アプリケーションの開発サイクルを早めるための一環としてコンテナ技術が発展してきたとともに、多様化する実行環境の上でも効率良くコンテナ管理が行える仕組みが求められてきました。
コンテナオーケストレーションは、複数のコンテナを一元管理するために作られた仕組みで、運用コストの削減が期待できるため、管理機能やそのインフラを扱えるオープンソースやクラウドのマネージドサービスが提供されています。
本記事では、コンテナオーケストレーションの理解を深めるために、その特徴やメリットを紹介します。また、主要なツールやサービスの特徴を紹介しているので、現場での活用を検討してみてください。
2014年 大学在学中にソフトウェア開発企業を設立
2016年 新卒でリクルートに入社 SUUMOの開発担当
2017年 開発会社Jiteraを設立
開発AIエージェント「JITERA」を開発
2024年 「Forbes 30 Under 30 Asia 2024」に選出
コンテナオーケストレーションとは?
コンテナオーケストレーションは、サーバーの仮想化技術として注目されてきたコンテナ技術の実装を支える仕組みで、一元的な管理とタスクの自動化により複雑な構成の運用をサポートします。
本章では、コンテナオーケストレーションが作られた目的とその仕組みを解説します。
コンテナオーケストレーションとは
コンテナとは、コンピュータープログラムを動かすための特別な仕組みです。
プログラムとそれに必要なものをひとまとめにして、独立した環境で動かせるようにします。これは、おもちゃを箱に入れて整理するのに似ています。
オーケストレーションは、たくさんのコンテナを上手に管理する方法です。
オーケストラの指揮者がいろいろな楽器を調和させるように、コンテナオーケストレーションはたくさんのプログラムをうまく連携させます。
たくさんのプログラムを手動で一つ一つ管理するのは大変ですが、オーケストレーションを使えば自動的に管理できます。
コンテナオーケストレーションの仕組み
コンテナオーケストレーションは、コンテナ群とサーバーリソースを管理するための仕組みを備えています。
仮想的なサーバーリソースをノードと呼び、全体をコントロールするノード、コンテナのデプロイ先のノードに分けられます。各ノードの配置先は単一のサーバーである必要はなく、異なるサーバー上でも、ハイブリッドクラウド環境でも対応できるため、リソースを気にせずにアプリケーションを展開可能です。
また、ノード間は仮想的なネットワークで繋がれ、全体をコントロールするためにノードを通じて各コンテナを監視したり指示を出したりします。正常な状態は設定ファイルで定義しておくことで、異常時をすぐに検知でき、自動的な復旧が可能です。
コンテナ化による開発への影響
コンテナにまとめることでアプリケーションの拡張性、メンテナンス性が向上しますが、複雑になるほど構成要素が増えるデメリットもあります。
管理対象が増えるにつれ管理コストが上昇しますが、コンテナオーケストレーションによって管理コストの問題は緩和が可能です。例えば、下記のような対応を管理機構なしに手動で行うのは困難でしょう。
- アプリケーション全体の構成管理
- 異常を検知して即座に修復
- スパイク時のスケーリング
アプリケーション全体の冗長性を高めてダウンタイムを短くし、可用性を高める役割を兼ねています。逆にいえば、集中的に管理できる仕組みがあるからこそ、大規模で複雑な構成のアプリケーションを運用できるようになるのです。
コンテナオーケストレーションのメリットは?
