
社会人からシステムエンジニアを6年間経験し、現在はフリーランスとなり日々勉強中。 エンジニア時代から海外の開発者との交流も多く、海外での仕事も夢見て場所を問わずノマド生活を送っている。
エンタープライズアーキテクトとは?
「エンタープライズアーキテクト」と聞いて、何を思い浮かべるでしょうか?
人によっては、システム設計ツールを思い浮かべる方もいるかも知れません。また別の人は職業のエンタープライズアーキテクトを思い浮かべるかも知れません。
この記事を読めば、ツールとしてのエンタープライズアーキテクトのことも理解でき、職業としてのエンタープライズアーキテクトのことも理解できるようにまとめました。どちらの観点からも整理することで、本質的にエンタープライズアーキテクトがどのような意味合いを持つのかを考えて頂けたらと思います。
※ツールとしては、「エンタープライズアーキテクチャ」とも表現されます。
エンタープライズアーキテクトの役割とは?
①ツールとしてのエンタープライズアーキテクトの役割
システム開発においては、要件定義→設計→開発→テスト→納品という流れで工程を進めることがほとんどです。また、この工程を複数人で、組織的に進めていく場合が多いと思います。どの工程も重要ですが、開発成果物の質と開発効率を考えると、特に要件定義と設計の部分が重要になってきます。ただ、複数人での設計・開発はコミュニケーションロスが起きやすく、全体像も掴みにくいという課題があります。
そこで開発されたのが、エンタープライズアーキテクトという設計ツールです。このツールにより、大規模開発における設計・開発の連携がわかりやすく効率的になりました。
②職業としてのエンタープライズアーキテクトの役割
昨今、DXやIT推進という言葉が多く聞かれるようになりました。職業としてのエンタープライズアーキテクトとは、このDXやIT推進の中核を担う存在と言って過言ではありません。DXのプロジェクトの全体像を描き、円滑なコミュニケーションを取ることで、効率的に顧客にソリューションを提供することがエンタープライズアーキテクトの役割です。
エンタープライズアーキテクトの必要性とは?
①ツールとしてのエンタープライズアーキテクトの必要性
エンタープライズアーキテクトを利用することで、組織での開発における安全性と効率の向上が期待できます。
組織での開発において、担当領域のみを理解して開発していれば良い場合もあります。しかしながら、コミュニケーションが不足している場合、例えば、それぞれDB構造がちぐはぐになってしまったものや、カラムの名称、クラスの名称、変数の名称など、後から手戻りが発生することも多くなってしまいます。
エンタープライズアーキテクトを利用することによって、論理的に矛盾している構造が起きづらくなり、開発者も安心して開発に集中できるようになります。圧倒的に効率の良い開発を進めることができると言えるでしょう。
②職業としてのエンタープライズアーキテクトの必要性
DXを進める上で、システムに詳しいだけや、プロジェクトをマネジメントできるだけでは上手くいかない場合があります。なぜなら、各企業のDXには、多くの複雑な問題が絡み合うことが多いためです。縄の結び目を一つずつ解いていくような作業が必要になります。その際には、どこの何が絡み合っているのか、その原因は何なのか、システムの問題なのか、業務プロセスの問題なのか、問題は複雑化していることが多いでしょう。
そんな中で活躍できる存在がエンタープライズアーキテクトです。DXのプロジェクトの全体を把握し、全体像のモデル化、どこにどのような課題があり、何が原因となっているのかの分析を行います。また、プロジェクトの過程では、各領域とのコミュニケーションを柔軟にとることができ、プロジェクトを効率的に進めることができます。
DXを進めてみたけれど、途中で課題が噴出してしまって頓挫した、という経験のある担当の方も多いのではないでしょうか。そんなとき、エンタープライズアーキテクトのような存在が、はじめから全体像を把握し、プロジェクトを進めてくれていたらと思う方が多いでしょう。
エンタープライズアーキテクトの価格
エンタープライズアーキテクトに関連するコストについてこちらで見ていきましょう。
いざエンタープライズアーキテクトツールを使おうと思ったときに、どれくらいのコストがかかるのか、
