッフの年齢や言語に関係なく作業が可能となりました。
製造業でのトレーサビリティの応用
次は、製造業界での応用例についてご紹介します。
ある製造業の内部トレーサビリティシステムでは、営業から製造、出荷に関する情報を一元管理し、さらにバックオフィスの帳票出力機能を搭載し、全社的に業務を効率化する機能を搭載しています。
さらに下記のような生産管理機能を搭載し、幅広い業務の効率化を実現しました。
- 需要予測とそれに基づく生産計画の策定
- 受注情報の管理
- 原価管理
- 出荷情報を顧客へ自動送信
システムを導入し業務を効率化する場合、業務が簡易的になり、属人化の解消に繋がることも多いです。
自社に合ったシステムを導入することで、トレーサビリティの実現だけでなく、各種業務の効率化や属人化の解消など、多くのメリットが生じることが分かりますね。
医療業界でのトレーサビリティの応用
医療業界では、システムを導入し医薬品の在庫管理や温度管理に役立てることができます。
医薬品は医療に使われるため厳格に品質管理をする必要がありますが、下記のような課題が存在します。
■課題
・医薬品によっては低温や30度台など、製造や流通、保管の工程で厳格に温度管理をする必要がある
・使用期限を厳格に管理しなければならない
・薬品によって使用頻度が大きく異なり、古い未使用品は適格に廃棄をしなければならない
・薬機法により医薬品のバーコード表示は義務となっている
医療業界でも医薬品の製造・流通過程をトレースするためにシステムを導入する事例は多くあります。
その代表的なメリットとして、医薬品の保存温度の情報をシステムで管理することで、誤った温度での流通を防止できることが挙げられます。
また、病院や薬局の医薬品がいつ納品されたものか、使用期限がいつかといった情報をもつトレーサビリティシステムも開発されており、期限切れの薬品や未使用品の廃棄を促し在庫のリフレッシュをサポートしてくれます。
他にも、医療事故を防ぐため品質管理機能や、タスクを自動化し医療現場の負荷を下げるなど、医療現場をサポートする色々なシステムがリリースされています。
トレーサビリティの事例紹介
製品の追跡可能性をシステムにて実現した事例をご紹介します。
トレーサビリティシステムを導入する多くの企業は、情報の一元管理や在庫管理機能など付加価値をつけ業務を効率化しています。
ここでは、食品業界、製造業、医薬品それぞれの業界で追跡可能な体制の実現・業務効率化の双方に成功した事例をご紹介します。
システムの導入を検討している企業の方は、ぜひ参考にしてください。
食品業界でのトレーサビリティの事例
ヤマサ醤油株式会社
1645年に創業し、370年以上の醤油作りの歴史をもつヤマサ醤油株式会社。
長い歴史のなかで蓄積してきた醤油づくりと微生物に関するナレッジを活かし、現在は醤油だけでなくその他食品、また医薬化成品の製造もおこなっています。
システムを導入し、トレース可能な体制を実現するだけでなく業務の円滑化、無駄な作業の排除に成功しました。
■課題
・事業によって異なる生産管理システムを使用しており効率が悪い
・歩留まりを向上させたい
・部署間の情報連携をスムーズにしたい
■導入による効果
・各事業でシステムを統合することにより、業務標準が統一され業務が効率化された
・システムによるトレーサビリティの実現
・各事業や部署の情報連携がスムーズになり、不要タスクを廃止できた
製造業でのトレーサビリティの事例
株式会社ホーユー
1905年に創業し、ヘアカラーなど頭髪用品と家庭薬の製造をおこなっている株式会社ホーユー。
海外展開をおこなっており、海外の70ヶ国以上に製品を届けています。
在庫管理機能を搭載したトレーサビリティシステムを導入し、在庫の削減に成功しました。
■課題
・生産拠点間が多く、情報連携に時間を要している
・原価管理、在庫管理を効率的にしたい
■導入による効果
・各拠点でシステムが統一され、業務効率を向上
・リアルタイムな在庫状況の把握により、在庫の削減に成功
・精緻な原価管理が可能になった
・仕入れ先とのEDI(電子データ交換)を実現し、発注書などの書類送付の手間を削減
医薬品業界でのトレーサビリティの事例
中央運輸株式会社
中央運輸株式会社は、医薬品輸送を手掛ける運送会社です。
医薬品は最終的に人体に入るためミスが許されないこと、医薬品は高価であり管理ミスによる損失をなくしたいという希望からトレーサビリティシステムの導入を決めました。
■課題
・輸送中の医薬品管理がドライバーに任される状況であり、遠隔で管理可能としたい
・医薬品の物流に関する基準を満たすため、温度管理を厳格におこなう必要がある
・複数の拠点のデータを一元管理したい
■導入による効果
・医薬品が現在どの地点にあるか、何度で保管されているかがリアルタイムに管理可能となった
・輸送中にトラブルが発生した際、システムで状況を把握しながら遠隔で緊急対応をサポート可能となった
・複数拠点のデータが一元管理され業務が効率化された
トレーサビリティのまとめ
本記事ではトレーサビリティの概要、メリット、課題や事例についてご紹介しました。
下記に内容をまとめます。
- トレーサビリティとは、原材料の情報から流通に至るまで、製品の情報を追跡可能であること
- 品質向上と消費者からの信頼獲得のメリットがある
- 計量器の校正にはトレーサビリティ体系図を使用する
- 実装コストとデータセキュリティの観点で課題がある
- トレーサビリティを応用したシステムを導入することで、業務の効率化が可能
自社業務にあったシステムを導入することで、トレーサビリティの実現と業務の効率化の双方を実現することができます。
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