ビッグデータへのアクセスとその解析は、現代ビジネスを行う上で大きな課題の1つです。その解決策として「Hadoop」というオープンソースのソフトウェアを活用する方法があります。
しかし、昨今は代替されるサービスの普及により「Hadoopの時代は終わった」と言われることもしばしばあります。また、似たような機能を持つオープンソースソフトウェアの「Spark」の存在もあり「Hadoopは終わった」という議論に拍車がかかっているとも考えられるでしょう。
とはいえ、今でもHadoopは多くのデータを扱う分散処理の方法として、多くの企業に重宝されています。
本稿では、これらのフレームワークの概要や特徴、各ソフトウェアの比較、そして実際の利用事例を紹介します。HadoopとSparkの入門的な話をしていきますので、ぜひ、参考にしてください。
東京都在住のライターです。わかりづらい内容を簡略化し、読みやすい記事を提供できればと思っています。
Hadoopとは

Hadoopは、より多くのデータを効率的に解析する能力を持つオープンソースのソフトウェアフレームワークです。誰でも利用できる上、非常に便利な機能が備わっているため、規模の大きなデータ分析の分野で広く活用されています。ここでは、Hadoopの概要や特徴、利用用途について詳しく見ていきます。
Hadoopの基本概要
Hadoopは、規模の大きなデータの解析を効率化させることを目的として開発された、オープンソースのフレームワークです。多くのデータ量をもつ情報を単一のコンピューターで解析するのではなく、複数のコンピュータを組み合わせて大規模のデータを解析するのが基本的な仕組みです。
Hadoopの仕組みを分解すると、以下2つの要素から成り立っていることがわかります。
- HDFS(分散ファイルシステム)
- MapReduce(分散実行処理システム)
まず、HDFSは、多くのデータを複数のマシンに分散して保存する機能を提供しています。そして、MapReduceは、データの並列処理を可能にします。
これらの特性を活用し、大規模なデータ処理タスクを高速化するのが、Hadoopの仕組みです。
Hadoopの主な特徴
Hadoopには以下2つの特徴があります。
- 分散管理で効率的に処理できる
- サーバー障害にも強い(DR対策に役立つ)
まず、前述したようにHDFSとMapReduceを組み合わせ、大容量のデータを分散保管して並列処理できます。つまり、解析量に応じてスサーバー台数を追加するスケールアウトができるということです。そして、その特性があるため、コストを抑えつつ運用ができます。
また、災害などを原因とするサーバー障害が発生した場合にも、安定して処理が行えます。つまりDR(ディザスタリカバリ)対策にも貢献するのです。
Hadoopの利用用途
Hadoopは、その高度なデータ解析力とストレージの能力を活かして、様々な分野で利用されています。特に、大規模なデータ分析が必要なシーンにおいては、多くのデータを短時間で解析できるため、役立ちます。
例えば、ECサイトで収集したユーザーの行動データを、Hadoopの分散処理機能を利用して分析し、次の日のマーケティング戦略を立てることも可能です。また、インターネットやSNSのトラフィックデータの分析など、非構造化データの解析にも使用できます。
そして、昨今はマシンラーニングやAIの分野でも、大量のデータを扱う能力が活用されています。
多くの機能性と拡張性を有効活用すれば、大規模データの収集が必要なシーンで役立つでしょう。
Sparkとは

SparkもHadoopと同様、大規模な情報の解析を高速化できるオープンソースのフレームワークです。UIや拡張性、スピードなどの観点からSparkを活用する人もいます。ここでは、Sparkの概要や特徴、利用用途について詳しく見ていきます。
Sparkの基本概要
Sparkは、多くのデータを効率的に分散して並列処理を行うことが可能な強力なフレームワークです。大規模なデータを使用する情報分析と解析を、従来の方法よりも高速化することを目的として活用されています。
また、Java、Scala、Python、Rといった開発APIを提供しており、さまざまな業界で使用されています。活用することで、複雑な問題を解決するための時間と労力を大幅に削減させることが可能です。
Sparkの主な特徴
Sparkの最も重要な特徴は、その優れたインメモリ処理の能力です。インメモリの処理とは、主記憶装置のRAMで処理することを意味しますが、多くのデータをHDDやSSDではなくメモリに保存することにより、従来から行われていたディスクベースの処理よりも圧倒的に高速化できます。
また、多くのデータ分析や複雑な計算タスクも素早く行える特徴があり、高速なトランザクション処理が必要なシーンでよく用いられる方法です。
Sparkの利用用途
Sparkは、多くの情報の分析、機械学習、データマイニングといった幅広い領域で活用されています。データをもとにした意思決定を行うことは、ビジネスの成長を促進するための重要な要素となっています。
例えば、ECビジネスにおいては、Sparkを用いて顧客の購買傾向を分析することで、個人にスポットをあてたマーケティング戦略を策定できます。また、金融機関など、セキュリティが重要な分野において、異常検知のためにSparkを活用し、不正行為を早期に発見することでも活用されています。
特に、Sparkはリアルタイム分析に非常に優れているので、多くのデータをいますぐに処理して分析結果を出すことが可能です。競合他社が多数存在するビジネス、もしくは顧客への信頼感が重要なビジネスにおいて、競合優位性を獲得するために活用されています。
HadoopとSparkの比較