また、エンタープライズアーキテクトの資格を取得したいと思ったときにどれくらいのコストがかかるのかを見てみたいと思います。
エンタープライズアーキテクトツールの価格設定
エンタープライズアーキテクトツールの中でも、一部UML やSysmlを簡易的に利用する場合は、無料のツールもあります。しかしながら、プロジェクトが大規模な場合や、上流から下流への工程をシームレスにつなげようとした場合には、有料サービスを利用したほうが良いでしょう。
例えば、スパークスシステムズ社の価格を参考にすると、ライセンスにより以下のような価格になります。また、契約ライセンス数によって価格は変動します。
下記の表は1ライセンス購入時の参考価格で、ライセンスをまとめて契約する場合は割引の適用などがあります。
プロフェッショナル版 | コーポレート版 | ユニファイド版 | アルティメット版 | |
スタンダード | ¥38,500 | ¥50,600 | ¥93,500 | ¥121,000 |
フローティング | ¥57,750 | ¥75,900 | ¥140,250 | ¥181,500 |
エンタープライズアーキテクト資格の取得費用
資格としてのエンタープライズアーキテクトの取得にかかる費用も見てみましょう日本におけるエンタープライズアーキテクト資格では、TOGAF®標準の認定を受ける方が多いでしょう。
具体的な試験としては、SAPが提供している認定試験があります。「SAP Certified Associate Enterprise Architect」では、1回のみの受験費用の場合35,464円、6回セットで88,654円となっています。ただ、この試験を受けるにあたり、TOGAF®の知識も求められるため、研修に参加するなどの必要もあるかも知れません。その場合は、受験費用とは別に、300,000円の研修費用と、その他教科書代などが必要となります。
エンタープライズアーキテクトの仕事内容
エンタープライズアーキテクトとは、端的に表現すると「クライアント企業の経営目標と、ITアーキテクチャが合致するように、全体のアーキテクチャを設計する者」です。エンタープライズアーキテクトに求められる職務内容は多岐に渡ります。
エンタープライズアーキテクトの職務内容
1.戦略の分析
クライアント企業の経営目標を理解し、それに基づいたIT戦略の策定を行います。そもそもクライアント企業がどのような課題を解決したいと思っているのか、ここを抑えることが最も重要なポイントと言えるでしょう。ここを誤ってしまうと、要件を汲み取れないことや、齟齬のある設計に繋がってしまいます。
2.要件定義
クライアント企業の業務を理解し、全体像を可視化します。具体的には業務フローを可視化し、業務における登場人物と業務の流れを可視化していきます。この際には、クライアント企業の担当者と、システム開発者が同じ認識を持てることが重要となります。
3.ITシステムの設計 テクノロジーのリーダーシップ
クライアント企業の業務効率向上のために、アプリケーション、データベース、セキュリティ、インフラ等、それぞれが最適化されるよう指揮をとります。業務フローをもとに、データフローやアプリケーションのシステム設計等を行い、業務が滞りなくまわるように設計をする必要があります。またここでも、複数の開発者(場合によっては異なる企業の開発者が担当することもあるでしょう)の間で、認識に齟齬が起きないように論理的な矛盾が発生しないよう、全体像とつながりを可視化する必要があります。
4.開発・検証の指揮
開発進捗に遅れが出ることも容易に予測ができるでしょう。その場合にも、進捗の遅延が最小限で収まるように、事前に課題を把握できるよう進捗を把握する必要があります。
5.すべての工程におけるコミュニケーションと組織間の調整
上記の流れはどれも切っても切り離せないものであり、どこかにコミュニケーションロスが発生すると手戻りが発生してしまう恐れがあります。そのため、常に組織間の調整を行う役割が必要となります。エンタープライズアーキテクトのスキルによって、プロジェクトの進捗に大きく影響を与える要因とも言えます。
エンタープライズアーキテクトのキャリアパスとスキル
エンタープライズアーキテクトとして活躍するためには、プログラマやSEとしての経験があり、上流の要件定義やシステム設計の経験をした上で、PMOとしてプロジェクトをマネジメントした経験があることが望ましいです。特に難易度の高い大規模なIT改革プロジェクトに携わる経験や、新製品の開発・導入に携わった経験があれば、プロジェクトを進める前に多くの課題に気がつけるようになるでしょう。
