ソフトウェア開発において「ビルド」という用語は頻繁に耳にしますが、その具体的な意味やプロセス、さらにはコンパイルやデプロイとの違いについては違いがわからない人も多いかと思います。
この記事ではビルドの基本的な定義から始め、そのプロセスとシステム開発における重要性について掘り下げていきます。
また、ビルドと密接に関連するコンパイルやデプロイとの違いについても詳しく解説し、JavaやC言語におけるビルドの違いについても比較していきますので、ぜひ参考にしてみてください。

文系大学出身で、25歳の時にIT業界に足を踏み入れました。ヘルプデスクから要件定義まで、下流から上流まで文字通り叩き上げでキャリアを築き上げました。取得した資格もいつの間にかもう2桁に。趣味も資格取得。あと、映画鑑賞と飲み会。
ビルドとは?
ビルドはソフトウェア開発においては必須の作業であり、ソースコードから実行可能なアプリケーションや配布パッケージを生成する一連の作業を指します。
このプロセスではコンパイル、リンク、パッケージングなどを含み、最終的にはユーザーに提供できる形の製品を生み出していく流れとなります。
特にビルドの自動化は、特に大規模なプロジェクトや複数のプラットフォームをサポートする場合に重要となるため、効率的な開発を実現するためにもビルドプロセスは自動化するのがおすすめです。
ビルドがシステム開発において重要な理由
エンジニアであればビルドの重要性は誰もが把握していることですが、システム開発における作業の効率性や品質に影響を与えるレベルの重要プロセスといえます。
ビルドプロセスでは、コンパイル中にソースコードのエラーを検出できますが、ビルド自体は主にソフトウェアを実行可能な形にするためのものであり、エラー検出はコンパイル段階で行われることが一般的です。
ビルドツールを使用すれば、開発者は繰り返し行われるビルド作業を自動化できるので、作業の時短が可能となります。
そのため、開発段階における工数にも余裕ができるため、必要なフェーズで必要以上の時間をかけることも可能になるでしょう。
ビルドプロセスの適切な管理と自動化を行うことはシステム開発における作業の一貫性を保つために重要であり、品質が保たれたプログラムは後の改修・新規開発にも役立てることが可能です。
コンパイルとビルドの違い
プロセス | コンパイル | ビルド |
---|---|---|
目的 | ソースコードを機械語に変換 | 実行可能なソフトウェアを作成 |
手順 | ソースコードを解析し、機械語に変換 | コンパイル、リンク、パッケージングを含む |
結果 | オブジェクトファイル(バイナリコード) | 実行可能なアプリケーションやライブラリ |
ツール | コンパイラ | ビルドツール(例:Make、Maven) |
応用 | 特定の言語に特化 | 複数の言語やライブラリを統合 |
コンパイルとビルドはソフトウェア開発において重要な用語ですが、それぞれ異なる役割を持っています。
コンパイルは、プログラミング言語で書かれたソースコードをコンピュータが理解できる機械語(バイナリコード)に変換するプロセスで、この変換はコンパイラと呼ばれるソフトウェアによって行われます。コンパイルは、ビルドプロセスの一部として行われることが多いです。
一方でビルドは、コンパイルされたコードを実行可能なソフトウェアに組み立てるプロセスです。これには、コンパイルだけでなくリンクやパッケージングなどの追加のステップが含まれます。ビルドは、ソフトウェアの完成形を作り出すための一連の作業のことを指します。
ビルドとデプロイの違い
ビルドとデプロイはよく混同されがちですが、実際の作業は異なるため理解しておく必要があります。
ビルドはソースコードから実行可能なアプリケーションを生成し、開発されたソフトウェアやアプリケーションを実際の運用環境に反映させるプロセスです。
それに対し、デプロイはこのアプリケーションを実際の運用環境に配置し、開発者が作成したプログラムを実際に利用可能な状態にする作業のことを指します。
このような違いがあるため、ビルドとデプロイはソフトウェア開発の異なるフェーズで行われる作業になります。ビルドプロセスはソースコードから実行可能なアプリケーションを生成し、この生成物がデプロイの対象となります。
実務においては、ビルドされたアプリケーションをテスト環境にデプロイしてテストした後、最終的には本番環境へのデプロイが行われます。
ゲーム開発におけるビルドの目的・重要性とは
