ダイナミックプライシングの仕組みや様々な業界における活用事例、導入時の注意点を解説

航空券のチケットやホテルの宿泊料金など、古くから採用されてきた仕組みが「ダイナミックプライシング(変動料金制)」です。

需要と供給のタイミングを見極め、価格の自動調整を行って収益を最大化できるので、近年導入している企業も増えています。

しかし、ダイナミックプライシングの仕組みにはメリットだけでなくデメリットも存在する点に注意しなければなりません。

この記事では、ダイナミックプライシングの仕組みや実際の活用事例、導入時の注意点についてまとめています。

Nao Yanagisawa
監修者 Jitera代表取締役 柳澤 直

2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立

2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当

2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発

2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出

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執筆者 shu-ichi

とある企業のシステム管理者として10年以上勤めています。 自身の経験や知識を活かし、誰にでも分かりやすい記事をお届けしたいです。

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    ダイナミックプライシングとは?

    ダイナミックプライシングとは、需要と供給の状況に合わせて商品やサービスの価格をリアルタイムに調整する価格戦略です。

    かつては大まかな価格設定しかできていませんでしたが、近年ではより細かな調整が可能になり、ダイナミックプライシングも進化しています。

    基本的な仕組みとしては、人気がある商品やサービス、もしくは観光スポットのオンシーズンなど、需要があるときに値段を上げて企業の利益を増やす。

    人気がない商品やオフシーズンなどでは値段を下げて、一定の利益を確保する仕組みとなっています。

    価格を決める要素

    ダイナミックプライシングは需要に合わせて価格を変動させる仕組みですが、その価格の幅を決める要素とは何でしょうか。

    • 需要
    • 供給
    • 顧客属性
    • 競合他社の価格
    • 時間帯

    ダイナミックプライシングでは、上記のような要素を基に価格を決定し、常に最適な価格で商品やサービスを提供しています。それぞれの要素について詳しく見ていきましょう。

    需要と供給のバランス

    例えば旅行業界であれば、ゴールデンウィークや年末年始などのオンシーズンだと、航空チケットやホテルの需要が最大まで高まります。

    その時期を見極めて高い料金設定にすれば、一律で固定していた料金と比べて企業側の利益アップを期待できるのです。

    一方、あまり集客が見込めない(需要が少ない)タイミングで値下げを行えば、通常よりもリーズナブルだと感じたお客さんが利用してくれるようになり、本来は売上が下がる時期であっても利益を確保できるようになります。

    他にもスポーツ観戦・音楽・エンタメなどのチケット料金にも活用されるなど、ダイナミックプライシングは多くの業界で広がりを見せています。

    需要と供給のバランスを考えて価格を調整するのが、ダイナミックプライシングの基本だといえるでしょう。

    顧客属性

    客属性に応じて商品やサービスの値段を変動させるのも、ダイナミックプライシングの一種です。

    ここで言う顧客属性の一例をご紹介します。

    • 顧客の年齢
    • 性別
    • 家族構成
    • 居住している地域
    • 行動パターン

    例えばテーマパークで「特定の地域に住む◯人以上の家族連れは夕方以降に激減する」といった分析結果が出たら、「◯人以上の家族は夕方から半額で入園できる」などのお得な価格でサービス提供をして売上アップを狙うといった方法が考えられるでしょう。

    競合他社の価格

    ダイナミックプライシングの価格設定において、競合他社の価格は非常に重要な要素です。

    競合他社が出している価格を継続的にチェックを行い、自社商品の価格設定が市場相場や顧客ニーズと乖離していないかの確認が必要となります。

    競合他社が商品価格を値下げしてきた場合は、自社商品も値下げして追従するのか、他の面からアプローチするのか検討する必要があるでしょう。

    時間帯

    顧客が商品を購入する、もしくはサービスを利用する時間帯もダイナミックプライシングを構成する大切な要素です。

    実際に大人気の定食屋が、混雑を緩和するために時間帯で異なる価格帯(ランチタイムが最も高く、14時を過ぎると割安になる)を導入した結果、混雑を回避しながらも収益が伸びたといった事例もあります。

