日本では、医療現場でのICT化が推進されています。
この記事ではICT医療とは何かやメリット、普及しない理由、デメリット、成功事例まで紹介します。
「ICT医療という言葉は聞いたことはあるけど…」という人や、ビジネスに応用したいと考えている方まで、ぜひ最後まで目を通してくださいね。
![Nao Yanagisawa](https://xs691486.xsrv.jp/wp-content/themes/JITERA/images/director-nao-1.png)
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
ICT医療とは
ICTとはInformation and Communication Technologyの略称であり、単体としては情報を利用した通信技術のことです。
医療と組み合わせることで医療現場と患者双方のサポートをする役割があります。
具体的には以下のような特徴があります。
- 深刻な人手不足電子カルテの利用
- 遠隔医療の実施
- 医療情報の共有と管理
- 人工知能(AI)の活用
- ウェアラブルデバイスによる健康管理
これらの技術を利用することで、医療の質の向上、効率化、そして患者へのサービス改善が期待されています。
ICTとは何かについて以下の記事で紹介していますので、ぜひご一読ください。
ICT医療の現状
実際に、ICT医療はどのように導入されているのでしょうか。ここでは、ICT医療の現状を詳しく解説します。
電子カルテの普及
電子カルテの普及は着実に進んでおり、特に大規模病院では高い導入率を示しています。中小規模の医療機関でも徐々に浸透しつつあります。
しかし、導入コストや操作の習熟に時間がかかること、セキュリティ面などでの課題が残されており、完全な普及にはまだ時間がかかると考えられています。
オンライン診療の拡大
オンライン診療は、COVID-19パンデミックをきっかけに急速に拡大しました。
規制緩和により初診からのオンライン診療も可能になることをはじめ、その適用範囲は広がっています。これにより、地理的な制約を受けずに医療サービスを受けられるようになり、患者の利便性が大きく向上しました。
一方で、セキュリティの確保や対面診療との適切な使い分けなど、新たな課題も浮上しています。
AI技術の導入
AI技術の医療分野への導入も進んでいます。特に画像診断支援や病理診断支援の分野ではAIの活用が進んでおり、診断精度の向上や医師の負担軽減に貢献しています。
また、大量の医療データを解析することで、疾病予測や個別化医療への応用も進められています。
しかし、AI診断の精度向上やAIの判断に対する倫理的問題への対応など、多くの課題を解決しなければなりません。
ウェアラブルデバイスの活用
ウェアラブルデバイスの活用も、ICT医療の重要な要素です。
スマートウォッチなどのデバイスにより、心拍数、血圧、睡眠状態などのデータを日常的に収集し、健康管理や疾病予防に活用することが可能になりました。
これらのデータを医療機関と連携させることで、より精密な健康管理や早期診断につながることが期待されています。
ただし、こちらもデータの精度や信頼性の向上、プライバシー保護などの課題が指摘されています。
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ICT医療のメリット
課題も残るICT医療ですが、導入するメリットとは何でしょうか。ここではどんなメリットがあるのかを解説します。
医療現場の負担改善ができる
ICT技術を導入することによって、現場の負担軽減はもちろんのこと過去のデータを扱う際にもアクセスしやすくなり業務改善に繋がります。
医療現場では人手不足が叫ばれています。カルテをコピーして医師に渡すといった業務をはじめとする、医療従事者の負担になっている一手間を減らすだけでも作業効率を上げることができます。
近年ではAIを活用した、会話からカルテを自動作成するものも出てきています。
全体的に少しずつ業務の負担を改善していくことで現場の環境改善になり離職率の低減や採用にも繋げられるでしょう。
パーソナライズされた医療提供が可能になる
ICT化することでオンライン診療や電子カルテが活用されると、患者一人一人の体質や生活環境に合った処方や遠隔医療などの対応が可能です。
また、引っ越しなど住まいが変わり病院から距離が離れてしまった際にもICT技術は活用されます。