複雑に構成されたコンテナを一元化することで、いくつかのメリットがあります。
コンテナ数が増加し、ネットワーク構成が複雑になるほど、稼働状況のモニタリング、起動や配置が煩雑になります。コンテナオーケストレーションは、構成要素を管理する上で発生する問題に対処する機能を提供します。
複雑なコンテナアーキテクチャを管理
分散されたサーバーリソースを効率良く活用できるのはコンテナオーケストレーションの1つの特徴です。
コンテナ群、仮想的なサーバーリソースであるノード、それらをまとめたクラスターで構成され、異なるサーバー上でもアプリケーションを展開できます。クラスタ内部の仮想ネットワークによって、分離されたサーバー間での同調が可能になり、クラスタが1つのサービスのように振る舞います。
これにより、1台の高性能な物理サーバーよりも、トータルでそれに匹敵する複数のサーバーを用意できればリソースの効率的な運用が可能です。低価格で交換が容易なサーバーであれば、物理的なメンテナンス性も向上します。
ビルトイン・レジリエンス
コンテナオーケストレーションは、アプリケーションを安定的に稼働させる役割を果たします。管理機構がなければ、機能不全に陥った時には手動で確認して復旧作業を行う必要があり、復旧が遅れるほどダウンタイムが長くなり可用性が下がります。
また、障害時に自動的に対応する自己修復機能を備えているため、高い可用性と作業コスト削減を提供します。
コンテナが停止すると、部品を交換するように、保管庫から代替品を取り出して自動的にデプロイします。もし異常が発生したら、決められた構成を維持するために自律的に動作します。
コンテナのパフォーマンスを監視
コンテナオーケストレーションは、アプリケーションのパフォーマンス維持にも役立ちます。
各コンテナが正常なパフォーマンスを発揮できているかを確認するために、CPU、メモリ、ネットワークなどのリソース使用状況や負荷を監視する機能を備えています。これにより、アプリケーションの需要に応じた自動スケーリングが可能です。
設定ファイルに基づいてサーバーリソースとコンテナ要件を加味した上で柔軟にスケールアウト、スケールインを行い、アプリケーション全体のパフォーマンスの監視と維持を担います。
予期せぬ負荷が生じたときには素早い対応が求められますが、これらを手動で対応することは難しいでしょう。
デプロイの簡素化
アプリケーションの開発サイクルはCI/CDによる効率化が図られてきましたが、コンテナは構成を内包するため少ない作業で完了できます。サービスやライブラリをパッケージングすることで、デプロイ作業を容易にします。
また、デプロイにおいて重要な可搬性も持ちあわせています。アプリケーションはローカル、開発、ステージング、本番と開発段階に応じた環境にデプロイが必要で、さらに各メンバーの環境で動作の同一性が求められます。サービスやライブラリの依存関係をコンテナ内部に隠蔽することで、デプロイ先に関係なく変わらない動作を保証します。
開発サイクルに組み込むことで、より素早いリリースが可能です。
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コンテナオーケストレーションツールのおすすめランキング
コンテナオーケストレーションの機能を持つツールが、さまざまなベンダから提供されています。それぞれ特長があるので、アプリケーションの規模や特性に応じて選びましょう。
本章では、下記の6つのツールを紹介していきます。
サービス名 | 特長 |
Kubernetes | 業界標準のコンテナオーケストレーション |
Docker Swarm | Dockerベースのコンテナオーケストレーション |
Apache Mesos | 分散システム管理基盤 |
Nomad | HashiCorp社のアプリケーションオーケストレーション |
SUSE Rancher | Kubernetesの管理運用のサポートツール |
Amazon Elastic Container Service (ECS) | Kubernetesの管理運用のサポートツール |
1位 Kubernetes
Kubernetesはオープンソースのコンテナオーケストレーションツールです。元々はGoogleで開発されたツールで、世界規模のサービスを支えるインフラの基で生まれました。
複数のサーバー上で効率的に運用するために作られたコンテナオーケストレーションツールで、今では業界標準になっています。コンテナのモニタリング、デプロイ、自動スケーリングを提供し、大規模で複雑な構成に対応できる仕組みを備えています。
複雑なアプリケーションへの導入に適していますが、ツールへの理解やコンテナ運用の高度な知識が求められるため、導入のハードルが高いデメリットがあります。
