結合テストはシステム開発の重要なテストフェーズであり、個々のモジュールが互いにどのように連携するかを検証するプロセスです。
この記事では、結合テストの基本概念からその目的や単体テストとの違い、そして効果的なテストケースの作成方法に至るまで結合テストの全体像を包括的に解説していきます。
さらに、結合テストの成功に不可欠な観点の洗い出し方法やテスト後のステップについても詳しく説明します。
初心者やテスト経験が浅い方は、ぜひこの記事を通じて結合テストの重要性を学んでいきましょう。
![Nao Yanagisawa](https://xs691486.xsrv.jp/wp-content/themes/JITERA/images/director-nao-1.png)
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
結合テストとは?
結合テストは、システム開発における重要なフェーズで別々に開発された複数のモジュールやコンポーネントが一緒に動作する際の連携機能を検証するプロセスです。
このテストは、個々のモジュールが組み合わされたときに生じる問題や不具合を特定して、システム全体としての機能性と信頼性を確保するために行われます。
結合テストにより、異なるモジュール間のデータの流れやインターフェースの互換性が検証され、全体としてのシステムがスムーズに動作することを保証していきます。
結合テストの目的とは?
結合テストの主な目的は、個別に開発されたモジュールが互いに適切に連携して全体として期待どおりに機能することを確認することです。
このプロセスでは、モジュール間のインターフェースの問題、データの不整合、機能的なエラーなど、統合されたシステム内での潜在的な問題を特定して修正していく必要があります。
基本的には単体テストの後に実施されるため、単体テストほど詳細に処理は見ていかないもののシステム開発においては一番といって良いほど重要な工程となります。
メソッドごとの処理が成功していても、それらを結合してAPI同士の繋がりを確認すると大きなバグが潜んでいることも多々あります。
この段階で多くのバグを潰しておくことでその後の段階で手戻りがなくて済みます。
より具体的に結合テストの手法やおすすめツールについてはこちらの記事で解説していますので、ぜひ参考にしてみてください。
結合テストと単体テストの違い
結合テストと単体テストは、テストの焦点と範囲において根本的な違いがあります。
単体テストは、個々のモジュールやコンポーネントが独立して正しく機能するかを検証するプロセスです。
ここでは、関数、メソッド、クラスなどの最小単位のコードが期待通りに動作するかを確認します。
一方、結合テストはこれらの単体テストをパスしたモジュールが組み合わされた際の相互作用と全体の機能を検証します。
結合テストでは、異なるモジュール間のデータのやり取り、依存関係、インターフェースの互換性などが焦点となります。
例えば、単体テストではユーザー認証モジュールが単独で正しく機能するかをテストしますが、結合テストではこの認証モジュールが注文処理や顧客情報管理モジュールとどのように連携するかなどを検証していきます。
結合テストの観点
結合テストでは、システム開発において複数のモジュールやサブシステムが互いに正しく機能し、適切に連携するかを確認することが重要です。
この段階でのテストは、システムの全体的な品質と性能を保証するために不可欠なため、結合テストの観点はモジュール間のインターフェースの確認、期待される結果の確認、データの確認、そしてエラーの発生の確認に分けられます。
機能の正しさ
結合テストにおける「機能の正しさ」の観点は、モジュール間のインターフェースが正しく動作しているかを確認することに焦点を当てています。
これは、モジュールが正しいデータ形式でデータをやり取りし、正しい処理を実行しているかどうかということです。
例えば顧客管理システムにおいて、顧客情報を登録するモジュールとそれをデータベースに保存するモジュールが適切に連携しているかを確認することが含まれます。
顧客情報を登録する内部処理とデータベースに接続したりSQLを発行したりする処理との連携が適切になっているかなどさまざまなテスト項目を実施することで安全性の担保をとっていきます。
機能の完備性
「機能の完備性」の観点では、モジュール間の相互作用によって得られる結果が仕様書に定められた結果またはユーザーが期待する結果と一致しているかを確認します。
これは、システムが設計通りに機能しているか、ユーザーの要求を満たしているかを検証することに重点を置ています。
単体テストでは正確に取れていたデータでも結合テストの時点では機能間の連携がうまくいかず、nullを渡していたり必要なバリデーションが漏れていたりとあらゆるバグが想定されます。
昨日の完備性を求めることで、結合テストとしても信頼性のあるものへと押し上げていくことができます。
機能の非機能要件の満足度
結合テストでは、機能の非機能要件の満足度も重要な観点です。
これには、システムのパフォーマンス、セキュリティ、スケーラビリティなどが含まれるでしょう。
例えば、システムが大量の同時アクセスに対応できるか、データの安全性が保たれているかなどを検証します。
