IaC(Infrastructure as Code)は、ITインフラをコード化し、構築・運用する方法のことです。IaCの構築によって以下のようなメリットがあるといわれています。
- 生産性の向上
- 人的なミス削減
- コスト削減
とはいえ、手放しに全てをIaC化すれば良いわけではありません。メリットがある一方で、導入にはいくつかの課題も存在するため、理解を深めましょう。
この記事では、Iacの概要やメリット、実践例、注意点などについて紹介します。また、IaCを活用する際に役立つ具体的なサービス名についても紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。
IaC(Infrastructure as Code)とは
IaC(Infrastructure as Code)とは、インフラの設定をコードで管理し、自動化する手法です。具体的には、以下のような設定をプログラムによって自動化させられます。
- サーバー
- ネットワーク
- ストレージ
- OS
- ミドルウェアのインストール
- パスワード
- セキュリティ設定
つまり、Iacは最初にコードを入力することで、適切なタイミングをツールが判断し、自動的に指示した内容を実行してくれる機能だということです。
導入することで、従来手動で行われていたインフラ管理を効率化し、エラーを減らすことができます。
IaCが普及した背景には、生産性向上とコスト削減の要求が大きく関わっています。
従来の手動によるインフラ管理は時間と労力を大量に必要とし、さらに人為的なミスも発生しやすいという課題がありましたが、IaCの導入により、これらの作業を自動化できるようになったのです。
これにより、システムの構築や変更のスピードが向上し、生産性が大幅に向上しました。
現在では、IaCは生産性とコスト効率の両方を改善する強力なツールだと考えられており、インフラの整備に欠かせない技術だといえます。
IaCのメリット:なぜ重要なのか?
まずは、IaCのメリットについて詳しく見ていきましょう。主に以下7つのメリットがあります。
- 作業効率の向上
- インフラ環境の標準化と一貫性
- 柔軟性・拡張性・再利用性が高い
- セキュリティや監査の強化
- コストの削減
- 開発と運用のチーム連携を強化
- バージョン管理
作業効率の向上
インフラの設定と管理を自動化することで、人間が行う作業を大幅に削減します。
たとえば、開発者が新しいサーバーをセットアップする場合、必要な手順を1つ1つ手動で行わなければなりません。しかし、IaCを使用すると、サーバーの設定を一連のコードとして記述し、そのコードを実行するだけで新しいサーバーが自動的にセットアップされます。
開発者は複雑なインフラの設定作業から解放され、より重要な開発作業に集中できるでしょう。
人間が行う作業を大幅に削減し、作業時間を短縮するだけでなく、設定の間違いやエラーも減らせるため、作業効率化による効果が得られます。
インフラ環境の標準化と一貫性
IaCでは、設定がコードで管理されますが、コードが実行されることでインフラが構築されます。これにより、使用環境が異なっていたとしても、設定の違いが生まれず、一貫性を保つことができます。
たとえば、開発環境と本番環境を別々に管理している場合、設定のミスマッチが発生する可能性がありますが、IaCを使用すれば、同じ設定をコード化して再利用できるため、環境を変えたとしても設定を変更する必要はありません。
変換作業の際にはエラーが発生しやすい点を懸念されがちですが、そういったリスクはありません。
柔軟性・拡張性・再利用性が高い
利便性も大きな特徴です。IaCのコードは使い回しがしやすく、効率よく運用しやすいケースが多いです。なぜなら、サーバーやネットワークの構成の設定は、同じようなフレームワークを使っていることが多いためです。
また、IaCのコードには柔軟性があり、必要に応じて簡単に変更や拡張を行えます。システムの要件が変わった場合や、新たな機能が必要になった場合でも、素早く対応できます。
セキュリティや監査の強化
IaCでは、セキュリティ設定もコードで管理されるため、設定の間違いを防ぎ、監査も容易になります。
たとえば、ファイアウォールの設定やアクセス権限の管理などもコードで記述し、自動的に反映させることが可能です。
手動での設定の場合、ミスが発生することもありますが、コードさえ適切に記載されていれば、ミスが発生することはなく、セキュリティレベルを向上させられます。
また、全てのセキュリティ設定がコードで明記されているため、どのような設定がされているのか、有識者なら一目でわかり、監査の際にもその履歴を容易に追跡可能です。
