ネットワーク構築をする上で、ネットワーク機器にさまざまな設定を行っていきます。
ネットワーク機器には各レイヤー毎にいろいろな種類があり、設定方法について、混乱してしまうこともあります。特にインターネット接続をするのに必須であるルーター機器の、ルーティングの設定があります。
これは特に設定が難しく、ある程度慣れていないと、インターネットに接続するための設定ができません。場合によっては何十台ものルーターへ、ルーティングの設定が必要になるケースもあります。
そこで、本記事ではルーターをインターネットへ接続するための一つである、ルーティングについて解説していきます。

某電子専門学校卒業後、サーバー/ネットワーク運用業務を通し、ネットワーク設計/構築事業をメインにインフラ業務全般を担当。その後、某情報セキュリティ会社にて、情報セキュリティ教育事業の教育係も担当。
ルーティング設定の基礎知識
ルーティング設定とは、簡単にいうと、複数のネットワーク間をつなぐ経路を示すことです。これにより、ルーターに繋がっている端末が、外部のネットワークへ接続できます。
なぜこのような事が可能かというと、ルーティング設定で、ルーターが外部のネットワークとネゴシエーションを行い、お互いに通信を行う為のプロトコルを交換する事によって、接続が可能になります。
ルーターにはルーティング設定以外にも、多種多様な設定が可能ですが、ルーティング設定はインターネット側に通信を行うために、なくてはならない設定と言えます。
ルーティングとは
ルーティングとは、ルーティングテーブルと呼ばれるネットワークのデータベースのようなものの中から、どのような経路を辿って通信をさせるかを判断させる技術のことです。
ルーティングによって、内部と内部のネットワークを繋げてルーターから別の内部のネットワークへ接続させたり、内部から外部へネットワークを繋げて外部ネットワークへ接続させることもできます。
ただし、ルーティングだけでなく、ルーティングテーブルがしっかり理論づけて設定されていないと、ルーターが予期しないルーティングを行ってしまい、最悪の場合、社内のネットワークが使えなくなってしまいます。このような事が起きないように、ルーティングを行う際は事前にルーティングの設計と検証を行う必要があります。
また、ルーティングには動的ルーティングと呼ばれるものと、静的ルーティングと呼ばれるものがあります。
静的ルーティングは主に内部ネットワークと外部のネットワークを繋ぐ際に利用されます。これはルーティング設定を手動で行い、対象のネットワーク機器と接続します。
動的ネットワークは自動でルーティングテーブルを参照して、ネットワーク同士を接続します。完全に自動ではなく、接続する対象のIPアドレス群の設定は必要となってきますので注意してください。
ルーティングの種類
次にルーティングの種類について解説します。
スタティックルーティング
これは先ほど紹介しました、ルーター機器に手動でネットワーク接続を設定していく技術です。ルーティングテーブルも予め手動で設定していくので、規模が大きいネットワークですと、ある程度ネットワークに成熟しているエンジニアでないと難しい設定となります。
ダイナミックルーティング
これは、同じグローバルAS(自律システム)内の中で接続するIGP(Internet Gateway Protocol)と呼ばれるもので、IPアドレスや経路情報を指定することにより、自動でネットワーク接続を行うものです。ルーティング設定で一番使用されるルーティングの種類であり、その中でもさまざまなプロトコルが存在します。
RIP(Routing Information Protocol)
主に小規模なネットワークで使用されるルーティングプロトコルです。
自分のネットワークの経路情報と、相手のネットワークの経路情報を交互に交換し、最短経路でネットワーク通信を行っていきます。
いわゆるディスタンスベクター型のプロトコルと呼ばれています。
OSPF(Open Shortest Path First)
大規模ネットワークで使用されるルーティングプロトコルです。
OSPFは隣接するルーターとリンクを張り、そのリンクをネットワーク像として形成し、それぞれの通信情報を共有することで、最適なネットワーク経路を判断し、接続を自動で行っていきます。
バックボーン回線を作り出すことも可能ですので、ネットワーク接続断をなるべく減らしたい場合にも利用されるルーティングプロトコルです。
リンクステート型のルーティングプロトコルと呼ばれています。
EIGRP(Enhanced Interior Gateway Routing Protocol)
こちらも大規模向けのルーティングプロトコルですが、Cisco社独自のルーティングプロトコルとなっています。様々な通信の情報から、メトリックと呼ばれるものを算出し、最適な経路で通信を行っていきます。
これはRIPやOSPFなどと違う点があり、ルーティングテーブルによる経路の計算で、ルーター内部のCPUへ負荷をあまりかけないので、ルーター機器の負担が減ります。これにより安定したネットワークの接続が可能です。
ディスタンスベクター型のルーティングプロトコルと呼ばれています。
ルーティングテーブルとは
ルーティングテーブルについて、概要はお伝えしましたが、ここではさらに詳しく解説していきます。
ルーティングテーブルは、ルーター機器どれもが所持しており、それぞれのルーター同士でルーティングテーブルを参照しています。
ルーティングテーブルは様々な通信の情報が格納されています。例えばIPアドレス、帯域幅、遅延、等です。これらの情報をルーティングテーブルへ格納し、次のネットワークへ接続しているルーターと情報を交換します。