非機能要件はシステムの信頼性とユーザー体験に直接影響を与えるため、結合テストにおいて重要な役割を果たします。
プロジェクトによってもテスト範囲をどこまで広げるかなどまちまちですが、結合テストの中に性能テストなどが含まれている場合はその負荷に特化したテストも行う必要があります。
想定する顧客の数や動くAPIの挙動など、一定期間の間に何百万件というデータが投入されても耐えられるのかなど実際の本番の時のデータ量を想定してテストを行います。
結合テストの観点洗い出し方法
結合テストの観点を効果的に洗い出すためには、システムの各機能がどのように連携し、全体としてどのように動作するかを理解することが不可欠です。
ここでは、結合テストの観点を洗い出すための具体的な方法について解説していきます。
要件定義書を読み解く
結合テストの観点を洗い出す最初のステップは、要件定義書や基本設計書を徹底的に理解することです。
これらの文書には、システムの機能要件やモジュール間のインターフェース、データの流れなどが詳細に記載されています。
要件定義書を読み解くことで、どの機能がテストの対象であるか、どのようなデータが各モジュール間でやり取りされるかを明確にできます。
設計書には多くの場合処理フロー図が図形を用いて記載されている場合が多いので、大枠の処理フローはフロー図を見てイメージしていくと良いです。
さらに、詳細な処理については詳細設計書などに記載されているため、特に条件分岐などに注意しながら網羅性を確保しつつ洗い出していきます。
テストパターンの活用
結合テストでは、異なるテストパターンを活用してシステムの様々な側面を検証します。
これには、正常系テスト(システムが想定通りに動作するか)、異常系テスト(エラー処理が適切に行われるか)、境界値テスト(入力値の限界値での動作確認)などが含まれます。
ある数値以上または未満になるとエラーになるような処理では最小値・最大値を使って境界値テストを行いますが、これが間違った値や処理・条件になっていると大きなバグの原因となってしまうため分類分けしたテストが重要になってきます。
これらのテストパターンを用いることで、システムの様々な状況下での動作を網羅的に検証することができます。
経験者の知見を活用する
結合テストの観点を洗い出す際には、経験豊富なテスターや開発者の知見を活用することが有効です。
経験者は過去のプロジェクトでの経験から、よくある問題点や見落としやすいエラーのパターンを知っています。
これらの知見を活用することでテスト計画の盲点を発見し、より包括的なテスト観点を洗い出すことができます。
プロジェクトによっては全体共有できるようなナレッジを蓄積していたり、効率化できるための手法を構築していたりするため、自分一人で悩むというよりは周りの力も借りながら作業を進めることも大切です。
結合テストにおける効果的なテストケースの作り方
結合テストでは、単体テストとは異なる視点でテストケースを作成していきます。
そのため、結合テストにおける効果的なテストケースの作り方を把握しておく必要があります。
ここでは、結合テストにおけるテストケースの作成方法とその効果的なアプローチについて詳しく解説していきます。
同値分割法
同値分割法は、ブラックボックステストで使用されるテスト技法の一つで、出力結果が同じになる値の集合(同値パーティション)を区分してテストを実行します。
この方法では、入力値を有効な値(有効同値パーティション)と無効な値(無効同値パーティション)に分け、それぞれのパーティションから代表値を選んでテストします。
例えば、パスワード入力において許容される文字(有効)と許容されない文字(無効)を区分し、それぞれのパーティションから代表値を選んでテストすることができます。
この方法のメリットは、テスト工数を削減しながらも効率的に不具合を検出できる点です。
ただし、代表値の選定には注意が必要かつすべての値をテストしたわけではないため、イレギュラーな不具合を見逃すリスクがあるので注意が必要です。
境界値法
境界値法は、指定条件の境界となる値とその前後の値に対して実施されるテスト技法です。
この方法では、バグや欠陥が発生しやすい境界部分を重点的にチェックしていくことができます。
例えば、ある機能が10~50の値で動作する場合、9(境界の最小値の1つ下)、10(境界の最小値)、50(境界の最大値)、51(境界の最大値の1つ上)をテスト対象としてテストします。
境界値法のメリットは、特にバグが発生しやすい境界部分を効率的にテストできる点にあります。
ただし、内部構造によっては欠陥が見つからないこともあるため、テスト設計時には慎重な検討が必要といえます。
モジュール間連携テスト
モジュール間連携テストは、異なるモジュール間のインターフェースやデータの受け渡しが適切に行われているかを確認するテストです。
このテストでは、各モジュールが連携して正しく機能するかを確認していきます。
モジュール間連携テストの重要なポイントは、インターフェースの仕様を正確に理解して異なるモジュール間でのデータの流れや処理の連携を詳細に検証することです。
結合テスト成功のためのポイント
結合テストは、システム開発全体の中でも工数を大きく占める重要なフェーズといえます。