コストの削減
コスト削減においても、以下3つの点で削減が可能です。
- 人件費
- 管理にかかる費用
- 運用費
まず、人間の手による作業時間が大幅に削減されるため、人件費の節約が可能です。
また、設定の自動化によりエラーを減少させられるため、再修正作業やトラブル解決のコストも削減できます。
そして、コードによる管理であるため、必要なリソースを必要な時だけ使用する、いわゆる「オンデマンド」の運用が可能となり、運用コストも抑えられます。
開発と運用のチーム連携を強化
開発者とシステム管理者が共同で作業を行う際のコミュニケーションを改善し、連携を強化できることもIaCの強みです。
IaCの考え方であれば、開発者が新機能を追加する際に、システム管理者と協力して、必要なインフラの変更をコードとして記述するだけです。
これにより、開発と運用の間の壁が取り払われ、一体となってプロジェクトを進めることができます。
これは、DevOpsの理念(問題が発生した時に素早く対処できるシステムを構築すること)とも一致しており、とても効率的な運用方法だと考えられるでしょう。
バージョン管理
IaCのコードは、バージョン管理システム(Gitなどのツール)によって管理されるため、どのような変更が行われたかの履歴の追跡や、何か問題が発生した場合に特定のバージョンへのロールバックもできます。
バージョン管理システムの利用により、過去のあらゆる変更を確認でき、問題の特定や解決が可能です。
AWSにおけるIaCの実践例
ここまでIaCの概要やメリットについて紹介しましたが、IaCについて理解は深まったでしょうか?
それでは次に、より実践的なレベルで理解を深めるべく、AWSにおけるIaCの実践例を3つ紹介します。
プロビジョニング
プロビジョニングとは、システムの基盤となるインフラの設定と展開を行うことです。
AWSでは、CloudFormationというサービスを用いてこのプロビジョニングを自動化することができます。
CloudFormationは、JSONまたはYAMLで記述したテンプレートを通じて、AWSリソースの設定と管理を行うことができます。
インフラストラクチャを管理
AWSではIaCを用いてインフラ全体を一元的に管理することも可能です。
たとえば、AWS ConfigはAWSリソースの設定を継続的に評価し、設定変更の追跡や監査を行うことができます。
また、脆弱性についてのリソース設定を継続評価するため、インシデントが発生した場合に、履歴を確認してセキュリティ体制を調査することも可能です。
問題の修正
IaCを活用することで、問題が発生した際の対応も迅速に行うことができます。AWS Systems Managerは、以下のような機能を持つツールです。
- オペレーションの自動化
- パッチの適用
- 設定の管理
- アプリケーション管理
これらの機能を用いて、問題が発生した際に迅速に対処し、システムの安定性を保つことができます。
IaCでインフラ構築を自動化する際の注意点
上記で紹介したように、IaCには様々なメリットがあります。しかし、導入する際には、いくつかの注意点があるため、注意しなければなりません。
ここでは、導入時の主な注意点を6つ紹介します。
- 学習コストが高い
- 導入に時間がかかる
- セキュリティリスク
- 運用負荷
- ベンダーロックイン
- 自動化の過信
学習コストが高い
IaCを効果的に利用するためには、新たな言語やツールの習得が必要です。
これらの技術をマスターするためには時間と労力が必要となり、これが学習コストとなります。
たとえば、TerraformやAnsibleといったIaCのツールを使用するには、それぞれの特性や使い方を理解する必要があります。会社によっては、専門知識を持つ人材を採用するといったコストがかかることも考えられるでしょう。
導入に時間がかかる
IaCの導入は1日でできるものではありません。初めてIaCを導入する場合、既存のインフラをコードに変換するための時間とリソースが必要不可欠です。
また、組織内でのIaCの理解を深め、適切な運用フローを確立するためにも時間がかかります。
そのため、最初のうちは多くの時間を必要とすることを理解して導入に踏み切らなければなりません。
セキュリティリスク
IaCを使用すると、インフラの設定情報がコードとして管理されます。このコードが不適切に管理されると、セキュリティリスクが生じる可能性が懸念されます。
たとえば、設定情報を含むコードが第三者へ漏洩した場合、システムへの不正アクセスのリスクがあるため、社内全体でセキュリティへの知識を深めることが求められるでしょう。
運用負荷
