DX（デジタルトランスフォーメーション）
昨今のデジタル化やリモート作業の需要向上によって注目を集めているのが「複合現実（MR）」という技術です。製造業界や建築業界と幅広い業界でビジネスへのMR活用が進んでいます。
ただ複合現実（MR）という名前は聞いたことがあるものの、その仕組みや詳細は知らないという人も多いのではないでしょうか。
本記事では、複合現実（MR）の仕組みから、メリット、導入事例まで詳しく解説しています。
複合現実（MR）に関する基本的な情報をわかりやすく紹介していくので、複合現実（MR）導入検討を考えている人は、ぜひ参考にしてみてください。
現役のシステムエンジニアとして10年程度のキャリアがあります。 Webシステム開発を中心に、バックエンドからフロントエンドまで幅広く対応してきました。 最近はAIやノーコードツールも触っています。
複合現実（MR）とは？
複合現実（MR）は、現実世界と仮想世界を合成させて相互に影響し合う空間を作り出す技術やツールのことです。カメラやセンサーを活用することで、現実世界に投影された仮想世界のオブジェクトを360度あらゆる角度から見たり、触れて操作したりすることができます。
ユーザーが仮想世界のオブジェクトに直接干渉できるようにするために、現実世界を精密に認識するスキャン技術や3DCGの作成技術など求められるスキルは複雑なものが多いです。
複合現実（MR）の仕組み
複合現実（MR）は、現実世界と仮想世界を合成させるためにセンサーやカメラを用いて現実空間やユーザーの動きをリアルタイムで検知してマッピングを行います。
ユーザーの動きが正確に検知されることで、ユーザーが現実世界に投影されたホログラムに直接干渉できる仕組みです。
複合現実の仕組みは、センサーやハードウェア、ソフトウェアで構成されています。
センサーの役割
センサーは、ユーザーの動きや周囲の環境をキャプチャしてデータとしてマッピングすることが役割です。この時にユーザーの位置や方向、および周囲の物体の情報が検知されます。
ハードウェアの役割
ハードウェアは、センサーでマッピングしたデータを収集や処理、投影を行うデバイスとしての役割を持ちます。
例えば、ホログラムを投影するためのディスプレイやデータを処理するためのコンピュータやプロセッサー等がMRにおけるハードウェアです。
ソフトウェアの役割
ソフトウェアでは、センサーデータを解釈して現実世界とホログラムを統合することが役割の機能です。位置の追跡や物体の認証、リアルタイムレンダリングなどを行います。
複合現実（MR）導入のメリット
複合現実（MR）を導入することで、企業活動や日常生活において、さまざまなメリットが得られます。
複合現実（MR）技術を活用するメリットは以下のとおりです。
- 生産性の向上
- 教育環境の効率化
- 工期短縮
- コスト削減
- 遠隔業務のハードルが下がる
以下ではそれぞれについて紹介します。
生産性の向上
MRを活用することで業務の生産性向上に繋がることがメリットです。従来平面ディスプレイ越しで行われていた確認業務などを、より実物に近いホログラムで確認ができるため問題解決の促進効果が期待されます。
例えば、企業の製品デザインを行う際にMR技術を活用することで立体的なデザインで確認できるだけでなく、現実で行えないシミュレーションの実施を行うことが可能です。
教育環境の効率化
MR技術は従業員の教育環境の効率化にも役立つことがメリットです。紙や平面ディスプレイ上で確認していたマニュアルや教育資料がホログラムとして立体化するだけでなく、利用者が干渉できる特徴を利用して実践的な教育も同時に行えます。
例えば、機械の操作方法の教育にMRを利用することで、実践に近い状態で操作手順を学習可能です。
これまでマニュアルによる学習と実機によるシミュレーションで教育していた環境が、MRによって同時に実装できるようになったため教育環境の効率化はMR導入のメリットといえるでしょう。
工期短縮
MR技術は、製品開発や製造にかかる工期の短縮が可能です。通常製品開発や製造では、試作品を作ることが必要不可欠です。
適宜試作品を作成して改善していき、製品のクオリティを高めていきます。提供レベルまでに何度も試作品を開発する必要があり、実機で製造するとなると時間がかかります。
実物に近いホログラムで試作品を作成することは、実際に実機で試作品製造を行うよりも時間が短縮されるため、工期短縮ができることはMR導入のメリットです。
コスト削減
MR技術の導入はさまざまな面でコスト削減が可能です。特に試作品開発をMR技術でデジタル化することで、実機で試作品を作成するよりもコストが抑えられます。
大型の製品開発や製造を行う場合に、実際に試作品を開発するとなると多くのコストがかかるため、昨今ではＭＲ技術を開発に組み込む製造業が増えてきています。
遠隔業務のハードルが下がる
MR技術を用いることで遠隔業務支援が比較的難しい製造業でも遠隔業務で支援することが可能です。
