エンティティ認識(NER)は、自然言語処理の技術の1つで、テキストデータから特定の名前付きエンティティを抽出する技術です。
この記事では、NERの仕組みや自然言語処理における重要性や活用事例などを解説しています。
この記事を読んで、どのようにNERを活用するかの参考にしてください。
PHPを独学で勉強した後にWeb業界に参入。大手企業でプログラマーとして活躍後、自社サービスの立ち上げ、大手検索エンジンサービスの保守運用作業、ソーシャルゲーム開発などに携わりながら、SE・管理職の道を歩んで現在に至る。現在は、管理職に携わる傍ら、これまでの経験を活かした執筆活動を続けている。
エンティティ認識(NER)とは

エンティティ認識(NER: Named Entity Recognition)は、自然言語処理(NLP)の技術の1つで、テキストデータから特定の名前付きエンティティ、たとえば、人物名・地名・組織名・日時などを抽出することをさします。
NERは、テキストデータを解析し、特定のカテゴリーに分類するプロセスです。
NERの主なステップは以下のとおりです。
- テキストの前処理
- 特徴抽出
- モデルの学習
- エンティティの認識
テキストの前処理では、トークン化やPOSタグ付けをおこないます。次に、各単語や文に対して特徴量、たとえば、単語の形態・位置・周辺の単語などを抽出します。
データを抽出したらラベル付きデータを用いて、特定のエンティティを認識するモデルを学習した上でこの学習したモデルを用いて、未見のテキストデータからエンティティを抽出が可能です。
この記事では、NERの技術的な仕組みやNERの主な機能などを解説しています。NERに関して詳しく知りたい人は、ぜひ参考にしてください。
エンティティ認識(NER)の技術的な仕組み

エンティティ認識(NER)は、テキストデータから特定の名前付きエンティティを抽出する技術であることがわかりました。
このNERについて、さらに詳しくみていきましょう。
NERの技術的な仕組みは、自然言語処理の複数のステップと機械学習やディープラーニングの技術を組み合わせて実現されます。
以下は、NERの技術的な仕組みの主なポイントです。
- テキストの前処理
- 特徴抽出
- モデルの学習
- エンティティの認識
テキストの前処理では、テキストを単語や句に分割します。また、各トークンに対して、その品詞を特定し、さらに、テキストを文単位に分割します。
テキストの前処理ができたら、特徴抽出です。まずは各トークンの前後の単語情報を収集します。次に、単語の大文字・小文字・数字の有無・特定の接尾辞や接頭辞などの形態的特徴を収集します。
ほかにも、既知の名前や場所、組織名などのリストを使用してエンティティを特定する助けとする処理も重要です。
さらに、機械学習アルゴリズムやディープラーニングモデルを使用して、モデルの学習をおこないます。
モデルの学習をおこなった後、学習したモデルを使用して、未見のテキストデータに対してエンティティを認識します。
これらのステップを通じて、NERはテキストから有用なエンティティを自動的に抽出し、さまざまなアプリケーションで活用されます。
エンティティ認識(NER)の主な機能

エンティティ認識(NER)には、いくつかのステップがあることがわかりました。
では、NERにはどのような機能があるのでしょうか。
ここでは、以下の項目に分けてNERの主な機能を解説します。
- エンティティの識別
- エンティティの分類
- エンティティ間の関係の抽出
これらの項目をみながら、エンティティ認識がどのようにして名前・場所・日付などのエンティティをテキストから識別するかを学んでいきましょう。
エンティティの識別