初診の状態から電子カルテから症状やこれまでの処方箋が参照できることにより、薬の重複や副作用の回避が狙えるようになります。
新薬の開発・治療法の開発への貢献できる
ICT技術により患者の脈拍や血糖値などのバイタルを機器に記録することができます。
このような患者の膨大なデータが蓄積することで、医師や研究機関に対して適切な傾向や効き方など様々な情報を渡すことができるようになります。
その結果、より効果が期待できる薬や治療法の開発につながる可能性があります。
ICTによる地域医療の充実が期待できる
へき地や地方など病院に通うことが難しい地域において、きめ細やかな対応を行うことができるようになります。
そして、薬の効きなどを以前よりも収集しやすくなることで、より適切な治療法や薬の処方を行うことで症状を緩和・改善し、患者や親族の負担を軽減することにもなります。
また、患者本人が不安なことをすぐに相談できるという環境にいることは、安心感を得られ状態の安定につながることも期待できるでしょう。
ICT医療の課題やデメリット
ICT医療は2022年には約1,1兆円(成長率4.0%)、2023年には約1,2兆円(成長率3.9%)とおおむね緩やかに伸長しています。しかし、ICT市場規模と比べて医療のICT化は伸び悩んでいるのが現状となっています。
【参考】総務省政策白書令和5年番ICT市場規模 第2部情報通信分野の現状と課題図表4-1-1-3
その理由は、ICT医療におけるデメリットや課題です。これらの問題は、医療サービスの質や効率性に影響を与える可能性があり、慎重に対処する必要があります。ここでは、ICT医療が普及しない理由をデメリットから解説します。
導入コストがかかる
導入コストの高さは、多くの医療機関、特に中小規模の施設にとって大きな障壁となっています。
電子カルテシステムやオンライン診療プラットフォームの導入には、高額な初期投資が必要です。さらに、システムの維持、更新、セキュリティ対策にも継続的なコストがかかります。
これらの費用は、医療機関の財務を圧迫し、結果として患者への負担増加や、サービスの質の低下につながる可能性があります。
また、高コストが原因で ICT 医療の導入を見送る医療機関も多く、結果として医療の地域間格差が拡大する恐れもあります。
医療従事者のITリテラシー不足
医療従事者のITリテラシー不足は、ICT医療の効果的な実施を妨げる大きな障壁となっています。
多くの医師や看護師、特に年配の医療従事者にとって、新しい技術やシステムの操作に慣れることは簡単ではありません。
電子カルテやオンライン診療システムの複雑な操作に時間がかかり、結果として患者との対話時間が減少したり、入力ミスが増加したりする可能性があります。
この問題を解決するためには、継続的な研修プログラムの実施や、より直感的で使いやすいシステムの開発が不可欠です。
規制や制度が整備されていない
規制・制度の整備不足も大きな課題です。ICT医療の急速な発展に、法制度が追いついていない面があります。
例えば、オンライン診療の適用範囲や、AI診断の法的位置づけ、電子カルテの証拠能力など、明確な規定がない、または不十分な領域が多く存在します。
また、データの取り扱いに関するプライバシー保護や、医療過誤が発生した際の責任の所在など、法的・倫理的な問題も十分に整理されていません。
この状況は、医療機関や医療従事者に不安をもたらし、ICT医療の積極的な導入や活用を踏みとどまらせる要因となっています。
情報セキュリティ対策の強化
情報セキュリティ対策の強化も重要な課題です。患者の個人情報や医療データは極めて機密性が高く、その保護は最優先事項です。
しかし、データのデジタル化やオンライン化に伴い、サイバー攻撃やデータ漏洩のリスクが高まっています。
医療機関は、高度なセキュリティシステムの導入や、スタッフへのセキュリティ教育などに多大な労力とコストを費やす必要があります。
医療従事者と患者のコミュニケーション不足
医療従事者と患者のコミュニケーション不足も懸念されています。
オンライン診療やAI診断の導入により、対面でのコミュニケーションが減少する可能性があります。
これは、患者の微妙な表情や身体言語を読み取ることが難しくなり、診断の正確性や患者との信頼関係構築に影響を与えるかもしれません。
また、高齢者や技術に不慣れな患者にとっては、ICT機器の操作自体が障壁となり、適切な医療サービスを受けられない恐れもあります。
