アプリケーションは開発・リリース後に運用保守してこそ、安定して使い続けることが出来ます。
特に、リソースや体制が限られるベンチャー中小企業にとって、アプリリリース後の運用保守フェーズの理解と計画は不可欠です。
そこで今回は、そもそも運用と保守とはどんなものなのか、どのような作業にどの程度コストがかかるかなどを解説していきます。
この記事を読めば、アプリケーション運用保守内容のポイントを押さえて、失敗しないアプリ開発のヒントが得られるはずです。

食品商社営業からシステムエンジニアへと転職後、バックエンドエンジニア(Java, PHP)として尽力。開発リーダーを含む上流工程〜下流工程に携わる。IT関連記事から芸能・法律など幅広ジャンルにて執筆。
アプリ保守とは
アプリ保守はアプリを運用していく上で必要な業務です。
ここでは役割と仕事例について解説していきます。
アプリ保守の役割
アプリケーション保守とは、適切なサービスを提供し続けることです。《トラブル対応》と《改善》の業務に分けられます。
快適なサービスを提供し続けるためには、これら以外にも常にユーザーからのフィードバッグやバグ報告を受けてより良いサービスへと向上させる義務もあります。
アプリを通じて売り上げを立てるために、アプリ保守業務は必須といえます。
具体的な仕事例
具体的な仕事には以下のようなトラブル対応や改善業務があります。
【トラブル対応の例】
- システム障害発生時の復旧
- バグや不具合が発生したときの修正
- ユーザーの端末内で作動しない場合の解決サポート
【改善の例】
- OSアップデートに応じたバージョンアップ
- ユーザーの希望に応じたアプリの修正・機能追加
ユーザーが安心してアプリを利用するためには、《トラブル対応》は欠かせません。「アプリが動かない」「端末によって起動しない機能がある」など、仕様通りの機能が使えないとユーザーの信頼を裏切る形になってしまいます。
トラブルは突発的に起こることも多々あり、システムやネットワーク、通信やデータベースの幅広い専門的な知識が必要なケースも多いです。
一方で、ユーザーの満足度をより上げるための作業が《改善》です。より良いUIや動作、便利な機能追加やレスポンス速度などの改善が出来ると、より便利に安心して使われるアプリへと進化します。
トラブル対応も改善も、そのシステムに対する深い知識が必要です。出来ればアプリの開発段階から関わっている人がリリース後に運用保守を担えると早く障害復旧もしやすく、システム改修などの改善作業もスムーズに行えるでしょう。
アプリ運用とは
アプリ運用も安定稼働させるために必要な業務です。
ここではアプリ運用の役割と仕事例について解説していきます。
アプリ運用の役割
アプリケーション運用とは、システムが常に安定稼働するためのサポートです。《オペレーション》と《監視》の業務に分けられます。
アプリ運用が適切にできていないと、そもそものサービスとして成り立たない可能性があります。
アクセスが集中してしまった際や何らかの問題が発生した場合に調査・分析・改善ができないと、ユーザーがどんどんと離れてしまう原因となりかねません。
適切なアプリ運用を行うことでシステムを安定稼働させ、より快適なサービス提供を可能にします。
具体的な仕事例
【オペレーションの例】
- アプリの起動・停止
- データのバックアップ
【監視の例】
- 正常稼働しているかのチェック
- レスポンス速度のチェック
- トラフィック量やサーバー容量の確認
- CPUやメモリのリソースチェック
《オペレーション》は、アプリの起動や停止、データのバックアップなど、システムを安定的に稼働させるための業務全般のことを指します。
《監視》はシステムが安定稼働しているかをチェックすることです。トラフィック量やサーバー容量を定期的にモニタリングしたりすることで、トラブルに発展する前に未然に防ぐことも出来る点で非常に重要です。
ツールを使うなどで出来るだけ自動化することが望ましいです。
アプリ運用と保守の違いまとめ
「運用保守」とまとめて語られることが多いですが、「運用」と「保守」には明確な役割の違いがあります。
この違いを理解すると必要コストが理解しやすくなるため、まずはこの違いについて見て行きましょう。
人とシステムの間で、「運用」は比較的人と近い領域でシステムエンジニアが担当することが多く、「保守」はシステムに近い領域でプログラマが担うことが多いです。役割や業務の違いを簡単にまとめると、以下の表のようになります。
運用 | 保守 | |
概要 | 安定稼働のための管理 | 安定稼働の維持 |