HadoopとSparkは、両方とも多くのデータを処理するための強力なフレームワークですが、その機能とパフォーマンスにはいくつかの顕著な違いがあります。それぞれの特性を理解することで、特定のタスクに最適なソフトウェアを選択することができます。簡潔にまとめると、次のような違いがあります。
| Hadoop | Spark | |
| データ処理方法の違い | ディスクベースのデータ管理 | メモリベースのデータ管理 |
| メモリ使用方法の違い | データをディスクに保存して必要な時に引き出す | 可能な限りデータをメモリに保管しておく |
| パフォーマンスの違い | 拡張性が高い | 高速で処理ができる |
| コーディングの複雑さの違い | 少し複雑 | 簡単 |
各項目についてより詳しい解説が知りたい方は、以下を読み進めていってください。
データ処理方法の違い
HadoopとSparkは、それぞれ違う方法でデータを処理するという点で異なります。
まず、Hadoopはディスクベースのストレージを使用してデータを処理します。分散してデータを保管しているため、データを永続的に保存し、大量のデータを取り扱うことに向いている方法です。
一方、Sparkはメモリベースで実行します。データを一時的に保管し、そこで情報を処理していきます。ただし、データ保存機能はないため、もし、データを保存したいのであれば、HDFSなどを使ってストレージを確保する必要があります。
つまり、長期的に保管しておきたいデータを活用する場合にはHadoopを使用し、素早く何回転も回してデータを収集したい場合には、Sparkを活用するのがおすすめです。
メモリ使用方法の違い
HadoopとSparkは、メモリ使用に関して根本的な違いを持っています。
まず、Hadoopはデータをディスクに保存し、それを必要に応じて読み出すという設計思想になっています。一方、Sparkは可能な限りデータをメモリ内に保持するというのが設計思想です。
効率的な設計思想であり、どちらを選択しても問題なさそうに感じますが、この部分がデータへのアクセス速度に大きな影響を与えます。
具体的には、Sparkでメモリにデータを保持しておくほうが、Hadoopがディスクからデータを読み出すよりも、高速にデータへアクセスできるのです。
大量のデータを迅速に処理する必要がある場合、SparkはHadoopよりも優れたパフォーマンスを発揮するというのには、そういう理由があります。
パフォーマンスの違い
パフォーマンスについても両者には違いがあります。
まず、Hadoopはより多くのデータを処理できる能力を持っています。ディスクベースのストレージを利用して多くのデータを扱う能力を持つため、大規模なデータ処理タスクにおいても拡張性があります。しかし、Hadoopの処理速度はSparkよりも遅くなる可能性があります。
一方、SparkはデータをRAM上で直接処理しており、Hadoopと比較して処理速度を大幅に高速化できます。ただし、処理速度を最大にするにはメモリが必要であり、処理したいデータがメモリの能力を超えた場合には、速度が低下してしまいます。
つまり、パフォーマンスで考えるのなら、以下のように使い分けるのがおすすめだということです。
- メモリを超えるサイズのデータを処理したいならHadoop
- リアルタイムで高速処理がしたいならSpark
コーディングの複雑さの違い
コーディングの複雑さ、つまり、エンジニアの負担を考えると、Sparkの方がコーディングが簡単であり、労力がかかりません。そのため、開発にかかるコストは抑えられます。
ただし、HadoopとSparkは上記でも示したように、状況や要件に応じて最適なソフトウェアを選択することが求められています。例えば、Sparkの方がコストがかからないから、実装するというふうに決めてしまうと、場合によっては求めている要件を満たさないことも考えられるのです。
フレームワークを選択する際には、要件定義を行い、特性を理解した上で実装する必要があります。場合によってはコンサルタントに相談してみるのも良いかもしれません。
Hadoopの利用事例

Hadoopはビッグデータの分析に非常に有用なソフトウェアでありながら、その導入や利用には一定の知識や技術が求められます。
そのため、初めてHadoopを利用しようと考えている方の中には、どのような事例でこのソフトウェアが活用されているのか、またどのような成果が得られているのかについて不安を感じていることもあるでしょう。
ここでは、ビッグデータ処理ソフトウェアとしてのHadoopの具体的な利用事例をいくつか紹介し、その概要と成果を詳しく解説します。
三井住友カード