これにより、ルーターが使用しているルーティングプロトコルと連動し、インターネット通信の経路の最適化を行っていきます。このルーティングテーブルがないと、ルーターが通信に使用している情報が参照されないため、一切外部と通信を行う事ができません。
また、ネットワーク管理者も、現在どのルーターがどういったルーティングテーブルになっているかを、把握しておく必要があります。
例えば、ルーティングテーブルに情報が圧迫して、ネットワーク接続断が入ってしまい、ネットワークが接続できなくなるといった問題が発生した場合、ルーティングテーブルを確認するのですが、以前どのような状況になっていたか把握していないと、障害の復旧に時間がかかります。このような事にならないよう、設計された通りのネットワークを維持し、運用していくことが重要となります。
また運用している際に、ネットワークの変更が入ることももちろんありますので、ネットワークの変更が入った場合は情報の共有と資料への修正を行っていく事も必要となるでしょう。
ルーティング設定の具体例
ここからは実際にルーティング設定を行う場合の具体例について紹介します。基本コマンドや、実践例についてできるだけ細かく紹介していきます。
ルーティング設定の基本コマンド
スタティックルート
- Router(config)#ip route [宛先IPアドレス] [サブネットマスク] [ネクストホップアドレス] [AD値]
- ルーターにログイン後、グローバルコンフィグレーションモードに入り、上記のコマンドを実行します。
- するとスタティックルートの設定ができます。
外部の最初のネットワーク機器と接続する場合は、こちらのスタティックルートコマンドを実行するとよいでしょう。
RIP
- Router(config)#router rip
- Router(config-router)#
- Router(config-router)#network [IPアドレス]
- 先ほどのようにグローバルコンフィグレーションモードに入り、上記のコマンドを実行します。
- するとRIPと呼ばれるダイナミックルーティングが起動します。
- ここから、ルーターに参加させたいIPアドレスを入力し、RIPによる通信を開始させます。
OSPF
- Router(config)#router ospf [プロセスID]
- Router(config-router)#network [IPアドレス] [ワイルドカードマスク] Area [エリア番号]
- OSPFを起動させたい場合は上記コマンドを入力します。
- OSPFの設定モードに入ったら、参加させたいネットワークのIPアドレスを指定していきます。
- OSPFはサブネットマスクではなく、ワイルドカードマスクを使用します。
- また、OSPFは大規模向けルーティングプロトコルですので、エリア番号と呼ばれるものを利用し、通信を行います。
基本的にArea 0と呼ばれるバックボーンエリアに接続するように設定すれば大丈夫です。
EIGRP
- Router(config)#router eigrp [AS番号]
- Router(config-router)#network [IPアドレス] [ワイルドカードマスク]
- EIGRPを起動したい場合は、上記コマンドを入力します。
- EIGRPを起動する場合、隣接するルーターと同じAS番号(自律システム番号)を使用しましょう。
- EIGRPが有効になったら、参加させたいネットワークのIPアドレスを指定し、OSPFと同様にサブネットマスクではなく、ワイルドカードマスクを使用します。
ルーティング設定の実践例
ルーティング設定の基本コマンドを紹介しましたが、ここではルーティング設定の実践例を紹介します。
スタティックルート
ルーターにスタティックルートを設定していきます。
参加させたいネットワークを192.168.50.0/24とし、経由するネットワークを192.168.60.0/24とします。
宛先のルーターのIPアドレスが192.168.50.1で、192.168.60.254のルーターを経由する場合の設定です。
- Router(config)#ip route 192.168.50.1 255.255.255.0 192.168.60.254
設定が完了したら、ルーティングテーブルに上記の設定が反映されているか確認します。
- Router#show ip route
- S 192.168.50.0
と表示があればルーティングは成功です。
pingでIPアドレス192.168.50.1に通信できるか、コマンドプロンプト上で実行します。
- ping 192.168.50.1
応答があれば接続は成功です。
RIP
ルーターにRIPを設定していきます。
参加させたいネットワークを192.168.50.0/24とし、RIPのバージョンを最新のもので動作させます。
- Router(config)#router rip
- Router(config-router)version 2
これで、RIPを最新のバージョンで動作させています。
- Router(config)#network 192.168.50.0 255.255.255.0
これにより、192.168.50.0/24のネットワークが接続できるようになりました。
以下のコマンドでルーティングテーブルを確認します。
- Router#show ip route
- R 192.168.50.0/24
と表示されていればルーティングは成功です。
以下のコマンドでネットワークと接続できているか確認します。
- ping 192.168.50.1
これで応答があれば接続は成功です。
OSPF
続けてルーターにOSPFを設定します。