具体的な作業 | ・システム起動 ・停止データ入力 ・出力データのバックアップサーバーやトラフィックの監視 |
・障害復旧 ・バグ不具合修正 ・機能改善 |
作業の特徴 | 定期的・定例的に行う作業が多い(マニュアル化しやすい) | 突発的に起こることが多いシステムの深い知識が必要(マニュアル化しにくい) |
担当者 | システムエンジニアが多い | プログラマが多い |
このように「運用」と「保守」は作業内容や必要知識が異なるため、担当者を決めたり採用する際も仕事内容の違いに注意しましょう。そして「運用」と「保守」は費用面でも違いがあります。
次に費用面について見て行きましょう。
アプリ運用・保守にかかる費用相場
アプリの運用保守費用は、云わばランニングコストです。
アプリのリリース後から、アプリが使われ続ける限りかかるものなので、長い目で見ると非常に高額になりかねないため予め把握しておきたいですね。
ここでは、アプリの運用保守にかかる費用について見て行きましょう。
アプリ開発サーバー費用
システムの規模によりますが、およそ年間2~30万円ほどの費用が必要です。
スマホアプリの場合サーバーは必要ありませんが、WEBアプリであればサーバー代が必要となります。
サーバーをレンタルする場合、無料のものから月額数十万円するものがあるため、アプリに応じて最適なものを選ぶことが重要です。アンダースペック/オーバースペックにならないよう、アプリリリース後の見通しを立てながら検討しましょう。
サーバーのスペック検討には、以下の項目に留意します。
- ユーザー数
- セキュリティ
- レスポンス速度
- 常時トラフィック
- 最大瞬間トラフィック
サーバー費用はアプリ開発時から必要となるため、アプリによる収益が発生する前からのコストになります。
万が一後々サーバーを引越したくなった場合は、システムやデータの移動、データベースの各種設定、動作テストの時間と労力が必要となり、アプリが動かないといったトラブルやリスクも考えられます。そのため、一度開発したアプリのサーバーはしばらくは変えないつもりで選定することが重要です。
アプリの維持費用と運営費用
ドメインやSSL証明書など、およそ年間5~30万円ほどの費用がかかります。
アプリの維持管理にもコストがかかります。コストのかかる主なものは以下の通りです。
- ドメイン費用
- コンテンツ追加費用
ドメインは安価なものから高価なものまでピンキリです。基本的には気に入った文字列のドメインを購入するかと思いますが、うまく探せるとドメイン費用の削減ができます。
ただし「購入時はとても安かったのに、毎年のドメイン更新料が高い」と言ったケースもありますので、購入金額だけではなく、更新料も調べてから購入すると良いでしょう。
また「.cn」「.info」のように危険度が高いとされるドメインもあるため、安いからと言って怪しいドメインにするのもユーザーに警戒されるため考え物です。最近は中古ドメインも普及していますが、Googleからの評価が良いか悪いか使ってみないとわからず博打的な要素があるため、新規でドメイン購入するのが安心です。
さらに、コンテンツの追加費用も重要です。
保守費用
機能追加数やバグ対応数などでも変動しますが、およそ年間50~500万円ほどの費用が必要です。
前述の通り、ユーザーが快適かつ安全にアプリを利用するためには保守が必須です。アプリの保守では、以下のような費用がかかることを想定しておきましょう。
- OSアップデート時の対応費用
- システム不具合・バグ対応の費用
- 機能の追加や改善を行う費用
- マニュアル整備費用
保守費用は一般的に開発費用の15%程度と言われていますが、アプリの機能や規模感によって金額は大きく増減します。
また、機能の追加や改善を行うことも重要です。ユーザーのニーズに応じた改善を施すことは、顧客の満足度に直結するからです。売上げに大きく貢献したり顧客満足度を高めるアプリは一朝一夕で完成したのではなく、長い月日をかけて改善されたものが多いです。
PDCAを何度も早く回し、テストと検証を繰り返す保守をしたからこそ、成功するアプリを作ることが出来るのです。
このような保守に関わるためには、そのアプリに対する深い知識が必要です。出来れば開発段階から携わった人が保守も担当できれば安心ですが、万が一その保守担当が異動してしまった際に備えて、保守・開発マニュアルを準備してくと安心です。
アプリ運用・保守の費用を抑えるコツ
アプリ運用・保守の費用を抑える方法はいくつかありますが、複数の対策を行うことでより効果がでます。
ここでは費用を抑えるコツについて解説していきます。