三井住友カードは、NTTデータの協力のもと、Hadoopを導入しました。同社は、EC取引や少額決済が増加してり、トランザクションの増加によるホストの負荷に懸念があったようです。そして、加えてホストのCPUを増強させるために多くのコストを必要とするケースがあったようです。
しかし、Hadoopを導入することで、CPU負荷の削減や処理時間の短縮によりシステムコストの削減を実現できたようです。また、NTTデータとの協力で開発したソフトウェアを使用することにより、より効率的に情報を抽出できるようになったと書かれています。
株式会社リクルート

リクルートは、自社が展開している「ゼクシィnet」「じゃらんnet」「S UUMO」などへアクセスするユーザーの大量のログデータを迅速に処理するために、Hadoopを導入しました。
魅力的な情報をユーザーに届けるとともに、そこから収集できたデータを分析し、広告を出稿するクライアント企業に対して新たな価値を提供することを目指したようです。
NTTデータの支援、コンサルティングのもと、Hadoopの効果と実現性を検証し、商用システムへの導入を進めていったそうです。
その結果、バッチ処理の高速化を実現し、多角的なログ分析が可能になりました。14時間かかっていた処理を15分で完了できたという現場の効果があり、Hadoopの導入に強い手応えを感じたと書かれています。
国立国家図書館

国立国家図書館が提供しているポータルサイト「国立国会図書館サーチ」は、横断検索や連想検索などの機能を持っており、その機能を実現するためには大量の書誌データを分析する必要がありました。
書誌同定・グループ化処理(名寄せ処理)と全文検索インデックス作成処理にHadoopを活用し、処理時間の大幅な短縮を実現することに成功したようです。
これにより、大量データを扱う検索システムの構築が可能となりました。具体的には、30台以上のHadoopクラスターを組み、約5TB、数千万件の書誌データを処理するシステムができたと書かれています。
HadoopとSparkの将来性

最後に、ビッグデータ処理技術として注目を集めているHadoopとSparkの将来性について考察します。これらの技術がどのように発展していくのかを考えてみましょう。
クラウドコンピューティングの普及と影響
クラウドコンピューティングとは、ネットワークを活用しリソースを活用することです。
クラウドコンピューティングが普及したことで、これまでの伝統的なデータ処理方法から、より効率的で拡張性のあるクラウドベースのソリューションへと移行してきました。その時代の中で活躍したのがHadoopとSparkです。
これらの技術は、分散コンピューティングの概念をクラウドへと拡張し、ビッグデータの分析と処理をより効率的に行うことを可能にしました。また、他で提供されているクラウドベースのサービスと連携を行うことで、インフラストラクチャのコストを削減し、よりビジネスで活用しやすくなるでしょう。
今後も技術力が高まれば、今では処理できないほどの膨大なビッグデータも処理できるようになるかもしれません。
AIとの統合
AI技術の進化は、我々の生活のあらゆる側面を変えつつあります。同時に、ビッグデータ処理技術であるHadoopとSparkも年々驚くべき進化を遂げており、新たな可能性を提案し続けています。
HadoopとSparkをAI技術と統合させることによって、さらなる可能性が広がる可能性が高いです。
例えば、医療分野ではAIの活用が進められていますが、そこにHadoopやSparkのデータ処理能力を組み合わせることによって、AIは患者の医療記録からパターンやトレンドを抽出し、病気の早期発見や治療法の選択を支援してくれるかもしれません。そして、そのデータが膨大であったとしても、素早く活用できます。
AIとの連携を視野に入れることで、我々の生活をより良くするための新たな方法を導ける可能性があります。
新たな技術の登場と競合
推論的ではありますが、HadoopとSparkのデメリットを補う競合が現れる可能性はあると考えられます。競合が現れるとするならば、以下のような視点で新しい技術が生まれるでしょう。
- より効率的な方法でビッグデータ処理を行う
- ユーザーフレンドリーな設計である
まず、より効率的な方法でビッグデータを処理することについてですが、HadoopとSparkはそれぞれ「リアルタイムに弱い」「メモリを多く消費する」といったデメリットがあります。これらを改善する2つを掛け合わせたようなソフトウェアがでれば、十分競合になりえます。
また、HadoopとSparkを活用するためには、高度な技術的知識が必要です。非技術者でも手軽に利用できるUI的に優れたソフトウェアが現れれば、そちらに切り替わるかもしれません。
Hadoopのまとめ

本稿では、これらのフレームワークの概要や特徴、各ソフトウェアの比較、そして実際の利用事例を紹介しました。
HadoopとSparkは、それぞれ異なる特性と利点を持つ強力なビッグデータ処理ソフトウェアです。Hadoopは大量のデータを長期間にわたって保管し、効率的に分析することが可能です。
一方、Sparkはリアルタイムで高速なデータ処理が要求される場面で強みを発揮します。これらの特性を理解し、ビジネス要件に合わせて適切なソフトウェアを選択することが、ビッグデータを活用したビジネス成功の鍵となります。
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