IaCの運用には、新たな管理体制を整えていく必要があります。たとえば、IaCのコードのバージョン管理や、設定の変更を追跡するための監視体制を整備する必要があるでしょう。
そのため、人員不足などのリスクがあることは視野に入れておきましょう。もし、運用体制の圧迫で会社の業務に集中できない場合には、代理店への依頼を検討してみてください。
ベンダーロックイン
ベンダーロックインとは、特定のクラウドサービスプロバイダーに依存したIaCのコードを作成した結果、そのプロバイダーからの移行が難しくなることです。
たとえば、AWSのCloudFormationを使用してIaCを行っていた場合、そのコードはAWS環境専用であり、他のクラウド環境には移行できないことがあります。
この、ベンダーロックインによってコードの使い回しができなくなることはあるため、注意が必要です。対策として、まずはこれからずっと使い続けることを前提にIaCを導入することです。
次に、ベンダーロックインのことも考え、技術的な知識の共有を行なっておくことも大切です。
自動化の過信
IaCは多くの作業を自動化しますが、全てを自動化することが必ずしも最善策ではありません。
特に、複雑なシステムや特殊な要件を持つ場合、全てをコード化するのは困難であり、逆に管理が複雑化する可能性があります。
IaCはあくまで手段であり、その目的はインフラの管理を効率化することです。自動化すべき点と手動で行うべき点を見極めることが重要です。
IaCを活用するためのツールとサービス
続いて、IaCを実装する際に役立つ5つの主要なツールやサービスを紹介します。
- Terraform
- Ansible
- Chef
- Puppet
- SaltStack
Terraform
Terraformは、HashiCorp社によって開発されたオープンソースのIaCツールです。一貫したCLIワークフローでサービスとインフラを管理することができます。
マルチクラウド環境(AWS、Google Cloud、Microsoft Azureなど)でのインフラ管理を可能にすることが特徴です。また、Terraformは、モジュールという再利用可能なコンポーネントを使用して、複数のリソースやマルチティアアプリケーションを効率的に管理できます。
Ansible
Ansibleは、Red Hat社が開発したオープンソースのソフトウェアツールです。主に、構成管理とアプリケーションデプロイを自動化できる機能があります。
YAML(YAML Ain’t Markup Language)という直感的な言語を使用して、設定ファイルを作成します。
Ansibleはエージェントレス(専用のITツールを使用しない)で動作するため、設定が容易であり、管理工数を最小限に抑えられる点が魅力です。
Chef
Chefは、RubyやDSLを使用してシステム設定を自動化できるツールです。Chefを使用すると、システムを構成する要素全体をコードとして管理でき、一貫性を保てます。
そのため、大規模なシステムや複雑なワークフローの管理に特に適しているツールだと言えます。
Puppet
Puppetは、システム管理者がインフラの各アスペクトを自動化し、管理するためのフレームワークを提供しているツールです。
設定ファイルを中心にしたアプローチを採用し、インフラ管理を簡素化します。大規模な企業のIT環境に対応する拡張性を保ちたい場合に役立ちます。
SaltStack
SaltStackは、データセンターやクラウド環境を自動構成するツールです。システムの設定管理からリアルタイムなイベントレスポンスまで、幅広いニーズに対応しています。
非常に拡張性が高く、AWSとの連携にも対応しています。
まとめ:IaC導入には組織のニーズとリソースを考慮することが重要
今回は、Iacの概要やメリット、実践例、注意点などについて紹介しました。IaCは、インフラの自動化と管理を可能にする強力なツールです。その導入は企業の生産性向上、コスト削減、エラーの減少など、多くのメリットをもたらします。
しかし、導入する際には学習コストが高い、導入に時間がかかる、セキュリティリスクなどいくつかの注意点があることも考慮する必要があります。
また、どのIaCツールを選択するかは、企業のニーズとリソースによって異なるため、各ツールの特性を理解し、適切な選択を行うことが重要です。
IaCの導入は時間とコストがかかるなど、リソースを注ぐ必要がありますが、長期的に見ると良い効果をもたらす投資となるかもしれません。
もし、IaCについてお困りごとや相談、ご依頼がございましたら、IT業界で経験豊富な株式会社Jiteraにご相談ください。
また、この記事に関する不明点や疑問も、この機会にぜひご相談いただければと思います。