エンティティの識別は、エンティティ認識(NER)の主な機能の1つです。
エンティティの識別とは、テキスト中に出現する単語やフレーズを特定のカテゴリ(エンティティタイプ)に分類するプロセスです。特定のカテゴリに分類することで、テキストから有用な情報を自動的に抽出し、整理することができます。
以下は、エンティティ識別の主な機能です。
- トークン化
- 特徴抽出
- モデルの適用
- ラベル付け
まずは、テキストを単語やフレーズに分割し、次に、各トークンに対して、その文脈や形要素に基づいた特徴を抽出します。
その後、事前に学習された機械学習モデルやディープラーニングモデルを使用して、各トークンを特定のエンティティカテゴリに分類します。
最後に、認識されたエンティティに対して、適切なラベルを付与します。
エンティティ識別は、テキストデータから意味のある情報を抽出するための重要な技術であり、データ分析や自然言語処理の多くの分野で不可欠なものです。
エンティティの分類
エンティティ分類は、テキスト中で識別されたエンティティを、定義されたカテゴリに分類するプロセスです。このプロセスでは、特定の名前月エンティティがどのカテゴリに属するかを決定します。
エンティティ識別がエンティティの検出に重点を置いているのに対し、エンティティ分類はそれらのエンティティを適切なラベルに割り当てることに重点を置いています。
以下は、エンティティ分類の主なプロセスです。
- トークン化
- エンティティ識別
- エンティティ分類
テキストを個々の単語やフレーズに分割したあと、トークン化されたテキストから、名前付きエンティティを検出します。
検出されたエンティティからそれぞれのカテゴリを分類します。
また、エンティティ分類には、機械学習やディープラーニングの手法が用いられます。
エンティティ間の関係の抽出
エンティティ間の関係の抽出とは、テキスト中で識別されたエンティティ同士の相互関係を特定し、それらを構造化するプロセスです。
これは、単にエンティティを検出し分類するだけでなく、それらがどのように関連しているかを明らかにするものです。
このプロセスは、テキストデータからより高度な情報を引き出すために重要です。
以下は、その主なプロセスです。
- エンティティの識別
- エンティティの分類
- 関係の抽出
エンティティ間の関係の抽出では、識別されたエンティティ同士の関係を特定します。たとえば、「人物Aが組織BのCEOである」というような関係をテキストデータから抽出します。
このように、エンティティ間の関係の抽出は、単なるエンティティ認識を超えて、テキストデータからより深い意味を引き出すための重要なステップです。
エンティティ認識(NER)のビジネスへの活用例

エンティティ認識の機能には、エンティティの識別やエンティティの分類など、さまざまな機能があることがわかりました。
では、NERはビジネスにおいてどのように活用されているのでしょうか。
ここでは、以下の項目に分けて、ビジネスへの活用例を解説します。
- 情報検索と情報抽出
- チャットボット
- 不正検知と名寄せ
これらの項目をみながら、NERが業界においてどのように利用されているか、みていきましょう。
情報検索と情報抽出
エンティティ認識(NER)は、ビジネスにおいて多くの分野で活用されており、その代表的な応用例として情報検索と情報抽出があります。
以下は、情報検索におけるNERの活用例です。
- 検索エンジンの最適化(SEO)
- カスタマーサポートの強化
- パーソナライズされた検索結果
NERを用いてユーザーの検索クエリから重要なエンティティを抽出し、検索エンジンのクエリの意図をより正確に理解するのに役立ちます。また、顧客からの問い合わせ内容をNERで解析し、迅速かつ的確な関連情報の検索が可能です。
次に、情報抽出におけるNERの活用例は、以下のとおりです。
- 金融業界におけるレポート分析
- 医療分野のデータ解析
- マーケティングにおける消費インサイト
金融レポートやニュース記事から企業名・株価・役職者などのエンティティを抽出し、投資判断の材料とすることができます。また、ユーザーの過去の検索履歴やプロフィール情報をもとに、NERで重要なエンティティを特定し、よりパーソナライズされた検索結果の取得が可能です。
このように、NERは、情報検索と情報抽出における強力なツールとなります。
チャットボット
エンティティ認識(NER)は、チャットボットの性能を向上させ、ユーザー体験を改善するために重要な役割を果たします。
以下は、チャットボットにおけるNERの活用例です。
- ユーザーの意図理解と適切な応答生成
- FAQの自動応答
- 予約及びスケジュールんぐの効率化
- カスタマーサポートの強化
- パーソナライズされたユーザー体験の提供
NERは、ユーザーの入力から重要なエンティティを抽出して、ユーザーの意図を正確に理解し、適切な応答を生成することができます。
また、FAQのセクションにおいて、NERを使用してユーザーの質問からキーエンティティを特定し、適切な回答の生成が可能です。
このように、NERはチャットボットの性能を最大限に活かすための強力なツールとなります。ユーザーの意図を正確に理解し、適切な応答やサービスを提供することで、ユーザー体験を改善し、ビジネスの効率化と顧客満足度の向上を実現します。
不正検知と名寄せ
エンティティ認識(NER)は、ビジネスにおける不正検知や名寄せ(データ統合・重複排除)にも広く活用されています。
以下は、不正検知における主な活用事例です。
- 金融取引の不正検知
- クレジットカードの不正利用検出
- 保険詐欺の検知
NERは、金融データからエンティティを抽出し、不正なパターンの検出が可能です。また、クレジットカードの利用データからエンティティを抽出し、通常のパターンと異なる取引を特定することもできます。
次に、名寄せにおけるNERの活用事例は以下のとおりです。
- 顧客データの統合
- 製品情報の統合
- ビジネスパートナーデータの名寄せ
複数のデータベースからの顧客情報を統合する際に、NERを使用してエンティティを抽出し、重複したレコードを統合することができます。また、製品情報を含む複数のデータソースを統合する際に、NERを使用して製品名・メーカー・型番などのエンティティを抽出し、重複を排除した正確な製品データベースの構築が可能です。
このように、NERは、不正検知と名寄せの両方で有効な手段です。
不正検知においては、重要なエンティティを特定することで、不正行為のパターンを迅速に検出できるため、リスク軽減が可能です。名寄せにおいては、複数のデータソースからの情報を正確に統合し、データの一貫性と正確性を確保できます。
AWSを使ったエンティティ認識(NER)の実例