上記のような経験の中で必要なスキルとしては下記のようなスキルが必要と言えるでしょう。
1.汎用的な問題解決能力
エンタープライズアーキテクトに求められる最も大切なスキルとも言えます。まず企業の経営目標に対する課題もそうですが、プロジェクトを進める上でどこにどのような課題があるのかを考え、課題を発見する能力が必要になります。その上で、原因の分析と、ソリューションを提供できる能力が求められます。
2.ITシステムのモデリング(アプリケーション・データベース・セキュリティ)
エンタープライズアーキテクトに求められるスキルとして、モデリングの能力が求められます。これは、組織間のコミュニケーションギャップを埋めることにも繋がりますが、上流では業務フローの可視化から、下流ではシステム設計の要件の可視化も求められます。
具体的な作業までやる必要はないかも知れませんが、指揮を執るエンタープライズアーキテクトがモデリングスキルも持ち合わせていたほうが良いでしょう。
3.プロジェクトマネジメント
プロジェクトの上流から下流までに関わりを持つ存在となるため、プロジェクト全体の指揮を任されることも多いでしょう。各工程にどれくらいの工数が必要なのかを把握でき、予実管理を行うことができる能力も求められます。
4.コミュニケーション能力
上記1〜3でも求められるものですが、上流から下流における各組織間の調整能力が特に必要になってきます。エンタープライズアーキテクトにコミュニケーション能力がないと、組織間で認識の齟齬が生まれ、上手くいくプロジェクトも上手くいかなくなってしまいます。プロジェクトの中核を担う存在として、必須のスキルと言えるでしょう。
エンタープライズアーキテクトの説明
ここまで読んで頂くと、エンタープライズアーキテクトが、広範囲に渡って活躍できる仕事であることをご理解頂けたかと思います。スペシャリストとジェネラリストという言葉がありますが、エンタープライズアーキテクトはジェネラリストとしての活躍が求められます。
キャリアパスとしても多くの職務を経験していなければいけません。一方で、ITに携わるどの職種の方でも目指せる職種とも言えるかも知れません。どこかの分野に強みがあれば、そこを軸として広く浅く知見を持っていることがはじめの一歩となるでしょう。
エンタープライズアーキテクトとは何か?
エンタープライズアーキテクトの本質は何でしょうか。それは、DXやITの推進を目指す企業の導入プロジェクトにおいて、プロジェクトを円滑に進めるよう仕組みや課題を可視化する者と言えるでしょう。そのためには、これまで見てきたように業務フローの可視化や、より詳細なシステム設計においても可視化を行っていく必要があります
それは大前提として、多くのプロジェクト担当者がいて、多くの開発者が関わるプロジェクトでは、コミュニケーションロスが起きやすく、安定して効率的にプロジェクトを進めることが困難であるという背景があります。その困難を解決できるツールであり、その役割を担う人材がエンタープライズアーキテクトです。システム導入の流れに沿って、エンタープライズアーキテクトの活躍分野と業務範囲を見てみましょう。
エンタープライズアーキテクトの活躍分野と業務範囲
エンタープライズアーキテクトの活躍分野は大きく5つです。
1.戦略の分析
クライアント企業の経営目標を理解し、それに基づいたIT戦略の策定を行います。そもそもクライアント企業がどのような課題を解決したいと思っているのか、ここを抑えることが最も重要なポイントと言えるでしょう。ここを誤ってしまうと、要件を汲み取れないことや、齟齬のある設計に繋がってしまいます。
2.要件定義
クライアント企業の業務を理解し、全体像を可視化します。具体的には業務フローを可視化し、業務における登場人物と業務の流れを可視化していきます。この際には、クライアント企業の担当者と、システム開発者が同じ認識を持てることが重要となります。
3.ITシステムの設計
クライアント企業の業務効率向上のために、アプリケーション、データベース、セキュリティ、インフラ等、それぞれが最適化されるよう指揮をとります。業務フローをもとに、データフローやアプリケーションのシステム設計等を行い、業務が滞りなくまわるように設計をする必要があります。またここでも、複数の開発者(場合によっては異なる企業の開発者が担当することもあるでしょう)の間で、認識に齟齬が起きないように論理的な矛盾が発生しないよう、全体像とつながりを可視化する必要があります。
