災害や緊急事態に備えることは、企業の生存と継続成長にとって重要です。そこで、現代の企業に求められているのがBCDR(事業継続・災害対策)です。BCDR計画を策定することで、大きく2つのメリットが存在します。
- 災害や緊急事態の発生時に、通常通りに近い状態で事業を継続できる
- BCDR計画を策定時に、既存のシステムまたは運用方法の欠陥に気づける
本記事では、「BCDRとは、企業が取るべき対策は何か」「BCDRで使えるクラウドサービス」についてご説明します。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
BC/DRとは?基礎知識
BCDRとはBC(事業継続)とDR(災害対策)の2つの用語を組み合わせてできた言葉です。
BC(Business Continuity)とは総合的な事業の継続を意味していますが、DR(Disaster Recovery)はシステムを中心とした復旧の計画を指します。この2つの言葉が組み合わされたBCDRは、事業を継続するためにシステム部門などの専門部署と緊密な連携が必要であることを意味しています。
なぜBC/DRが重要なのか?
なぜBCDRが重要なのか、具体的に理由を説明します。
1.災害時など緊急事態における人命に関わるリスクを回避できる
BCDRの一番の目的は、災害発生時においても事業を継続することです。
それに加え、地震や火災発生時においてはBCDR対応によって人命の救助にも役立ちます。災害時の対応を明確にしておくことで、従業員やその家族にも安心して業務を行うことができます。
2.業務の停止における経済的な損失を回避できる
災害などでシステムが停止した場合、復旧までに時間とコストがかかります。
また、顧客に提供しているサービスが停止した場合、顧客先も大きな被害を与えてしまします。BCDR計画を行うことで、既存システムの脆弱性を明らかにし、災害時だけでなく通常時のトラブルもすみやかに復旧することができます。これにより、業務の停止における経済的な損失を減少させることができます。
3.顧客からの信頼性・企業イメージが向上する
災害発生時におけるBCDR計画など、透明性のある取り組みをアピールできることは顧客に信頼感を与えることができます。また、それを通じて企業イメージを高めることに繋がります。
BC/DRの基本的な要素
BCDRの基本的な要素は次のとおりです。
1.事業継続計画(BCP)
事業継続計画は、災害や緊急事態が発生した場合に事業の活動を継続するための計画です。
主要な業務プロセスやリソースの分析、リスク評価、従業員の安全確保、代替施設のシステムの確保などが含まれます。BCPはBCを行うための具体的な内容と対策です。
2.災害復旧計画(DRP)
災害復旧計画はシステムやデータの損失を最小限に抑え、業務の継続性を確保するための計画です。
具体的にはデータのバックアップ、災害復旧における手順、テスト及び検証プロセスが含まれます。また、DRを考える上で重要とされている3つの指標(RLO、RTO、RPO)を決定することで、具体的な方向性がきまります。
3.コンプライアンスと規制要件
BCDR計画は、業界の規制や法的要件に準拠する必要があります。例えば、データ保護法やセキュリティ規制などが該当します。
4.テストと訓練
BCDR計画を策定後はテストを行う必要があります。テストを行わずに、いざ災害時に使用すると思わぬトラブルやエラーが発生する可能性があります。
また、従業員に対しても定期的に訓練を行うことで、実際の災害発生時に迅速かつ効果的な対応が可能となります。
5.リスク管理
BCDRはリスク管理の一部です。事前のリスクアセスメントや適切な対策の実施により、災害時の影響を最小限に抑えることを目標としています。
企業がとるべきBC/DR対策
ここまでBCDRについて説明してきました。BCDR計画とは何か、企業にとってなぜ必要なのかお分かりいただけたと思います。
しかし、それだけでは実際に何から始めたらいいのかわかりませんよね。ここからは、企業がとるべきBCDR対策について大きく2つのプロセスに分けて説明していきます。
リスク評価と影響分析
BCDR計画を策定する上で、まず必要なのは以下の2つです。
1.事業に影響を及ぼす可能性のあるリスク評価
企業が直面する様々なリスクを特定し、それらのリスクの発生確率と影響の程度を評価するプロセスです。
このプロセスでリスクの発生確率を推測し、それが発生した時の影響の度合いを数値化することで対策の優先順位をつけることができます。代表例としてリスク評価は以下に焦点をあて評価します。
・自然災害(地震、火災、津波)
・人的な災害(サイバーテロ、システム障害)
・運用保守の問題(ヒューマンエラー、サプライチェーンの取引停止)
2.影響分析
影響分析は、前述の通りリスク評価の一部として行われます。特定のリスクが企業に及ぼす影響を評価するプロセスです。
この分析により、災害が発生した際における損失や損害の予測が可能となります。また、影響範囲の大きい事業を特定することでBCDR計画の優先順位をつけることができます。
代表例として影響範囲は以下に焦点をあて評価します。
・事業活動の種類(サービス提供、原材料メーカー、販売メーカーなど)
