アジャイル開発の一種である「スクラム開発」はシステム開発やプロダクトの開発の際に選択される開発手法として知られており、多くの現場で採用されています。
しかし、アジャイル開発との相違点やスクラム開発の具体的な開発手法についてよく知らないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、スクラム開発の基本やアジャイル開発との違い、具体的なスクラム開発の手法について解説いたします。
スクラム開発に関する理解を深めたい方や、スクラム開発を現場に導入したいとお考えの方は、ぜひ参考にしてみてください。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
スクラム開発とは
まずはスクラム開発の概要について解説していきます。スクラム開発がどのような開発手法なのか、ほかの開発手法と比べどのような特徴を持つのかについて知りたい方は、こちらの内容をチェックしてみてください。
スクラム開発の定義
ソフトウェア開発は、従来の主流である「ウォーターフォール開発」と、2000年代から急速に採用する現場が増加した「アジャイル開発」の2種類の開発手法があります。
ソフトウェア開発の設計、実装、テストを反復していく開発手法であるアジャイル開発は、システムの動作を仕様書などの書面上ではなく、実際に動かしながら確認できる点がメリットの一つであると言われています。実際にシステムを動かしながら確認を行うことで、クライアントとの間に認識の齟齬が合った場合にも、早い段階で対応することができます。
多くの人が一般的にデジタルデバイスを所有するようになり、情報の流れが加速化したことで、開発効率の高いアジャイル開発が重宝されるようになっていきました。
スクラム開発はアジャイル開発の一種である開発手法です。スクラムとはラグビーのフォーメーションが名前の由来になっています。
スクラム開発では、5〜10人ほどのチームメンバーが2〜4週間程度かけて新しい機能を開発します。「スプリント」と呼ばれる短い開発期間の中で、機能の実装と評価を行い、開発を進めていきます。
スクラム開発の特徴
スクラム開発最大の特徴は、5〜10人の少人数で開発を進めることです。少ない人数で効率的に開発を進めるには、メンバー同士の綿密なコミュニケーションが必要になります。プロジェクトメンバーだけでなく、クライアントも巻き込み、全員で開発を進めていきます。
プロジェクトマネージャーを置かず、進捗やスケジュール管理を全員で行うことも特徴の一つです。一人ひとりが意思を持って業務に取り組む必要があるため、スクラム開発に携わるメンバーには十分なスキルや経験が求められます。
また、スクラム開発では要件を「スプリント」という単位に分けて開発を進めます。1つのスプリントは4週間以内の短期間です。スプリントの期間内に、要件定義からリリースまでの一連の開発工程が含まれます。
スプリントを繰り返すことで、顧客が利用できるシステムや機能を徐々に増やし、改善することが可能です。
スクラム開発で使用する用語
スクラム開発で使用する用語の意味について解説いたします。
ステークホルダー
開発するソフトウェアの利用者やスポンサー、社内の上司や他部門などの、プロジェクトに対して利害関係を持つスクラムチーム以外の人を指します。
スプリント
スクラム開発における固定の開発期間です。2~4週間の短期間を設定します。スプリントが終わると、状況や進捗を正確に把握し、迅速に次のスプリントに移ります。
スプリントプランニング
スプリントの最中に実施するイベントのこと。スプリントで達成したいゴールや、ゴールを達成するために必要なプロダクトバックログアイテムについて話し合い、決定します。
プロダクトバックログ
プロダクトを作成するにあたってクライアントの要求を優先順に並べたリストのこと。一般的にはビジネス価値の高いものが上位に来ます。
スクラム開発の流れ・手法
次に、スクラム開発の流れについて解説していきます。スクラム開発の開発手順について知りたい方は、こちらの内容を参考にしてください。
1. プロダクトバックログの作成
プロダクトオーナーが、顧客の要求やビジネス要件などから、プロダクトに必要な機能の一覧(プロダクトバックログ)を作成します。
各項目にはユーザーストーリーの形式で、簡潔かつ分かりやすい記述を心がけます。また、価値の高い項目から優先順位を付けます。
2. スプリントの計画
開発チーム全員で、1つのスプリント期間(通常2~4週間)にどの範囲の作業を行うかを決定します。
プロダクトバックログから優先順位の高い項目を選び、それらを実装するための具体的なタスクに分解し、スプリントバックログに記載します。
3. デイリースクラム
スプリント期間中、開発チームは毎日15分程度の短いミーティング(デイリースクラム)を行います。
各メンバーが前日の進捗、当日の予定、障害となる課題を報告し、チームで課題解決の方法を検討します。
4. スプリントレビュー
スプリント終了時に、実際に完成したソフトウェアの機能を、プロダクトオーナーやその他のステークホルダーにデモします。
フィードバックを受け、次のスプリントに反映させるべき改善点を特定します。
5. スプリントレトロスペクティブ