ここまで、エンティティ認識(NER)の活用事例をみてきて、情報検索やチャットボットなどで活用されていることがわかりました。
次に、より具体的な活用方法の1つである、AWSでのNERの実例をみていきましょう。
ここでは、以下の項目に分けて、AWSを使ったNERの実例を解説します。
- Amazon Comprehendの活用方法
- AWSと他のクラウドサービスとの比較
それぞれの項目をみて、AWSにてNERがどのように活用されているかをみていきましょう。
Amazon Comprehendの活用方法
Amazon Comprehendは、AWSが提供する自然言語処理サービスで、テキストデータからエンティティの認識・感情分析・トピックモデリングなどを行うことができます。
以下は、ビジネスでのAmazon Comprehendの主な活用方法です。
- カスタマーサポートの自動化
- ソーシャルメディアモニタリング
カスタマーサポートチャットボットにAmazon Comprehendを統合し、顧客の問い合わせからエンティティを抽出して自動的に対応することが可能です。
また、ソーシャルメディアの投稿からブランドに関するエンティティを抽出し、顧客のフィードバックや感情を分析することもできます。
このように、Amazon Comprehendを利用することで、NERを含む多様な自然言語処理タスクを簡単に実行し、ビジネスの多くの領域での効率化や精度向上を図ることができます。
AWSと他のクラウドサービスとの比較
以下は、AWS・Google Cloud・Microsoft Azureのエンティティ認識(NER)における特徴と利点を比較した一覧表です。
| 特徴 | AWS Amazon Comprehend |
Google Cloud Cloud Natural Language API |
Microsoft Azure Text Analytics |
| 基本機能 | エンティティ認識、感情分析、キーフレーズ抽出、言語検出、トピックモデリング | エンティティ認識、感情分析、構文解析、クラシフィケーション | エンティティ認識、感情分析、キーフレーズ抽出、言語検出 |
| 統合と拡張性 | AWSエコシステムとのシームレスな統合(S3、Lambda、Athenaなど) | Google Cloudエコシステムとの統合(BigQuery、Cloud Storageなど) | Microsoft Azureエコシステムとの統合(Power BI、Azure Functionsなど) |
| リアルタイム処理 | リアルタイムおよびバッチ処理が可能 | リアルタイムおよびバッチ処理が可能 | リアルタイムおよびバッチ処理が可能 |
| セキュリティ | AWSのセキュリティ標準に準拠(IAM、暗号化、監査ログなど) | Google Cloudのセキュリティ標準に準拠(IAM、暗号化、監査ログなど) | Microsoft Azureのセキュリティ標準に準拠(IAM、暗号化、監査ログなど) |
各プラットフォームには、それぞれ特有の強みと制限があります。
自社でどのサービスを選択するかは、特定のビジネスニーズ・既存の技術スタックとの互換性・必要な言語サポートおよびカスタムモデルの要件に基づいて決定するとよいでしょう。
エンティティ認識(NER)の課題

