現代のビジネス環境では、企業の競争力を左右するといっても過言ではないほど、データの分析・活用が重要視されています。しかしデータを扱う上で課題はつきもの。よく発生するのが「データの抽出に時間がかかる」「古いデータが残っていない」といった問題ですよね。
こういった問題を解決できるのが、データウェアハウス(DWH)です。この手法を取り入れることで、情報を一元管理できるため、大規模なデータの収集に役立ちます。
この記事では、DWHの基本概念や利用のメリット、データレイクやデータベースとの違い、運用のコツ、活用事例まで詳しく解説します。データを戦略的に活用し、ビジネスを成長させる知識と理解を深めましょう。
![Nao Yanagisawa](https://xs691486.xsrv.jp/wp-content/themes/JITERA/images/director-nao-1.png)
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
データウェアハウス(DWH)の基本概念とは?
データウェアハウス(DWH)は、組織内のさまざまな情報源からデータを集約し、それを組織全体で利用するための大規模なストレージシステムです。より詳しく解説すると、以下のようなデータを管理できます。
- 生産データ
- 販売データ
- 在庫データ
- 顧客データ
- 会計データ
データウェアハウスを活用すれば、これらのデータを一元化し、企業がより効果的にデータを管理、分析、活用できるようになります。
データウェアハウス(DWH)を利用するメリット
データウェアハウスの利用には、様々なメリットが存在します。その中でも特に重要視されているのが、以下4つです。
- 部門を超えたデータ分析の可能性
- 時系列による分析の容易さ
- 高度な分析手法の利用
- 意思決定の迅速化
各メリットについて詳しく解説します。データウェアハウスの導入によって得られるメリットをあらかじめ理解したい方は、ぜひ参考にしてください。
部門を超えたデータ分析
たとえば、販売部門が取引の詳細データを保持していて、マーケティング部門は顧客の行動と傾向に関するデータを持っている場合、通常、それぞれ別々のツールで管理を行わなければなりません。
そして、そこから得られた結果を持ち寄り、再度分析を行う必要があります。販売部門は取引の詳細のみを、マーケティング部門は顧客の行動に焦点を当て分析を行うため、目の向け方が極端になってしまい、的確に分析できない場合があります。
しかし、データウェアハウスを導入すれば、これらのデータを一元化し保管できるため、一歩ひいた目線でデータを分析することが可能です。部門ごとのデータ分析を行わず、一括管理できるのは大きなメリットでしょう。
時系列分析
保存されたデータは時間軸に沿って整理されます。過去に保存したデータが消去されたり上書きされたりする心配はありません。
たとえば、製品の売上データが保存されていれば、過去から現在に至るまでの売上推移を一目で確認することができます。
製品の売上が上昇・下降した時期やトレンドを明確に理解し、なぜそのような結果になったのかを分析できます。
高度な分析
一元管理によって、高度な分析にデータを活用できます。たとえば、機械学習や人工知能(AI)のような高度な分析手法を用いて、顧客の購入傾向を予測するというふうに活用できます。
実際に、蓄積された過去の購入データを使用して、顧客の次回の購入を予測する機械学習モデルの開発を行っている企業もあります。
これにより、商品の推奨や広告のパーソナライズ化など、顧客体験を改善し、売上を増加させることが可能になります。
意思決定の迅速化
大量のデータを効率的に管理し、そのデータからの分析結果を迅速に取得できるのも特徴です。データに基づく意思決定をリアルタイムで行うことができます。
たとえば、小売業者の場合、商品の売上データをリアルタイムで分析し、人気の商品や売れ行きの少ない商品を導き出せるでしょう。
このように、複数のデータを参照し結果を導き出せるため、経営陣など事業の流れを決める方が使うツールとして役立ちます。
データウェアハウス(DWH)とデータレイクの違い
データウェアハウスとデータレイクは、似たような意味を持つ単語と認識している方が多いです。
しかし、細かく理解すると両者には大きな違いがあることがわかります。ここでは、各単語の違いや、実際のビジネスで利用する際の適用例についてみていきます。
データウェアハウスとデータレイクの概念的な違い
まずは、表で概念的な違いを簡潔に示します。より詳細が知りたい方は後の文章をご確認ください。