このスプリントで何がうまくいって、何がうまくいかなかったのかを、開発チームで振り返ります。
プロセスや作業方法、チームのパフォーマンスなどについて検討し、次のスプリントに向けて改善点を洗い出します。
6. インクリメントの出荷
スプリントで完成した機能は、プロダクトオーナーが受け入れ次第、いつでも出荷(リリース)できる状態になります。
出荷が決まった機能はプロダクトバックログから削除されます。
7. リリース
複数のスプリントを経て、製品としてリリースするのに十分な機能が実装された段階で、実際の製品リリースを行います。
このサイクルを繰り返すことで、小さな成果物を出荷しながら、常に顧客の要求に応えていくアジャイル開発が可能になります。
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スクラム開発とアジャイル開発との違い
特徴 | アジャイル開発 | スクラム開発 |
定義 | ソフトウェア開発手法の一つで、設計、実装、テストを反復的に行う | アジャイル開発の一手法で、特定のフレームワークとルールに従って開発を進める |
目的 | 開発プロセス全体を通じて柔軟な変更対応と迅速なフィードバック取得する | チームワークを最大化し、生産性を高めることでビジネス目標の達成を目指す |
プロセス | 書面での仕様書に基づく開発ではなく、実際に動作を確認しながら開発する | スプリントと呼ばれる決められた期間でのイテレーションを用い、定期的に成果物を作成・評価する |
チーム構成 | 特定の役割や構成に固定されず、変更が簡単 | チームメンバーは固定的で、明確な役割が与えられ、定期的なミーティング(デイリースクラムなど)でコミュニケーションを取る |
その他の特徴 | 途中からの仕様変更に対応しやすい | スプリントレビュー、スプリントプランニング、スプリントレトロスペクティブなど特有のミーティングがある |
スクラム開発はアジャイル開発の一つです。そもそもアジャイル開発とは、ソフトウェア開発の設計、実装、テストを反復していく開発手法であり、スクラム開発以外にも、「XP開発」や「動的システム開発手法」などに細分化されています。
それぞれ特徴はありますが、「決められた短めの期間で機能を開発し、それを何度も繰り返していく」という基本理念は共通しています。
アジャイル開発ではシステムの動作を仕様書などの書面上ではなく実際に動かしながら確認するため、クライアントと開発との間に認識の齟齬があった場合にも初期段階で対応することが可能です。従来主流であった開発手法であるウォーターフォール開発に比べると、途中からの仕様変更に対応しやすいというメリットがあります。
アジャイル開発とスクラム開発との大きな違いの一つが、スクラム開発にはチームを組んで役割やタスクを分散しつつコミュニケーションを取りながら開発を進めるという特徴があることです。
スクラム開発ではチームワークが重視されるためチームのメンバーは固定的であり、それぞれに役割が与えられます。
スクラム開発に必要な要素
スクラム開発を実施するには、以下の要素とそれに伴う技術が必要です。
- プロダクトオーナー
- スクラムマスター
- 開発メンバー
それぞれの役割や持ち合わせる技術について解説していきます。
プロダクトオーナー
開発プロジェクトにおけるオーナーで意思決定を行う存在です。スクラムマスターやステークホルダーとの連携によってプロジェクトを成功に導く役目です。
プロジェクトの最高責任者であるプロダクトオーナーには、市場における流行やユーザーのニーズを正しく把握する力や、プロジェクトメンバーの意見に耳を傾けるヒアリングスキル、開発に関する十分な知識が求められます。プログラミングなど、技術的な面以外のスキルも必要になります。
スクラムマスター
プロジェクト全体の進行をサポートする立場です。
スクラム開発には、プロジェクトマネージャーという役割がありません。代わりにプロジェクトマネージャーの業務を請け負うのが、スクラムマスターになります。
チーム内でのトラブルなどに関してプロダクトオーナーと相談し、解決を目指したり、業務全体の指揮をとることがスクラムマスターの主な業務内容です。
チーム全体のスケジュールやプロジェクトの進行、プロダクトの品質などの管理業務も担います。全体を見渡す視野の広さや、冷静な判断力が求められます。積極性がある人物に適した役割であると言えるでしょう。
開発メンバー
開発メンバーは、スクラムマスターやプロダクトオーナーの指示に従い、実際にプロダクトを開発していきます。
システムエンジニアやデザイナーなど、経験や技術が豊富なメンバーが選抜されます。開発エンジニアはステークホルダーが直々にスカウトする場合もあります。開発エンジニアは、ステークホルダーからの要望をヒアリングし、調整・交渉することで、プロダクトの品質を向上することが主な業務内容です。
クライアントのニーズをきちんと把握する力や、意見をすり合わせるコミュニケーションスキルなどが求められます。
スクラム開発のメリット
ここではスクラム開発のメリットについてそれぞれ解説していきます。
業務の効率化を実現できる
スクラム開発ではスプリントという固定された期間内で具体的な成果物を作成することを目指しますが、これによってチームは明確な目標に向かって集中的に作楓を進めることができ、タスクの優先順位が自然と明確になります。