4.開発・検証の指揮
開発進捗に遅れが出ることも容易に予測ができるでしょう。その場合にも、進捗の遅延が最小限で収まるように、事前に課題を把握できるよう進捗を把握する必要があります。
5.すべての工程におけるコミュニケーションと組織間の調整
上記の流れはどれも切っても切り離せないものであり、どこかにコミュニケーションロスが発生すると手戻りが発生してしまう恐れがあります。そのため、常に組織間の調整を行う役割が必要となります。エンタープライズアーキテクトのスキルによって、プロジェクトの進捗に大きく影響を与える要因とも言えます。
エンタープライズアーキテクトのツールと規格
ツールとしてのエンタープライズアーキテクト(一般的にエンタープライズアーキテクチャとも言う)は、経営目標に対して、システムの運用を最適化するためのツールです。対象となる範囲に応じて、以下に分類されます。
ビジネスアーキテクチャ(BA)・・・業務の目的や業務フローの構造
データアーキテクチャ(DA)・・・データの基本設計
アプリケーションアーキテクチャ(AA)・・・ソフトウェア等の設計
テクノロジアーキテクチャ(TA)・・・IT基盤やセキュリティの設計
エンタープライズアーキテクトに使用されるツールと規格
ビジネスアーキテクチャの領域ではUMLやSysmlを利用した業務フローとして、アクティビティフローと、アクションフローが主に用いられます。役割(登場人物)と業務の流れを可視化できます。
データアーキテクチャでは、概念データモデルと論理データモデルを用います。業務に近いデータの流れと、それをシステム設計に落とすためのモデルです。
アプリケーションアーキテクチャでは、業務フローやデータフローで定義した流れが滞りなく行われるよう設計を行います。
テクノロジアーキテクチャでは、主にインフラについて、ここでも業務フローとデータフローをもとに、誰がアクセス可能なのか、何人がアクセスするのか、最大同時接続数も加味して設計を行います。
エンタープライズアーキテクチャフレームワークの導入手順
システムの稼働までの導入手順は下記の流れで行われます。
1.戦略の策定(ビジネス領域で達成したいことの定義)
2.要件定義(業務フローをベースにしたデータの流れまでを定義)
3.システム設計(DB・アプリケーション・インフラ・セキュリティの設計)
4.開発・検証(DBやアプリケーションの開発とテスト)
5.システムの稼働
通常のシステム導入と大きな流れは変わりませんが、エンタープライズアーキテクチャフレームワークとしては、とくに上記の1〜3においてその効果を発揮します。上流の工程をしっかり固めて、モデリングツールを用いることで全体像を可視化し、後から要件の変更が起こりづらい体制を整えます。
プロジェクトにおいて、要件定義の変更があった場合は、その後に開発したシステムも無駄になる可能性があり、最も避けたいことと言えるでしょう。その課題を解決するためのエンタープライズアーキテクチャフレームワークです。
エンタープライズアーキテクトのまとめ
DXやIT推進が進められている今の時代、エンタープライズアーキテクトはツールとしても、職種としても社会から求められる存在となっているでしょう。
働き方としてのエンタープライズアーキテクトは、出身が開発者でも、コンサルタントでも、どの領域に強みを持っている人でも目指せる職種であるとも言えます。そのため、一つの職種を専門的に突き詰めたいわけではなく、ジェネラリストとして活躍したい方にはおすすめの働き方と言えます。
また、ツールとしても、エンタープライズアーキテクチャフレームワークの導入により、安全で効率の良いプロジェクトの進め方ができるでしょう。以前は紙で管理をしていることもあり、すべてエクセルで管理できないわけではありませんが、大規模な設計においては情報伝達や共有の難しさがあります。
また、どこかで論理的に矛盾していても、人間が気が付かなければ後になって手戻りが発生してしまいます。そういった観点で、大規模設計のコミュニケーションをスムーズに、また論理的な正誤判定ができるツールにより、安全で効率の良い導入ができることとなるでしょう。