参加させたいネットワークを192.168.50.0/24とし、接続させるエリアをバックボーンエリア0に設定します。
プロセス番号は1としていきます。
- Router(config)#router ospf 1
- Router(config-router)network 192.168.50.0 0.0.0.255 area 0
これにより、192.168.50.0のネットワークの接続を行い、バックボーンエリアであるarea0に設定しました。
以下のコマンドで確認します。
- Router#show ip route
- O 192.168.50.0/24
と表示されればルーティングは成功です。
Pingで疎通確認をします。
- ping 192.168.50.1
これで応答があれば接続は成功です。
EIGRP
最後にルーターへEIGRPを設定します。
参加させたいネットワークを192.168.50.0/24とし、AS番号を1としていきます。
またEIGRPは効率よくルートを自動集約させる、Auto-summaryという設定がありますが、今回は使用しないこととします。
- Router(config)#router eigrp 1
- Router(config-router)network 192.168.50.0
- Router(config-router)no auto-summary
これにより、192.168.50.0(ワイルドカードマスクは省略可)へのネットワークを接続し、自動集約を無効化しました。
以下のコマンドでルーティングテーブルを確認します。
- Router#show ip route
- E 192.168.50.0
と表示されていればルーティングは成功です。
Pingで疎通確認します。
- ping 192.168.50.1
応答があれば接続は成功です。
ルーティング設定の重要性と注意点
ここまでルーティングの仕組みから基本コマンド、実践例まで紹介していきました。
ここでは、ルーティング設定における重要な点や、注意すべき点を紹介します。ルーティング設定する場合は、注意深く行っていきます。
ルーティング設定の重要性
ルーティング設定は、ルーティングの種類や、ルーティングするにあたって必要な通信情報等、さまざま情報で設定していきます。それゆえに、ルーティング設定を行う場合は公式にある設定ページをよく確認し、設定していくことをお勧めします。
EIGRPなどは、Cisco独自のルーティングプロトコルですが、幅広く使用されています。しかしEIGRPは、メトリックという情報で通信を行っていくため、ネットワーク全体の情報を確認する必要があります。
メトリックはIPアドレスだけでなく、通信帯域幅や遅延など、様々な通信情報で計算しています。正確なルーティングを行うには、正確な情報が必要になります。
そもそもルーティングとは、他のネットワークと正常に通信を行うためのものなので、雑なルーティング設定を行うと通信に異常をきたします。
ルーティングはルーター間同士の接続だけでなく、ルーターに接続されている端末に影響があるため、正確なルーティング設定を行っていく必要があります。ルーティングができなければ、外部との通信は出来ず、内部ネットワークにも接続できない為、ルーターの意味がなくなってしまいます。
ルーティング設定においては、インターネット接続の肝となる為、正確に設定する必要があります。
ルーティング設定の注意点
ルーティング設定においての注意点は、設定をする対象のルーターを間違えない事と、通信に必要な情報を間違えない事です。そんな間違いはしないと考えてしまいがちですが、規模が大きければ大きいほど、ルーターの数とネットワーク構成が膨大になります。
従って事前に設計や検証を十分に行わないと、設定をするルーターのパラメーターを間違えたり、誤ったIPアドレスの設定を行ってしまいます。それに気づかずルーターへ次々設定していくと、ネットワークに接続できないどころか、間違えた箇所が解らなくなり、もう一度最初から設定をしなければならない事になります。
そのような事にならないよう、あらかじめネットワーク構成図を作成し、それぞれのルーターにホスト名を設定していきます。さらにIPアドレスの等の通信情報をExcelで一覧化しておくことをお勧めします。
これらを行っておくことで、ルーターの設定ミスを無くすことができ、複雑なネットワーク環境でもスムーズにルーティングを行っていくことができます。
ルーティング設定のまとめ
ルーティング設定について、仕組みから実践例、注意点などを紹介していきました。ルーティングは、ネットワークについて知識や経験があるエンジニアに任せることが多いです。
また、自社のネットワークについてよく把握している担当者も必要になります。ルーティング設定を行う際、一人に任せて行うのではなく、自社の担当者と専門のエンジニアを呼び、設計と検証をしていき、ルーティングをしていくことが一番理想と言えます。
自社にネットワークについて詳しい担当者がいるからといって、その担当者に全て任せるといった事は避けましょう。ルーティングにはさまざまな工程がありますので、チームを組んでルーティング設定をするようにしていきます。
ルーティング設定をするときは、自社の担当者とシステム開発会社のエンジニアでチームを組み、不明点や課題点を解消していきましょう。その際必ず、ドキュメント等を用意し、エビデンスを残すようにします。
もし自社内でルーティングの設定を考えており、自社で担当者はいるが、それ以外ルーティングについて詳しい者がいないという場合は、株式会社Jiteraへ相談するとよいです。ネットワークに詳しいエンジニアが、自社内の担当者と相談しながら、安心してルーティング設定を行っていきます。