スーパーコンピュータ京とは?処理能力や応用例をわかりやすく解説

スーパーコンピュータ「京(けい)」は、その名を聞くだけで多くの人々の記憶に残る存在です。すでにその役目を終えた「京」ですが、日本のスーパーコンピューター技術の象徴として、その功績は今なお語り継がれています。

驚異的な処理能力と幅広い応用分野で注目を集めた「京」の技術と知見は、現在、後継機である「富岳(ふがく)」に引き継がれ、さらなる進化を遂げています。

本記事では、「京」の処理能力や具体的な応用例を通じて、このスーパーコンピュータがもたらした革新と影響について解説していきます。

Nao Yanagisawa
監修者 Jitera代表取締役 柳澤 直

2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立

2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当

2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発

2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出

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執筆者 エンジニア Sakai

制御系システムや自動化システムの新規開発を中心に、15年以上の開発経験を持つ現役エンジニアです。『デジタルは人と人をつなぐもの』という言葉が好きです。デジタルの世界をわかりやすく伝えていきます。

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    スーパーコンピュータ京とは?

    (出典:理化学研究所)

    スーパーコンピュータは、日本の科学技術力を結集して開発された画期的な計算機です。このプロジェクトは、文部科学省が主導し、理化学研究所富士通が中心となって進められました。

    神戸市の研究所に設置された「京」は、気象予測や新薬開発、地震シミュレーションなど、私たちの生活に直結する様々な分野で活用。例えば、より正確な天気予報や、効果的な新薬の開発、地震発生時の被害予測などに貢献しています。

    現在は「京」の100倍以上の性能を持つ後継機「富岳」が稼働していますが、「京」で培われた技術や経験は、日本の科学技術の発展に大きく貢献しています。「京」は複雑な技術の結晶ですが、その本質は私たちの暮らしをより良くするための強力な道具だったのです。

    2006年、文部科学省が「次世代スーパーコンピュータ」プロジェクトを立ち上げ、理化学研究所と富士通が共同で開発を担当しました。2010年7月、このスーパーコンピュータは「」と命名されます。2011年に運用を開始し、同年6月と11月のスパコンランキングで世界1位を獲得するという快挙を成し遂げました。

    「京」は、気象予報、新薬開発、宇宙の起源の研究など、幅広い分野で活用され、日本の科学研究に大きく貢献します。

    して2019年8月、その役割を果たし、運用を終了。後継機「富岳」にバトンを渡しました。

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    スーパーコンピュータ京の処理能力

    スーパーコンピューター京の処理能力は、まさに驚異的です。私たちが日常で使うパソコンとは比べものにならないほど計算が早いのです

    では、この「京」がどれほど凄いのか、具体的に見ていきましょう。

    性能指標を使った場合の計算速度

    スーパーコンピューターの性能を測る際、主に2つの指標が使われます。それが、LINPACK性能と理論ピーク性能です。

    LINPACK性能

    • 「京」のLINPACK性能は10.51ペタフロップスです。
    • これは1秒間に約1京510兆回の計算ができることを意味します。
    • LINPACK性能は実際の科学計算に近い条件で測定されるため、現実世界での性能を反映しています。

    理論ピーク性能

    • 「京」の理論ピーク性能は11.28ペタフロップスです。
    • これは理想的な条件下で達成可能な最大の計算速度を表します。
    • 実際の計算ではこの速度に達することは難しいですが、コンピューターの潜在能力を示す重要な指標です。

    この驚異的な速度で、人類の脳のシミュレーションや新物質の性質予測など、従来不可能だった計算が実現可能になります。

     1秒間に約10ペタフロップス(10京回)の演算を行える

    10ペタフロップス」という数字は、一般の人にはピンと来ないかもしれません。しかし、これがどれほど凄いことか、少し考えてみましょう。

    (出典:富士通)

    • 10ペタフロップスは、1秒間に10,000,000,000,000,000(10の16乗)回の計算ができることを意味します。
    • これは地球上の全人類(約78億人)が1秒間に約128万回ずつ計算しているのと同じ速さです。
    • または、70億人全員が電卓を持って1分間ひたすら計算し続けても、「京」の1秒にも及びません

    この驚異的な速度があるからこそ、人類の脳の仕組みをシミュレーションしたり、新しい物質の性質を予測したりすることができるのです。「京」は、人間の知的活動を何億倍もの規模で拡張する、いわば「超人的な頭脳」と言えるでしょう。

