QCDとは主に製造業で大切とされる三つの要素ですが、製造業だけに留まらずサービス業やシステム開発などのIT分野でも極めて有用な概念です。
本稿ではQCDの定義を説明して、特にシステム開発業務におけるQCDのあり方を詳しく論じます。
QCDを意識した業務活動を行うことにより、自社の製品やサービスの競争力を増すことができます。
反面QCDを意識していない活動は、ビジネス活動が失敗に終わり、継続できなくなるリスクを高めます。
ぜひ御一読ください。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
QCDとは?
QCDは製造業・サービス業では業務の基本とも言える概念です。
QCDの各要素をバランス良く鼎立させれば、自社の製品やサービスの競争力を増すことができます。
他社よりも優位に立ち、ビジネスの成功につなげられます。
ただ、QCDのバランスを取る、と一口に言っても、それは容易なことではありません。
QCDのバランスが取れていない企業活動は、自社の存続すら危うくなるほど、QCDは重要です。
組織のトップ・現場が共にQCDを意識することが大切です。
QCDの定義とその意味
QCDとは、品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)の英単語の頭文字を並べたものです。
品質(Quality)は製品やサービスの特性が、顧客が要求する水準に満足しているかどうかを示したものです。
コスト(Cost)は製品の製造やサービス開発にかかる費用のすべてを指します。
納期(Delivery)は製品納入やサービスリリースの守るべき期限です。
品質/コスト/納期はそれぞれが完全に独立しておらず、互いにトレードオフの関係にあります。
品質を高めようとすれば、品質保証のプロセスを厚くするためにコストが増大する方向に動き、プロセスが長くなって納期を守れない可能性が高まります。
コストを低減しようとすれば、品質がおざなりになるリスクが増大し、顧客の要求を満足できなくなる可能性があります。
納期を守ろうとすれば、言葉は悪いですが、手を抜いて必要な品質保証のプロセスを省略しようという動機が生まれてしまいます。
品質/コスト/納期はどれも大切な要素ですが、どれか一つだけを取るのではなく、優先順位を決めてバランスよく鼎立させることが重要です。
QCDのビジネスへの影響
品質/コスト/納期を、限られたリソースによって高いレベルでバランスよく成り立たせれば、自社の製品やサービスの競争力が増し、ビジネスの成功に近づきます。
品質を顧客が満足するレベルで維持できれば、自社の製品やサービスが選ばれる動機となります。
コストを削減すれば、企業の収益は改善し、財務体質が強化されます。
納期を守れば、顧客の信頼を得て顧客満足度が上がります。
また、他社に先駆けて製品・サービスをリリースできれば、競争優位性を保てます。
品質/コスト/納期は三つとも大切であることが理解できるでしょう。
繰り返しますが、三つの優先順位付けとバランスが重要です。
どれか一つだけを突出させ、他をおざなりにしてはいけません。
そしてそれは、組織のトップと現場がそれぞれ意識しないといけません。
組織のトップが品質をおざなりに考え、現場がコストカットと納期厳守のプレッシャーに負けてしまい、品質問題を起こす事例は枚挙にいとまがありません。
三つの要素はどれも企業の持続維持に欠かせないものです。
知恵を絞り、高いレベルで鼎立させれば、企業運営に必ずプラスとなります。
QCDの優先順位の設定方法
品質/コスト/納期を同時に高いレベルで成り立たせるのは大変難しい問題です。
結論から言うと、品質面の優先順位を高く取り、次いでコスト、納期の順でバランスを取るのがよいでしょう。
コスト/納期の優先順位は時に入れ替わります。
理由は、品質問題が発生すると、企業の存続を危うくする問題に直結するためです。
コストが二番目に来ますが、軽視してよいわけではありません。コストを度外視してビジネスを続けることはできません。
また、「納期を守る」のは、ビジネスの鉄則です。顧客の信頼を得るためには、「納期を守る」のが必須です。
自社の状況を把握する
まずは自社の品質/コスト/納期の状況を把握しましょう。
現状がわからなければ、計画の立案・実行ができません。
「品質第一」ですが、自社の製品・サービスが顧客の要求を満足できているかどうか確認しましょう。
品質が足りていなければ上げる必要がありますが、一方「過剰品質」になることは避けねばなりません。
日本企業にありがちですが、昔からの慣例で続けている無駄なプロセスがよく存在します。
顧客の要求水準がどこにあり、自社の水準がどこにあるのかを見極めます。
安易にプロセスを変えるのはよくありませんが、現状を変える勇気も必要です。
コストは「資材費」「労務費」「製造経費」に分かれます。現場の人間は自分の現場に関係するコストだけに注目しがちです。