    時間帯だけでなく、曜日や当日の天候によって値下げを行うなど、柔軟な価格設定ができるのがダイナミックプライシングの良い点です。

    ダイナミックプライシングのメリット

    ダイナミックプライシングは、ユーザーの需要と供給を見極めて価格を変動する仕組みです。

    商品やサービスの価格を決定するのは企業側ですが、ダイナミックプライシングを導入すれば企業側・ユーザー側の双方にとってメリットがあります。

    ここでは、ダイナミックプライシングを導入する具体的なメリットについて、企業側とユーザー側の視点からそれぞれ考えてみましょう。

    企業側:​​収益最大化

    ダイナミックプライシングは「需要があるときに高く、ないときには安く」が基本です。

    ユーザー側の需要が最大限高まっている、もしくは供給不足になっているときは価格を上げて収益を増やす。需要の縮小・供給過多となっている場合は、価格を下げて販売数を確保します。

    このように対応すれば、企業側にとっては収益の最大化が見込めるでしょう。

    企業側:​​顧客満足度向上

    企業にとってダイナミックプライシングがもたらすのは利益だけでなく、顧客満足度の向上も考えられます。

    人気のテーマパークへ遊びに行きたいと思っても、「混雑している」と考えただけで行く気力が無くなってしまう…といった経験はありませんか。

    日曜日や祝日に観光地へ訪れる人が多い、人気の飲食店が昼や夜に満席となってしまうなど、サービスの需要が決まった日時だけに偏っていると「混雑」が発生してしまい、顧客満足度は確実に低下します。

    ダイナミックプライシングによって混雑する時間帯に価格を上げて需要を抑え、空いている時間帯に価格を下げて客を誘導すれば混雑が緩和され、結果的に顧客満足度の向上が期待できるでしょう。

    企業側:​​在庫管理の最適化

    ダイナミックプライシングによって、在庫管理を最適化する効果を発揮できます。

    従来でもスーパーなどでは賞味期限が近い商品を手前に配置し、在庫を極力減らすための努力を行ってきましたが、結局は奥の商品から手に取られてしまい廃棄処分になるケースも少なくありませんでした。

    この問題を解決するためにダイナミックプライシングが用いられ、賞味期限によって異なるラベルをつけて値引きを行った結果、在庫の適正化や廃棄の減少といった効果が得られています。

    企業側:​​競争力強化

    ダイナミックプライシングには、企業の競争力が強化できる可能性が秘められています。

    需要に合わせてリアルタイムに価格調整を行えば、競合他社よりも優位に立ち、ユーザーの購買意欲が高まって商品購入に繋がり、売上に貢献してくれるでしょう。

    競合他社の価格動向は常にモニタリングしておき、ダイナミックプライシングを活用すれば、ユーザーが魅力を感じる価格設定が可能となります。

    ユーザー側:サービスを安く受けることができる

    ダイナミックプライシングは、ユーザーにとってもメリットを感じやすい取り組みといえます。

    利用するタイミングや日時によって、同じ商品もしくは同レベルのサービスを安く購入できるのはユーザーにとって最大のメリットです。

    混雑を避けたいユーザーからしても、ダイナミックプライシングを取り入れてる店舗だと分かれば、積極的に活用してくれるでしょう。

    ダイナミックプライシングのデメリット

    ダイナミックプライシングは良い点だけでなく、多少なりともデメリットが存在しています。

    顧客離れの懸念や導入にかかるコストといった企業側にかかるデメリットだけでなく、ユーザー側に関係するデメリットも併せて解説しますので、メリットと比較しながら確認してみてください。