医療格差の拡大
ICT医療の普及は医療格差の拡大につながる可能性があります。
高度な医療技術やシステムを導入できる大規模病院と、資金や人材の制約がある小規模医療機関との間で、提供できる医療サービスの質に差が生じることは避けられません。
また、インターネット環境や必要な機器を持たない患者は、オンライン診療などのサービスを利用できず、新たな形の医療格差が生まれる恐れがあります。
エラーや災害など異常事態への対策
エラーや災害など異常事態への対策不足も深刻な問題です。
ICT医療は、電子システムやネットワークに大きく依存しているため、システムダウンやデータ損失が発生した場合、医療サービスに重大な影響を与える可能性があります。
また、自然災害によるインフラ障害も大きなリスクです。これらの異常事態に対する十分な対策やバックアップ体制が整っていない場合、患者の安全や医療の質に重大な影響を及ぼす可能性があります。
ICT医療の成功事例
課題も残るICT医療ですが、ICTを導入し成功した医療機関は多数あります。ここでは成功例を紹介します。
地域医療情報ネットワーク「あじさいネット」
長崎県大村市から2004年に始まったあじさいネットは、地域医療情報ネットワークの先駆けです。2023年時点で会員数1,894名、施設数408施設となり、県全体で12%、県央で50%の患者が登録しています。
NPO法人で運営されるあじさいネットは、患者の事前同意を得て暗号化されたネットワークを使用。参画施設の医療従事者が診断過程や治療詳細を把握でき、かかりつけ医機能を強化しています。
2014年からは訪問診療・在宅医療でも利用開始。入院患者が在宅治療に移行する際、病院から介護士への切れ目ない情報連携が可能になりました。これにより未訪問時のバイタル把握、早期介入、訪問調整が可能となり、患者ケアの最適化につながっています。
ICT導入時は地域ニーズに合わせたシステム構築が重要です。セキュリティ対策を含めた適切な構築・運用で利用者の信頼を得て、加入者拡大につなげることがポイントとなります。
医療介護専用SNS(MCS)
MCS(メディカルケアステーション)は完全非公開型の医療介護専用コミュニケーションツールです。
MCSは医療従事者、患者、家族間のコミュニケーションツールとして、全国200以上の医師会を含む医療介護現場で活用されています(2019年時点)。
訪問診療では、処方薬の効果やバイタル情報のリアルタイム共有が課題でした。MCS導入により、患者の症状、処方薬、前回訪問内容などを電子カルテとして記録し、医療従事者や遠方の親族とも共有可能になりました。
SNS的機能により医師と患者がリアルタイムでやり取りできるため、患者の訴えに丁寧に対応でき、安心感を提供。症状改善や次回訪問準備の効率化にもつながっています。
このように、ICT導入により医療・介護サービスの質向上と効率化を同時に達成しています。
新長田眼科病院
新長田眼科病院では医師や看護師が一体となってICTを推し進めました。
ICT化を行う際に看護師から「紙のカルテにバーコードをつけてはどうか」という声上がりました。そこで紙のカルテを電子化する際にバーコードをつけたことで、スキャンするだけで情報を読み込みデータとして蓄積することができ、従来はコピーして手渡していた作業をなくすことで業務の効率化に成功。
また、紙のデータでは火災などで失われてしまう可能性がありますが、電子化されていれば電源さえ確保できれば非常時においても患者のデータを参照することができるため、スピーディーな対応が可能となることでしょう。
また、適切に機器やデータを扱える人材の育成を同時に行うことで、人材不足の解消をしていくこともポイントとなります。
まとめ:ICT医療で病院の課題を解決
ICT医療は病院における多くの課題解決に貢献する可能性を秘めています。しかし、ICT導入により解決できる課題もあれば、新たな問題が生じる可能性もあります。
ICT医療を効果的に活用するためには、技術導入だけでなく、組織全体の変革や社会システムの調整が必要となります。
ICT医療は医療の質向上のための手段であり、それ自体が目的ではないことを常に意識しながら、慎重かつ積極的に導入を進めていくことが求められます。
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