データウェアハウス | データレイク |
ビッグデータのうち構造化データを扱う | データ全体を原型のまま保存する(構造化、半構造化、非構造化を含む) |
データウェアハウスは、企業が必要とする具体的な情報を効率的に提供するのが役割です。ビッグデータの中でも業務システムに収められている「構造化データ」を取り扱います。
一方、データレイクは構造化、半構造化、非構造化のデータすべてを原形のまま保存します。
- 画像データ
- 動画ファイル
- メールデータ
- 文書データ
これらの情報もまとめて保管することとなります。そのため、大量のデータを保管するのに適していますが、一切加工なく保管されるので、データの管理と取り扱いには専門的なスキルが必要です。
つまり、データウェアハウスが構造化データのみを扱うように、対象が絞られているのに対し、データレイクは後ほど分析することを前提とし、すべてのデータを原型の状態で保管するという違いがあります。
こちらの内容をわかりやすく表に示しましたので、合わせてご確認いただければと思います。
実際のビジネスでの適用例
データウェアハウスは、マーケティング部門が顧客の購入履歴を分析し、セグメンテーションやターゲティングに利用するというシーンで役立ちます。
一方、データレイクは製造業において、大量のセンサーデータやログデータを分析し、新たな製品の開発や改善に活用するというシーンで役立ちます。
どちらを活用すべきかは業種によっても異なりますが、理想があり、そこに近づけていくために「データウェアハウス」を使い、成功モデルとの共通点を探し出すべく、あらゆるデータを活用するために「データレイク」を活用することが多いです。
データウェアハウス(DWH)とデータベース(DB)の違い
データウェアハウスとデータベースはどちらも情報を管理し、保存するシステムですが、その機能には大きな違いがあります。ここでは、両者の違いについて「役割」と「技術的」の2つの観点で詳しく解説します。
データウェアハウスの役割とデータベースとの関係
データウェアハウスは、多様なデータが分析に最適化された形で保管されています。そのため、データを素早く分析できるメリットがあります。
一方、データベースの目的は、さまざまな用途でデータを素早く取り出せるようにすることです。また、データベースには最新情報が保存されるため、時系列性の部分での違いもあります。
データベースとの技術的な違い
データベースとデータウェアハウスには2つの技術的な違いがあります。
- 分析期間の違い
- データの保存形式の違い
まず、データベースはオンライントランザクション処理(OLTP)に最適化されており、日々の業務処理のような短期的なクエリをリアルタイムで処理できます。一方、データウェアハウスはオンライン分析処理(OLAP)に特化されており、大量のデータを対象とし、長期的な分析を行うための設計がされています。
また、両者は保存形式にも違いがあります。データベースは読み込みや書き込みに特化された保管方式のため「分析」に特化はされておらず、データ抽出を行おうとすると多くの時間がかかります。
対して、データウェアハウスは分析に特化されているので、必要なデータを素早く抽出できます。ただし、データを時系列に沿ってすべて保管されていくため、一般的にはデータベースよりも多くのストレージを必要とします。
データウェアハウス(DWH)の使い方と運用のコツ
それでは次に、データウェアハウスの使い方と運用のコツを詳しく見ていきましょう。
DWHの基本的な使い方
DWHの使い方は次の3つです。
- データの集約
- データの分析
- レポートの作成
まず、さまざまな情報源からのデータをDWHに取り込み、一元化します。データの抽出、変換、ロードを行い、情報を蓄積していきます。
次に、DWHに保存されたデータを分析ツールを用いて調査します。そして、その分析結果を基に、レポートを作成するというのがDWHの主な活用方法となります。
たとえば、小売業者ならPOSデータに含まれる販売データ、在庫データ、顧客購入履歴などをDWHを通じて一元管理します。分析ツールを用いて深堀りし、売上のパターンや傾向を明らかにすることで、以下のような情報を得られるかもしれません。
- 商品Aが特定の曜日に売れやすい
- 特定の顧客層から愛されている
- 雨の日は商品Bが売れやすい
たとえば、こういった情報です。これらをもとに、商品の配置やPR、価格設定を適切に調整することで、過剰在庫を防ぎ売上を最大化できる可能性があります。
DWHの効果的な管理と運用のコツ
DWHには大量のデータが保管されているため、適切な管理と運用を行わなければなりません。まずは、以下のポイントを踏まえて管理・運用を行いましょう。