・利益
・顧客満足度
「自社にとってのリスクは何か」「どれくらいの影響があるのか」この2つがないとそもそも復旧計画はたてられません。
リスク評価と影響分析は、企業がリスクに対処しBCを確保するための重要なものです。また、上記のプロセスは定期的に見直すことで、環境やリスクの変化に対応することができます。
事業継続戦略の策定
リスク評価と影響分析の次は、以下の要点をもとに事業継続戦略(BCP)の策定を行います。
1.事業継続計画の目標を定義する
事業継続に重要な部分を対象として明確に範囲を設定します。例として以下が挙げられます。
・特定の業務機能
・システム
・施設
2.代替施設やリモートワークの準備
災害の発生時において、業務を継続するための代替施設やリモートワークの準備が必要です。これにより、従業員が業務を継続できる環境が整えられます。
3.従業員の安全確保
BCPでは従業員の安全確保も重要です。災害の発生時に従業員の安全を速やかに確保し、安否確認をとれることが必要です。必要に応じて避難や救助の手順を策定します。
4.コミュニティケーション計画
災害の発生時において、従業員や顧客、パートナーとの連絡手段や情報共有の方法を定めることも重要です。情報を正確かつ迅速に伝達する手段を準備する必要があります。
5.テストと訓練
実際に計画を策定しただけでは緊急事態に対応できるとは限りません。策定した計画のテストを行い、従業員についても訓練を行うことで計画の改善点の発見や、速やかな実行を行うことが可能となります。
6.持続的な改善
テストや訓練から得られた経験をもとに、定期的に改善していく必要があります。リスクや影響も変化していくものであり、その観点からもリスク評価および影響分析から定期的に見直して更新していくことが重要です。
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クラウドを利用したBC/DR戦略
ここからはクラウドを利用したBCDR計画について紹介していきます。クラウドとは、ネットワークを経由してストレージやソフトウェアを使用する概念(サービス)のことを指します。
最近、「オンプレからクラウドに」「AWSでコストを抑える」なんて聞いたことはありませんか?これは企業にとってクラウドを使用することが主流になってきているためです。BCDRについても例外ではありません。それではクラウドを活用するメリットとリスクについてご説明していきます。
クラウドをBC/DRに活用するメリット
クラウドをBCDRに活用するメリットは多岐にわたります。
・柔軟性と拡張性:必要なリソースを災害発生時に即座にスケーリングできる
・費用対効果が高い:ハードウェアの購入やメンテナンスコストを削減できる
・高い可用性と信頼性:災害発生時でもデータやアプリケーションへのアクセスを維持できます。また、自動化されたバックアップと復元が可能で、手動作業が減ります。さらに、遠隔地へのデータバックアップも容易です。
これらのメリットにより、事業の継続性を確保し、災害からの素早い復旧を実現できます。
クラウドをBC/DRに利用する際のリスク
クラウドをBCDRに活用する際のリスクには、以下が挙げられます。
・データのセキュリティとプライバシー:AWSやAzure、GCPなどの大手クラウドサービスはセキュリティもかなり充実しています。一方、マイナーなクラウドサービスを選択した場合は信頼性が低く、セキュリティが十分でない可能性もあります。
・クラウドへの依存度の増加によるシングルポイントのリスク増加:クラウドに依存しすぎると、そのクラウドサービスにトラブルがありシステムが停止した場合、逆にこちらも大きな被害を被る可能性があります。
・適切な運用ができない:クラウドサービスを使用する上で、適切な運用(データの暗号化など)ができていない場合、情報漏洩のリスクがあります。
BC/DR戦略に使えるクラウドサービス
ここまでBCDRにクラウドサービスを活用するメリットを説明してきました。しかし、マイナーなクラウドサービスを選択した場合は、逆にリスクの方が大きくなってしまいます。BCDR計画をしっかり策定したのに、クラウドサービスが原因でトラブルが発生していては本末転倒です。
BCDRを信頼性のあるものにするためには、クラウドサービスの選定も非常に重要です。それでは、実際にBCDRに使えるおすすめのクラウドサービスを紹介します。
Azure Site Recovery
Azure Site Recovery(ASR)は、マイクロソフトのクラウドベースの災害復旧サービスです。
ASRは、オンプレミスの仮想マシンや物理サーバー、または他のクラウドプロバイダーからAzureへのデータとアプリケーションのレプリケーションを可能にし、災害発生時にシームレスな復旧を実現します。
ASRの主な機能と利点は以下の通りです。
1.災害復旧の自動化
ASRは、仮想マシンや物理サーバーのデータを定期的にレプリケートし、災害発生時に自動的に復旧することができます。これにより、手動での復旧手順を省略し、復旧時間を短縮できます。
2.複数のプラットフォームのサポート