シンプルなアプリ設計をする
シンプルなアプリ設計は、開発と保守の複雑さを減少させることにつながります。
不具合やエラーなどのバグが発生するとエンジニアが対応に追われ、コストが大幅に増加してしまいます。
そのため、シンプルなアプリ設計にすることによりあらゆる業務がシンプルになり費用を抑えることが可能です。
自動化ツールを活用する
自動化により保守作業の効率化を実現して運用コストを大幅に削減できます。
定常的なバックアップ、テスト、リリースプロセスなどが効率化されるため、エンジニアの手作業によるエラーを削減可能。
ただし、自動化ツールを導入する際、必要に応じて初期費用やランニングコストが発生してしまう場合もあります。
ですが、人的コストなど包括的に考えると全体的なコストを抑えることができる場合が多いため検討する必要があるといえます。
クラウドサービスを活用する
クラウドサービスを利用することでも、初期投資や運用コストを削減に貢献します。
クラウドプロバイダーはサーバの保守や運用を担うため、自社で物理的なインフラを保有・管理する必要がありません。
また、クラウドはスケーラビリティが高く使用量に応じた課金が可能なため、無駄なリソースが削減できます。
オープンソースソフトウェアの活用
オープンソースソフトウェアの活用は、ライセンスコストを削減して広いコミュニティからのサポートを受けることができます。
オープンソースはカスタマイズがしやすく、特定のニーズに合わせて修正や拡張が可能です。
さらに、オープンソースの使用は新しい技術へも適応しやすいため、のちの開発や改修業務にも役立つといえます。
アプリ運用・保守を成功させるコツ
アプリの運用保守は、アプリが使われる間はずっと続くために効率的かつ効果的にしたいものです。
ここでは効率的な運用保守のポイントについてお伝えします。
計画的な運用・保守体制の構築
アプリの運用保守の成功のためには、計画的な運用・保守体制の確立が必須といえます。
これには、アプリの運用フェーズにおいて発生するであろう様々なシナリオに備えた対応計画を立て、必要なリソースを割り当てることが大切です。
また、事前に運用・保守のプロセスを標準化してマニュアル化することで、一貫性と効率性を高めるべきです。
さらに、予期しない問題への対策としての緊急時の対応プランを明確にしておくことが重要といえます。
迅速な問題解決をする
アプリの問題や不具合が発生した際には、エンジニアによる素早い対応が求められます。
問題解決のスピードを上げるためにはトラブルシューティングを明確にし、問題発生時にエンジニアが迅速に対処できる体制を整える必要があります。
問題発生の初期段階で正確な調査と分析と状況判断ができるように整備し、適切な対処法を素早く実行できるようにすることが大切です。
継続的な改善を行う
アプリは時代と共に進化し続けるため、定期的なレビューとアップデートが必要でしょう。
ユーザーフィードバックや使用状況の分析を通じて、アプリの機能改善やユーザビリティの向上を図ることが重要です。
また、新技術の導入や最新のセキュリティ対策の適用もアプリを市場に適応させ続けるためには欠かせません。
セキュリティ対策を徹底する
セキュリティはアプリ運用・保守において最も重要な要素の一つで、セキュリティ対策が万全であればあるほどユーザーからの信頼を得ることができ、より長期的な運用が目指せます。
そのため、定期的なセキュリティ監査、脆弱性評価、そして必要に応じたパッチの適用が必要です。
また、データ保護規制に準拠して、ユーザデータの安全を保障するための措置を講じることが必須です。
円滑なコミュニケーション
運用・保守チーム内外での効果的なコミュニケーションは、問題の解決とアプリの品質維持に不可欠です。
チーム間で情報共有がしっかりとできていれば人的ミスや連携不足による情報伝達ミスが起こらないため、結果的にアプリの品質を保つことが可能となります。
各ステークホルダーが必要な情報をタイムリーに入手できるようにすることで、意思決定の速度と正確性を高めることができます。
まとめ:アプリ運用と保守の成功のために
アプリ開発は気が付けば雪だるま式に機能追加要望が増え費用がかさむことも多々あります。
また、度重なるシステム改修によってプログラムソースがどんどん複雑化し、不具合が起こり改修作業も難しくなることも多いです。
アプリ開発はゴールと中間目標を設定し、PDCAを回しながら機能追加や改修作業を行うことが大切です。
アプリ開発についてお悩みがある場合は、システム開発経験が豊富で運用保守までサポートできるJiteraに一度ご相談ください。