MR技術でハンドトラッキングを行い、現場作業者にマニュアルや熟練者の作業映像を連携して伝達できます。遠隔業務のハードルが下がるためMR導入のメリットといえるでしょう。
複合現実（MR）の事例紹介
MR導入を検討する際に、事例を確認することは重要です。
ここでは、MRの導入事例について解説していきます。
MRの活用事例として主に以下のケースがあげられます。
- トレーニングと教育
- 製品設計とプロトタイピング
- リモート協業
- 販売・マーケティング
- 保守・メンテナンス
- 医療
- 建築・不動産
- 製造
- 小売業
- エンターテインメント・観光
それぞれ詳しくみていきましょう。
トレーニングと教育
MRは、医療現場での手術シミュレーションや、製造現場での作業トレーニングなどで活用されます。
例えば、医療分野では、手術のシミュレーションや解剖学の教育にMRが利用されています。これにより、医学生や医師が現実に近い環境で訓練を受けられます。
また、製造業や建設業など、危険を伴う作業の安全教育にもMRが効果的に活用されています。
製品設計とプロトタイピング
MRを活用することで、実際の製品を製作する前に、仮想空間上に製品のプロトタイプを作成して検証できます。
デザイナーやエンジニアは、MR空間でプロトタイプを共有して共同作業を行うことで、より迅速かつ効果的な製品開発が可能になります。これにより、物理的なプロトタイプを作成する前にデザインの問題点を早期に発見して改善できる、という効果があります。
実際に、自動車産業では、MRを使って車両のインテリアデザインを検討したり、エンジン部品の配置を最適化したりする取り組みが進んでいます。
リモート協業
MRを活用することでリモートでの協業が可能になり、場所を問わずに共同作業ができます。
例えば、建築プロジェクトでは、設計者、施工者、クライアントが同じ仮想空間で建物モデルを共有し、リアルタイムで共同作業が行えます。
また、製造業では、遠隔地の専門家が現場作業者にMRを通じて指示を出し、複雑な機械の修理や保守を支援することが可能です。
このように物理的な距離を超えて効率的に作業できる点がMRの特徴です。
販売・マーケティング
MRを活用した販売・マーケティングでは、顧客に新しい体験を提供することで購買意欲が高まるという効果があります。
例えば、家具店では、顧客が自宅の実際の空間に仮想の家具を配置して、サイズや色合いを確認できるアプリケーションを提供しています。
また、自動車ショールームでは、MRを使って車の内装や機能を詳細に紹介し、顧客の購買意欲を高める取り組みが行われています。
保守・メンテナンス
複雑な機械や設備の保守・メンテナンス作業では、MRが大きな役割を果たしています。
技術者はMRヘッドセットを着用することで、機器の内部構造を可視化し、修理手順を3D表示で確認しながら作業を進められます。これにより、作業効率が向上し、ミスのリスクも軽減されます。
航空機産業ではエンジンの保守作業にMRを活用する事例が増えているなど、さまざまな業界で活用が進んでいる技術です。
医療
医療の分野では、MR技術を使用して手術のシミュレーションや患者の治療計画を立てる事例も増えています。
外科医は、手術中に患者の体内構造を3Dで可視化するというような、精密な手術のサポート役としてMRを活用しています。
また、MRを活用した遠隔医療支援システムにより、専門医が遠隔地から手術をサポートすることも可能です。さらに、リハビリテーションの分野では、MRを使った運動療法プログラムが患者の回復を支援しています。
このように医療のさまざまな場面でMRの活用が進んでいます。
建築・不動産
建築・不動産では、MR技術を使用して建物の設計や内装のプランニングを行っています。
建築家は、建物の完成イメージをクライアントに立体的に示し、打ち合わせの場で設計変更をしながら設計を行います。不動産業では、MRを使って物件の内装をバーチャルにカスタマイズし、顧客に提案することが可能です。
また、建設現場では、MRを活用して設計図面と実際の建築状況を比較し、施工の精度を高めています。
このように、クライアントに対してリアルなイメージを提供し、設計の確認が容易になるという事例があります。
製造
製造の分野では、MR技術を使用して生産ラインの最適化や品質管理を行っています。
作業者はMRヘッドセットを通じて、組立手順や品質チェックポイントをリアルタイムで確認しながら作業を進めます。また、機械の設置や調整作業では、MRが複雑な手順を視覚的にガイドし、作業の正確性を向上させています。
自動車産業や航空機産業ではMRを活用した生産システムの導入が進んでおり、生産性向上やコスト削減という効果が確認されています。
小売業
小売業では、MR技術を使用して顧客に対して新しいショッピング体験を提供します。
例えば、店舗内では、MRを使って商品情報を拡張表示したり仮想試着を提供したりすることで、顧客が自分に合った商品を選ぶサポートをします。
一方、オンラインショッピングでは、MRアプリを通じて商品を自宅の環境に投影し、実際の使用イメージを確認できるサービスが登場しています。また、化粧品業界では、MRを使った仮想メイクアップ体験が人気を集めています。