なお、KubernetesをAWSやAzureなどのクラウドサービス上で運用できるマネージドサービスが提供されており、ツールの実用性や認知度は高いです。
2位 Docker Swarm
Swarmは、Docker社が開発するオープンソースのコンテナオーケストレーションツールです。導入コストが低いため、初めて取り入れる場合に適しています。コンテナ管理に手慣れた管理者を用意するのが難しい場合でも、Kubernetesよりも習得が容易なSwarmのほうが向いているでしょう。
また、Dockerコンテナとの連携機能があるため、既にDockerを利用しているプロジェクトと相性が良いです。さらに、Docker ComposeやDocker APIなど使い慣れた機能を活用できるため、導入のハードルは低いです。
ただし、Kubernetesと比べて簡素で、Dockerに依存していることから、Dockerを使ったシンプルな構成に向いています。
3位 Apache Mesos
Apache Mesosはオープンソースの分散システム管理基盤です。複数サーバーを1つのシステムとみなして、効率良く動かすための基盤を提供します。物理的なリソースとアプリケーションを論理的に切り離すことで、分散されたリソースを柔軟に処理できるようにします。
Apache MesosはバージョンアップによりDockerイメージを扱えるようになりましたが、コンテナオーケストレーションの機能は持たないため、オープンソースのフレームワークMarathonとの連携が必要です。
4位 Nomad
Nomadは、多様なアプリケーションに対応できるオーケストレーションツールです。インフラ管理ツールで有名なHashiCorp社の製品で、非コンテナも含めて管理できる柔軟性の高いツールです。コンテナ化されていない古いアプリケーションでも管理対象に組み込めるため、さまざまなケースで活用可能です。
また、同じHashiCorp製品でIaCツールのTerraform、シークレット管理のVaultなど相性の良いツールとの統合が容易です。
なお、Nomadにはオープンソースの無償版と商用向けの有償版がありますが、サポート有無や機能制限などの違いがあります。
5位 SUSE Rancher
Rancherは、Kubernetes環境の運用管理をサポートするオープンソースのツールで、Linux製品を開発するSUSE社が提供しています。複数のKubernetesクラスターの管理に適したツールで、マルチクラウドやオンプレミス環境にも対応しています。
Kubernetes運用の難しさを補うためにブラウザからの操作を可能にしており、コマンドベースの運用よりも視覚的に状況がわかりやすいです。クラウドサービスで提供されるマネージドサービスのように扱いやすいため、コンテナ運用経験の少ないチームでも導入のハードルが低いです。
Rancherは無償のオープンソースですが、商用向けで追加機能を備えた有償のRancher Primeも提供されています。
6位 Amazon Elastic Container Service (ECS)
Amazon Elastic Container Service (ECS) は、AWSが提供するフルマネージドなコンテナオーケストレーションサービスです。
ECSを使うことで、Dockerコンテナのデプロイや運用管理を簡単に行うことができます。使いやすく、スケーラブル、安全で、信頼性の高いソリューションを提供し、コンテナ化されたアプリケーションを簡単にデプロイ、管理、スケーリングできるのが特長です。
またECSは、Amazon EC2インスタンスを用いたDockerコンテナを管理するサービスであり、コンテナ化したワークロードを扱い、全体の多くのコンテナを効率的に管理・運用できます。
Amazon Elastic Container Service
コンテナオーケストレーションツール導入のメリット
コンテナオーケストレーションツールを導入することで、複数のコンテナを効率的に統合管理でき、運用負荷を大幅に軽減できます。コンテナ化されたアプリケーションのデプロイやスケーリング、管理などを自動化できるため、ソフトウェアの開発、テスト、デリバリーのプロセス全体を高速化および効率化し、再現性も高めることが可能です。
ここからは以下5つのコンテナオーケストレーションツール導入のメリットについて、詳しく解説します。
- 運用負荷の軽減
- アプリケーションの可用性向上
- リソースの効率化
- 開発・運用の一体化
- マルチクラウド環境への対応
運用負荷の軽減
コンテナオーケストレーションツールの導入により、コンテナの運用負荷を大幅に軽減できます。
コンテナの配置、スケーリング、ネットワーク接続、ストレージ管理を自動化し、運用負荷を軽減します。ヘルスチェックや自動復旧機能により、障害対応の時間と労力も削減されます。これにより、インフラエンジニアはより高度な作業に集中できます。