ASRは、VMware、Hyper-V、AWSなどの複数の仮想化プラットフォームからAzureへのレプリケーションをサポートしています。
3.テストと計画
ASRは、定期的な災害復旧テストを可能にし、復旧計画の作成や評価を支援します。これにより、災害が発生した場合の復旧プロセスの信頼性を向上させることができます。
4.コスト効率
ASRは、必要に応じて災害復旧用のリソースをAzureでプロビジョニングし、復旧時にのみ課金されるため、コストを最小限に抑えることができます。
5.柔軟性とスケーラビリティ
ASRは、異なる復旧シナリオや要件に対応する柔軟な構成オプションを提供し、ビジネスの成長に合わせてスケールアップできます。
Azure Site Recoveryは、ビジネスの連続性と災害復旧の確保において重要な役割を果たすクラウドサービスです。
Amazon Web Services (AWS) Disaster Recovery
AWS DRはアマゾンのクラウドベースの復旧サービスです。
AWS DRの主な機能と利点は以下の通りです。
1.AWSリージョン
AWSは、世界中に分散した複数のリージョンを提供しており、各リージョンは複数の可用性ゾーン(Availability Zones)から構成されています。災害復旧のためには、異なるリージョンにリソースを複製することが重要です。
2.AWS CloudFormation
CloudFormationは、インフラストラクチャーをコードで定義し、自動化されたデプロイメントを実現するサービスです。CloudFormationを使用することで、災害復旧用のAWSインフラストラクチャーを素早くデプロイできます。
3.Amazon Route 53
Route 53は、DNS(Domain Name System)サービスであり、ユーザーのトラフィックを異なるAWSリージョンや可用性ゾーンにルーティングすることができます。災害が発生した場合、Route 53を使用してトラフィックを災害復旧用のリージョンにリダイレクトできます。
4.Amazon S3 Cross-Region Replication
S3 Cross-Region Replicationを使用すると、データを異なるAWSリージョンに自動的にレプリケートできます。これにより、災害が発生した場合でもデータの耐障害性を確保できます。
5.AWS Backup
AWS Backupは、AWS内のデータを中央管理し、バックアップと復元を簡素化するサービスです。AWS Backupを使用することで、データの保護と復旧を効率化できます。
AWSの災害復旧ソリューションは、高い可用性、耐障害性、およびスケーラビリティを提供し、ビジネスの連続性を確保するための強力なツールとなっています。
Google Cloud Disaster Recovery
Google Cloud Disaster Recovery(GCDR)はグーグルのクラウドベースの復旧サービスです。
GC DRの主な機能と利点は以下の通りです。
1.Google Cloudのグローバルインフラストラクチャー
GCPは世界中に分散したデータセンターを持ち、これにより高い可用性と信頼性を提供しています。災害が発生した場合でも、ユーザーはリージョン間でリソースをバックアップおよび復元できます。
2.Compute Engineのインスタンススナップショット
Compute Engineは、仮想マシンのスナップショットを作成し、データのバックアップを取ることができます。これにより、災害発生時にスナップショットを使用して迅速に仮想マシンを復元できます。
3.Google Cloud Storage(GCS)
GCSは、耐久性の高いオブジェクトストレージを提供し、データのバックアップとアーカイブを可能にします。GCSを使用してデータをバックアップすることで、災害復旧プロセスをサポートできます。
4.Google Cloudのネットワーキング機能
GCPのネットワーキング機能は、高速でセキュアな通信を可能にし、リージョン間のトラフィックを効率的にルーティングします。災害復旧時には、ネットワーキング機能を活用してトラフィックをバックアップリージョンにリダイレクトできます。
5.Google Cloudのサービスの統合
GCPは、Compute Engine、Cloud Storage、Networkingなどのサービスをシームレスに統合し、災害復旧プロセスを簡素化します。これにより、リソースの復元やデータのバックアップが容易になります。
Google Cloud Disaster Recoveryは、高い可用性とスケーラビリティを備えた包括的なソリューションであり、ビジネスの連続性を確保するための重要なツールとなっています。
まとめ:今すぐ始めるべきBC/DR対策
この記事ではBCDR(事業継続・災害対策)とは何かを、企業がとるべき対策やサービスについて説明してきました。
BCDRを通じて既存システムの改善や、顧客への信頼をアップすることができます。災害が多く発生している日本では、BCDR計画はあって当たり前までの意識になってきています。
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