    企業側:顧客離れの懸念

    ダイナミックプライシングは需要と供給に合わせて価格を変動させる仕組みですが、価格差が過剰になると顧客離れが懸念される方法でもあります。

    商品やサービスの内容によって一概には言えませんが、高いときと安いときの価格が2倍以上離れているとユーザーの反感を買い、顧客離れを招いてしまうかもしれません。

    価格差を生むのがダイナミックプライシングの基本ですが、過剰になり過ぎないように注意してください。

    企業側:導入にかかる初期費用やランニングコストが必要

    最近のダイナミックプライシングは、専用の分析システムやAI技術を活用するケースも増えてきており、より効果的に運用できるようになっています。

    しかし、一般的にこれらの専門的な仕組みを導入するには、高額な初期費用や毎月発生するランニングコストが必要です。

    ダイナミックプライシングは始めてみないと効果が感じられないという性質があるため、多額の費用を投入した結果、あまり成果が出なかったという可能性があります。

    企業側:運用コスト

    需要に応じて価格差を作るダイナミックプライシングでは、導入効果を最大限に引き出すためユーザーがメリットを感じられる価格へ設定しがちです。

    しかし、企業側にとって利益にならない価格設定にしてしまうと、利用される度に赤字になってしまい、その赤字を補填するため結果的に想定外の運用コストが発生する可能性があります。

    通常よりも下げた価格を設定する場合は、追加の運用コストが発生しない、もしくはコストが発生したとしても許容範囲である価格設定が必要です。

    ユーザー側:需要が高い時期は割高になる

    ユーザー側としては、少しでも価格が安いときに購入したいと思うのが当然の心理です。しかし、誰しもが購入したいと考えるタイミング=需要が高い時期には割高になってしまうのはデメリットといえるでしょう。

    特に、その商品やサービスが必要不可欠である場合は、販売価格が高額であっても購入せざるを得ない場合もあります。

    割高で購入する機会が多くなってくると、「ここで買うといつも高い」といった心理状態へ移りやすく、他の方法での購入を検討してしまう可能性が高まるため、ユーザーから挙がる声には常に耳を傾けておくべきです。

    ダイナミックプライシングの事例

    ダイナミックプライシングは、古くはホテル業界や航空会社などのサービスで使われるケースがほとんどでしたが、現代では様々な業界で活用されています。

    ここでは、有名テーマパークとコンビニでダイナミックプライシングを活用している事例を見てみましょう。

    ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の入場チケット

    大人気テーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」は、2019年1月から入場チケットをダイナミックプライシング(価格変動制)へ切り替えました。

    多くの来場者数が見込める繁忙期にチケット代が高くなり、閑散期には最低価格へと調整されています。下記価格は2024年6月時点のものです。

    • 閑散期の1デイ・スタジオ・パス:大人8,600円(税込)
    • 繁忙期の1デイ・スタジオ・パス:大人10,900円(税込)

    最大で2,300円ほどの価格差が設定されています。

    「理想としては毎日その日に適した価格設定にしたい」とUSJ側は検討していましたが、それだと複雑で分かりにくいために現在の内容へ落ち着いた経緯があるようです。

    ハロウィンイベントの時期には、1日10万人という「パークの許容限界に迫るほどの来場者があった」という経験からも、なるべく繁忙期・閑散期の差を平準化すべくダイナミックプライシングを導入した事例となっています。

    東京ディズニーリゾート(ランド・シー)の価格変動性チケット

    こちらも大人気テーマパークである「東京ディズニーリゾート(ディズニーランド・ディズニーシー)」でも、ダイナミックプライシングを活用しています。

    2021年10月に初めて需要に応じた4段階のチケット価格を設定後、2023年にはさらに6段階へ細分化させました。また、ディズニーリゾートのダイナミックプライシングは、繁忙期であれば平日であっても価格差があるという特徴があります。