Amazon Comprehendを活用すれば、カスタマーサポートの自動化やソーシャルメディアモニタリングに役立つことがわかりました。
では、エンティティ認識(NER)には、どのような課題があるのでしょうか。
ここでは、以下の項目に分けて、NERの課題を解説します。
- 曖昧性の問題
- 多言語の問題
- 識別不可のエンティティもある
これらの項目をみながら、NERの課題について理解していきましょう。
曖昧性の問題
エンティティ認識(NER)の課題の1つに、曖昧性の問題があります。
曖昧性の問題とは、同じ単語やフレーズが異なる文脈で異なる意味を持つため、NERの精度が低下することをさします。
曖昧性の問題は、同形意義語と多義語の2つです。
また、曖昧性の問題の課題には、以下のようなものがあります。
- 文脈の理解
- データの不足
- 言語の多様性
NERが単語の意味を正確に理解するためには、その単語が使用されている文脈を理解する必要があります。
これらの問題に対して、以下のような解決策とアプローチが考えられます。
- 文脈ベースのモデルを使用する
- 知識ベースを利用する
単語の意味を理解するために、周囲の文脈を考慮するモデルを使用する方法があります。また、エンティティの正確な意味を決定するために、事前に構築された知識ベースを利用するのもよい方法です。
NERにおける曖昧性の問題は、単語の文脈や意味の多様性によって引き起こされる重大な問題です。これらに対処するためには、文脈を考慮したモデルの使用や知識ベースの活用および共参照解析などのアプローチが有効となります。
多言語の問題
多言語の問題は、エンティティ認識(NER)に対して課題の1つとなる場合があります。
以下は、多言語対応の主な課題です。
- 言語間の差異
- トレーニングデータの不足
- モデルのスケーラビリティ
言語ごとに異なる構文や文法が存在し、NERがこれらに対応する必要があります。特に少数言語やリソースが限られた言語の高品質なアノテーションデータを入手するのは難しいです。
これらの課題を解決するためのアプローチは、以下のとおりです。
- 多言語モデルの使用
- トランスファーラーニングの活用
- データ増強とアノテーション
- エンティティリンクとクロスリンギスティックエンティティ
1つのモデルで複数の言語に対応できるように設計されたモデルを使用するのが1つの方法です。また、高リソース言語でトレーニングしたモデルを低リソース言語に転移学習することで、トレーニングデータの不足を補う方法もあります。
言語対応の課題は、言語間の差異・トレーニングデータの不足・モデルのスケーラビリティなど多岐にわたります。
これらの課題に対応するためには、多言語モデルの使用・トランスファーラーニング・データ増強・エンティティリンクなどのアプローチが有効です。
識別不可のエンティティもある
エンティティ認識(NER)には、認識不可のエンティティがあることに注意が必要です。これは、テキスト内の特定のエンティティをNERが正確に認識・抽出できないことをさします。
以下は、認識不可のエンティティが発生する原因です。
- 新規または珍しいエンティティ
- コンテキストの欠如
- 多様性
- 言語や文化の違い
新しく登場した人名・企業名・製品名などがモデルに認識されない場合があります。また、エンティティが文脈に依存する場合、その文脈を正しく理解できないと誤認識されることがあります。
これらの課題に対する解決策やアプローチは、おもに以下のとおりです。
- カスタムエンティティの追加
- トランスファーラーニング
- エンティティリンク
- ハイブリッドアプローチ
特定のドメインやニッチな分野のエンティティを認識するために、カスタムエンティティモデルを追加する方法があります。また、既存のモデルを特定のエンティティに適応させるために、少量のドメイン固有データを使ってファインチューニングするのもよい方法です。
このような認識不可のエンティティがある課題は、新規エンティティや文脈依存のエンティティ、言語や文化特有のエンティティなど、さまざまな要因によって発生します。
この課題に対処するためには、カスタムエンティティの追加・トランスファーラーニングなどの方法が有効です。
まとめ:エンティティ認識(NER)はNLPにおいて重要なプロセス

今回は、エンティティ認識(NER)に関して、以下のことがわかりました。
- エンティティ認識(NER)はテキストデータから特定の名前付きエンティティを抽出する技術
- テキストの前処理や特徴抽出などの手順でNERは施行される
- NERは情報検索・情報抽出・チャットボットなどに活用されている
- 曖昧性や多言語の問題がNERの課題
NERは多くの分野で活用できますが、自社で活用するとした際にどのようにすればよいかわからないこともあるでしょう。
NERに関してわからないことや不明点があれば、これらに知見を持つ、株式会社Jiteraへご相談ください。自社でどのようにNERを活用したいかをヒアリングさせていただき、最適なアドバイスをご提案させていただきます。