アプリケーションの可用性向上
コンテナオーケストレーションツールを導入することで、アプリケーションの可用性を大幅に向上させることが可能です。
自動スケーリングと自動復旧機能により、トラフィック増加や障害時でも高い可用性を維持します。アプリケーションを複数のコンテナに分割し、独立管理することで、一部の障害が全体に影響しにくくなります。これらの機能により、アプリケーションの可用性が大幅に向上します。
リソースの効率化
コンテナ技術は従来の仮想化技術より軽量で高速なため、リソースを最大限に活用できます。
オーケストレーションツールは複数のコンテナを効率的に管理し、リソース割り当てを最適化します。これにより、サーバーリソースを無駄なく使用し、コスト効率を高めることができます。
開発・運用の一体化
コンテナ化されたアプリケーションは、開発環境と本番環境の差異が少ないため、開発者は運用面を意識しながら開発可能です。
オーケストレーションツールは運用タスクを自動化し、リリースサイクルを高速化します。
GitOpsの概念を用いることで、開発者の運用参加が容易になり、開発と運用の連携が強化されます。
マルチクラウド環境への対応
コンテナオーケストレーションプラットフォームは、様々な環境で利用可能です。
これにより、複数のクラウドプロバイダーやオンプレミス環境にまたがるコンテナの管理を一元化でき、アプリケーションの移植性や可用性が向上します。ただし、適切なツールや運用体制の整備が重要です。
コンテナオーケストレーションツール導入の際の注意点
コンテナオーケストレーションツールを導入する際は、いくつかの注意点があります。まずトラブル発生時に自力で問題を解決できる体制を整える必要があります。またコンテナ技術に関するベンダーのサポート状況や、コンテナ上での動作保証、環境やツールの準備状況などを確認しておくことが重要です。
ここではコンテナオーケストレーションツール導入における以下3つの注意点について、詳しく解説します。
- シンプルなコンテナ構成を設計する
- 運用チームをしっかりトレーニングする
- ツールやサービスは自社に合った選択をする
シンプルなコンテナ構成を設計する
コンテナオーケストレーションツール導入時は、シンプルな構成が重要です。コンテナ設計原則に従い、効果的な環境を構築しましょう。
コンテナ間の通信は直接通信に限定し、複雑な依存関係を避けることで運用負荷を軽減できます。
ただし、オーケストレーションツールはコンテナの実行環境ではないことに注意が必要です。クラウドサービスごとに機能が異なる場合もあるため、十分な検討が必要です。
運用チームをしっかりトレーニングする
コンテナオーケストレーションツール導入時は、運用チームのトレーニングが重要です。
基本的な概念や機能、Kubernetesなどのツールについて理解を深める必要があります。
また、自動化タスクを正しく実行できるようにするトレーニングも欠かせません。運用チームが自信を持ってツールを活用できるよう、十分な時間をかけてトレーニングを行いましょう。
ツールやサービスは自社に合った選択をする
自社に合ったコンテナオーケストレーションツールを選択することが重要です。
Docker SwarmとKubernetesの違いを理解し、自社のニーズに適したものを選びます。コンテナのスケジューリングやサービスディスカバリーなどの機能が必要かどうかを検討しましょう。
不足している機能がある場合は、別途専用ツールの導入を検討します。自社の開発スタイルや目指す方向性に合わせて、最適なツールやサービスを選択することが大切です。
コンテナオーケストレーションツールを導入して開発リソースを効率化
コンテナ技術はサーバーリソースの効率化とデプロイの俊敏性をもたらしますが、アプリケーションが複雑になるにつれて管理が煩雑になる問題があります。
そのため、コンテナとそのインフラを統合的に管理できるコンテナオーケストレーションの仕組みが一般化され、多くのツールが提供されてきました。パフォーマンス維持、障害対応、デプロイなどのタスクを自動化し、その管理負担を軽減します。
ただし、アプリケーションの構成や規模、運用チームのスキルに応じて適切なツールやサービスを選ばなければなりません。Kubernetesは複雑なアプリケーションにも対応できる業界標準のコンテナオーケストレーションツールですが、その運用にはコンテナに関する高度な知識が求められ、利用経験のあるチームが望ましいです。
また、運用の浅いチームであれば、管理が比較的容易で導入しやすいマネージドサービスを検討してみても良いでしょう。コンテナ化やオーケストレーションツールに関するご質問やご相談があれば、株式会社Jiteraにお問い合わせください。