ゲーム開発においてビルドは非常に重要で欠かせないプロセスです。ビルドをする目的は以下の通りです。
- バグの発見と修正が効率的にできる
- テストやリリース作業を自動化できる
- 開発全体の効率化が図れる
ビルド時に構文チェックやテストが自動で行われるため、バグの早期発見と修正が容易になります。
また、後述するCI/CDツールやIDEの機能を活用すれば、ビルドから各種テスト、インストーラ作成などの運用作業を自動化できるのため、目的に応じたビルドができるよう適切に環境構築をしていくことも大事でしょう。
バグやエラーの発見ができる
ビルド時にコンパイラによるコード解析が行われるため、ソースコードの構文エラーや型の不整合などのバグの発見が期待できます。
また、ビルド後にユニットテストやインテグレーションテストを行うことで、実際の実行時にバグが発生しないかも合わせて確認してくれます。
こうしたテストを継続的に行うことで、バグの早期発見と修正が可能になり、ゲームの品質が向上するでしょう。
例えば、UIアニメーションなどごく単体ユニットでこまめにビルドを行い、モック(模型:ごく単体の機能だけを実装した実行ファイル)を作成したとします。
ここで検出されたエラーやバグは原因の切り分けが比較的容易で、単体ユニットごとに手早く修正が可能です。
ですが、ユニットテストやモックの作成を飛ばしてユーザーからのインタラクティブな操作まで一気にビルドしたケースでは、コード解析にも時間がかかり、原因の特定や修正の切り分けも不十分になりがちです。
ビルドをこまめに行わずに開発を進めると、結果的にデバックの工程などで多くのチェックエラーや手戻りが発生することになり、工数がかさむ要因にもつながります。
テストやリリースの作業を自動化できる
近年のビルドツールは、単にプログラムを生成するだけでなく、テストの自動化やリリース資材の作成まで行うようになっています。
具体的には、ユニットテストやインテグレーションテストを段階を踏みながら自動でビルドを実行します。
さらにプラグインを活用することで、アプリケーションのインストーラや商品の概要、プレイ方法のレファレンスなどを統合した配布用パッケージまで自動で生成する機能を搭載させられるのです。
従来であれば、頻繁なビルドの実行やモックの作成、リリースの準備といった手間はゲーム開発において課題となっていました。
自動化の仕組みを導入することで手間から開放され、ゲームの「おもしろさ」をつき詰めるコア部分の開発業務に専念できるようになります。
効率的なゲーム開発ができる
ビルド機能を搭載したCI/CDツール(Continuous Integration/Continuous Delivery)を十分に活かすことで、ゲーム開発全体の効率化が図れます。
通常、ソフトウェア開発では複数の開発者が関わり、お互いのコードの変更を統合(インテグレーション)していく必要があります。CI/CDツールであれば、開発者がコードを変更するたびに自動でビルドやテストを実行してくれるため、他の開発者の変更に影響がないかをすぐに確認でき、開発工程の大幅な短縮につながるのです。
そうして頻繁に実行可能ファイルを作成することで、誰もが最新の状態をすばやく確認できるため、開発の全体像を把握しやすくなります。また、小さなバグを見つけた時点で直ちに修正に着手でき、後から大規模な修正が発生するリスクも低減できるのです。
ひとりひとりが行った変更を逐一確認しながらビルドを行う必要がなくなり、コンフリクト(バグの要因となるコードの差分エラー。複数の開発者による合同開発にて発生する)を早期に発見して回避できます。
ゲーム開発がより一般にまで浸透してきた背景として、これらビルドツールの発展と普及が大きく貢献しています。
JavaとC言語におけるビルドの違い
JavaとC言語はどちらも広く使用されるプログラミング言語ですが、ビルドプロセスにおいては異なる特徴を持っています。
これらの違いを理解することで、それぞれの言語を使用した開発を行う際もスムーズに作業に移行することができます。
ここではJavaとC言語のビルドプロセスの特徴について違いを比較し、それぞれ解説していきます。
特徴 | Java | C言語 |
---|---|---|
コンパイル対象 | .javaファイル(ソースコード) | .cファイル(ソースコード) |
生成物 | .classファイル(バイトコード) | 実行可能なバイナリファイル |