このように小売業では、MRを活用した顧客体験の向上が図られています。
エンターテインメント・観光
エンターテインメントと観光産業では、MRが没入型の体験を提供し、新たな楽しみ方を創出しています。
テーマパークでは、MRを活用したアトラクションが登場し、現実世界とバーチャル世界が融合した体験を提供しています。
観光地では、MRガイドを通じて歴史的建造物の過去の姿を再現したり、文化遺産の詳細な情報を提供したりすることで、観光体験を豊かにしています。また、博物館では、展示物に関連する追加情報やインタラクティブなコンテンツをMRで提供し、来場者の学習体験を深めています。
このように、MRを活用することで観光地やテーマパークの魅力を高めています。
複合現実（MR）の具体的な企業事例
複合現実（MR）は、現実世界と仮想世界を融合させることで、新しい価値を提供する技術です。
以下では、具体的な企業事例を通じて、MR技術がどのように活用されているかを紹介します。
PianoVision
PianoVisionは、楽譜に合わせて流れてくるマークをタイミングよくおすことでピアノの練習にもなる音楽系のMRゲームです。
このアプリは、複合現実（MR）技術とハンドトラッキングを活用して、楽譜が読めない初心者でも直感的にピアノを学べるように設計されています。
PianoVisionには、実際のピアノを使う「Real Piano Keyboard」モードと、バーチャルキーボードを使う「Air Piano」モードがあります。
1から12までのレベルで1,000曲以上が登録されており、カスタムソング機能を用いればMIDIファイルから読み込んで好きな曲も演奏可能です。
また、他のユーザーと一緒に演奏するマルチプレイヤー機能や、バーチャル背景機能も提供されているため、さまざまな楽しみ方ができます。
LEGO® Bricktales
LEGO® Bricktalesは、LEGOのジオラマの世界を現実世界に投影して楽しんだり、実際に作ったりできるMR対応ゲームです。物理的なLEGOセットを組み立てる感覚をデジタルで再現し、プレイヤーに創造的な構築体験を提供します。
プレイヤーは、ジャングル、砂漠、都市、メディーバルキャッスル、カリブ海の島々など、5つの異なるジオラマバイオームを探索します。それぞれのバイオームでミニフィグたちを助け、パズルを解決し、物語を進めていきます。
LEGO Bricktalesは、LEGOの創造的な側面をデジタルで体験できるゲームであり、LEGOファンや自分で創造して楽しむパズルゲームが好きな人にはおすすめのMRゲームです。
技能の伝承や教育訓練｜JFE スチール株式会社
JFE スチール株式会社では、MR技術を活用して熟練工の技術の伝承や安全な環境でさまざまなシナリオの教育訓練を実施しています。
MR技術は、現実の身体の動きと高度にリアルなコンピュータ生成の仮想工場環境を融合させます。これにより、研修生は実際の設備を操作するのと同様の経験を仮想空間で実習できます。
またた、この技術は、若手社員がリスクを伴う作業を安全に学べるという特徴もあります。例えば、連続鋳造機に流し込む溶鋼の量を調整する作業や、ノズルが詰まった場合の対応を仮想環境で安全に練習できます。
このように、JFE スチール株式会社では、MR技術を活用することで、次世代の技術者育成を進めるとともに、安全で効果的な訓練環境を提供しています。
設備の作業性や安全性の確認 ｜トヨタ自動車株式会社
トヨタ自動車株式会社では、MR技術を活用して生産設備導入前に設備の作業性や安全性を確認します。MR技術を使用することで、実際の設備がまだ存在しない段階でも、仮想空間での詳細な検証が可能となっています。
ヘッドマウントディスプレイのカメラで自分の手や周囲のリアルな風景を取り込み、そこに設備画像のホログラムを合成します。これにより、実際の作業手順を身振りで確認可能です。
MR技術を用いることで、試作品のデジタル化が可能となり、実機での試作に比べて時間とコストを大幅に削減できます。これにより、製品開発や製造にかかる工期を短縮できるという効果が得られます。
まとめ：複合現実（MR）はビジネスに活用できる革新的なツール
複合現実（MR）とは、現実空間をベースに仮想空間を組み合わせる技術の総称です。カメラやセンサーを用いてユーザーの動きや周囲の物体や環境の状況を検知して、現実空間にホログラムを投影します。
現実空間をベースにホログラムが投影されるため、ゲーム以外にも製造業のデザインや試作品開発などに活用されています。
生産量向上やコスト削減など業務にMRを導入するメリットは多いため、自社の業務改善をしたいと考えている人はMRの導入を検討してみてはいかがでしょうか。
自社にMRの導入を検討される場合や不明点がある場合は、ぜひ株式会社Jiteraにご相談ください。MRの開発支援サービスや、MRを活用したソリューション提案など、経験豊富なチームが皆様のニーズにお応えいたします。
