戦場の風景を一瞬で塗り替える力を持つ多連装ロケットシステム。一度に数十、場合によっては数百のロケットを一斉射撃し、広範囲に攻撃をしかける非常に強力な戦闘兵器です。
戦争の話題がニュースでも取り上げられる昨今ですが、多連装ロケットシステムの実態は、一般にはあまり知られていません。
この記事では、多連装ロケットシステムの構造、仕組み、特性、そして戦場での用途などについて詳しく解説します。また、最後にはロケット開発におけるAI活用の現状についても触れています。
多連装ロケットシステムという単語を知ったけど、内容を理解していない方には最適な記事となっているはずです。ぜひ参考にしてみてください。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
多連装ロケットシステムの概要
多連装ロケットシステム(MLRS)は、戦場で使用される兵器です。近距離に使える「迫撃砲」や長距離射撃を目的とした「カノン砲」などと近い用途であり、一度に多数のロケットを発射することが可能です。ここでは、多連装ロケットシステム(MLRS)の概要や歴史について振り返ってみます。
MLRSとは?
MLRS(Multiple Launch Rocket System)は、日本語では「多連装ロケットシステム」と訳せます。文字を見てわかる通り、一度に多数のロケットを発射できるシステムです。
MLRSは車両の後部に搭載されており、私たちがイメージしやすいところでいうと、トラックの荷台に乗せられているような状態となっています。通常時は車体に対して平行に設置されていますが、角度をつけることが可能です。
発射時は、45度ほどの角度をつけ、そこから複数のロケットを飛ばすことになります。
車両についているので、迅速に移動して射撃位置を変えることができます。敵の防御線を突破するために必要な攻撃を行うことが可能です。
MLRSの歴史
MLRSは、1980年代初頭に5か国(米・英・仏・独・伊)で開発されたシステムです。戦闘機やヘリコプターの開発を行うロッキードマーチン社との共同開発という形でプロジェクトは進みます。
初期のMLRSは、ロケットを一斉に発射するだけの単純なものでした。しかし、大量に射撃をするためには多くのコストがかかる点や、扱いづらい点など、様々な弊害がありました。
ところが、技術の進歩とともに、射撃管制装置などのシステムが導入され、運用のしやすさが向上します。また、指定した弾道へと確実に射撃できるようになったため、コスト面の課題も以前よりも改善。ところかまわず大量の射撃を行う必要がなくなったのです。
これらの改良により、MLRSは現代の戦場において、長距離射撃兵器として必要不可欠なものとなりました。
ちなみに、MLRSはアメリカ湾岸戦争ではじめて導入された兵器ですが、大量の金属が降り注いでくる様子から「スチール・レイン」と呼ばれていたことでも知られています。
多連装ロケットシステムの構造と仕組み
多連装ロケットシステムの大枠や歴史について理解できたでしょうか?続いて、多連装ロケットシステムの構造と仕組みについて詳しく解説します。
ロケットランチャーの構造
ロケットランチャーは、多複発射ロケットシステムの中核をなす部分であり、一度に多数のロケットを発射する構造を持っています。
車体後方にあるコンテナには、多数のロケット弾が積み込まれており、そこから各ロケット弾を、目標指定システムや射撃管理装置などを用いて、目標を指定し、発射することが可能です。
同時に複数の目標に対して攻撃ができ、目的を達成するための強力な兵器として戦場で活躍しています。
ロケット弾の種類と特徴
MLRSでは、様々なタイプのロケット弾が使用されます。
野戦用ロケット弾 | 最も一般的なロケット弾。白煙が生じるため、基本的にはMLRSなどの車体に積み込んで使用することが多い。 |
対障害物ロケット弾 | 障害物を破壊するために用いられるロケット弾。建築物などの障害物を破壊することが目的。 |
対戦車ロケット弾 | 戦車と対峙する際に用いるロケット弾。 |
対空地ロケット弾 | ヘリコプターや固定翼機などに用いるロケット弾。 |
噴進弾 | 飛距離を伸ばすためにモーターが内蔵されているロケット弾。 |
上記のような複数あるロケット弾の中から、任務の性質や目標に応じて適切なロケット弾を選択しています。
多連装ロケットシステムの設計と性能
続いて、多連装ロケットシステムの設計とその性能についてみていきましょう。
射程距離と精度
多連装ロケットシステムは、射程距離と精度に強みがあります。非常に長い距離をカバーでき、現代のシステムでは、数十キロメートル以上の距離をカバーできるのです。
そして、多連装ロケットシステムの優れているところは、射程距離だけではありません。最新の目標指定システムとGPS技術を組み合わせることで、精度も大幅に向上し、特定の目標への命中率が向上しています。したがって、多連装ロケットシステムは中~長距離の目標に対して的確に射撃を行う場面で重宝されています。
連続発射能力
連続発射能力があることも、多連装ロケットシステムの大きな特徴です。短時間で大量の火力を敵に投射することが可能です。そして、迅速に再装填が行えるため、長時間にわたる射撃も実現できます。
具体的には、コンテナ1基の換装にかかる時間は約3分ほど、再発射も8分でできるため、11分のラグタイムのみで再発射が可能です。長期間にわたり使用し続けられるため、多連装ロケットシステムは戦場で活躍し続けているのです。