    一般的なPCとの比較

    「京」の性能を身近なものと比較すると、その凄さがより実感できます。

    • 一般的な高性能PCの処理速度を100ギガフロップス(1秒間に1000億回の計算)とすると、「京」はその約10万倍の速さです。
    • つまり、「京」が1秒で終える計算を、一般的なPCで行うと約1日と4時間かかることになります。
    • さらに驚くべきことに、「京」が1分間で行う計算量は、一般的なPCで約69年かかる計算量に相当します。

    この比較から、「京」が如何に人類の科学研究を加速させているかが分かります。例えば、新薬開発のシミュレーションでは、通常なら何十年もかかる計算を数日や数時間で終えられるのです。これにより、医学の進歩が劇的に速まり、私たちの健康と寿命に直接的な恩恵をもたらす可能性があります。

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      スーパーコンピュータ京のネットワーク構成

      スーパーコンピュータ京は、日本が誇る高性能計算機で、その心臓部とも言えるのがネットワーク構成です。このネットワークは、膨大な計算を高速かつ効率的に処理するために設計されています。

      本章では、「京」のネットワーク構成の主要な特徴を説明していきましょう。

      TOFU(Torus Fusion)インターコネクト

      TOFUは「京」の独自のネットワーク技術です。「トーフ」と読みますが、豆腐ではありません(笑)。これは、多数の計算ユニット(ノード)を効率よくつなぐための特別な接続方法です。

      家族みんなが手をつないで輪になるように、ノード同士がスムーズにデータをやり取りできるようにしています。

      トロイダルメッシュ・ネットワーク

      トロイダルメッシュ・ネットワークは、ノードの接続方法を表す言葉です。想像してみてください。ドーナツの表面のように、端と端がつながった3次元の格子状の構造です。

      この構造のおかげで、データが最短経路で移動でき、交通渋滞のような通信の混雑を避けられるのです。

      ネットワーク性能

      「京」のネットワークは、超高速で大量のデータを運べるのが特徴です。例えるなら、何百万人もの人が同時に高速道路を使えるようなものです。

      この高性能のおかげで、複雑な計算を素早く行うことができます。

      ノード接続

      ノードとは、個々の計算ユニットのことです。「京」では、各ノードが6つの隣接するノードと直接つながっています。

      これは、六角形のハニカム構造のように、効率的にデータを伝達できる仕組みです。隣同士で情報を素早くやり取りできるので、全体の計算速度が向上します。

      専用LSI

      LSIは「Large Scale Integration(大規模集積回路)」の略で、特別に設計された電子チップのことです。「京」では、このネットワーク用に特別なLSIを開発しました。

      これは、ネットワークの交通整理係のような役割を果たし、データの流れを最適化します。市販の部品ではなく、専用設計することで「京」の性能を最大限に引き出しています。

      スーパーコンピュータ京の具体的な応用例

      (出典:富士通)

      スーパーコンピュータ京は、その圧倒的な計算能力を活用して、科学研究、産業応用、医療など多岐にわたる分野で貢献しています。

      ここでは、「京」がどのようにこれらの分野に影響を与えているのか具体的な活用例を交えながら解説していきます。

      スーパーコンピュータ京の科学研究への貢献

      「京」は科学研究のフロンティアを大きく推進しており、特に気候変動、宇宙の構造、素粒子物理学など、膨大な計算を必要とする分野での研究に不可欠なツールとなっています。

      例えば、2013年9月に理化学研究所が発表したプレリリースでは、「京」が台風や集中豪雨などの発生メカニズムの解明に寄与したことがわります。

      • スーパーコンピュータ「京」を使用し、世界初の超高解像度全球大気シミュレーションに成功。水平格子間隔1km未満で積乱雲を詳細に表現。台風や集中豪雨の発生メカニズム解明、気候影響研究への貢献が期待される。これにより、全球規模の積乱雲群の相互関係をより正確に調査可能になった。

      (出典:理化学研究所「京」を利用した世界初の超高解像度全球大気シミュレーションで積乱雲をリアルに表現 )

      さらに、気候モデルのシミュレーションでは、地球温暖化の進行を予測し、その影響を評価するために「京」が活用されているため、将来の気候変動に対するより正確な予測が可能になり、適切な対策を講じるための科学的根拠を提供しています。

      また、宇宙の大規模構造のシミュレーションを通じて、宇宙の成り立ちや進化の過程を解明する研究にも役立っています。

      スーパーコンピュータ京の産業応用

      「京」は産業界においても、製品開発の加速や新材料の探索、エネルギー効率の向上など幅広い応用が見られます。

      例えば、2013年には独立行政法人物質・材料研究機構と富士フイルム株式会社が共同で、今後利用が増えていくリチウムイオン電池の不安材料であった謎を解明しました。

      • スーパーコンピュータ京を用いて、リチウムイオン電池の電解液還元反応機構を解明しました。この研究では、電池性能と安全性の鍵となる被膜「SEI膜」の形成過程を分子レベルで明らかにしました。この成果は、高容量・高出力が求められる電気自動車や家庭用蓄電装置向けの、より長寿命で安全性の高いリチウムイオン電池の開発に貢献すると期待されています。研究は物質・材料研究機構と富士フイルム株式会社との共同で行われました。