是非、組織のトップの人はコストをトータルで見るように心掛けましょう。
納期を適正に遵守できているかどうかを見ましょう。大体のビジネス活動は納期がギリギリになります。
顧客の要求に応えようと、無理な納期を設定していないか、逆に現場が余裕を取り過ぎて長い納期を設定していないか、を判断しましょう。
目標を設定する
現状を把握した後は、それぞれの目標を設定し、改善計画を立案しましょう。
品質が顧客の要求水準に到達するまで、競合に勝てるまでが目標です。
過剰品質になってしまうと、コストが増大します。
品質の劣化は市場からの退場を意味します。「品質第一」の姿勢は変わりません。
コストは損益分岐点の到達が最低限の目標です。
業績目標の立案はどの企業も行っていますが、ストレッチ目標になっているか、逆に現状の実力を無視した無理な目標になっていないかをチェックします。
また、コストは局所最適ではなく、トータルで最適化する必要があります。
納期は顧客との約束が守れるかどうかが分かれ目になります。
現場は自らの首を絞めないよう、余裕を見た長めの納期を設定しがちですが、あくまで判断は顧客との約束です。
逆に、顧客に言われるままに、現状の実力を無視した無理な短納期を設定すべきではありません。前述したように、現場が必要な品質プロセスを省いてしまう動機となりかねません。
時には、品質を担保するために納期を延ばす判断もトップには求められます。
いずれにせよ、どの要素も「数値化できる」目標であることが大切です。数値化できなければ、具体的な改善策を打てないためです。
改善策を実行する
目標が設定できたら、実行に移します。
品質/コスト/納期を改善する打ち手には様々なものがあり、本稿だけではすべてを紹介しきれませんが、代表的なものを記します。
品質はQC(Quality Control、品質管理活動)とPDCAサイクルの考え方が基本中の基本です。
QC・PDCAサイクルは主に製造業で用いられる手法ですが、サービス業やシステム開発にも応用できます。
QCについては、「QC検定」という民間資格があります。書籍も市販されているので、学ぶとよいでしょう。
PDCAサイクルはPlan(計画)/Do(実行)/Check(評価)/Act(改善)の頭文字を取ったものです。このサイクルを継続することによって、品質の改善を図ります。
コストは原価の低減・プロセスの効率化・業務のIT化/自動化の推進などによって改善していきます。
システム開発では、単価の安い外注先に業務を発注する手もあります。単価の切り下げは品質の劣化を招く可能性があるので、慎重に検討します。
納期の改善には、プロセスの無駄取り・後戻り工数の排除が有効です。いずれも、適切なプロジェクトの進捗管理のもとで実行します。
お気軽にご相談ください!
システム開発のためのQCD活用ポイント
QCDの考え方は、元は製造業で発展したものですが、ITのシステム開発にも適用できます。
基本は、製造業もシステム開発も変わりはありません。
しかし、システム開発には製造業とは違った難しさがあるのも事実です。
十分にノウハウが蓄積され、機械化が進んだ製造業と異なり、属人的な要素の大きいシステム開発は、QCD共にプロジェクト当初の見積もりよりも数字が暴れやすいことが主な原因に挙げられます。
本章ではシステム開発におけるQCDの活用ポイントとそのメリットを詳しく解説します。
システム開発におけるQCDの役割
システム開発のQCDの役割は、製造業のそれとあまり変わりません。
顧客・市場の要求する水準の品質を提供することが大前提となります。
システム開発の品質向上については、SWQC(Software Quality Control)の考え方が国際標準として定められています。
原材料費や設備投資のコストの比率が大きい製造業とは異なり、システム開発は要員の人件費×開発期間がコストの大半を占めます。
バグの発生を抑え、後戻り工数を減らす取り組みがコスト削減の決め手です。
いずれも、システム開発に携わる要員のスキルの高さに依存して数値が大きく上下します。
「人」に主眼を置いたQCDの管理が必要となります。
QCDのバランスを意識する
「品質第一」の姿勢でQCDのバランスを取るのは、製造業でもシステム開発でも変わりません。
まず、システムの要件を満たす品質を提供するために、いかに良い人材を集めるかが鍵となります。
開発工程においては、進捗管理を適切に行い、進捗遅れの兆候が見られたら早めにリカバリー策を打つ必要があります。
これが費用の増大を抑えるポイントとなります。
顧客との約束である納期を厳守するために、バグを迅速に潰し、大きな仕様変更が発生しないようにします。
逆に、システム開発は仕様変更が比較的容易なために、なし崩し的に顧客の要求する仕様変更に応じてしまう危険性もあります。
QCDのバランスを取って、顧客と納期延長の交渉をする必要性も、時には出てきます。しかし、顧客との信頼関係を強くするには、それは最後の手段とするべきです。