    以下は2024年3月の平日でのチケット価格です。

    • 3/4~3/15(平日):8,900円
    • 3/18~3/22(平日):9,900円
    • 3/25~3/29(平日):10,900円

    3/25~3/29は平日であるにも関わらず、土曜日や祝日と同じ最高価格に設定されています。

    これは学生の卒業シーズンを見越しているためと考えられ、需要と供給によって価格を変えているのです。

    ローソンのコンビニ弁当、お惣菜

    コンビニエンスストアのローソンは、これまで定価販売が当たり前だったコンビニ商品へ試験的にダイナミックプライシングを導入しました。

    コンビニでのダイナミックプライシングを実現するため、ローソンでは電子棚札とICタグといったIT技術を活用。

    お弁当やお惣菜といった消費期限が短い商品のフィルムへICタグをつけておき、消費期限が迫った商品の電子棚札の価格表示を自動的に値下げするといった方法です。

    まるでスーパーなどで消費期限が近づいた商品へ「5割引」のシールを貼るのと同じ感覚で、ダイナミックプライシングを実現しています。

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    ダイナミックプライシング導入時の注意点

    ダイナミックプライシングは、うまく活用できれば企業側にとっては利益の拡大、ユーザー側はお得に購入できる・混雑を回避できるなど、双方にとってメリットがある仕組みとなっています。

    しかし、ダイナミックプライシングは「うまく機能するケース」と「うまく機能しないケース」がある点に注意しなくてはいけません。

    ここでは、ダイナミックプライシングを成功させるための注意点についてご紹介します。

    顧客ニーズを理解する

    ダイナミックプライシングを成功させるためには、まずは顧客ニーズを理解しなくてはなりません。

    極端に言ってしまえば、ユーザーは「価格に見合った商品(サービス)である」と判断すれば購入してくれます。需要が多い時期であり高価格であっても買いたいユーザーがいる=ニーズがあるのであれば、その価格設定は間違ってはいません。

    しかし、ニーズがないのにむやみやたらに価格に差をつけてしまうとなれば、ユーザーからの反感を招き、結果的にユーザー離れを引き起こす要因となってしまうでしょう。

    透明性や公平性を保つ

    ダイナミックプライシングを導入する場合、ユーザーに対して透明性や公平性を保つ必要があります。

    ユーザーに対して価格差をつけた理由の提示を怠っていると、ダイナミックプライシングへ否定的なメディア報道やユーザー発信によるSNSの炎上などで、深刻な顧客離れを起こしかねないからです。

    ダイナミックプライシングによる価格付けの理由を正しく説明し、透明性・公平性を保つことは非常に大切といえます。

    倫理的な問題に配慮する

    ダイナミックプライシングには、倫理的に「個人を判別するどの情報まで使って価格を決めるか」といった課題が以前から議論されており、例えば性別・年齢・容姿・人種などの観点から価格差を設けてはいけません。

    この問題は、特にAI(人工知能)を活用している場合に起こりやすく、AI技術を使ってダイナミックプライシングの導入を検討していいる場合は、倫理的な問題に配慮する必要があります。

    ダイナミックプライシングのまとめ

    ダイナミックプライシングは、うまく活用できれば企業側の機会損失を抑えられ、収益の最大化へ貢献できる取り組みです。混雑の平準化などによってユーザーの満足度向上にもつなげられるため、企業価値の向上にも役立ちます。

    しかし、ダイナミックプライシングを導入する際に導入理由をしっかりとユーザーへ伝えられなければ、企業に対しての信頼を無くしてしまい、ユーザー離れを引き起こすリスクを秘めているともいえるでしょう。

    ダイナミックプライシングを導入する際は、企業・ユーザーの双方にとってメリットのある仕組みにするのが肝心です。

    弊社では、要件定義をするだけでAIがシステム・アプリを開発するプラットフォーム「JITERA」を軸として、独自のAIプロダクト・最新技術を使って品質にこだわったシステム・アプリ開発を得意としております。

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