プラットフォーム独立性 | 高い(JVM上で実行) | 低い(直接的な機械語) |
ビルドツール | Maven、Gradle | make、CMake |
適用分野 | クロスプラットフォームアプリ、Webアプリケーション | 組み込みシステム、OS開発 |
Javaのビルドプロセスと特徴
Javaのビルドプロセスは、そのプラットフォーム独立性とオブジェクト指向性に大きく影響されます。
Javaのコードはまず「.java」ファイルとして記述され、Javaコンパイラによって「.class」ファイル(バイトコード)に変換されます。このバイトコードは任意のプラットフォーム上でJava仮想マシン(JVM)によって実行されます 。
このバイトコードは任意のプラットフォーム上でJava仮想マシン(JVM)によって実行されるため、”Write Once, Run Anywhere”(一度書けばどこでも動く)の特徴を持ちます。
Javaのビルドプロセスは、依存関係の管理やビルド自動化に特化したツールを使用することが一般的でしょう。
代表的なビルドツールにはMavenやGradleがあり、これらはプロジェクトの依存関係を解決して初学者であってもビルドプロセスを比較的簡単に実行してくれます。
また、Javaのビルドプロセスは、オブジェクト指向の原則に従ってモジュール化されたコードの組み立てに重点を置いています。
c言語のビルドプロセスとその特徴
C言語のコードは「.c」ファイルとして記述された後、コンパイラによって直接的な機械語(実行可能なバイナリファイル)に変換されており、プログラムの実行効率を最大化することに重点を置いているといえます。
C言語のビルドプロセスでは、makeやCMakeなどのビルドツールが一般的に使用されます。
これらのツールは、ソースファイルとヘッダーファイルの依存関係を管理して複数のファイルから成る大規模なプロジェクトのビルドを効率化しています。
C言語のビルドプロセスは、システムのリソースを直接操作する必要があるプログラミングに適しており、組み込みシステムやOSの開発に広く利用されています。
ビルドのよくあるトラブルと対処法
ビルドはシステム開発においてほとんどの場合で実行される作業ですが、多種多様なトラブルが発生する可能性が考えられます。
これらのトラブルを理解して適切に対処することもシステム開発においては求められるでしょう。
ここではビルドのよくあるトラブルと対処法についてそれぞれの項目で詳しく解説していきます。
ビルド設定の不備
ビルド設定の不備は、ビルドプロセス中にありがちな事項です。
これは、ビルドスクリプトや設定ファイルに誤りがある際に発生する場合がほとんどです。
例えば、依存関係が正しく定義されていない、ビルドパスが誤っている、必要なライブラリが含まれていないなどの要因が考えられます 。
対処法としては、ビルドスクリプトや設定ファイルを一行一行慎重に確認し、誤りがないかチェックすることが重要です。
また、ビルドツールの公式ドキュメントを参照して設定方法を再確認することも有効でしょう。
ビルド時に表示されるエラーメッセージも手がかりの一つとなるため、詳細に分析して問題の原因を特定することも必要です。
プロジェクトの不備
プロジェクトの不備は、ソースコードやリソースファイルに問題がある場合に発生します。
これには、ファイルの欠落、コードのシンタックスエラー、非互換性の問題などが含まれるでしょう。
対処法としては、ソースコードをチームメンバーと共にクロスレビューし、エラーや論理的な誤りを探すことが有効といえます。
バージョン管理システムを使用していれば、誤りを見つけた段階ですぐに問題が発生する前の安定した状態に戻し、変更点を特定することも可能となります。
また、単体テストや統合テストを実施して、コードの問題点を早期に発見することも重要です。
ほとんどの場合は製造段階でビルドをよく利用するため、このフェーズで解決しておくのが無難です。
何かの手違いでスクリプトが書き換えられている場合は思わぬエラーが発生し、進捗に影響が出てしまう場合もあるため、Gitなどを用いて適切にソース管理していくことをお勧めします。
さらに、依存関係が正しく解決されているかを確認し、必要に応じて依存ライブラリを更新することも必要です。
環境の不備
環境の不備は、ビルドを実行する環境(開発環境、ビルドサーバーなど)に問題がある場合に発生します。
これには、不適切なツールのバージョン、環境変数の設定ミス、OSの違いによる非互換性などがあります。