早い段階からQCDを意識する
システム開発でQCDのバランスを取るための肝は、前工程偏重でスケジューリングすることです。
商品企画や要件定義の段階で、しっかりと仕様を固めていれば、バグ発生(品質低下)の抑制につながります。
仕様変更も少なくなり開発期間を短くしてコストを圧縮できます。
結果的に納期を遵守することにも繋がります。
言うほど単純ではないかも知れませんが、前工程を厚くすることによるメリットは、QCDすべてに対して得られます。
繰り返しますが、このことは組織のトップと現場の人間が考えを共有できていることが前提となります。
組織のコミュニケーションロスを無くす、ドキュメントオリエンテッドな考え方を徹底するなどの施策も、QCDのバランスを取るのに有用です。
QCDを測定・管理する
QCDの各要素は、定量的に測定できる指標で管理することが必要です。
曖昧で定性的な指標では、有効な打ち手が打てないためです。
品質であればバグの発生件数や、性能要件の数字が該当します。
顧客の要求する性能に満足できているかどうかは、製品の大前提となります。
コストであれば、プロジェクトのマイルストーンごとの進捗の進み遅れをしっかり管理することで、開発期間のキープが容易になります。
また、開発各フェーズでの工数見積もりと実績との差分を、次のプロジェクトにフィードバックすることで、見積もりの精度が上がります。
見積もりの精度が上がれば、結果的に納期を確定しやすくなり、顧客との約束を守ることができます。
QCDを活用した開発手法:実際の事例
それでは、QCDをシステム開発に活用したビジネスケースを三つ紹介します。
具体的な開発事例を知ることにより、QCDの効果的な活用方法を見出します。
タイトルに「品質」とある通り、QCDのうちで第一優先なのはやはり「品質」であることがわかります。
いずれも大手企業での取り組みですが、中小企業・ベンチャー企業でも活用できるものです。
自社のQCD改善のヒントとしてください。
NTTデータ品質保証フレームワーク
https://www.nttdata.com/jp/ja/data-insight/2021/0901/
デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むNTTデータは、傑出したイノベーター個人の力量に頼るDXから、組織的にDXをマネジメントする方向に舵を切っている。
未だユーザーのニーズが明確になっていないDXに対して、NTTデータが仮説検証しながらプロジェクトを進めるアプローチを取る。
DXの品質をDX品質ツリーにまとめた。
- ビジネス戦略レイヤー
- 価値提案レイヤー
- サービスデザインレイヤー
- PoCレイヤー(PoC、Proof of Concept:新しい技術や理論が実現可能か、仮説を立てて実験的に検証を行うプロセス)
- 技術開発プロセスレイヤー
このうち価値提案レイヤー以降の四つをDX品質保証の対象としている。
DX品質保証の実現のために、DX経験者の持つ知識を、ベストプラクティスを見つけ組織で使える知識とすることを目的としている。
個人の暗黙知を抽出し、組織知識資産とすることを目指している。
DXについて知識創造プロセス(SECIサイクル)を回し、品質保証にかかわる観点やプロセスの抽出に取り組む。
(共同化(S)/表出化(E)/連結化(C)/内面化(I)の頭文字)
ソニーフィナンシャル品質マネジメントシステム
https://www.sony.com/ja/SonyInfo/csr/library/reports/SustainabilityReport2022_quality_J.pdf
お客様に「満足感」「信頼感」「安心感」を提供するために、製品の品質とカスタマーサービスの向上を目指している。
ISO9001の認証を取得し、ソニー品質憲章の実現を目指す。
お客様の声を社内に反映させる仕組みを作り、品質問題の再発防止・未然防止に務める。
特に製品のアクセシビリティを高めるため、インクルーシブデザインの実践・製品への反映を行う。
(アクセシビリティ:あらゆる人が平等に情報にアクセスしやすい状況のこと)
(インクルーシブデザイン:能力・言語・ジェンダーなど、あらゆる多様性を考慮したデザインのこと)
製品の設計品質/製造品質/部品品質の安全性・長期信頼性に取り組む。
ソニー品質憲章に沿って、カスタマーサービスの品質向上・利便性向上を目標とする。
「顧客体験」を品質の一要素としてとらえ、デザイン開発を行う。
人間中心設計(HCD、Human Centered Design)に基づく製品・サービスの開発を行うために、HCDの人材育成と社内啓蒙活動を実施する。
楽天品質マネジメントシステム
https://corp.rakuten.co.jp/sustainability/quality/
楽天エコシステム(経済圏)において、一貫した品質を提供できるよう、ISO9001の取得を推進している。