また、リーダーがプロジェクトの障害を取り除く役割を担い、チームの作業効率を最大化するためのサポートを行います。
この構造はチームが目標に対して効率良く進めることを可能にし、結果として生産性を向上できます。
問題を早期に発見できる
スクラム開発の日常的な慣行として、短いミーティングが行なわれます。これはチームメンバーが前日の成果と今日の目標、そして遭遇している障害について話し合う場となります。
この定期的なコミュニケーションはプロジェクトにおける問題点や課題を早期に浮き彫りにし、即座に対応できる文化を育てます。
また、レビューではステークホルダーと成果物を共有し、フィードバックを受けることで未解決の問題を明らかにしやすくなります。
柔軟な仕様変更が可能
スクラム開発ではスプリントごとに成果物を評価してどのように進めるかを決定するため、プロジェクトの要件が変わった場合でもスムーズに対応することができます。
プランニングミーティングでは、新しい要件や優先事項に基づいて次のスプリントの目標を設定します。
これを繰り返すことで市場の変動やユーザーのフィードバックに基づいて製品を素早く適応さ、最終的にユーザー満足度の高い製品を市場に提供することが可能となります。
スクラム開発のデメリット
スクラム開発は多くの利点がありますが、その特性によって発生する課題やデメリットも存在します。
ここでは、スクラム開発における主なデメリットについて解説していきます。
高いスキルが求められる
スクラム開発は、チームメンバーが自己組織化して積極的に協力しながらタスクを遂行していきます。
これには高い技術的スキルとプロジェクト管理スキルが必要であり、特に新しい技術領域やスクラム自体に不慣れなメンバーがいる場合、プロジェクトの進行に支障をきたすことがあります。
初心者や経験の浅いメンバーは、スプリントのペースに追いつくために研修やサポートを必要とする場合が多く、これがチーム全体の効率に影響を及ぼすこともあるでしょう。
対策としては、チーム内での知識共を定期的に行うことやメンタルフォローができるような場を設けることなどがあります。
プロジェクトの全体像を把握しづらい
スクラム開発では短期間ごとのスプリントに焦点を当てるため、プロジェクトの全体像が見えにくくなることがあります。
各スプリントで部分的な成果に集中することが長期的な目標や全体の戦略から逸脱する原因となる場合があり、プロダクトの統一性が欠けたり、目標達成が困難になったりすることがあります。
この問題に対処するためにはスプリントレビューでの成果の評価だけでなく、定期的な戦略会議を設けて長期的な視点でのプロジェクトの方向性を確認して調整していくことが重要です。
ミーティングに長い時間を要する
スクラム開発では、コミュニケーションと透明性を保つために多くのミーティングが必要です。
これらのミーティングはチームの調整と情報共有には欠かせませんが、一方で開発時間を圧迫して作業の中断が頻繁に発生するため生産性が低下してしまうことがあります。
このデメリットを軽減するためにはミーティングの目的と期待されるアウトカムを事前に明確にし、無駄な議論を避けるために議題を厳密に管理することが効果的です。
また、必要なメンバーのみが参加するようにして、その他のメンバーは開発に集中できるようにするとよいでしょう。
スプリントゴールが達成できない
スプリントのゴール設定はその期間内に完成させる機能やタスクを明確にしますが、予期せぬ問題や評価ミスによりゴール達成が困難になることがあります。
これが頻発すると、プロジェクトの遅延やチームメンバーの士気の低下を招くことがあります。
スプリントゴールが達成できない原因を正確に分析し、リスク管理とバックログの優先順位付けをより効果的に行うことが重要です。
リアルな目標設定と進捗の透明性を保つためにもスプリントの計画段階で全チームメンバーが参加し、共通の理解と合意を形成することが必要です。
開発のモチベーションが低下しやすい
スクラム開発の高い要求と短いスプリントサイクルは、一部のメンバーにとってはプレッシャーとして感じられる場合があります。
特に目標が達成困難である場合やプロジェクトが複雑で進行がスムーズでない場合、開発者のモチベーションが低下するリスクがあります。
これを防ぐためには、達成可能で明確な目標の設定、適切なフィードバックと報酬の提供、チームビルディング活動の実施が有効です。
まとめ:スクラム開発を活用するためのポイント
スクラム開発はメンバー間のコミュニケーションを重視して実施することが重要です。きちんと情報や知識を共有してプロダクト開発を行うことで、効率的かつスピーディーな開発を実現することが可能となります。
情報の感度が高まり、また移り変わりの激しい現代では、スクラム開発のような効率的な開発手法が重宝されます。企業としてユーザーのニーズや信頼を獲得したいとお考えの場合には、スクラム開発を導入することをおすすめします。
スクラム開発を効率的に実践する方法や、スクラム開発の将来性についてご理解いただけたかと思います。スクラム開発の導入を検討されている場合は、ぜひ株式会社Jiteraへもお気軽にご相談ください。皆様のデジタルトランスフォーメーションのパートナーとして、全力で支援させていただきます。