対処法としては、開発チーム内で使用するツールやライブラリのバージョンを標準化し、全員が同じ環境で作業できるようにすることが重要です。
コンテナ技術の利用、特にDockerなどを使用して一貫性のあるビルド環境を作成することも有効となります。
そして、環境変数が正しく設定されているかを適宜確認し、必要に応じて修正していくことも必要です。
また、異なるOSでのビルドを考慮したクロスプラットフォーム対応を行うことも考慮すべき事項の一つといえるでしょう。
ゲーム開発のビルドを支援するツール
包括的なビルドを実現するためには、ツールの活用が重要になります。今回はその中でもネームバリューのあるツールについて紹介します。
- Jenkins
- Incredibuild
これらのCI/CDツール(Continuous Integration/Delivery)を利用すれば、ビルドからテスト、デプロイまでを自動化できます。
具体的にはソースコードの変更をトリガーにビルド作業を動作させることで、修正→テスト→実行ファイル生成→リリースまでを一元化し、効率的な開発フローを構築できます。
詳しく紹介していきましょう。
Jenkins
Jenkinsは、オープンソースのCI/CDツールとして広く利用されています。
コミット時(ソースコードの変更や修正・リポジトリ統合など)にビルドを自動で実行し、静的解析やユニットテストなどの検証作業を行えます。
Jenkinsではビルドに加え、リソース制御、通知設定など多様な機能を自由に設定できるため、ゲーム開発現場のビルドプロセス構築にも適しています。
Jenkinsの大きなメリットは、プラグインの存在です。1,300を超えるプラグインが公開されており、さまざまなツールとの連携で自動化が実現できます。
複雑な一連のデプロイ手順も柔軟に設定できるのが魅力ですが、いかにカスタマイズするかが効率化の鍵になるため、扱いが難しいツールともいえます。
主な機能/特徴 |
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費用 |
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Incredibuild
Incredibuildはビルドの高速化に特化したツールで、CPUリソース分散技術により並列処理を最適化します。
従来の単一的なビルドに比べて、複数のコア、マシン間でのビルド処理を並列分散できるため、大規模プロジェクトのビルド時間を大幅に短縮できます。
ゲーム業界をはじめ、CAD/CAEなどの描画処理を伴う大規模ソフトウェアの開発現場で広く利用されています。
Incredibuildの実装はソースコードの修正なしで利用でき、既存環境のビルドツールチェイン(コードエディタ、コンパイラ、リンカ、ライブラリ、デバッガといった機能群を搭載したツール)と併用できるのが特徴です。
主な機能/特徴 |
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費用 |
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まとめ:ビルドで開発プロセスを改善しましょう
この記事では、ソフトウェア開発におけるビルドの基本概念やプロセス、そしてコンパイルやデプロイとの重要な違いについて詳細に解説してきました。
ビルドは、ソースコードをコンパイルし、リンクし、その他の必要な処理を行って、実行可能なアプリケーションや配布パッケージを生成する一連のプロセスを指します。
一方デプロイは、開発されたソフトウェアやアプリケーションを実際の運用環境に反映させるプロセスで、ソフトウェアをサーバーにアップロードして必要な設定やデータベースの接続を行う作業となります。
システム開発においてビルドは必須な作業の一つとなっており、開発者が効率的かつ一貫性を保った状態で開発を行えるだけでなく、プログラムの品質ひいてはサービスの品質維持にまで影響を与えるレベルの重要な作業となります。
ビルドについて把握しておくことで効率的な開発が行えるため、特にプロジェクトを管理する立場にある人は、開発に入る前の時点でビルドツールの整備やマニュアル・ナレッジを整えておくことをお勧めします。
ビルドやデプロイを含むシステム開発前半に関してお悩みの方は、知識と経験が豊富なJitera社に一度ご相談してみてはいかがでしょうか。