- データの品質管理を徹底する
- パフォーマンスの最適化を図る
- セキュリティを確保する
まず、DWHの効果は、取り込むデータの品質に大きく依存します。データの一貫性と精度を確保するために、定期的にデータの品質チェックを行うことが重要です。
また、適切な要件定義を行い、パフォーマンスを最適化させることが大切です。ツールによって設定方法は異なりますが、どのツールでも分析結果を調整する機能があります。
加えて、DWHには企業の機密データが集約されているため、セキュリティ対策を強化し、データの漏洩や不正アクセスを防がなければなりません。
上記のポイントを押さえた上で分析を行うことで、結果を最適化させられるでしょう。
データウェアハウスの活用例
最後に、実際のデータウェアハウスの活用事例を見ていきます。ぜひ、ベンチマークとしてお使いください。
日清食品ホールディングス株式会社
日清食品ホールディングス株式会社は、全社で汎用的に利用が可能なデータプラットフォームを探していました。さまざまな分析ツールを検討した結果、データウェアハウスの活用に落ち着いたようです。
同社の社員は次のように考えていました。
「データドリブン経営を実現するためには、全社的にデータを活用する組織風土を醸成することが必要。しかし、事業部門ごとにデータを管理していた過去の状況からは、データの活用が利便性的に難しく、また、データの品質がバラバラであったり、同じデータが重複して保存されているといった問題があった。」
しかし、データウェアハウスを導入することによって、各事業部門が必要とするデータを素早く、簡単に取得でき、より迅速な意思決定につながったと語られています。
株式会社ユナイテッドアローズ
株式会社ユナイテッドアローズは、データウェアハウスをクラウド化することで、データの民主化を加速させる一方、運用保守コストを削減することに成功しました。また、様々なデータソースとの柔軟な連携を実現するため、多種多様な環境との接続を可能とするETLツールを導入したとも語られています。
これらのツールを導入したことで、データの加工から外部システムへの出力を可能とする運用体制が整い、データを効率的に収集、蓄積、統合することができるようになったといいます。そして、利用に応じた従量課金体系へ移行することで、高額な運用保守コストの削減を実現しました、
株式会社キュービック
株式会社キュービックは、自社が開発したデータ分析ツールを用いて、50以上のデジタルメディア運営を支えていました。しかし、システムの老朽化によってさまざまな課題が発生していたと語ります。
具体的には以下のような問題が発生したと語っています。
- 売上予想値に20%程度の誤差が生まれていた
- 集計時間が大幅にかかっていた
- 機能を改善するためにコストがかかっていた
しかし、データウェアハウスにAmazon Redshiftを選定したことによって、データ集計の精度を30%向上させ、事業成長につなげられたといいます。
ノバセル株式会社
ノバセル株式会社は、データウェアハウスとデータレイクを一体化し、データ分析のしやすさを改善しました。データを蓄積させておくデータゾーンと、データを分析するためのデータコンシューマを構築しようという狙いで導入に踏み切りました。
そこで、活用したのがSnowFlakeです。SnowFlakeは、データレイクとデータウェアハウスを分けずに保存できます。そして、Snowflakeにデータを投入するための工夫として「trocco」を使うことによって、実質無制限で並列処理ができるようになったといいます。また、troccoはノーコードで動かせるため、効率的にデータを収集できるようになりました。
この活用方法を用いることで、当初懸念していたサイロ化の課題、コストの課題を解決できたようです。
まとめ:DWHを活用してビジネスを成長させましょう
今回は、データウェアハウスの基本概念や利用のメリット、データレイクやデータベースとの違い、運用のコツ、活用事例などを詳しく解説しました。
DWHで、データ管理を行うことでデータ分析に必要な正しいデータを効率的に抽出できます。さまざまな情報源からのデータを一元化し、迅速な意思決定や高度な分析ができるので、今回ご紹介した事例なども参考に、データウェアハウスの活用についても考えてみてください。
また、今回ご紹介したデータウェアハウスについてのお困りごとや相談、ご依頼がございましたら、IT業界で経験豊富な株式会社Jiteraにご相談ください。
また、この記事に関する不明点や疑問も、この機会にぜひご相談いただければと思います。