モビリティと運用性
多連装ロケットシステムは、戦場での機動性が非常に高いです。なぜなら、システム自体が車両に搭載されており、支援が必要な場所へと迅速に移動することが可能だからです。これは、戦闘状況が絶え間なく変化する現代の戦場において、非常に重要なポイントとなります。
そして、短い時間内に設定から発射までを行えるシステムの特性上、戦場で変化に応じた迅速な反応ができます。
多連装ロケットシステムの特徴
続いて、多連装ロケットシステムの特徴についてみていきます。
多目的性
多連装ロケットシステムは、さまざまな状況に対応できるため、軍事機関にとって重要です。例えば、以下のようなミッションで多連装ロケットシステムが使えます。
- 都市部の建物を破壊する対建築物ミッション
- 部隊を制圧する地上攻撃ミッション
- 防空システムを無力化する対防空ミッション
1つのシステムで様々な任務をこなすことが可能です。多目的に活躍できるため、戦地の状況変化が著しい場合でも、多連装ロケットシステム1両で幅広く対応できます。
速やかな火力投射
短時間で大量の火力を敵に投射できることも多連装ロケットシステムの特徴です。前述したように、空の状態から約11分のラグタイムで再射撃ができるため、迎撃の機会をほとんど与えずに攻撃を行えます。
また、センサーで探知した情報をもとにして自動射撃を行うこともできるため、狙いを定めるよりも素早く攻撃が実行できます。
ロケット弾の多様性
多連装ロケットシステムは、前述したように、さまざまなロケット弾の種類を選択できることから、多種多様な目標に対応できる能力を持っています。
「対建築物ロケット弾」は建物や固定構造物を破壊することを目的として設計されており、都市部の戦闘や築城物の破壊などに活用されます。また、「対戦車ロケット弾」は重装甲のターゲットを攻撃することを目的としており、戦車や装甲車両に対する攻撃に用いられます。
さらに、「対空地ロケット弾」は空中の目標を攻撃するために使用され、低空飛行するヘリコプターやドローンなどに対抗するのに有効です。
これらの例からもわかるように、ロケット弾を使い分けながら攻撃を行うことが可能です。
多連装ロケットシステムの利用と活用
ここまで、多連装ロケットシステムの仕組みや概要についてみてきましたが、内容は理解いただけたでしょうか?続いて、多連装ロケットシステムの利用例や活用方法についてより詳しく見ていきます。
軍事利用
戦場における多連装ロケットシステムの軍事利用の例として有名なのが、湾岸戦争でしょう。アメリカ軍がこのシステムを活用し、一斉射撃により、イラク軍の防御陣地や集結地を瞬時に壊滅させ、敵の戦闘能力を大幅に低下させる結果をもたらしました。
対戦車作戦
多連装ロケットシステムは、対戦車作戦でも重要な役割を果たします。第二次世界大戦中のドイツ軍は、多連装ロケットシステムの走りとなる「ネーベルヴェルファー」を活用して、敵戦車を一斉射撃しました。
また、2014年のウクライナ東部紛争でも、多連装ロケットシステムが戦車対策として用いられました。一度に多数のロケット弾を発射し、敵の戦車群に対して広範囲な攻撃を行うことで、敵の装甲部隊を制圧したといわれています。
戦場の火力支援
湾岸戦争時、アメリカ軍は多連装ロケットシステムを使用してイラク軍の防御陣地や集結地に攻撃を行いました。これにより、敵の防御体制を瞬時に崩すことができ、敵の戦闘能力を大幅に低下させました。
ロケット開発におけるAI活用の現状
最後に、ロケット開発とAIについて考えてみましょう。JAXA所属の堤 誠司氏は、現段階では残念ながらAIを活用したロケット開発は難しいという風に結論づけています。その理由は以下の2つです。
- AIのディープラーニングを活用するには宇宙のデータが不足しているから
- 宇宙開発者と人工知能研究者の相互不理解が生まれている
まず、AIはディープラーニング技術を使用しており、そもそものデータがなければ活用することはできません。宇宙開発の分野では未知な部分が多く、現状ではデータを扱うことが難しいのです。
また、宇宙開発者と人工知能研究者の間には、相互不理解が生まれていて、互いに「何ができるんだろう」「何がしたいんだろう」とニーズを探りあっているような状態となっています。
このような背景から、AI活用の宇宙開発への導入は容易ではない状況にあります。しかし、AIの進化とともに、宇宙開発におけるAIの可能性も広がっていくことでしょう。
これからディープラーニングに活用できるほどの膨大なデータが見つかり、AIによってできることの世間認知も広まっていけば、ロケット開発×AI活用も夢ではないかもしれません。
参照:宇宙開発におけるAI活用の現状と新たな宇宙開発ビジネスでのAIの重要性
ロケットシステムのまとめ
この記事では、多連装ロケットシステムの概要、構造、性能、そして戦場での利用や活用法について詳しく解説しました。多連装ロケットシステムは、一度に多数のロケットを発射することができ、その射程距離と精度は非常に高いことが特徴です。
また、その多目的性と速やかな火力投射能力、そしてロケット弾の多様性から、戦場での役割は非常に広範で、多様な状況に対応することが可能です。現代の戦場における重要な兵器であり、その開発や利用はさらなる進化を遂げることでしょう。
また、ロケットシステムに関して不明点や困ったこと、質問、相談、案件、依頼などがあれば経験豊富な株式会社Jiteraにお問い合わせください。