      (出典:富士フィルムリチウムイオン電池の高出力化 長寿命化と安全性向上に期待 )

      さらに、自動車産業では車両の空気抵抗を減少させるためのエアロダイナミクスの最適化、新型エンジンの燃焼プロセスのシミュレーションなども「京」が利用されています。

      これにより、より燃費の良い、環境に優しい車の開発が可能になっています。

      スーパーコンピュータ京の医療への貢献

      医療分野においても「京」は新薬開発や個別化医療の実現に向けて役立てられています。

      例えば、2013年8月2日、理化学研究所、ユーリッヒ研究所(ドイツ)、沖縄科学技術大学院大学の共同研究チームが、スーパーコンピュータ京を使用して世界最大の脳神経シミュレーションに成功したと発表しました。

      (出典:理化学研究所「京(けい)」を使い10兆個の結合の神経回路のシミュレーションに成功 -世界最大の脳神経シミュレーション- )

      • このシミュレーションは10兆個の神経結合を再現し、人間の脳の神経回路の約1%に相当します。この成果により、脳全体のシミュレーションに必要なメモリー量と計算速度の比率が明らかになり、今後のスーパーコンピュータ開発やソフトウェア設計に活用されることが期待されています。

      さらに、薬剤の分子構造とターゲットとなるタンパク質との結合シミュレーションにより、より効果的で副作用の少ない薬剤のスクリーニングが可能になります。また、がん治療においては、患者ごとの遺伝子情報を基にした個別化医療の計画立案に「京」が利用されています。

      これによって患者一人ひとりに最適な治療法を提案することが可能になり、治療の成功率の向上に影響を与えています。

      スーパーコンピュータ京の後続機「富岳」とは

      (出典:理化学研究所)

      スーパーコンピュータ「富岳」は、2011年に運用を開始した「」の後継機として、2021年に運用が開始された日本の最新鋭のスーパーコンピュータです。

      2021年3月から正式運用が始まり、世界最高水準の計算能力を誇ります。私たちの日常生活では直接触れる機会は少ないですが、その計算結果は気象予報の精度向上や新薬開発の加速など、間接的に私たちの生活に影響を与えています。

      【 「富岳」の主な特徴】

      項目 説明
      性能 「京」よりも約100倍高速で、より大規模で複雑な計算が可能です。
      用途 気象予報、創薬研究、防災シミュレーションなど、幅広い分野で活用されています。
      省エネ性 高い計算能力を持ちながら、消費電力を抑える設計になっています。
      AI対応 人工知能(AI)の研究にも適した設計となっています。

      【 「京」と「富岳」の比較表】

      項目 富岳
      運用開始 2011年 2021年
      理論演算性能 10ペタフロップス 1エクサフロップス以上
      消費電力 約12.7メガワット 約30-40メガワット
      プロセッサ SPARC64 VIIIfx Arm64FX
      主記憶容量 640テラバイト 4.85ペタバイト
      設置場所 理化学研究所 計算科学研究センター(神戸市) 理化学研究所 計算科学研究センター(神戸市)
      主な用途 気象、地震、新薬開発など 気象、防災、創薬、AI研究など

      この表から分かるように、「富岳」は「京」と比べて大幅に性能が向上しています。特に理論演算性能は約100倍に増加し、主記憶容量も約7.5倍になっています。

      「富岳」の開発目標は単純な計算速度だけでなく、実際の科学技術計算やデータ科学、AI分野での利用も考慮されています。そのため、幅広い分野での活用が期待されており、日本の科学技術の発展に大きく貢献すると考えられています。

      スーパーコンピュータ京は科学技術政策の象徴

      スーパーコンピュータ京日本が世界に誇る計算技術の結晶であり、科学研究、産業応用、医療分野など幅広い領域でその力を発揮しました。約10ペタフロップスの処理能力を持つ「京」は、気候変動予測から新薬開発、災害シミュレーションまで、社会的に重要な問題解決に貢献しているまさにスーパーコンピュータです。

      そして、「京」の技術と知見は、現在、後継機である「富岳(ふがく)」に引き継がれ、さらなる進化を遂げています。

      今回のテーマであるスーパーコンピュータをはじめ、システム開発やAI利用はJitera社の最も得意とする領域です。

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