トラブルの未然防止と対策・再発防止に力点が置かれている。
顧客満足度向上のため、NPSの指標と、VOCを活用している。
(NPS:Net Promoter Score、アンケートや面談を通じて、顧客の満足度・ロイヤリティを数値化したもの)
(VOC:Voice of the Customer、お客様の声。SNSやコールセンターに寄せられたお客様の意見・要望をサービス向上・改善につなげる)
総合的な品質管理プログラムの一環として、全社的にQCサークル活動を取り入れている。
QCサークルは、古くから日本で用いられている品質改善手法で、現場の人間を小集団に分割しサークルを作ります。
サークルの中で現場の人間が自発的に話し合い、目標を決めて知恵を出し合って品質向上の改善活動に継続して取り組むものです。
製品・サービスの品質向上/活力ある良い職場づくり/企業体質の改善に効果がある活動です。
いずれの施策も、成果を出せている。
QCDの管理・改善方法
実際にQCDがうまくバランスしているか、機能しているかを知るために、QCDを評価する必要があります。その方法を決めましょう。
以下に三つの手法を紹介します。
ヒアリング
QCDの改善のためには、現場や顧客の生の声を聞く必要があります。
実際に現場で作業している人、または顧客個人から自社の製品・サービスについてどう考えているのか、具体的な話を聞いて情報収集を行います。
生の声を聞くことで、製品・サービスが持っている課題点を洗い出すことができます。
事前にヒアリングシートを作って確認事項や質問内容を明確にし、ヒアリングの目的(何を明らかにしたいか)を決めて、相手との信頼関係を構築しながら情報を聞き出します。
ヒアリングシートを作成することにより、質問事項の抜けや漏れを防ぐことができます。
得られた複数の回答から、結果の考察を行い、顕在的/潜在的な課題や顧客要求の洗い出しを行います。
モニタリング
品質/コスト/納期について、具体的な数値データを定期的に収集します。
製造業の品質データであれば、部品の歩留まり・不良率などを測定します。
システム開発の品質データであれば、バグ発生件数などを測定します。
製造業のコストであれば、部材の仕入れ値、要員の稼働状況(人件費)などをカウントします。
システム開発のコストであれば、工数進捗管理などで費用を算出します。
納期については、当初の顧客との約束である締め切りと、実際の製品・サービスのリリース時期の差異を測ります。
数値化したデータを定期的にモニタリングすることで、真の問題がどこにあるのかをはっきりさせることができます。
QCDの改善活動のためには欠かせないプロセスです。
データ分析
製造業であれば、品質は古典的なQC七つ道具(パレート図、特性要因図、グラフ、管理図、チェックシート、ヒストグラム、散布図)の統計的手法を用いて、現場の問題点の見える化を進めます。
QC七つ道具は、製造業だけでなくシステム開発にも応用できます。また、非製造業向けに新QC七つ道具も考案されています。
DXの進展によって、様々な手法のデータ分析が可能となっています。
システム開発ではPMBOK(Project Management Body of Knowledge)という概念が有名です。
PMBOKはアメリカのプロジェクトマネジメント協会が策定したもので、プロジェクトマネジメントの知識を10の知識エリアと5つのプロセスに分けて定義しています。
PMBOKはQCDとリンクしており、プロジェクトマネジメントの成功は、QCDの高いレベルでの鼎立であるとされています。
最近では、QCDS管理が言われています。従来のQCDにS(Service:サービス/Safety:安全)を加えたものです。
顧客に対するアフターサービスや労務災害管理も、重要な要素になっています。
QCDに基づき業務改善戦略を立てましょう
まとめです。
QCDは元々製造業で生まれた概念ですが、システム開発にも応用できます。
品質/コスト/納期のうち、品質を第一優先に考え、そのバランスを取ることがセオリーです。
QCDの改善には、ヒアリング/モニタリング/データ分析の手法を用いて、真の課題を見つけ、潜在的な要求の掘り起こしを行い、打ち手を見つけて実行していきます。
代表的な三社の例を取り、QCDの実際を論じました。
QCDがアンバランスな企業は、存続すら危うくなります。
製造業と異なり、システム開発においては、QCDは人材の質に多く依存してそのバランスを取れるかが決まります。
品質の向上・コストの削減・納期厳守が人材の優秀さで左右されます。
QCDのバランスこそ、プロジェクトの成功の鍵となります。
株式会社Jiteraは、システム開発の実績が豊富で、人材の質も高く、QCDのバランスを取ることに長けています。
システム開発会社の選定に迷った場合は、QCDを意識してプロジェクトを成功に導くことができる株式会社Jiteraに、ぜひ一度ご相談ください。