基本的には製造フェーズの倍の工数を取ることもあるため、後のバグに繋がらないようしっかりとテストしていく必要があります。
ここでは、結合テスト成功のためのポイントを詳しく解説していきます。
網羅性と効率性のバランスを意識できているか
結合テストでは、網羅性と効率性のバランスが重要です。
網羅性はテストがシステムのすべての重要な側面をカバーしていることを指しており、効率性はリソース(時間、人員、予算)を最適に利用してテストを実施することを指しています。
このバランスを達成するためには、以下のポイントに注意する必要があります。
テストケースの選定
テストケースを選定する際には、システムの重要な機能やリスクの高い部分に焦点を当てます。
すべての機能を隅から隅までテストするのは不可能に近いため、最も重要な機能や過去に問題が発生した部分、ユーザーにとって重要な機能に重点を置くことが重要です。
優先順位の設定
テストケースに優先順位をつけ、重要なテストから順に実施します。
決められた期間内にテストを実施していく必要があるため、優先度の低いテストではなく優先度の高さを基準に実施していく必要があります。
自動化の活用
可能な限りテストの自動化を検討し、反復的なテストや時間がかかるテストを自動化することで効率を高めます。
手動のテストでは限界があり、効率も悪いためあまりお勧めはできません。プロジェクト指導前にはテストのことも考慮してあらかじめ自動化ツールを取り入れる検討をしておくべきでしょう。
テスト目的や対象が明確か
結合テストの成功には、テストの目的と対象が明確であることが大切です。
テストを実施する目的を明確にしてそれに基づいてテスト計画を策定していきますが、目的が不明確だとテストの焦点がぼやけ、重要な問題を見逃すリスクが高まります。
また、テストするシステムの部分や機能を具体的に特定し、それに基づいてテストケースを作成します。
どのモジュールが結合され、どのような処理フローや依存関係があるかを全体の流れから理解していくことが重要です。
さらに、開発チーム、テストチーム、ステークホルダー間で漏れのないコミュニケーションを行い、テストの目的と対象について共通の理解を持つことも重要といえるでしょう。
結合テスト完了後のステップ
結合テストを終えると、システムの各部分が互いに適切に連携し設計通りに機能することを確認していくフェーズにはいります。
しかし、結合テストの完了はプロジェクトの終了を意味するわけではありません。
ここから先は、さらに包括的なテストフェーズに進むことになります。
システムテストの準備と実施
結合テストの後には、システムテスト(総合テスト)が行われます。
この段階では、システム全体が要件を満たしているかを確認していきます。
ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどのシステムを構成するすべての要素がテスト対象に含まれます。
システムテストでは機能的なテストだけでなく、非機能的な要素(性能、耐久性、セキュリティなど)も評価されます。
不具合の修正と再テスト
結合テストやシステムテストで発見された不具合は、迅速に修正していく必要があります。
修正後は、変更された部分だけでなく、影響を受ける可能性のある他の部分についてもデグレ確認のための再テストが行われます。
受け入れテストの計画と実施
システムテストの後は、最終的なユーザー受け入れテスト(UAT)が行われます。
このテストでは、実際のユーザーがシステムを評価してビジネス要件と合致しているかを確認するためのものです。
UATは実際の運用環境で行われることが多く、実際のエンドユーザーによって実施されることもあります。
デプロイメントと運用の準備
テストフェーズが適切に完了してすべての要件が満たされたと判断されたら、システムは運用環境にデプロイされます。
これには、最終的な設定の調整、データ移行、などが含まれる場合があります。
プロジェクトのクロージングとドキュメンテーション
プロジェクトの最終段階ではすべての工程の詳細についてを文書化し、プロジェクトの成果物をレビューしていきます。
これには、テスト結果、不具合レポート、パフォーマンスデータなどが含まれます。
このようにプロジェクトの評価を文書化して行うことで、将来のプロジェクトに役立てることができます。
結合テストの観点はしっかり洗い出してエラーを防ぎましょう
結合テストはシステム開発における重要なフェーズであり、異なるモジュール間の連携と機能を検証するプロセスです。
さまざまな開発工程の中でも結合テストは特に重要なフェーズとして位置付けられており、結合テストをおろそかにしてしまうとバグの温床となってしまいます。
プロジェクトによっては結合テストフェーズには、性能を測るテストや一部サイクルテストをなどを含む場合がありますが、基本的には機能間の連携を確認するテストフェーズのため、観点を洗い出す際には何を目的とするのかを明確化させておく必要があります。
失敗しない結合テストを実施できれば、プロジェクト全体の信頼UPだけでなく、業務を担当した個々のエンジニアも評価されます。
これから結合テストを担う可能性のある人は、再度この記事を参考にしてみてください。
結合テストを含むシステム開発全般に関して何かお悩みの方は、知識と経験が豊富なJitera社に一度ご相談してみてはいかがでしょうか。